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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』
サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』 サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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【2022年12月24日 06:35AM】

 次にフレデリカが美緒の部屋で覚醒を促したのは、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)次原 京華(つぐはら・きょうか)パンドラ・コリンズ(ぱんどら・こりんず)アイギール・ヘンドリクス(あいぎーる・へんどりくす)の五人である。
 セレスティアは美緒と、そして結奈はイングリットとそれぞれ同室で目を覚ましたことに、少なからず興奮していた様子であったが、残る三人は特にこれといった感慨もなく、何となく朝を迎えたというような雰囲気が漂っていた。
「あなた達、昨晩何をしてたか、覚えてる?」
 フレデリカが問いかけるや否や、いきなりセレスティアが指をわきわきと動かしながら、自身の両掌にじっと視線を落とした。
 彼女の手の中に、こう、えもいえぬ快感に近い柔らかな感触が残っていたのである。
 それが何なのかはよく分からないが、その感触は素晴らしく心地良いと同時に、酷く嫉妬心を湧き起こさせるという矛盾する要素を含んでいた。
「すみません、私自身はよく覚えてないのですが、この両手が何かを覚えてるみたいです」
「えっとぉ、私も全然覚えてないんだけどぉ、すっごく楽しかったっていうのだけは覚えてるかなぁ」
 凄まじく卑猥な指の動きを披露するセレスティアの隣で、結奈が明るい笑顔で、それこそ屈託のない無邪気な声を張り上げた。
「オレは何ってこともねぇなぁ。よく覚えてねぇけど、いつも通りって感じだったような気がするぜ」
 京華は明後日の方角に視線を飛ばしながら、ぶっきら棒に答えた。
 本人がそういうのだから、恐らく間違いないのだろう。
 これに対し、パンドラとアイギールはふたり揃って、妙に深刻な顔を見せていた。
「我はどうにも、あまり宜しくない感覚が残っておるわい。ひと言でいえば、気分が悪くなるような何かがあったようじゃ」
「えぇっと……私も、です。どちらかというと、悲しい気分というのが正しいですけど……」
 喜ぶふたり、いつも通りのひとり、そして悲しいふたり。
 見事なまでに三つのパターンが揃った訳だが、フレデリカの表情は今ひとつ冴えない。
 欲しい情報が、この五人からは得られそうにもなかったからである。
 ならば、と次にフレデリカが狙いを定めたのは、桜月 舞香(さくらづき・まいか)桜月 綾乃(さくらづき・あやの)奏 美凜(そう・めいりん)の三人だった。
 こちらも、どちらかといえば反応は両極端のように思われる。
 まず舞香と綾乃の両名は、明らかに不機嫌そうであった。
「昨晩は確か、パーティーだった筈、だよね……それなのに、この何ともいえないむしゃくしゃとした気分は一体何? 何だか凄く腹立たしいことがあったような気がする……」
「私も、どちらかといえばあまり嬉しくない出来事があったような気がするかな」
 舞香の場合は怒りが、そして綾乃の方は恐怖感に似た感情がそれぞれの記憶に暗い蔭を落としているように見える。
 が、美凜だけは少し様子が異なる。彼女は上機嫌とまではいかなくても、まんざらではないといった様子で妙に澄ました顔を見せていた。
「ワタシはぁ、何があったか覚えてナイけど、自分では納得いったって感じするネ。これ間違いないネ。良い夜だった筈アルヨ」
 更にいえば、汚れたまま放置されている中華料理器具セットが洗面所脇に放置されているところを見ると、どうやら美凜は自慢の四川料理を振る舞ったらしい。
 悪い気分ではないというところから鑑みるに、評判は決して悪くなかったのだろう。


     * * *



 ヴァイシャリー・グランド・インのパーティー会場って、どうなってるのかしら。
 幾ら女性同士っつったって、公然と胸を触ってるなんてちょっとおかしいわよね。
「凄い……ブラジャーで支えてるとはいっても、こんなに大きくて柔らかいのに、全く垂れ下がったりしないなんて、本当に芸術のようですね。羨ましいです」
「でも肩凝りは酷いんです。決して良いことなんてありませんわ」
 美緒さんの許可を得て、セレスティアさんが彼女の超乳に両手で触れてるんだけど……あれは、触ってるとかそんなレベルじゃないわ。どう見ても、揉みまくってるわよね。
 セレスティアさん、自分の胸がちっぱ……慎ましいから、美緒さんにどうすれば大きくなるのかって相談を持ちかけてみたようだけど、だからってあの揉み方は何?
 まるでAV男優なみじゃないの。羨まし過ぎるわ。今度一回、問い詰めてやんなきゃね。
 周りから奇異の視線がバシバシ飛んできてるその横では、結奈さんがイングリットさんと普通に談笑してるってのが、ある意味、凄いわよね。
 っていうか、このテーブルってそもそも、普通じゃないのかな。
 ネージュさんが、何故だか分かんないけど、鬼の形相でがぶがぶ飲み物を流し込んでるわ。そう、まるで何かに取り憑かれたかのように……。
 そうかと思ったら、急に立ち上がってトイレにダッシュしていっちゃった。そりゃあんなに飲みまくってたら膀胱刺激するのも、当然っちゃあ当然よね。
 でも自分で頻尿だって分かってんのに、どうしてあんなに飲み倒しちゃうのかしら。
 きっとこれも、アレね。人間の業ってやつね。
「おい、ぐらついてるぞ。しっかり支えな」
「す、すみません、すみません……」
 京華さんのお尻の下で、アイギールさんが人間椅子になってる。
 普通に考えたらこれも相当に異常な光景なんだけど、セレスティアさんの乳揉みが凄過ぎて、あんまり目立ってないのよね。
 それ自体がもう、おかしいっちゃあ、おかしいんだけど。
「きゃあ! ちょっと、何見てんのよ! このド変態!」
 あれ、舞香さんの声ね。
 どうしたのかしら?
 ……あー、そういうことね。でも、秘宝とは直接関係無さそうだし、今はまだ、良いか。

 この時、私の時計は2022年12月23日の19:30頃を差していた。



     * * *


 結局のところ、美緒の部屋では秘宝に直接繋がる情報は得られなかった。
 いや、或いは直接的には関係がないように見えても、どこかで何らかの関わりがあった者が居たかも知れなかったのだが、現時点ではフレデリカにそこまでの判断材料がない。
(ここは一旦引き払って、次の部屋ね)
 続けてフレデリカが足を向けたのは、馬場 正子(ばんば・しょうこ)の宿泊室であった。
 実は正子の部屋も、美緒の部屋程ではないが、結構な人数が雑魚寝していた。
 但し、正子自身の巨躯が通常の人間の二倍近い容積を誇る為、人口密度的にはどっこいどっこいだった。
「朝っぱらから、随分と扇情的なサンタが現れたものだな」
 出迎えた正子がフレデリカのミニスカサンタ衣装を揶揄したが、その表情はいかついながらも決して攻撃的な色を浮かべてはいない。寧ろ、機嫌が良さそうであった。
 理由は至極単純で、正子が目覚めた時、枕元に置いてあったプレゼントが随分と気に入ったからだった。
「見よ、このイコン装甲印の鉄鍋を。サンタの奴め、粋なことをしていったものよ」
 正子が手にしていた鉄鍋を、フレデリカは訝しげな表情で眺めた。
 実は、フレデリカには正子に鉄鍋を贈ったという事実はなかったのである。であれば、別の誰かが正子に贈ったと考える方が自然であった。
 この鉄鍋プレゼントには、ご丁寧にもメッセージカードが同梱されていた。

  『メリークリスマス。馬場正子校長。

   今年も一年間、お世話になったことに対する感謝と敬意を込めて、
   プレゼントを送らせて頂きたい。
   また来年も、皆で楽しい一年と出来るように、
   【霊峰フライデンサーティン】の日の出を見に行きたいものだ。

   皆が楽しいクリスマスであることを祈って。

   サンタクロースより』

 フレデリカはますます、訳が分からなくなった。
 少なくともフレデリカや彼女の祖父には、正子と一緒に山登りをした経験などなかった筈である。
 矢張りこれはどう見ても、正子の個人的な知人によるプレゼントだと考えた方が妥当であろう。
「時に、こんな朝から一体何用だ?」
「あ……そうそう、ちょっとこちらで、色々聞き込みをさせて欲しいんだけど、良いかしら?」
 正子には、断る理由などなかった。