シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

はっぴーめりーくりすます。4

リアクション公開中!

はっぴーめりーくりすます。4
はっぴーめりーくりすます。4 はっぴーめりーくりすます。4 はっぴーめりーくりすます。4 はっぴーめりーくりすます。4

リアクション



19


 食事を摂って、ゲームをして、だらだら喋って。
 暗くなったな、と思って紺侍が時計を見ると、いつの間にか五時を過ぎていた。
「この後どうします?」
 壮太に問うと、彼は床に放ってあった自分の上着を着始めた。帰るのだろうか。まだ夕方なのに?
 じっと壮太のことを見ていると、視線に気付いたのか壮太が振り返る。
「紡界も上、着ろよ。外さみいから」
「どっか行くの」
「うん。そろそろイルミネーション綺麗に見える頃だろ。おまえ、撮ったりすりゃいいじゃん」
「あ。撮りてェ」
「だろ。よし行こうぜ」
 さっと支度を済ませて立ち上がる。部屋の鍵をポケットにしまい両手が自由になると、壮太が指を絡めてきた。こちらからも指先を絡め、ぎゅっと握る。
「おまえって手ぇあったけーよな」
「体温高いんスよねェ」
 なんて他愛のない会話を交わしながら、歩く。
 目指しているのは、歩いて二十分ほどのところにある広場だった。そこは、この辺り一帯で一番広い場所で、ツリーも立派なものが飾られていた。
 広場にはそれなりの人がいた。ツリーだけじゃなく、花壇や植え込みもイルミネーションで飾られているため、ちょっと寄っていこう、と思わせるのだろう。確か近くに駐車場もあったし、ドライブがてら見に来ている人もいるのかもしれない。
 手が離れ、背中を叩かれた。
「撮ってこいよ」
 と言われたので、あっす、と返事をしてツリーの近くに寄る。
 とりあえず、何も考えないで何枚か撮った。それから、レンズ越しに好きな角度や構図を探してシャッターを切る。寄って、離れて、また一枚。
 続けて撮っていると、後方からぱしゃり、という機械音がした。振り返る。壮太が携帯をこちらに向けていた。え、と目を丸くしていると、壮太はいたずらっぽく笑う。
「おまえの真剣な顔も、いいな」
「え、撮ったの」
「撮ったよ」
「なンで」
「恋人の写真欲しいだろ。普通」
「……えっと。……ども?」
「なんでそこで礼だよ」
 おっかしいの、と笑われたこともあって、なんだか気恥ずかしくなった。後頭部を掻いて、そっぽを向く。
「写真、もう撮んねえの?」
「満足したンで」
「うん。じゃ、ちょっと話そうぜ」
 再び手を繋いで、歩く。
 広場には腰を下ろせる場所もいくつかあって、その中でも周りに人がいないところを壮太は選んだ。少し遠いが、ツリーが見える。遠くからでも綺麗だな、とそちらを見ていると、
「結婚についてどう思うかだけどさ」
 壮太が口を開いた。この間、自分がしてしまったわけのわからない質問について答えてくれようとしているらしい。
「や、アレは」
 ホントなんでもないンで、とは言わせてもらえなかった。
「聞け」
 静かに制された。真剣な目をしている。思わず姿勢を正し、それからやっと頷いた。
「例えば、病気したり大怪我したり死んだ時、まず真っ先に連絡が行く相手ってのは肉親だろ」
「そっスね」
「んで血の繋がってない他人がその連絡を受ける権利を得ることってのが結婚じゃねえのかなって思う。……権利っていうか、『安心』だよな」
「安心」
「そう。大事な人の安否を真っ先に知ることのできる安心。
 オレの場合怪我したり入院したら、まずパートナーに連絡が行くことになってるけど。それがいずれおまえになればいいなと思ってるよ」
 一瞬、息をするのを忘れた。なんだかそわそわする。浮かれているのだ、と気付く余計に恥ずかしくなった。
「でも結婚についてはっきりと、具体的に考えたことはねえかな。脛かじってる学生の身だし」
 紺侍は頷く。自分もそんなものだ。ちらりと思い浮かべたことがある程度。
「だけど考えたことがねえからって、おまえに対する気持ちがいい加減じゃねえってことはわかってほしい。だから」
 一拍、間が空いた。だから? だからの後になんて続く? 想像しかけて、いけね、と思った。勝手に舞い上がンな、オレ。
「オレと婚約してください」
 そんな風に諌めている時こんなことを言われたわけで、一瞬、幻聴でも聴いたのかと思った。が、壮太が今までに見たことのないような柔らかい表情で微笑んでいることと、差し出されたシンプルにラッピングされた箱を見て、現実だと理解し直す。
 理解し直した時には、壮太のことを抱きしめていた。
「えっと……これ、返事としては、どうなんだ?」
「あー……うん。なンでしょね。すんません」
「謝んなよ。なんかフラれたみたいじゃん。……え、フラれてんの? オレ」
「いやいやいや。いやいや」
「うん」
「その……嬉しくて」
「嬉しいの?」
「はい」
 答えているうちに、また恥ずかしくなってきた。衝動的に抱きしめてしまったけれど、ここ外だ、とも思った。離れたくないと思ったが、自制して身体を離す。
「プレゼントさ。開けてみてよ」
 ぽそりと言われた言葉にはっとして、受け取った箱を開ける。中から出てきたのは、飴色のレザーブレスウォッチだった。
「婚約では、男には時計を贈るのが一般的なんだってさ」
「つけてもいいスか」
「いいよ。つけてやるよ」
 紺侍の手に時計を巻きながら、壮太は呟く。
「これがオレの考えなんだけど、おまえの言いたいことはまとまった?」
 まとまるどころかかき乱された。色々な言葉が溢れて、どれを口にすればいいのかわからない。
 ただ、そこかしこに転がる同じ言葉があった。
 それを選んで口にする。
「壮太さんと、ずっと一緒にいたい」
 不思議と恥ずかしさはなかった。すごく自然に言えた気がする。
「そっか。これからもよろしくな」
 満足げに笑い、壮太は紺侍の手を握る。
「壮太さんてさ。手ェ、冷たいスよね」
「そうだよ。だからおまえが温めてよ」
「うす」
 そんな会話もなんだか全部嬉しくて、勝手に口元と目元が緩んだ。