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リアクション
第2章 決闘
12月24日。
薔薇の学舎にある訓練室。
この日に、この部屋を借りたのは皆川 陽(みなかわ・よう)だった。
気弱な普通の少年に見える彼だけれど……。
弱い自分を嘆き、男として強い自分になりたくて。
この薔薇の学舎で、魔法の勉強をも頑張ってきた。
だけれど、いくら努力をしても『好きな人から、自分は馬鹿にされ続けている』……そう、感じていた。
「だから、戦うんだ」
陽は拳を握りしめながら、相手を待っていた。
彼がここを借りた理由は、パートナーのテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)と決闘をするためだった。
テディは陽を主と定め、忠誠を誓っていた。
しかし、現代の日本で生まれ育った陽には、『騎士』という存在に対して、理解ができていなかった。
自分を守ってくれる『騎士』という存在を、魅力的に感じる心を持っていなかった。
だけど、自分がテディの主君であることを拒否したら……。
彼は他の人間を主と定めて、その人物に添い従うことになるかもしれない。それは、嫌だった。絶対に嫌だった。
「戦うんだ」
静かに呼吸を繰り返しながら陽はテディを待つ。
以前から「守る」とテディに言われていることに、陽は内心不満を抱いていた。
(守るって言われるのは、対等ではないと思われてるから。力のない存在だと、馬鹿にされてる……)
そんな風に、思ってしまっていた。
だから、決闘しなければならない。
自分を対等な相手だと認めさせるために。
そのために陽はテディに決闘を申し込んだのだった。
「ええと……」
扉が開き、テディが姿を現した。
「……正式に申し込まれたら、受けないわけにはいかないから」
言って、テディは部屋の中に入る。
正式に決闘を申し込まれた以上、受けないのは騎士の名誉にかかわるために来たが。
訳が分からず。どうしたらいいのか分からず。
テディは陽と対峙したまま、眉を顰めていた。
「行くよ」
声と同時に、陽の魔法が炸裂する。
「!!」
肉体の強さと純粋な戦闘能力でいえば、今でもまだテディの方が上だった。
陽が放つ魔法の嵐を、光の刃を、テディは盾で受け、躱す。
(なんで、いきなりこんなことに……? このまま上手くやっていけると思ってたのに)
攻撃を受けながら、テディは不思議で仕方がなかった。
主従というお互い唯一無二の関係として、上手くやっていけると思っていたから。
陽の目は本気だ。本気で、自分を倒そうとしている――。
「……っ」
盾で防ぎきれなかった魔法が、テディの体に深い傷をつけた。
「反撃する時間はないよ!」
陽はフェニックスを召喚する。
反撃――できないわけじゃない。
攻撃を受けることを覚悟で、陽の元に跳べば。
肉を切らせて骨を断つことは出来るだろう。
だが、テディには出来なかった。
騎士として、主に刃を向けるなんて断じて許されることではないから。
陽が召喚したフェニックスが、テディの体を焼く――。
「……う……っ」
炎が消えて、床に膝をついたテディの元に、陽は近づいてきて。
指輪を、彼の元に落とした。
それは、愛と忠誠のしるしとしてテディが陽に渡したものだ。
「もう守られる存在ではないから、騎士はいらない」
そう言い残して、陽は訓練室から去っていった。
一人残されたテディは、焼けた自分の体を抱きしめながら、床に落ちている指輪を茫然と眺める。
「なんだ、よ……」
何故、陽がそんなことを言ったのか。
どうして、突然こんなことになったのか。
わからなくて。
ただ、追いかけても何も変わらないということは、良く解っていて。
騎士として生まれて、騎士として生きることを目標として生きてきたのに。
好きな人にいきなり、全て否定されてしまって――。
「受け入れるわけ、ないだろ」
吐き出すように言い、拳を握りしめて床を強く叩く。
指輪が跳ねて、再び落ちた。
小さな音が、寂しく響いた。
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