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リアクション
「マスター、ポチ、見てください! 楽しそうな絡繰りが多いですよ! 私、早速遊びたいです!」
楽しい場所に来ると、思わずテンションが上がる。それは種族を問わず、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)も忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)も同じだった。
「これがデスティニー・セレスティアですか! ご主人様! 僕はあれに乗りたいです!」
フレンディス抱えられ、尻尾を振り乱すポチ。その隣に、落ち着きを持った吸血鬼、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が立った。
「まさかニルヴァーナにも造っていたとはな。荒野ばかりかと思ったが、存外、開発は進んでいるのだな」
学校が開校され、娯楽施設も用意され始めたニルヴァーナ。
しかし、移住となるとそれ相応の力を持ったものでないと厳しく、人口増加の進みは遅々としている。
「人が居ないせいかまた経営難のようだが、それは他の連中に任せるとして……」
個人で考えても結論の出ない問いよりも、ベルクはもっと身近な問題へと切り替えた。
「フレイ、何でポチが一緒なんだ?」
「え? ポチが遊園地で遊んだことがないというのでお連れしたのですが……」
「……はあぁ」
やっと漕ぎ付けたデートのはずが、本当にこのポケポケの過保護は……。
言葉にせずとも分かるほど、大きな溜息を吐いた。
「煩わしいですよ、エロ吸血鬼。そんな重いものは別の場所に吐き捨ててください」
「あん? 誰のせいだ誰の」
見下ろす目と見上げる目。かち合う視線が火花を散らす。
「マスター……やっぱりこの服、変ですか?」
それをどう勘違いしたのか、フレンディスは自分の服装が間違っているのだと思い始めていた。
本人はハロウィンを理解していないが、何故かハロウィンコス。誰の見立てかは謎である。
ベルクはチラリと横目で確認し、
「いや、別に……いいんじゃないか」
視線を逸らし頬をかく。
本当は「可愛いじゃないか」と言いたい。
けれど、ストレートに表現することがどうしても出来きない。
そんな不器用な照れ隠しに、ポチはベルクを負かしたと増長しだした。
「とうとう負けを認めましたねエロ吸血鬼。これに懲りてご主人様をかどわかさないでください」
「かどわかす? かどわかすって何ですか、マスター?」
かどわかす。誘拐する、連れ去るの意。なのだが、
「もしかして、角まで沸かせる……皆で楽しもうってことですか?」
「…………」
見当違いの解釈に、ベルクは何も言う気になれなかった。否、この場合はそう思わせていたほうがいいのか、悩んでいたに違いない。
しかし、それを許さない一匹。
「違います。このエロ吸血鬼はご主人様を手籠に――痛っ!」
「ま、マスター!?」
ベルクは無言で拳を振り下ろしていた。
「……そのへんにしろ。誰がそんなこと思うか。次はこれじゃ済まさんぞ」
「こんのぉ! エロ吸血鬼が!」
フレンディスから飛び降り獣人化するポチ。
再度開幕する睨み合い。
「これは早い花火ですな」
「アル君、散ってるのは火花だわ」
「にゃ? そうだったの?」
そこに茶々を入れたのはアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)、シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)、完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)の三人だった。
「アルクエントさん!」
「やあ、久しぶり。お元気で何よりですな」
「以前は大変ご迷惑をお掛けしました。それなのに来ていただけて嬉しいです!」
いつかの失態を謝るフレンディスに、シルフィアは「アル君だし、いいのよ」と軽く応じて、視線をベルクとポチに向けた。
「何かもめているみたいね?」
「どうなんでしょう? 二人とも皆で楽しみたいって言ってたけれど……」
「……シルフィア、そう見えるか?」
「詳しい前後関係はわからないけど、違うと思うわよ」
「ということは……」
またフレンディスの天然が炸裂したのか。
気苦労の耐えないベルクに、アルクラントは同情の念を禁じ得ず、
「誘ってもらった身だが、ここは私たちが一肌脱ぐとしますか」
ちょっとしたお節介を焼くことに決めた。
「ペトラはポチと初対面だったよな?」
「うん、そうだよ。僕のフードに負けないくらいもふもふさんだね」
「どうだろう、この機会に仲良くなってみるのは?」
「うん! 挨拶してくる!」
アルクラントに促され、ペトラはトコトコとポチの元に駆け寄る。
「ポチさん、はじめまして」
「な、何ですか、この被り物は?」
「ペトラって言います! よろしくねー」
「先に名乗るとは殊勝ですね。僕はご主人様の忍犬、ポチです。まあ、変な被り物がこの優秀なハイテク忍犬の僕と釣り合うとは思いませんが、よろしくです」
などと高飛車に言っているが、そこはツンデレワンコ。新しい友達が出来て嬉しいのか、尻尾だけは正直にパタパタ動いていた。
それを知ってか知らずか、ペトラは笑いながら話を続ける。
「僕、遊園地に来るの初めてなんだよ。だから目移りしちゃって」
「ふ、ふんっ。遊園地なんかに浮かれて、子供ですね」
腕を組んで虚空を見つめるポチ。先程まで叫んでた自分のことなど、完全に棚に上げていた。
「だからね、遊園地の楽しみ方とか面白い乗り物とか教えて欲しいんだ。頼めるかな?」
実はポチもそれほど遊んだ経験はないのだが、性格上、引くに引けなかった。
「……いいですよ。何でも聞いてください」
「ありがとう! それで気になったんだけど、あの高い建物って何かな?」
「あれは……そう! 面白いアトラクションです!」
「そうなの? 僕、あれに乗ってみたい!」
ペトラのその一言で、一行の向かう先は決まった。
「どうしてこうなった……」
「逃げられなかったからです……」
上昇する座席に腰掛け、放心状態でポチを抱えるアルクラント。
フリーフォールを元にしたアトラクション。しかし内部では幽霊やら亡霊やらが道先案内人だった。それは宛らお化け屋敷。
トラウマを刺激され、逃げ惑うアルクラント。
「お化け屋敷は駄目だろぉぉぉぉ!!!」
飛び上がり、握ったお守りを振りかざし、誰彼構わず飛びつき、
「うぅ、シルフィア、助けてくれぇ……」
最後はパートナーの下で懇願。
「これくらいならアル君でも大丈夫、って思ったのだけどね……」
「マスターは何であんな顔してるの? ポチさん分かる?」
「へ、へたれベレー帽はへたれということです。こ、こんな子供騙しに泣き叫んぶなんて――ひぃっ!?」
アルクラントの背に豆柴状態でしがみつく。
「ポチ君も駄目なタイプみたいね」
「そ、そうじゃないです! ぼ、僕は、へたれベレー帽を安心させようと、しているだけです! で、ですが、へたれベレー帽もこんな調子ですし、ここで引き返しましょう!」
「何言ってんだ? 最後まで行かなきゃ面白くないぜ?」
ニヤニヤしているベルク。
「そうですよポチ。楽しみましょう?」
「ご主人様……うぅ……」
そんなこんなでやっと着席したけれど、それからもまだ苦難は続き。
フェイクのたびに飛び上がりそうになるが、安全ベルトで固定されていて逃げられず。故に今の彼らの顔は、涙や鼻水でひどいことになっている。
「ほら、アル君。ワタシがついていますから安心してください」
「うぅ……しるふぃあぁ……」
「ポチさんも、僕が撫でてあげるから」
「被り物、いや……ペ、ペトラちゃん……」
宥めあう横で、
「マスター……緊張しますね」
隣に座るベルクの手を無意識に握るフレンディス。それを握り返し、
「安全は保障されている。それに、もしものことがあれば俺が――」
その瞬間、前方の扉が開き、デスティニーCの全景が眼前に。
『わあぁ!』
『おおぉ!』
そして、急降下。
『きゃああぁぁぁぁーーー!!!』
歓声と叫声が混ざり合う。
その中で一人、報われない叫び声を上げていた。
「最後まで言わせろぉぉぉーーーー!」
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