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レターズ・オブ・バレンタイン

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レターズ・オブ・バレンタイン
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9)

ニルヴァーナの中継基地にて。
シャンバラ教導団の月摘 怜奈(るとう・れな)は、
上司である長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)の仕事を手伝っていた。

書類を片付け、長曽禰は頭を振り、ため息をつく。
「こういう仕事はあまり向いてないんだがな……。
オレは現場に立っている方が性に合っている」
そう、ぼやく長曽禰に、怜奈は、くすり、と笑みをこぼし、マグカップを差し出した。
「おつかれさまです。長曽禰さん。
コーヒーを入れてみたんです。いかがですか?」
「おお」
長曽禰は振り返り、笑みをこぼした。
「気が利くな。ありがとう」
そう言って、長曽禰はコーヒーのマグカップに口をつける。
「キリマンジャロです。いかがですか?」
「なかなか本格的だな」
「たまにはこうやってゆっくり過ごすのも良いかと思いまして」
そう言いつつ、怜奈は、自分の分のカップもテーブルに置いた。
「それとも……」
怜奈はいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「相手が私ではご不満ですか?」
長曽禰は、一瞬、瞬きしたが、すぐに笑みを浮かべ、首を振った。
「いや、そんなことはない。
お前みたいな若い女の子と一緒に過ごせて楽しいよ」
「……長曽禰さんたら」
からかうつもりだったのだが、逆にからかわれてしまった。
怜奈は、他の学生の契約者達とは、
10歳ほど年上だが、30代も終盤の長曽禰からすれば、まだまだ年下扱いなのだろう。
そのことが、なんとなく、もどかしいような、でも、うれしいような。

(早く、対等な関係になりたいな)
ふと、そんなことを思う。
長曽禰は、いつか、そういうふうに思ってくれるだろうか?

「仕事のことをたまには忘れて、少しでも雑談しながら過ごしてくださいね。
地球にいたころによくやっていたリフレッシュ法です」
元警視庁捜査一課所属の刑事だった怜奈が、
張りつめた日々の事件の中で、やっていたリフレッシュ法だ。
「ああ。特に、書類整理なんかはしんどいしな」
「……現場でも、適度に休憩を取ってくださいね。
あなたが倒れたら、皆が困ります」
ふと、真剣な表情で怜奈が言う。
「……もちろん私も、その……悲しいですし」
それを聞いて、長曽禰は、にっこりと笑った。
「心配するな。
前も言ったかもしれんが、オレはけっして無理はしていないつもりだ。
だから、ずっと現場に立てるんだしな。
だが、お前にそうやって気づかってもらえてうれしいよ。ありがとう」
怜奈も、それを聞いて、笑顔になった。
「はい、安心しました」

こうして、のんびりとした時間が流れていく。
コーヒーの香り、2人だけの時間。
場所は、殺風景な教導団の中継基地の中だったが、
怜奈は、充分に、幸せをかみしめていた。