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デスティニーパレードinニルヴァーナ!

リアクション公開中!

デスティニーパレードinニルヴァーナ!
デスティニーパレードinニルヴァーナ! デスティニーパレードinニルヴァーナ!

リアクション

 入り口で配られるパンフレット。
 それには園内全景図が載っており、それを指針にアトラクションを探すのが常……なのだが、急遽決まった増設部は印刷が間に合わず、行って見て初めて気付くアトラクションもある。
 ここもその一つ。
『損得や利益のため? 違うな、これは慈善事業だ』
 待合の通路に付けられたテレビモニターには、椅子に置かれた招き猫、マネキ・ング(まねき・んぐ)がアップで映し出されていた。
 流れてくる音声はこのアトラクションの説明なのだろう。
『このウォーターコースターの先は未知の海底へと続く。そこには外宇宙から来た太古の支配者達とその眷属があわび養殖を行っていて――』
 ただ、内容は今一理解できない。
 気になる部分や突っ込みたい部分は多々あるが、最後はこう締めくくっていた。
『――秘密を知ったものを彼らは生きて返さないだろう』
「だって。セレアナはどう思う?」
「どう思うって聞かれても、アトラクションなんだから死にはしないでしょ」
 秋物の服に身を包んだセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。本当は過激な仮装で来ようとしたセレンフィリティをセレアナが止めたのだが、それはまた別のお話。
「そういうことじゃなくて、『こわーい』とか『セレンは守るから安心して』とか、あるでしょ?」
「それ、さっきから絶叫系を回る度に言っているわよ?」
「だって、一回もノッてくれないんだもん」
 淡白な反応に頬を膨らませるセレンフィリティ。感情がそのまま体現しているのは、お祭り好きの血が騒いでいるからだろう。テンションの赴くまま、言動を抑えきれないでいる。
「ほら、セレアナももっと楽しみなさいよ。お固いだけじゃ人生もったいないよ?」
 セレアナの頬を指で持ち上げ、笑顔を作ろうとする。
「やっ、セレン、やめっ!」
「仲が良い所悪い、すいません。後ろが詰まってる、ます。一歩、前に進んでくれ、ださい」
「あ、ごめんなさい」
「ほらセレン、前に進んで」
「わかったわよ……」
 アトラクションスタッフ、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)に注意され、セレンフィリティは渋々手を引っ込めた。
「それと、ここは冒険抱腹絶叫系アトラクション? になっている、ます。そのため、これを着てもらう、います」
 渡されたのはレインコートだった。
「冒険抱腹絶叫……趣旨がわかりにくいわね」
「面白そうでいいじゃない。そのほうが期待できるわ」
 二人は受け取ると、早速袖を通す。そして、当然ながらの疑問。
「レインコートってことは、濡れるの?」
「舞台は海底……そうなる場合もある、ということです」
「それなら、やっぱり水着で――」
「セレン、止めなさい」
 未だ仮装願望のある連れを止めるセレアナ。そのせいか、「海底へ潜るのにこんな軽装、意味があるのか?」というセリスの呟きは二人に届くことは無かった。
「そろそろ乗車口、です。オペレーターが居る、ます。そちらの指示に従え、ってください」
「そうなの? なら仕方ないわ。このまま行きましょう」
「良かったわ……私まで巻き添えにならなくて」
 脱がされる危険が去り、ホッと一息ついたセレアナは、
「ところで、あなた新人なの?」
 セリスに向かって尋ねた。敬語が微妙におかしく、最初から気になっていたのだ。
「人員不足で……俺は整備へ戻る、ります。良い旅を」
「整備士だったのね」納得したのはいいが、「それがこんなところに居て大丈夫?」
 新たな疑問が生まれた。

 乗車口。
 空間を真横に切断するように敷かれたレーン。
 その手前にメビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)は立っていた。
「ようこそ! これから皆様に搭乗していただく海底走行車は、当社が独自に開発した深海を遊泳する乗り物です!」
 集まった人々を見渡し、耳を傾けているか確認する。
 それが分かると、少し神妙な雰囲気を醸し出し、メビウスは続けた。
「そこは太古の神々達が住むと言われる世界。未だ伝承でしか語られない未知の世界。そこに今、私たちは辿り着く手段を手に入れました!」
 世紀の大発見、と言うように、可愛らしい拳を握り締める。
「師匠――じゃなかった、とある招き猫の招待を受け、私たちはその一部を見学できることになりました! そのための乗り物が、この海底走行車なのです!」
 もう一方の手で後方を示すと同時、鈍色の光沢を纏った車両が滑り込んできた。
 一度大きく揺れて停車すると、海底に潜るためだろう重厚な扉が音を立てて開く。
「今から皆様は伝承の目撃者になります!」
「そういう設定だったのね」
「思ったよりまともね」
 車両に乗り込むセレンフィリティとセレアナの後ろで、香菜は複雑な顔をしていた。
 それを気遣ってか、神崎 零(かんざき・れい)がそっと声を掛けた。
「香菜、どうしたの?」
 続いて陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)
「具合でも悪いのですか?」
「べ、別に、何でもないですよ?」
 顔を背けて返答する香菜。向いた先には神崎 優(かんざき・ゆう)神代 聖夜(かみしろ・せいや)もいた。
 こうなったのは少し前。
 ルシアを見失い、キロスから逃げ、一人で居た香菜。
「こんな所で何をしているんだ?」
「あなたは神崎優さん……」
「疲れてるように見えるわよ?」
「零、多分友達と逸れて探しているんじゃないか? だったら一緒に探してやろうぜ?」
「聖夜の言う通りです。手伝ってあげましょう」
「って、私は迷子じゃないですよ!」
「それなら一人ってことか。良かったら俺達と一緒に遊ばないか? 折角遊園地へ来ているのに遊ばないなんて勿体無いだろ?」
 と優たちが誘い、今に至る。
「さっきは不覚にも楽しんでしまったわ……それに、私はルシアに……」
 子供騙しの遊戯。そう言っているのは口だけで、心はやはり年相応に楽しみにしてしまう。その上、気になる相手を見失い、探さなきゃという焦燥感。
 その二つが合わさって、そわそわが隠し切れずに表立っている。それは傍から見て体調不良か、
「もしかして、香菜は無理矢理楽しまないようにしているの?」
「あいつ、素直じゃない所があるからな」
 小声で掛けられた零の質問に優は答える。
「それなら私たちで盛り上げてあげましょう。幸いここは冒険抱腹絶叫アトラクションですから」
「同感だ。テンションを上げるにはもってこいだろうしな」
 刹那と聖夜も話し合いに加わると、全員の方針が決まった。
「先輩たち、何をこっそり話しているんですか?」
「ねえ、香菜」
「な、何ですか?」
 突然返ってきた笑顔に、一歩たじろぐ。
「そんな顔してちゃ、楽しくならないよ?」
「遊園地は楽しんだもの勝ちですよ」
 と女性二人で香菜の背中を押す。物理的にも。
「ちょ、ちょっと!?」
「細かいことは乗ってから考えようね」
「早くしないと、扉が閉まっちゃいますよ?」
「わ、分かったから! 押さないで!」
 香菜の表情は悩みから戸惑いに変わっていく。
 揺らされた心。そこに愉悦という水を垂らせば、包み込む様に広がっていくだろう。
「こういうとき、女性の力は頼りになるな」
「全くだ。それじゃ、俺たちも乗るか」
「そうだな」
 優と聖夜が乗って定員になると、メビウスは最後に不穏な言葉を残した。
「乗車は完了しましたね。それと、中には気難しい神様も居るかもしれません。皆様なら大丈夫信じていますが、くれぐれも神様の怒りに触れないようにしてくださいね? それでは良い旅を!」
 それを聞いた優は、
「最後に波乱を感じさせる言葉とは、人の感情を分かっているいいオペレーターだな。これはアトラクションも楽しめそうだ。しかし――」
 少し首を捻り、
「あわびの養殖はどこにいった?」
 回答は重い扉の閉まる音だった。

『ボクがキミ達を案内する、マイキー船長だよ。宜しく!』
 中折れ帽を持ち上げ軽快に挨拶を交わすマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)
『操縦しなくちゃいけないから、こうなっちゃってごめんね』
 室内の奥に操舵室と思われる扉。その前にホログラムが映し出される形だ。
『それじゃ、早速海底探索に出発だよ!』
 走行車が揺れ、慣性が働く。その振動もまた、乗客の期待を膨らませた。
「ワクワクしてきたね。香菜もそうでしょ?」
 隣に腰掛けた香菜へ向かい、零が話し掛ける。
「私は……」
『キミ達、窓の外をみてごらん。いいものが見えるよ』
 未だ渋る香菜を遮る形で、マイキーが促す。
『これはきっと未知との出会いへの祝福……そして母なる海に抱かれた神々からの愛!』
「わぁ、綺麗です!」
 刹那が歓声を上げた通り、覗いた光景は煌びやかな海。色取り取りの魚が遊泳している姿。
「……綺麗ね」
「うん、本当……」
 それだけの言葉しか見つからない香菜と零。
「やっぱり、女の子達はこういうのに目がないな」
「感動できるものに男も女も関係ない。この光景は俺も素直に綺麗だと思う」
「確かに、俺も綺麗だと思うぜ」
 優と聖夜も賞賛を述べる。
『しばしの目の保養も終わったところで、そろそろ目的の場所へレッツ・ゴー!』
 皆が微かな浮遊感を感じると、窓からの光が徐々に無くなり、最後には暗闇へとなる。
『さて、そろそろかな。暗くて良く見えないから、ライトをつけるね』
 暗闇を横切る電光。それが照らしていたのは神々の住まう神殿。
『ここが目的の地、海底神殿。これでキミ達は奇譚の目撃者だよ』
 厳かな雰囲気を纏う地。しかし、少し遠くて細部を見るには辛い。
『もう少し近づいてみようか……あれ? あれは何かな?』
 マイキーが走行車を前進させると、妙なものが照らされた。
 それは端的に言うと底。ただし、海中に浮かぶ底。
 昆布と思われる海藻が揺らめき、ごつごつとした何かが張り付いている。
「あれは……?」
「何か見たことがあるわね……」
「何か聞いたがある気がするわ……」
 思い出そうとするセレンフィリティとセレアナ。
 皆も一様に疑問符を浮かべ、それに答えたのは、
 ――ゴオオォォン!
 激しい横揺れだった。
『オー、アウチッ!』
「きゃっ!」
「香菜、大丈夫!?」
「私に捕まってください!」
 傍で支える零と刹那。
「一体、何が起きたんだ!?」
「もしやあれは、あわびの養殖?」
 聖夜の叫びに、優が答えを導き出す。
「ああ、なるほどね」
「待っている時に招き猫が言っていたわね」
 意外と落ち着いているセレンフィリティたち。
「あなたたちは落ち着いているな」
「だって、アトラクションだし、楽しまないとね」
 しかし、その余裕は直に消え去る。
 ミシッ。
 不穏な音と共に、壁に亀裂が走った。そこから染み出してくる水。それはやがて、スプリンクラーの様に室内へ撒き散らされていく。
「ちょ、ちょっと……これも演出?」
「にしては過剰ね」
 流れ込んでくる水は量を増す。足元にはうっすらと水溜り。
「マイキー操舵主、大丈夫なのか?」
 聖夜が尋ねても響くのは警報音。中々反応が返ってこない。
「まさか、本当に潜ったりしてない、よね?」
 香菜がボソリと呟くと、不安が全員に伝わる。
「有りうるな。この水量は多過ぎる」
「これじゃ皆水浸しだわ」
「いや、それ以上に」
「溺れてしまいます」
 空気が重いものに変わっていく。
「マイキー、聞こえているの?」
 操舵室の扉を叩くセレンフィリティ。だが、未だ連絡はない。
「これはいよいよ、やばいわね」
 セレアナが冷静に漏らすと、やっと待ち望んだ声。
『いや、失敬。愛すべき神々から攻撃を受けてしまって、通信機に異常が出てしまったよ……これも愛の鞭というやつだね』
 それは、こちらの状況など気にしていない感想だった。
「今はそんなことより、大丈夫なのかと聞いているんだ」
 切羽詰った表情の面々。水はもう膝丈まで浸食している。
『おっと、これは急がないといけない。何とか急速離脱を試みるから、何かに捕まってね!』
 途端、急激な加速に体が流される。辛うじて体勢を支えても、溜まった水も例外ではない。
「きゃあっ!」
 高速で進んでいるのだろう、時に何かにぶつかった様に全体が揺動。
「うぷっ!」
 正面、背後、上下左右、ありとあらゆる方向から飛沫を浴びる。レインコートなど意味が無い。
『もうすぐだから我慢だよ――それっ、スカイ・ハーイ!』
 一瞬、世界が止まったと錯覚。その直後、数瞬の浮遊感に着水振動。
 恐る恐る覗く窓の外は、青い海の景色が広がっていた。
 安堵と、
「あっ……ははっ、はははっ、あははははっ!」
 伝染する笑い声。
 やはりこれはアトラクションだった。
「ちょっとビックリしたけど、香菜が笑ってくれてよかったよ」
「そうですね。もう大丈夫だと思います」
「これからは素直に楽しむだろ」
「そうだな。だが――」
 優は自分を見下ろし、
「この濡れた服はどうするんだ?」

『当アトラクションを楽しんだ、お楽しみ頂いたやつら、皆様へ連絡、です。濡れた衣服を乾かす場所を用意した、ております。利用してくれ、ださい』
 たどたどしいセリスの案内放送に、
「下が水着でよかったわ」
「……結局、脱ぐのね」
 セレンフィリティとセレアナは美貌を惜しげもなく披露して向かった。