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第20章 百合園生の女子会

 空京にある公務実践科のキャンパス近くに、様々な料理が楽しめるバイキングのお店がある。
「皆様も勉学等に忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます」
 大きな丸テーブルで、真面目な顔で喋っているのはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
「日頃から百合園女学院を盛り立ててい……」
「ロザリンドさん、今日はそんな堅苦しい会じゃないって。普通にランチしにきただよ」
 ロザリンドの手を引っ張ったのは、恋人の桜井 静香(さくらい・しずか)だ。
 元白百合団団長の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)も、くすっと笑みを浮かべていた。
「あ……いえ、その、ごく普通にランチですね。はい、今の無しで」
 ロザリンドは静香の隣の席に腰かける。
「ロザリン、のんびりしてると美味しい料理なくなるよー。あ、パッフェル、これとっても美味しい! 食べてみない?」
「いただく、わ……」
 友人の桐生 円(きりゅう・まどか)は、既に恋人のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)と共に食べ始めている。
「そうですね。それでは皆さん、美味しくご飯を食べまして、今日も明日も元気に過ごしましょう」
「いただきまぁす」
「いただきましょう」
「ええ」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)、それから冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)と、泉 美緒(いずみ・みお)も、それぞれとってきた料理に手を付け始める。
 3人の皿には、肉と野菜がバランスよく盛られていた。
「ロザリンドさんは肉類中心なんだね。あまり肉は沢山食べないイメージだけど」
 ポテトサラダを食べながら、静香が言った。
「お肉をしっかりたべて筋肉を付けておきませんと。前に比べて体重も増えましたし、筋力もしっかりと身についてきているのですよー」
「そっか、体作りも頑張ってるんだね。今のうちに体力をつけて、夏を乗り切らないと」
「はい。皆さんも沢山食べて、日々の戦いに打ち勝つだけの力を」
 言いながら、肉とピーマンがたっぷりのチンジャオロースが入った皿を円に押し付ける。
「円さんはしっかりとピーマンを」
「うっ、肉は食べるよ、沢山食べる! で、でもピーマンは……」
 円はピーマンを弾いて、豚肉を食べる。
「円さん、バイキングではお残しはマナー違反ですよ」
「持っていたのはロザリンじゃん」
 肉だけとったチンジャオロースを、円は隣のパッフェルに渡した。
 パッフェルはピーマンを多めにとった後、皿を隣の美緒へ。美緒の手から小夜子、小夜子の手から向かいのリナリエッタへ。リナリエッタから、鈴子、そして静香へと皿が回ってきた。
「はい、ロザリンドさん」
 そしてロザリンドの元に帰ってきた時、更にはピーマンばかりになっていた。
「何でこうなったんでしょう? 円さんが弾いた分は、パッフェルさんが受け取ってくださったのに」
 ロザリンドは不思議そうに首をかしげる。
「どうしてでょうねぇ〜」
「不思議ですわね」
「不思議です……」
「何ででしょうね」
 リナリエッタ、鈴子、小夜子、美緒が言う。
 別に嫌いなわけじゃないけど、全員ちょっと悪戯して、ピーマンを残したのだ。
「沢山お野菜を用意して皆さんにお配りしなければならないようですね(もぐもぐ)。パッフェルさんも円さんに料理作る時は野菜多めにお願いしますね」
 ピーマンをわさわさ食べながらロザリンドが言う。
「野菜、食べられるように、工夫……する」
「野菜……ううっ」
「実は……」
「実は?」
「もう、よく……料理に、入れて、る」
「え!?」
「円、美味しいって、食べて……くれてる。だから、大丈夫」
「そ、そうなんだ……」
 ハンバーグに野菜をたっぷり入れていたり、むしろハンバーグ自体が豆腐ハンバークだったり。
 パッフェルは工夫して円へ料理を作ってあげている。
「円さんのことをよく考えてくれてるのですね。パッフェルさんは円さんにとって、最高の恋人ですねー」
 ロザリンドの言葉に、円はちょっと照れた。
「ロザリンは最近校長、いや、静香さんとはどうなのー? うまくいってる?」
 そう尋ねたら、真っ先に反応を示したのは静香の方だった。
「ごほっ」
 飲み物を器官に入れてしまい、静香が咳き込む。
「円さん、そういうお話は食事中にするものではありません」
 ロザリンドが静香の背をさすってあげる。
「ん? うまくいってるかどうか聞いただけだけど……」
 こうして一緒に訪れているのだから、うまく行っているのは確かなんだろうけれど。
「ロザリンドさんは、静香校長と仲良さそうですね」
 小夜子が2人の様子を見て、微笑みを浮かべた。
 それから、ロザリンドに顔を近づけて。
「でも、ロザリンドさんはもう少し積極的に動いても良いのでは無いかしら?」
 そう囁いた。
「い、一応積極的には動いているつもりなのですが」
 ロザリンドの言葉で、小夜子が何をささやいたのか静香は察し、ちょっと赤くなった。
「小夜子ちゃんは、うん見た目から積極的な感じはするよね。今日の服装からも」
 と、円がチンジャオロースの豚肉を食べながら言う。
 百合園の制服姿なロザリンドと違って、小夜子は色っぽい衣装を纏っている。
 美しい体のラインが強調されており、スリットも深く非常に魅惑的な格好だ。
「そうでしょうか。動きやすいから選んだのですが……」
 小夜子はちらりと美緒を見る。
 彼女は、ピンク色のプリーツのキャミワンピに、ホワイトのレースのカーディガンを纏っていた。
 とても可愛らしい格好だ。
「小夜子ちゃんと、美緒ちゃんは、なんでも似合いそうな気はするよね」
 2人を見て、円が言った。
「でも、なかなかサイズの合う服がないんです」
 美緒はちょっと自分の胸に触れた。
 普通のサイズの服だと、入らなかったり、ボタンが弾けてしまう。
 大き目のサイズを買うと、胸以外の部分が大きくてだぼだぼになってしまうのだ。
「美緒さんの……胸は……何を食べたらこうなるのか……」
 ロザリンドは美緒が食べているものを確認する。
 炊き込みご飯、エビフライに、ウィンナー、ローストビーフ、海鮮サラダ……この中に秘密があるのだろうか。
「いったいどれが……ぶつぶつぶつ」
「ロザリンド様?」
 不思議そうな目で美緒がロザリンドを見る。
「いえ、私もそこまで大きくは負けてませんけど!」
「……ふ、ロザリンドさんはともかく。2人とも私といい勝負ね」
 リナリエッタが美緒と小夜子の体格を見て、笑みを浮かべる。
「ともかくって……」
「ロザリンドさん、ええっと、そういう勝負は、しなくても……」
 軽く落ち込むロザリンドを、静香が慰めている。
「ふふ、そうねえ、2人には、私のとっておきの“戦闘”用ドレス。いつかお貸しするわ」
「戦闘用ドレスですか?」
 それは、つまり……と小夜子は美緒を見る。
「ええ、その時はどうぞよろしくお願いします」
 美緒に着せたら面白い服かもしれない、と思って、小夜子はリナリエッタと微笑み合う。
「リナさん、お2人に勝負服は必要ありませんわよ」
「す、鈴子さん。誤解ですわあ。白百合団のオシゴトで使う、戦衣装のことですー」
 そう誤魔化すが、鈴子の目は明らかに疑いの目だった。
「是非、貸してください。リナリエッタ様の服でしたら、合いそうですし。その……魔鎧はちょっと苦手ですので」
 少し赤くなりながら、美緒が言う。
「代わりに、わたくしの服をお貸しできますわ。パーティ用ドレスでしたら、今日のような緩い服をいくつか持っていますので」
「そうねぇ、似合うかしら?」
 美緒が今来ているピンクの服は……リナリエッタには似合わないかもしれない。
「あ、円さんとパッフェルさんに合うかもしれませんわ。2人はいつも黒くてフリフリよね。たまにはピンクとかパステル系の超お人形さんとか良くない?」
 リナリエッタがそう言うと、皆がうんうんと頷く。
「そうだね。パッフェルと着てみたいかも」
 円が言うと、パッフェルはこくんと頷く。
「リナちゃんと鈴子先輩は、和服とか似合いそうだけど……逆に鈴子先輩がリナちゃんの真似してパンクな格好するのも楽しそうかも?」
「……!」
 円の言葉に、鈴子が箸を止める。
「ちょっとリナさんのような格好は……恥ずかしいですわ。今日くらいのでしたら、まだしも」
 リナリエッタは今日は、普通の女子大生風の服装だった。メイクも控え目でメンバー達や鈴子と釣り合った格好をしているけれど。いつもはこうではなく、露出度の高い服を着ていることが多い。
 鈴子は自分のスタイルを、和服の似合う日本人体型だと思っており、あまりスタイルに自信がない。それもあって、露出度の高い服はほぼ着ることがないのだ。
「慣れておいた方がいいかもしれませんわあ。ほら、次に契約した魔鎧があのタイプでしたら……大変ですからー」
 そう言って、リナリエッタが美緒を見ると、美緒は恥ずかしげにこくこく頷いた。
「そ、想像するだけで恥ずかしいです……」
「そ、そう言われると、わたくしも恥ずかしく……」
 鈴子と美緒は照れて俯いてしまった。
「大丈夫です。いざという時にはパワードスーツがありますから。肌の露出は完全にカバーできます。皆さんもお揃いのパワードスーツいかがですか?」
「そうですわね、検討します」
 ロザリンドの提案に、素直にそう答えたのは美緒だけで、後の皆は苦笑しながら首を左右に振った。
「露出といえば、小夜子さん……公序良俗に引っかからないように注意しましょうね」
 ロザリンドは小夜子の胸元をちらりと見て言った。
「私はそこまで際どい服を着てない。筈です。うん」
 小夜子は思わず自分の格好を確かめる。
 今日もそんなに露出度は高くない。スリットは深いけど……。
「でも、小夜子ちゃんボディスーツとか好きだし。むちむちだよね、むちむち」
「いえ、円さん。私がそういうのを着るのは動きやすいからであってですね……」
 ちょっと赤くなりながら、小夜子は説明していくのだった。
「そういえば、この間空京でダリアの入った着物は無いか探してみたんですよ」
 リナリエッタは、紅茶に手をのばしながら鈴子に言う。
「可愛い柄はあったんですけど、やっぱり、この身長に合うのは、オーダーメイドじゃないと……って。プチしょっく、ですわあ」
「うーん、そうですね……」
 和服は日本人向けに作られていることが多く、リナリエッタの身長ではどうしてもオーダーメイドになってしまうのだ。
「一品物を一から作って貰うってのもいいんだけど、お店で見かけたものに一目惚れ! っていうの、結構好きなんですよね。今度皆でお洋服買って、外で遊んじゃいましょうよー」
「ええ、楽しそうですね」
 鈴子が言うと、リナリエッタはやった! というような笑みを浮かべて。
「校長とロザリンドさんも、姫と騎士って感じだし、イメチェンとかどうです?」
 ロザリンドと静香に問いかけてみた。
「僕は普段、ラズィーヤさんが用意してくれる、可愛い系の服しかほぼ着ないからなぁ」
「静香さんは何着ても似合いそうです。私は……うーん、そうですね。私は制服とかで動くことが多いですし、私服も色々揃えてみたいですねー」
 ロザリンドはそう言った後、皆を見回す。
「いっそのこと皆さんの衣装をシャッフルして選んでみるとかどうです? 和服の円さんやゴスロリのリナさんとか、制服の静香さんとか」
 ロザリンドの提案に、皆から「それいい!」「面白そう!」という声が上がる。
「そして、お揃いのパワードスーツとか」
 でも、最後の一言はスルーされてしまった。

「パッフェル、デザートは何がいい?」
 食事を終えた後、円はデザートを取りに立ちあがる。
「……フルーツ、食べたい。一緒に行く」
 パッフェルは円と一緒に、ビュッフェ台へと向かい。
 皆もそれぞれ、デザートや食後の飲み物を淹れて戻る。
「円ちゃんにはこれ。ピーマンケーキ……」
 リナリエッタが緑色のプチケーキを円に差し出す。
「うわー! 怖い!」
「は、なかったので、メロンケーキですー」
「な、なんだ……」
 ドキドキしながら、円はケーキを受け取った。
「ふふ、ピーマンケーキ、どんな味がするのでしょうね」
 鈴子がコーヒーを飲みながら微笑んだ。
「今度皆さんでパーティを行う時に、作ってみましょうか?」
 美緒がそう提案する。……美緒は典型的なお嬢様で、料理の腕は ……。である。
 ピーマンそのものなケーキができそうだ。
「やめよう、絶対やめよう」
 円が本当に嫌そうだったので。
「野菜、なら。人参ケーキや、かぼちゃケーキ、お勧め。今度はちゃんと、作り方……教える」
 と、パフェルが美緒に約束をした。

 時間制限ぎりぎりまで楽しんだ後。
「それじゃ、また学校で!」
「皆様、お気をつけてお帰りください」
 リナリエッタと鈴子は、親しげに話ながら、ヴァイシャリーに戻っていった。
「皆と一緒にランチバイキングは楽しかったですね」
 小夜子が美緒に微笑みかけると。
「とっても楽しかったです。次は小夜子のお勧めのレアチーズケーキを食べに行きたいですわ」
 美緒もふわりと笑みを見せた。
「ええ、行きましょう。美緒が好きな、和菓子が食べられるお店にも。
 ところで今日はまだ時間あるかしら。折角空京に来たのですからこの後一緒に買い物でもしませんか?」
「はい、陽射しが強くなってきましたので、帽子が欲しいですわ」
 小夜子と美緒は買い物に、商店街の方へと歩いて行き。
「夏服を少し見ていきませんか?」
「うん。可愛い服、あるといいね」
 ロザリンドは日傘を広げて、静香を陽射しから守りながら一緒に衣料品店に向かうことに。
「……みんな仲がよくて微笑ましいよね」
 皆の姿を見ながら円が言い、パッフェルの腕に自らの腕をからませる。
「ボクたちも、負けずに仲良くしていこうー」
「うん……」
 パッフェルが円のことを引き寄せて、歩き出す。

 眩しい光に負けないほどに、彼女達は皆、輝いていた。