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リアクション
『あなたが、あなたの中でけじめをつけてくれるのでしたら、わたくしとだけ恋人になって下さるのでしたら……』
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、以前ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)に言われた言葉を思い返していた。
祥子は今まで、複数の恋人と同時に付き合っていた。けれど、自分をこんなにも想ってくれるティセラの気持ちに応えるために、けじめをつけてティセラだけを恋人にすることを決めた。
そして、それをカタチあるものにするために……結婚を申し込もうと、決めたのだ。
祥子は、ジューンブライダル真っ最中のホテルにティセラを呼び出した。二人はホテルの中庭が見えるテラスに、向き合って座った。
「あれからずっと考えててね……。ふらふらするのは、今迄みたいに好きになった人とくっついてっていうのは、やめにしようって思ったの」
真剣な祥子の言葉に、ティセラは相槌を打って耳を傾ける。
「私の中でけじめをつけようって。貴女だけを見て、貴女だけを想って。貴女のために想いを捧げようって」
そこまで言って、祥子は大きく息を吸った。
「ティセラ。私と、結婚して欲しい」
ティセラは、驚いたように息を飲んだ。
「恋人同士になってすぐに申し込むのも急ぎ過ぎかなって思う。恋人としての時間をもっと過ごしてもいいと思う。
でも、私の気持ちを。私の中のけじめをただ口にするだけじゃなくて、一つの形にしようと考えたら、求婚しようって」
祥子の言葉を聞き終えると、ティセラの表情はすぐに満面の柔らかい笑みに変わった。
「喜んで、お受け致しますわ」
「ティセラ……」
「あなたの気持ちを大切にしたいと、思いますの」
祥子とティセラは、見つめ合った。
「ねーさんたち、本当におめでとう」
祥子とティセラの元に、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)とリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が駆けつけた。
「おめでとうございます」
リーブラは笑顔で、ティセラに花束を差し出す。
「まあ、ありがとうございます」
ティセラはその花束を受け取って、リーブラに微笑みかけた。
「……ねーさんの気持ち、一片の嘘偽りもないな。本当に真っ直ぐな、純粋な気持ちで向き合ってる--」
シリウスは心の底から幸せそうな祥子の様子を見て、小さく呟いた。
「ねーさんには幸せになってほしいよ。大切な人だからさ。心が惹かれたんならいいじゃないか。祥子さんは強い人だよ、きっとねーさんを……いや。二人で幸せになれるさ」
シリウスもリーブラも、心から祥子とティセラの幸せを願っている。シリウスは、幸せの歌をトランスシンパシーにのせ、祝福した。
「困ったことや助けが必要な時は世界の果てでも駆けつけるぜ。二人とも幸せにな!」
「助けになれることがあれば、いつでもいってくださいな……?」
シリウスとリーブラの言葉を受けて、祥子はもう一度ティセラに向き合う。
家出してパラミタに逃げ込み、ただ目の前の生活に汲々としていた祥子を変えたのは、ティセラだった。ティセラと出会って、その想いを感じて、この人を支えようと思った。部下として友人として過ごして、国のため、傷つけた人々への償いのためと一生懸命なティセラを見て、祥子は、人生にはもっともっと色んな過ごし方や生き方もあるんだと、伝えたくなった。
「ティセラ。……愛してる」
「わたくしも、愛しておりますわ」
祥子とティセラは、長く深いキスを交わした。
誰かとの関係が変わったために、他の誰かとの関係が変わることがないように。二人の将来に広がる明るい未来を、たぐり寄せるように。