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はっぴーめりーくりすます。4

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24


 パーティは、ついさっき終わった。
 鳳明は、ちらりと工房内を見渡す。来客のほとんどは帰り、今は自分とセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)、リンス、クロエの四人しかいない。
「わたし、もうねるわ」
「うん。おやすみ」
 そのクロエも、おやすみなさぁいと間延びした声で言って、部屋に引っ込んでしまった。
 途端、部屋はしん、と静まり返った。
「終わっちゃったね、パーティ」
 ぽそりと鳳明は口にする。終わったと口にすることで、なんだか少し寂しさを覚えたが見て見ぬ振りをする。
「うん。楽しかった」
「そっか」
「琳は? 楽しかった?」
「すごく楽しかったよ」
「ではお祭りの最後に、大人流の締めと参りましょうか」
 ひょい、とセラフィーナが顔を出し、話に混じった。手には、スパークリングワインがある。
「酒?」
 瓶を見て、リンスが首を傾げた。はい、とセラフィーナが頷く。
「口当たりが良く呑みやすいものを選んで持ってきました。いかがです? 一口だけでも」
 そういえば、リンスが酒を飲むところは見たことがない。そもそも、飲めるのだろうか。顔色ひとつ変えずに飲むイメージもあれば、舐めた程度で即寝てしまうようなイメージもある。
「リンスくん、お酒飲んだことある?」
「ない」
「なんか、そんな気がしてた」
「初めてですか。やめておきます?」
 セラフィーナの問いに、リンスはすぐ答えなかった。数秒考えてから、「飲んでみる」と端的に答える。
 飲むんだ。鳳明は、少し意外に思いながらもキッチンへ行き、グラスを取ってきた。三人で固まって座り、グラスにワインを開ける。細かな気泡が立ち上る様が、なんだか妙に美しく思えた。
「メリークリスマス」
 乾杯、の代わりにそう言って、グラス同士をぶつける。澄んだ音が、工房に響いた。
「どう? お酒」
 舐めるようにワインを飲んだリンスに、鳳明は微笑みながら問いかける。リンスは表情を変えぬまま、「思ったより苦い」と答えた。
「苦いかな。セラさんが言ったように、飲みやすいと思うんだけど」
「思ったより、ね。普通に美味しくいただける」
「そっか。なら良かった」
「あと、綺麗」
「綺麗?」
「気泡が」
「それ、さっき私も思った。綺麗だよね」
「うん」
 他愛のない話をしながら、お酒を少しずつ飲んでいく。
 次第に、気分がふわふわしてきた。心地の良い酔い方だ。パーティ準備等で動いたせいか、ほど良い疲れもある。
 それらが、鳳明の意識の鍵を開けた。
 ずっと、意識の隅に追いやっていた想いが、口をついて出る。
「三年、経ったんだね。私がリンスくんに告白してから」
 リンスは、何も言わない。飲む前と変わらぬ顔をして、鳳明のことをじっと見ている。鳳明は真っ直ぐに見つめ返し、ふっと微笑んだ。
「ここに集まってくるみんなが好きで、それ以上にリンスくんのことが大好きで。
 ……三年間、ずっと想ってきたよ。
 私も、周りも色々変わったりしたけど。
 それでもこの想いは変わらなかったよ」
 そして、その気持ちは変わらないだろう。そう、考えるたびに感じていた。
「たぶん、これからも想っていく。リンスくんが『答え』を出してくれるまで、きっと、ずっと」
「……琳」
「答えを急いでいるわけじゃないからね。そこは、リンスくんのペースでいいよ」
「……ありがとう」
「どういたしまして? うーん。なんか違う気がするけど。まあいいか」
 言いたいことを言えて、なんだかすっきりした気持ちになった。伸びをして、机に突っ伏す。
「眠くなってきちゃった……」
「ここで寝たら風邪引くよ」
「うん……へへ。でも、なんか、このまま寝たい、な……」
 幸せな気持ちを噛み締めて、このまま。
 そう思いながら、鳳明は夢の世界へ落ちていった。