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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同忘年会!

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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同忘年会!

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「ね、一緒に日の出見に行こうぜ」
「今日はあの劇場の屋上、解放されてるんだ」
 運河にかかる橋の上で、着物姿の女の子2人が少年2人に誘われていた。
「今日は、2人で行きたいところがあるの」
「またご縁がありましたら、お会いしましょう」
 女の子2人はそう断ると、仲睦まじく2人で歩いていく。
「初ナンパに会っちゃったね! ……結構カッコよかったね」
 空色の着物姿の女の子――アユナ・リルミナルが、桃色の着物姿の女の子、稲場 繭(いなば・まゆ)に小さな声で言った。
「一緒に過ごしたかったですか?」
「ううん! 初日の出は特別な場所で見るって決めてるから。知らない人が一緒じゃヤダもん」
「そうですね。特別な場所、ですからね」
「うん」
 微笑を浮かべ合って、暗い街の中を2人は『盟約の丘』に向かって歩く。
「繭ちゃん、その着物姿も可愛いね。お化粧も上手だし、イヤリングとも合ってるよ。ああ、なんだかお人形さんみたい。ぎゅっとしたい、ぎゅーっとしたいよ」
 繭がしているイヤリングは、アユナにもらった、桃色に近い紫色の小さな石が嵌め込まれたイヤリングだ。
「アユナさんも、似合ってます。良かったです」
「うんっ! お気に入りっ」
 アユナの耳には繭が今年のクリマスに送ったハートのイヤリングがついていた。
「打上げ華美や、音楽祭……去年もいろいろありましたね」
 歩きながら、繭がしみじみと言う。
「うん、怖い話も沢山聞くけど……。怖がって家に閉じこもってたら、もっと怖くなっちゃうからね。繭ちゃんとこうしてお出かけできて、アユナはすごく嬉しい〜。ありがとー」
 ぎゅっと、アユナが繭に抱き着いてきた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
 繭もアユナにハグをしかえして。
 顔を上げると、2人は「えへへっ」と笑い合い。
 目的の場所に向かっていく。
 街中を歩き、橋を渡って、ゴンドラに乗って。
 少し距離があるけれど、楽しく話をしているから遠いとは感じなかった。
「たくさんのことを経験して、その積み重ねが今なんですね」
「うん……。アユナは去年より少し成長したかな? してないかもー」
 大きな事件に関わっていないこともあり、アユナは自分の成長を感じ取れていなかった。
「してますよ。アユナさんは、綺麗になりましたね」
「ホント? アユナ今日、お洒落頑張ったの! 繭ちゃんと並んで歩いても恥ずかしくないように」
「私より、ずっと綺麗ですよ」
「繭ちゃんも、アユナよりずっと可愛い!」
 互いに嬉しそうに笑いながら、着物を汚さないよう気を付けて歩いて。
 夜中のうちに2人は盟約の丘に、たどり着いた。

「年末ギリギリまでお仕事とかありえないよね……」
 教導団員の琳 鳳明(りん・ほうめい)は、仕事を終えてから忘年会に駆け付けようとしたけれど。
 仕事を終えた時には、忘年会も年越しイベントも終わってしまっていた。
「それは鳳明が安請け合いしすぎるのがいけないのですよ」
 パートナーのセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が、くすりと微笑みながら盟約の丘に目を向ける。
「皆さん、お集まりのようですよ」
「ホントだ! ってファビオさん、なんで悠然といるのー!? 同じ教導団員なのに! 職務怠慢だと思いまーすっ!!」
 笑いながら鳳明は駆けあがって、友人達と合流する。
 丘には、ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)と、パートナーのミクル・フレイバディ(みくる・ふれいばでぃ)
 それから、とアユナが来ていた。
「俺の場合、忘年会の出席自体が仕事のようなものだったから」
「と主張して、他の仕事断ったんだよ」
 ファビオとミクルはそう言って、笑う。
「相変わらず、逃げるの得意なんだから」
 鳳明は、笑いながら近づいて。
「あけましておめでとうございます」
 皆に挨拶をした。
「おめでとう」
「今年もよろしく」
 ファビオとミクルは笑顔で鳳明とセラフィーナを迎え入れ。
「昨年はお世話になりました、今年もどうぞよろしくお願いします」
 繭は丁寧に頭を下げ。
「よろしくねっ」
 アユナは繭の後ろに隠れながら微笑む。
「おめでとうございます。そろそろ日が出ますね」
 セラフィーナは丘にシートを敷いて、水筒に淹れてきた温かい飲み物や、軽食を取り出す。
「鳳明、お腹空いてるでしょ? 皆様もどうぞ。温まりますよ」
「ありがとー」
「いただきます」
 着物姿のアユナと繭は、紙コップにお茶を入れてもらい、受け取った。
「えへへへへへ……っ」
 アユナは憧れのファビオがいる為、照れて繭の後ろに隠れている。
「ほら、ファビオさん、可愛いよとか言ってあげないと!」
 鳳明は、サンドイッチを食べながら小声で言い、ファビオを肘でつっついた。
「ええっと……」
 ファビオは皆を見回して。
「前に会った時よりも、皆更に、綺麗になったね。女の子はすごいな」
 と、少し照れながら言った。
「あ、ありがとうございます。ファビオ様も、前に会った時より、騎士の橋のお姿より、素敵……ですっ。きゃーっ」
 言いながら、アユナは繭にぎゅっと抱き着く。
「僕も成長したでしょ」
 ミクルが胸を張って言った。
「うん、けどまだ、女装いけそうだよな」
 ファビオがそう言うと、うんうんと皆が頷く。
「ひどいっ。身長だって随分伸びたのに!」
 ミクル自身も皆も、声を上げて笑い出す。
「……もうすぐ日が昇るね。初日の出かぁ。こういう時、今年の抱負! とか言い合ったりするよねー。ファビオさん……は何かいつも通りな答えが返ってきそうでつまらない気がする」
「うん、多分期待通りの答えだと思うよ」
 鳳明の言葉に、ファビオは苦笑しながら答えた。
「やっぱりそうか。んと、アユナさんはどう?」
「アユナは今年は〜。進路を決めたいなって思う! 宮廷で働くのも、戦うのもアユナには合わないと思うんだよね。アユナはファッションとかメイクとかの勉強して、将来は独立したいなぁ。で、鳳明ちゃんは? 教導団の堅苦しいお仕事の話はなしね!」
 アユナはそう答えた後、興味津々な目で鳳明を見る。
「私は……えーっと。こ、今年こそは片思いの人からいい返事が貰えたらなぁ、なんて……」
「ほうほう。とすると、鳳明ちゃんの将来の夢はお嫁さんかー」
「なっ!」
 アユナの言葉に、鳳明は真っ赤になった。
「わ、私はいいから、他の皆はどうなの!? そうだっ、ミクルくんは!? ミルミちゃんとはどうなのかなっ!?」
 必死の形相で、鳳明がミクルに話をふる。
「ミルミちゃんとはたまにメールをするくらいの友達だよ。彼女、欲しい気もするけど……縁もないし、男としての魅力もないみたいだし……」
「そんなことないですよ。ミクルさんも素敵です」
 セラフィーナさんがミクルに微笑みを向けると。
「ありがとう!」
 ミクルはぱっと笑顔を浮かべて「セラフィーナさんは?」と問いかけた。
「そうですね……。
 鳳明はもうワタシが居なくても大丈夫そうですし。
 そろそろ『姉』ではなく、ワタシ自身の事を考えること……でしょうか」
 セラフィーナは考えつつ、語っていく。
「長い間眠っていたので、未だに恋愛というモノも実体験としてはないですし……」
 頷いて、こう続ける。
「そうですね、まずは恋をしてみましょう! という訳で、誰か良い人がいらっしゃったら紹介してください♪」
「紹介してくれって……僕は対象外なんだね」
「えっ? そういうわけでは……」
 ミクルの反応に、セラフィーナは戸惑う。
「あの、ミクルくん。セラさんはこう見えても、実年齢……」
「鳳明」
 鋭く冷たい声が飛んだ。刺すような目で、セラフィーナが鳳明を睨んでいる。
「ナンデモナイデス」
 鳳明が目を逸らすと、皆が一斉に笑い出す。
 同時に、大地に光が射し込んできた。
「日の出です」
 静かな声で、セラフィーナが言い。
 皆の目が、光の方向、太陽の方へと向けられる。

 しばらく、静かに皆、日の出を眺めていた。
「来年もまた、こうして一緒に日の出を見ることができたらいいですね。そのときはもっともっとたくさんのことを経験して」
 繭はそう言って、改めて頭を下げた。
「えへへ……今年も一年、よろしくお願いします」
「よろしく、繭ちゃん。今年も楽しい事とか……お勉強とかも、一緒に頑張ろうね。そしてまた、嬉しい気持ちで新年を迎えようね!」
 柔らかな光の中でアユナが微笑む。
 先ほどまでの夜中の笑顔よりも、日の出の光を浴びた今の互いの顔の方が、もっと綺麗で希望に満ちていた。
「……思えばさ、このパラミタに来て最初に大きな事件に突き当たったのがココで。
 最初にパートナー以外に友達と呼べる人と出会えたのもココで……。
 この丘が私の出発点だったのかも知れない、って」
 日の出を見ながら鳳明は呟き。そして照れ隠しのような笑みを浮かべる。
「あはは、何が言いたいんだか私自身もよく判んないけど、ココにいる皆が大好きで、これからも友達でいたいから……」
 少し前にでて、そして振り向いて。
 初日の出の光を浴びながら鳳明は皆に笑顔を向けた。
「改めて、明けましておめでとう! 今年もよろしくねっ!」
 おめでとうと皆と言い合ってから。
「この日の出を背景に皆で写真撮ろっ!」
「そうだね。カメラのセットは任せて」
 ミクルが自分のカメラと、鳳明のカメラを受け取って立てていく。
「うん、鳳明ちゃんこっち来て!」
 アユナは右腕を繭の腕に。
 左腕を鳳明の腕に絡めて凄く嬉しそうに微笑み。
 セラフィーナと、ファビオは3人の後ろに立って。
 カメラをセットしたミクルは、3人の前にしゃがんで。
 初日の出を背景に、ひとつの思い出が形になった。