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はっぴーめりーくりすます。4

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20


 クリスマスの街並みを、家の中から眺めてみる。
 きらきらと輝くイルミネーション。手を繋いで歩く恋人たち。プレゼントを買って幸せそうな親子。
 ほとんどの人が笑顔で、幸せそうで、天ヶ石 藍子(あまがせき・らんこ)は今日はいい日だと心から思う。
 家では、ご馳走を食べて、ケーキを食べて。みんな笑顔で過ごすのだろう。
 ケーキ、というところからふと、藍子はフィルのことを思い出した。クリスマスイブのケーキ屋は、きっと一年で一番忙しいだろう。
 様子を見て、激励の言葉でもかけてあげようかしら。
 そう考えて、藍子は家を出た。


 案の定、『Sweet Illusion』は忙しそうだった。
 ケーキと紅茶を頼んで、店内からフィルの様子を見ていたが、
「大変ねぇ」
 の一言に尽きる。
「そうだねー」
 テーブル席の片付けをするフィルの返答から、大変さは窺えなかったが。
「私もお手伝いしてあげましょうか?」
「あらーお優しい。善意?」
「善意よ。休憩もろくに取れないで頑張っているみたいだし、ね」
「じゃーお言葉に甘えようかなー。手があって困ることはないし」
「じゃあ着替えてくるわね」
 すっと席から立ち上がり、店の奥へ続く扉を抜けて、制服に着替える。
 店に出ると、すぐに仕事に取り掛かった。


 忙しいと、あっという間に時間は過ぎる。
 ふと気が付けば、もう閉店時間が間近に迫っていた。ショーケースの中身が売り切れることはなく、お客様は最後まで自分が食べたいものを選ぶことができた。
 残ってるけど、いいの、とフィルに問うと、「クリスマスなのに望むものが手に入らない方が嫌じゃない?」とあっさり返された。それもそうかもしれない。
 その後、駆け込むようにして入ってきた客がいくつかケーキを買っていって、本日の営業は終了となった。
 従業員以外誰もいなくなった店内の片付けをしていると、ふと、みんながひとつところにまとまっていることに藍子は気付く。見ると、フィルと目が合った。ちょいちょい、と手招きされる。
「なぁに? 片付け、まだ終わってないわよ」
「ああ、いいよ。ある程度で。それよりおいで、パーティするよー」
「パーティ?」
「そう、パーティ」
 フィルは、いたずらっぽく言って笑った。
「毎年、クリスマスには売れ残ったケーキでクリスマスパーティしてるの。こんな日に働いてくれたみんなに感謝を込めて、ねー」
 なるほど。それはやる気も出るし、ちょっとしたお得感もある。フィルはやっぱり、やることが上手い。
「なら、お茶を淹れましょうか。何が合うと思う?」
「そうだねー。アールグレイを濃い目で」
「私もそれがいいと思っていたの。気が合うわね」
「味の好みが近いといい関係に発展しやすいんだって」
「あら、じゃあ私たちもいい関係になれるのね。今後を期待しているわ」
 飄々とした会話に飄々と返し、紅茶を淹れた。いい香りがふんわりと漂う。
 テーブルについてケーキを前にした従業員たちに紅茶を配ると、藍子も席についた。各々、好きなケーキに手を伸ばし、舌鼓を打っている。
 フィルは、そんな面々のことを紅茶を飲みながら眺めていた。ケーキには手をつけていない。
「食べないの? クリスマスよ?」
「みんなの楽しそうな姿を見ていたら胸が一杯になっちゃって」
「戯言ね。はい、どうぞ」
 おどけた口調を流し聞いて、フィルの前にケーキを置く。選んだのは、いちごの乗った一人前のホールケーキだ。
「俺こんなに食べられないよ」
「案外いけると思うわよ。ここのケーキ、美味しいもの」
「そりゃ俺が一番よく知ってるけどねー」
「蝋燭も持ってきたわよ」
「蝋燭ー?」
「年の数だけ立てるんでしょう?」
「ねー、それ冗談? 本気?」
「冗談よ」
 くすくすと笑ってから、まだあの言葉を言っていないことを思い出した。
「メリークリスマス」
「あーそっか。まだ言ってなかったね。メリークリスマス」
「よいお年を」
「それ、早くない?」
「来年もよろしくね」
「はいはい。よろしくね」
 おざなりな返事ねぇ、と不服げに言ってからまあいいけど、と笑い、藍子は自分用にと取っておいたケーキにフォークを刺した。