シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

リアクション公開中!

サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』
サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』 サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

リアクション


【2022年12月24日 07:00AM】

 正子の宿泊室に通されて、いきなりフレデリカの視界に飛び込んできたのは、Tバックを履いたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が尻を突き出す形で、うつ伏せの形で床に這いつくばっていた姿である。
 一体何事かと目を丸くしたフレデリカだが、傍らで困ったように頭を掻いている九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の表情から、彼女が何かをしたらしいと察した。
「いや……私も正直なところ、よく覚えていないのだが……」
 と前置きしてから、ジェライザ・ローズは自身の推測を語り始めた。
「どうも昨晩、誰かにTバックデスマッチを仕掛けたらしい。いや、私が魔法少女になったとかならなかったとかいう噂も無きにしも非ずだけど、あれはほら、友人の真似というか、ただのコスプレだよ、うん」
 訊かれてもいないことまで淡々と喋り続けるジェライザ・ローズに対し、フレデリカはあからさまに胡散臭そうな視線を投げかけた。
 どうやら昨晩、ジェライザ・ローズは随分と上機嫌で、友人達としこたま呑んだらしいのだが、それすらもはっきり覚えていないのだという
 一方、小っ恥ずかしい姿で目を覚ましたにも関わらず、何故か堂々と胸を張っているアキラはというと。
「美味い料理を食った。あと、何かして遊び廻ってた……と思う。あそこに俺の機晶サーフボードが立てかけてあるってことは、多分間違いないと思うんだ」
 Tバック、それもかなり布面積の小さいやつを履いているせいか、必要以上に股間と尻への食い込みがクローズアップされているアキラだが、それでも変に動じないところは流石というべきか。
「……ちょっと、その汚いケツを何とかしてよ。目が腐るじゃないの」
 正子のベッドの隅からのそのそと起き出してきたラブ・リトル(らぶ・りとる)が、容赦のない毒を吐く。
 いや、容赦がなかったのはラブ・リトルだけではなかった。
「本当に汚いケツね。どう育てば、あんなに醜いケツになるのかしら。これは研究と観察が必要ね」
 若干二日酔いっぽい頭痛が残っている高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)も一緒になって、アキラの尻への批難を炸裂させた。
 女性ふたりた成人男性のTバック尻に厳しい注文を浴びせるという光景は、シュールといえばシュールかも知れない。
 ここまでいわれると、アキラも少々不安になってきたらしい。姿見の大鏡の前に尻を向けて立ち、Tバックを色んな角度で引っ張りながら、己の尻について考察を始めてしまった。
「なぁ九条先生。医者なら俺の尻がどうすれば綺麗になるのか、教えてくれないか」
「今の私は、プライベートだ。明日、直腸検査をしてやるから、空大病院の内科か泌尿器科あたりに予約を取りたまえ」
 尻は尻でも、ジェライザ・ローズは医学的見地から肛門の方へと意識がいってしまっている。それはそれで、ちょっとおかしな話なのだが。
 だが、今のフレデリカには尻論議に付き合っている暇はない。
 更に他の雑魚寝要員から情報を聞き出そうとしたが、何故かベッドの下にふたり分の気配が。
 鈿女とジェライザ・ローズが引っ張り出すと、笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)笹奈 フィーア(ささな・ふぃーあ)が簀巻きにされていた。
 しかも、ただの簀巻きではない。
 紅鵡とフィーアはお互いの股を抱き合うような形で、まとめて簀巻きにされていたのだ。結果として、互いの目の前にパートナーの股間が押し付けられる格好となっている。
「あらん、これは所謂、シックスナインってやつじゃないかしら」
「何をいっているのかね? これはツームストーン・パイルドライバーの態勢と呼ぶべきだろう」
 鈿女とジェライザ・ローズの意見の相違はともかく、紅鵡とフィーアがこの姿勢のままでは事情聴取もままならない。
 フレデリカは正子の手を借りてふたりを解放してやったが、何故かフィーアは少し残念そうだった。
 当然ながらふたりとも、簀巻きになった経緯はよく分からない。だが紅鵡は誰かと呑んでいたことは何となく覚えており、しかも何かの騒動にまで巻き込まれたのは記憶に残っているのだという。
「何の騒ぎだったのかはよく覚えてないけど……何かが墜落した、っていうイメージだけは、何故か鮮明に残ってるんだよね。一体、何だったんだろう?」
 紅鵡の言葉に、フレデリカ以外の面々は小首を傾げるばかりだったが、フレデリカだけは違った。
「墜落……まさか……いや、そういうことかしら」
 何か、思い当たる節があるのだろうか。
 一方フィーアは、あまりこれといった特徴的な記憶は残っていないようだった。単純にパーティーに出席したところまでは覚えているようだったが。


     * * *



 昨晩のパーティーは、持ち込み料理もOKだったらしいわ。
 蒼空学園の料理研究部『鉄人組』の先代組長だった馬場さんが、色んな料理を持ち込んで振る舞ってたみたい。
 その料理を物凄い勢いで食べてたのが、アキラさんって訳ね。
「いやー、うめー。マジうめー。正子さん……じゃなくて馬場組長、流石っすねー」
「組長は既に、三沢に譲った。わしは校長職が忙しい故な」
 それにしても、色々極端なひとが多いパーティーね。
 ネージュさんは馬鹿みたいにガブ飲みしてたし、アキラさんはやたら食いまくるし。
 適度に飲んで食べてってひとが大半だけど、たま〜にこういうひと達がいるよね、どんなパーティーでも。
「ねぇねぇ正子ォ〜。後で正子の部屋で女子会やろうよ〜。女の子同士でしか出来ないお話とか、一杯したいな〜」
「わしがおると女子会というより、組の会合みたいになってしまうぞ」
 上手いこと、いうじゃない。でもラブ・リトルさんって結構毒舌タイプだと思うんだけど、ガールズトークが好きだなんて案外、女の子っぽい部分もあるのね。
「ちょっとちょっと、駄目よ、駄目。馬場校長はね、私と美味しいお酒を呑みながら、大人の女同士のお話がしたいのよ」
 鈿女さん、ちょっと酔ってる?
 自慢の巨乳をパーティードレスに押し包んで、しなだれかかるような色っぽい仕草を見せるのはまぁ良いんだけど、未成年にお酒を勧めるのはどうなんだろう?
「生憎だが、わしは呑まん。校長としての規範を示し、且つ未成年としてのルールを守る姿勢を見せねば、生徒達に申し訳が立たん」
「あら、意外と堅物なのね……まぁでも、そういうところが馬場校長らしいっちゃあ、らしいけど」
「しかし、うぬの美味い酒を呑みたいと思う気分を損なう訳にはいかぬ。呑み相手を連れてくる故、少し待っておれい」
 へぇ〜……馬場さん、案外常識人なのね。
 もっとこう、無茶苦茶するタイプだと思ってたけど。
 ん? 誰か来る……あれは、九条先生?
「馬場校長! これからのシャンバラプロレスは、私に任せてください! ひりゅうかく……じゃなくて、魔法少女革命起こしてやりますんで、はい」
 何の話だろう? 魔法少女? 思いっ切り普通の恰好なのに? 本人酔っぱらってて、自分がどういう服装してるのかも、分かってないみたいだけど。
 とかいってたら、急に歌い出したし。
「サンタ〜ラ、サンタ〜ラ〜、愛の〜国〜、サンタ〜ラ〜」
 それ、ガンダー……いや、やめとくわ。
 ともかく九条先生、あの上機嫌っぷりは普通じゃないわね。
 しかも、ただの上機嫌だけじゃ済まないのか、その辺に居るひとを手当たり次第に捕まえて、プロレス始めちゃったよ。
 あ〜ぁ、知らないよ、もう。ここ普通のパーティー会場の筈なんだけどなぁ。
 最初にアキラさんが、捕まったみたい。
 あれ? でも、Tバックデスマッチとかじゃないよね。普通にパワーボムとかやってるし……じゃあ、あのTバックは一体、誰が?
 まぁ、良っか。
 Tバックと秘宝は全然、関係ないもんね。
 同じテーブルでは、紅鵡さんとフィーアさんも料理を楽しんでたようだけど、それも最初のうちだけっぽいわね。
 紅鵡さんがお酒を呑んでる相手は……あら意外、リカインさんじゃない。シルフィスティさんを簀巻きにして放置した後、しれっとした顔でパーティー会場に戻ってきてる辺り、流石心臓の強さが違うわね。
 普通にお喋りして呑んでる分には良いんだけど……そうもいかないみたいね。
 アキラさんがピープルズ・エルボーに沈んだから、今度は紅鵡さんが九条先生のターゲットになってる。
 紅鵡さん、後頭部へのラリアットを不意打ちで食らったものだから、リカインさんを押し倒す形で、一緒になって倒れ込んじゃった。
「な、何やってるの紅鵡! やめて! いつもの紅鵡に戻ってよぉ!」
 フィーアさん、それ違うし。
 紅鵡さんがトチ狂ってリカインさんを押し倒したんじゃなくて、九条先生の奇襲ラリアットを浴びただけなんだってば。
 しかも……うわぁ、垂直落下式のDDTとか、超危ないじゃない。
「どわ〜! あ、頭から、つ、墜落する〜!」
 ……うそぉん。
 墜落って、それのことだったの?
 私、てっきりあっちの話だとばかり……でも、まぁ良いわ。
 それで結局、紅鵡さんとフィーアさんを簀巻きにした犯人は、九条先生だったのね。
「ロープデスマッチに巻けたタッグチームは、簀巻きにされてしまうルール!」
 そんなルール、いつ出来たのよ。
 っていうツッコミは置いとくとして、少なくとも紅鵡さんとフィーアさんを簀巻きにして、馬場さんのベッドの下に押し込んだのは九条先生だったって訳ね。
 ところで、アキラさんのTバックの犯人は一体、誰なのかしら?
 いや、まぁ、良っか。

 この時、私の時計は2022年12月23日の21:00頃を差していた。