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リアクション
お昼時。
お腹の虫が活動を活発化させる前に、中央ステージでは悪巧みを考えた三人の少女の活動が開始された。
「悪の魔法少女、ダークスター★えりす、降臨! デスティニーランドなんて、米帝資本主義のパクリみたいな俗悪遊園地は破壊してあげるわ!」
「とりっく・おあ・とりーと! 悪い魔女っ子だーくあすにゃんだよ★ 白雪姫のお城くらい大きなお菓子の家をくれなきゃ、会場の子供たちにいたずらしちゃうぞぉ!」
「闇落ち魔法少女ダークミラクル★きょーたん、ここに爆誕! ヴォルト・デスティニー! パラミタ各地で散々暴利を貪っておきながら、経営失敗の責任も取らない強欲で醜い豚め! ダークミラクル★きょーたんが粛清です!」
ステージジャック。
否、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)、アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)、マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)による魔法少女ショーの始まりだった。
悪を匂わせる黒を基調としたハイレグレオタードのセクシーな衣装。
これだと子供だけでなく、大きな子供も惹きつけていることだろう。
でも、彼女達は恥ずかしがってなどいない。寧ろ、それが当然であるように振る舞い、演技を続けていた。
「手始めに、そこのいたいけな女の子にあんなことやこんなことをしちゃうんだから!」
舞台から降り、アスカは最前列に居た佐野 悠里(さの・ゆうり)の手を取る。
「さあ、私たちの言うことを聞きなさい!」
「わー、お母さん! 助けて!」
「あなたたち、悠里ちゃんを放しなさいですぅ!」
抗議の声を上げる佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)。しかし、手を伸ばすもののそれ以上に抵抗はしない。悠里もわかっているのか、顔を不安に染めて暴れているものの、叩いたり蹴ったりと危害を加えない程度に留めている。
この親子、ノリノリである。
「さて、この子をどうしよっか?」
壇上へと連れられた悠里。それを見下ろし、エリスはアスカに問いかけた。
「そうね……」
一つ考える間を置き、爆弾発言を投じる。
「寿子ちゃんの同人誌みたいなコトしちゃおう!」
「え、それって……」
きょーちゃんがポッと顔を赤らめる。
「ここでしても、いいの?」
「台本、台本。妙なアドリブ入れないで」
「あ、ごめんなさいです」
エリスの耳打ちに気を取り直しもう一度。
「いい考えです。これならポラリスに一泡吹かせてやることもできますね」
「ええ、ポラリスの描く世界を粛清に使う。幻想を幻想で打ち消す。我ながら名案だわ」
「早速取り掛かっちゃうんだもんね!」
三人の悪い魔法少女に囲まれて、叫び声を上げる悠里。
「いやー! だれかー! 助けてー!」
この子、本当にノリノリである。
「そこまでだわ!」
そして正午。
時刻を知らせる鐘の音と共に、中央ステージに一人の少女が舞い降りた。
「デスティニー・セレスティア! 夢の国の危機を知り、今! ここに! 魔法少女ポラリス参上だよ!」
七色のスモークと共に、ヒラリとポーズを決める遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)、もとい魔法少女ポラリス。
「夢の国を破壊する三人の悪行、私はちゃんと目撃したわ!」
持っていたステッキを突きつけ言い放つ。
「早くその子を放しなさいよね!」
引っ込み思案な寿子をここまで変える魔法少女化。夢の国という舞台がそうさせていたのかもしれない。
「さあっ、早く!」
「放せといわれて――」
「素直に放す――」
「悪役が居ると思いますか!」
三人は寿子の周りを囲む。そして、
「あ、お母さーん!」
「悠里、よかったわぁ」
抱き合う親子。
『あ……』
今までノリノリで付き合ってくれた悠里に裏切られ、呆然とする三人。でもこれもまた、会場の笑いを誘った。
「くっ、小賢しい魔法を使ったわね!」
「えっ、私は全然――」
素の声で続けそうになる寿子に、ウィンクで目配せするエリス。
「……っと、そうよ! 私があなたたちに解放の魔法をかけたの。どうやら気付かなかったようね!」
「こうなったら……」
エリスは武器としてこん棒を、アスカはリボンを、きょーちゃんはフープを取り出した。
格闘新体操部。彼女達が在籍する部。故に手にした武器はそれにちなんだ物。更にレオタードの衣装がそれらしく見えさせる。
「さあ、覚悟しなさい!」
培った【体術】を駆使し、見事な殺陣を披露するエリス。
アスカ、きょーちゃんも【白兵武器】でエリスの援護に加わる。
「やっぱり、三対一じゃ分が悪いよ、ね……」
「もう終わりですか?」
肩膝を着く寿子に、きょーちゃんはフープの端を使って顔を上向かせる。
「魔法少女ポラリスも大した事ないわ」
アスカもリボンを鞭の様にしならせる。
「さあ、これでお終いよね!」
悪役が完全に板に付いている三名。
「このままでは……」
その時、挫けかけた心に一つの声援が送られた。
「がんばれー! ポラリスー!」
発信者は悠里。
この子、やはりステージをわかっていた。
それが引き金となり、子供たちから励ましの声が次々に上がる。
「み、みんな……ありがとう! 私はまだ、負けないもん!」
決意を新たに、立ち上がる寿子。
「まだ終わっていないわよ! もう一度!」
ステッキを構え、
「喰らっちゃえ! 【シューティングスター】!」
「うぅっ!」
「きゃぁっ!」
「ひゃうっ!」
星がエリス、アスカ、きょーちゃんの上へと落ちる。
そして――
「早く、止めを刺しなさいよ……」
辛うじて状態を起こし、最期を請うエリス。それに寿子は首を振ると、
「あなたたちの力、私に貸してくれない?」
手を差し伸べた。
「この夢の国を、もっともっと楽しくするために!」
「……それも、いいかもね」
硬く繋がれた手と手。一際大きくなるBGM。
最後は四人揃ってのミニコンサートへと発展した。
「ありがとー、ポラリスさん!」
全身を使って手を振る悠里に、寿子も手を振り返す。
「お母さん、楽しかったよ!」
「そうねぇ。また来たいわねぇ」
去っていく佐野親子を見送ると、エリスたちは寿子に話しかけた。
「寿子ちゃんって、変身するとすごくキャラ変わるよね」
「そ、そうかな……」
「でも、秘密の魔法少女みたいで面白いわ」
「また一緒にショーをやしましょう」
「うん! 今日はありがとう!」
その後、舞台裏でも四人の和やかな会話が花を咲かせていた。
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