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第23章 置いていかれる恐怖

 ゼスタがインドカレーを堪能していた時間。
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)も空京で、友人のユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)と一緒に、近くの店でランチを楽しんでいた。
「タイ料理のお店……内装はアジアンテイストなのですね」
 注文した料理を待ちながら、ユニコルノは店内を眺めていた。
 アジアンといっても日本の家とも違う感じだが、なぜか落ち着く空間だった。
「色んな人、来ていますね」
 アレナも同じように店内を眺めまわして言った。
「結構、女性のお客様が多いのですね。お得なレディースセットがあるからでしょうか」
「そうですね。レディースセットを頼んでいる方、多いようです」
「でも、男性が注文しても良いそうですよ、レディースセット」
「そうなのですか?」
「ええ、なんだか不思議ですね」
「不思議です……なんでそういう名前にしたんでしょうね」
 不思議そうに首を傾げあう2人。
「お待たせいたしました」
 店員がワゴンで料理を運んできた。
「グリーンカレーのお客様」
「はい」
 ユニコルノが返事をして受け取り、もう一つの料理、パッタイ(焼きそば)を、アレナが受け取った。
 それから、ユニコルノがトムヤンクン、アレナがトムカーガイを受けとり、2人で食べるサラダと、取り皿を店員がテーブルに並べてくれた。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 お辞儀をする店員と同じように2人もお辞儀をして。
 それから、顔を合せていただきますと言い、食事を始める。
「……辛いというより爽やかな感じですね」
「ユノさんのスープ、まっかっかだからすっごく辛いのかなって思いましたが、ちょっと酸っぱい感じです」
「はい、酸っぱいですがコクがあります」
 互いの料理を取り皿にとったり交換したりして、食べ合って感想を言い合う。
 料理の話。一緒に過ごしている若葉分校でのこと。
 プライベートな時間の話とか。楽しく日常の話をしていると飛ぶように時間は過ぎていく。
 デザートには、トーンイップという卵黄のお菓子と、ウンガティというココナッツミルクとゼリーのお菓子を頼んで、これも分け合って半分ずつたべていく。
「そういえば、最近は普段優子様やゼスタ様に、お料理を作って差し上げる機会はありましたか?」
「優子さんには、こっちに来た時に作っておいたり、一緒に作ったりします。ゼスタさんとは……そういうこと、ないです」
 アレナの顔に戸惑いの色を見て。
 ユニコルノは少し考えた後、尋ねてみた。
「ないほうが、いいですか? それとも作って差し上げたいですか?」
「作ってって、言われたらやります。でも、ゼスタさんには何をしてあげたら嬉しいのか、分からない、ですから……」
「甘い物がお好きですから、作って差し上げたら凄く喜ぶと思いますよ?」
「そうなんですけれど……なぜか……えっと、怖い……のとは、ちょっと違う気もしますが、ん……と」
 眉を寄せてアレナは考える。
「ゼスタさんは、“同じ”じゃないんです。違う、感じがします。まだ私からは、話しかけたり、近づいたりしにくい、んです」
「アレナさんは、ゼスタさんの事がお好きですか?」
 ユニコルノのその問いに、アレナは少し間をおいて、首を縦に振った。
「でも、なんだか、ゼスタさんを見ていると、もやもやすることが、多い、です」
 だから、なのだろうか。
 ユニコルノは、花見の時に、アレナがゼスタに言っていたことを思い出す。
 優子とナラカに行けなかった場合、アレナのことを好きだと言ってくれる、自分が大好きな人達が生きているうちは、生きていたい、かもしれないと。
 その後で、普通の剣の花嫁と同じように、眠りたいと。
 優子に再び会える日まで、ゼスタに護ってもらいたいと。
 そんなことを、彼女はゼスタに話していた。
 ユニコルノはお茶を飲んで息をつき、それから、ゆっくりと語りだす。
「私は……アレナさんが生き続けようと思って下さるのなら、私自身も出来るだけ永く生きられるようにしたいと思っています。
 今は色々な技術が見付かっていて、中には機晶姫の寿命を延ばす方法もあるかも知れません」
「ユノ、さん……」
「以前ゼスタ様が施した怪しい術は、抜けきっていないのではと思っているのですが」
 ゼスタがアレナに施した術。それは種族の魅力の力と、巧みな話術だ。
「それを押し遣って余りある思いが、アレナさんの内にはあるのでしょうか?」
 ユニコルノの呟きのような問いに、アレナは不思議そうな顔をしていた。
「ゼスタさんは、一緒に生きたい人に入らないのでしょうか……」
「私が、一緒に生きたい、かもしれないのは……私の事を一番、好きとか、私じゃないとダメな人とか、で……。ゼスタさんには、いっぱい好きな人います、から。一番は、優子さん、のはずですから。優子さんのいる時に一緒に生きるのが、良いと思います」
 思いが、通じ合っていないようだ。
 ユニコルノは、護ってもらいたいと言われた時の、ゼスタの表情を思い出す。
(ゼスタ様が欲しいのは、優子様よりもアレナさん……。でも彼はアレナさんに、優子さんが好きだから一緒に待とうと話し――口説いた。アレナさんの心を動かす為に)
 アレナが言っていたように、優子と共に、ゼスタに尽くすようになったのなら。
 3人の思いは通じあい、分かり合えるのだろうか。
「独りになるって、不安ですよね。私も古王国時代は……。
 置いて行かれる気持ち、今なら分かります」
 心を持った、今ならアレナの気持ちが。
 そして、アレナに眠っている自分を護ってほしいと言われたゼスタの気持ちも、少し分かる気がした。
「おかしいですよね……私、平気だと思っていたのに。もし呼雪が……と思うと……」
「一緒に行けないのは、怖い、です。……こわ、い、です」
 ユニコルノの言葉に、アレナは震えはじめた。
 優子と一緒に逝くという頑なな決意が、アレナの精神状態を安定させている。
「呼雪さんも、ずっとユノさんの側に、いてくれないと嫌です……」
 そう言った彼女の目には、涙が浮かんでいた。