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第12章 “胸”以外はそっくり!

 ――『カティヤがツァンダに行くから世話を頼む』――
「ん? カティヤが来るのか……」
 親からの手紙を自室で読んでいたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、その一文を見て少々顔をしかめた。双子の片割れであるカティヤ・マルトリッツは、子供っぽさと剣の才能を彼の分まで奪って産まれてきたような人物である。
「面倒なんだよな、あいつ……」
「カティヤさんがいらっしゃるのですか?」
 エヴァルトの声が聞こえたのか、カティヤとほぼ同じ容姿をしたコルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)が後ろから話しかけてくる。
「いつごろいらっしゃるのでしょう、お会いしてみたいです」
 自分と同じ姿をしたカティヤに興味があるようだ。剣の花嫁は契約者の大切な人の姿になる。その中で『大切な人』が存命のまま姿を模す例は、その逆と比べて極めて少ないと言える。山葉 涼司(やまは・りょうじ)のパートナー、花音・アームルート(かのん・あーむるーと)設楽 カノン(したら・かのん)の姿をしているが、それも、涼司が花音と出会った頃はカノンが亡くなっていると思っていたのだ。
「わかった、一緒に迎えに行くか」
 コルデリアもカティヤも好戦的な性格をしている。
 厄介なことにならなければいいのだが。

 そして当日、エヴァルトは久しぶりではあるし楽しく遊ぼうという思いの下、コルデリアを連れてカティヤを迎えに出かけた。街の広場で落ち合い、そのまま近くの喫茶店に行くつもりだ。広場に行くとまだカティヤは見当たらず、コルデリアは彼女を待ちながら考える。
(エヴァルトは友達も大事に想う人ですから、きっと家族もそれ相応でしょう。ですから、自分がいなくなって寂しい思いをしてないか心配で、わたくしはこの姿となった……ということなのでしょうね。でも、妹さんと同じ姿ということはやっぱりロリコ……)
「私もパラミタに来たわよ、エヴァルト! 目的は道場破り!冗談だけど!」
 そこで、1人の少女が2人に近付いてきた。エヴァルトと双子ならば成人間近な筈なのだが14歳位にしか見えないその彼女は、片割れの姿を見つけて元気に言う。それからコルデリアを見て靴の裏と地面を摩擦させながら急停止した。その場で半ば仰け反って、驚きの声を上げる。
「……って、私がいるー!?」
「貴女がカティヤさんですわね〜。剣の花嫁、コルデリア・フェスカと申します〜、以後お見知り置きを〜……」
 コルデリアは彼女に、柔らかな動作で挨拶した。
(あらあら、本当に胸以外はそっくり……)
 こうして会ったカティヤは、貧乳だった。
 一応、今までの姿でも総じて胸は大きかったし、きっと変更のきかない部位だったのだろう。
「……剣の花嫁? 大事な人に似るっていう?」
 自己紹介で納得したのか、カティヤは自分のペースを取り戻した。
「ははーん、やっぱりお姉ちゃんがいないとダメね! これからも面倒見てあげてね!」
「妹だろう……」
「ちがーう、私がお姉ちゃんなの!」
 ツッコミを入れるエヴァルトに、力強く主張する。姉だと主張しているのは全世界中彼女だけなのだが、そこは譲れないらしい。
「……でもなんか女の子として悔しい! 同じ顔だから特に! 試合するわよー!」
「あら、お手合わせですか〜?」
 それを聞き、コルデリアは嬉しそうな笑顔になった。
「いいですわね〜、わたくしも剣の腕には少しばかり自信がありましてよ〜」

 それから近くの武器屋に入り――そこは一般的な物から暗器まで扱っているような店だった――彼女達は木剣を買って広場で手合わせを始めた。どちらも、剣の才能はずば抜けている。少女達の熱いバトルに、通行人達が徐々に足を止めていく。エヴァルトはそれを、呆れた面持ちで眺めていた。
(本当に闘い出したぞ。……ま、いい見せ物にはなるかもな)
 やがて、激しい剣戟に耐え切れず、双方の木剣は真っ二つに折れた。
「……そこまでだな。決着はつかず、ということか」
「残念ねー! せっかくいい感じだったのにー!」
「でもこれで、エヴァルトが任せられるって分かったわ! せっかく元に戻ったんだから、もうサイボーグとかにならないようによろしくね!」
 無効試合でも満足は出来たようで、カティヤはからりと笑ってコルデリアに言う。
(……非契約者にしては、なかなかお強い人でしたわ〜……)
 そんな事を思いながら、コルデリアも悪い返事はしていない。試合を通じて、2人は仲良くなったようだ。
「自称姉なだけあって、心配するのは得意だな」
 エヴァルトがカティヤと最後に会った時、彼の体はまだサイボーグだった。あれからしばらく経ち、生身に戻れたことくらいは喜んでいる様子だ。
「じゃあ、今日はどこに行こっか? それから、明日と明後日と……」
「……つーか、何日かいる気か!」