シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

胸に響くはきみの歌声(第2回/全2回)

リアクション公開中!

胸に響くはきみの歌声(第2回/全2回)

リアクション



■エンディング

 ラシュヌを連れて、彼らは地下遺跡から仲間の待つ地上へと戻った。
 憔悴しきったルガトがタルウィの入ったポッドとともに無言で去ってから、その後、地下遺跡をどうするか? という話になった。
「このまま放置してもいいだろう。上の人間にはここは見つけられない。今回使用した入口はキーワードの歌を知らなければ開かない仕様になっている」
 とルドラは言ったが、マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)は納得しなかった。
「今はそうでも、この先の未来は分かりません。なんとかして人の手が加わらないように処分もしくは封印をしてしまいたいですね。今回みたいに動乱の種が発生するのであれば、万が一とはいえ関係ない市民に被害がでるかもしれませんし」
 彼女の言い分ももっともだ。
 とはいえ、アンリが用意してあった自爆システムのディーバプログラムは破壊してしまった。破壊すべき大黒柱の1点は探そうとすれば探し出せるが、だれかが人身御供にでもならない限り、破壊はできない。
 このことについて、しばらく全員が頭をひねったが、だれからもいい案が出なかったので、今はこのまま放置しておくことになった。
 うーん、とザーフィアが伸びをする。
「これで全部終わったね。
 さて、僕はパートナーの待つ家に帰るとしよう。……ど、どうしたんだい? きみ?」
 閻魔の様子がおかしいことに気付いてあわてるザーフィアに、閻魔はほほ笑みを向ける。
「……あぁ、いえ。なんでもありません。あなたの言うとおり、『終わった』と実感できて、ホッとしただけです」
「……そのぽややんとした笑みは、なんだか既視感バリバリなんだけど……」
 しかし閻魔を見るザーフィアの視界には、丸くふくらんだ胸も入ってるわけで。
「い、いや、気のせいだ、気のせいということにしておこう。うん」
 何か「これ以上考えてはいけない」という無意識的なストップがかかって、ザーフィアは自分に言い聞かせるようにぶつぶつ独り言を言うと、やはり応じるようにうなずいたのだった。
 そこから少し離れた場所では、竜造が3人のパートナーに招集をかける。労苦ばかりで何も手に入らなかったことに、いらだっているようだ。
「行くんですか?」
 竜造に名前を呼ばれ、そちらを向いたアユナに、アストー01が声をかける。
「あのとき、助けてくださってありがとうございました。それと、ずっと一緒にいてくれて。とても心強かったです」
「……一緒に、来ませんか?」
「トモちゃんの代わりとして?」
 首を振るアユナを見て、アストー01はうれしそうにほほ笑む。
「誘ってくださって、ありがとうございます。でも――」
「だめ、なんですね?」
 分かっていたというようにその声に失望はない。あなたが考えていることとは少し違うというように、アストー01は首を振った。
「けじめをつけなくてはなりません。わたしはコンサート襲撃でごたついているのにまぎれて、ここへ来ました。会社へ戻らなくては」
 アストー01は離れた場所で待つJJたちへ視線を向けた。
 戦闘を終えてジャンからジャネットに戻ったJJは「あなたが出てくるのを待っている間に状況が少し変わった。破壊は取り消された」と短く告げた。
 しかしアストー01はマスターデータチップをあの地に置いてきていた。
 ポケットから取り出した『永遠の箱庭』の欠片をストーンサークルの中心位置に置く左之助の姿を見て、彼女もまた、胸から取り出したマスターデータチップをそのとなりに置いたのだ。
 あの場所で、アンリとアストレースのために歌う鳥たちと一緒にいることが、マスターデータチップの望むことではないかと思った。
 きっとマスターデータチップは鳥たちとともに歌っているに違いない。いつまでも、ずっと。
 この先どうなるかは分からない。けれど、このことについてだけは決して後悔しないと確信していた。
 マスターデータチップを思い、静かに笑んでいるアストー01に、アユナは蒼い鳥を差し出す。アストー01に幸せになってほしくて、ただそれだけを思って……。
「まあ、かわいい。わたしにくださるんですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます、アユナさん。大切にします。
 でも、わたし、鳥を飼うなんて初めてなんです。鳥だけじゃなくて、生き物は何も飼ったことがないんです。ちゃんとお世話できるか不安です。
 だからアユナさん、どうかこの子の様子を見に訪ねて来てくださいね。お願いします」
 鳥でなく、鳥を差し出すアユナの手をそっと包み込むように握って、アストー01はささやいた。
 その様子を遠目に見ながら、ヴァイスはアストー12に訊く。
「アストー01は戻るようだね。
 気になっていたんだけどさ。ラフィエルは、このあとどうするか、身の振り方は決まってるのか?」
「あ、いえ……わたしは……」
 彼女も連絡もなしにDivasを飛び出した身だった。アストー01のように、最初のアストーという価値もない、ただのアストーシリーズの数ある1体だ。すでにアストー13が「アストー」として活動している今、その存在価値はない。
 良くて機能停止。でも、そんな機体を保存しておく必要など会社にはないから、おそらく分解処分となるだろう。
(でもそんなこと、ヴァイスさんたちに言ってもしかたない……)
「わたしは、大丈夫です。ぜんぜん……」
 ヴァイスたちのためにほほ笑もうと顔を上げたアストー12は、そこで驚きに目を瞠っているヴァイスとセリカに気付き、言葉を止めた。
 涙が手にしたたって、初めて自分が涙をこぼしていることに気付く。
「ご、ごめんなさい。あの、心配ないです。大丈夫です。どうしたのかしら、わたし……。ただ、止まらなくて……。
 ここへ連れてきてくださって、ありがとうございます。外の世界を見せてくださって、とてもうれしかった。今度のこと、わたし、一生忘れません……」
 自分のために、一生懸命笑顔をつくって差し出されたさよならの握手の手を見て。ヴァイスは決めた。
「俺も一緒に行こう」
 差し出された手をぎゅっと握って、自分の方に引き寄せる。
「えっ?」
「俺がおまえを連れ出したんだ。俺が話をする。ラフィエルは、そこにいるだけでいい」
 アストー12はヴァイスの決意にとまどった。
 そんなことをしたらヴァイスが怒られてしまう、ヴァイスを止めてほしいと、後ろにいるセリカアルバに目をやるが、2人は何も言わずほほ笑んでいるだけだ。
 どうすれば正しいのか、分からないままアストー12はうつむき――ヴァイスたちに迷惑をかけてしまうことになるけれど1人じゃないことがとても心強くて、うれしくて――蚊のなくような小さな声でそっと言った。
「ありがとう、ございます……」



 それぞれがそれぞれの思いや新たな決意を胸に話しているなか、美羽は取り残されたように1人たたずむルドラを見つける。
 ルドラは地下遺跡の入口のあった辺りを振り返って、見つめていた。その後ろ姿は彫像のようにぴくりとも動かない。
「ルドラ……」
 声をかけたとして、何と言うべきか。ためらいがちに、それでも声をかけた美羽に振り返ったのは、松原 タケシ(まつばら・たけし)だった。
「タケシ!?」
「んっ? あー、美羽か」
「ちょ……っ、ルドラは!? って、あー、タケシ、ルドラのこと知らないんだっけ。えーと、ルドラっていうのは――」
「ここにいるヤツだろ。あいつなら、さっき引っ込んだよ」
 タケシは自分の目の横、こめかみのあたりをコツコツと人差し指でたたいた。
「えっ」
「もう用がなくなったってことじゃないかなぁ」
「それは、もう二度と現れない、ということでしょうか」
 思い切って訊いたベアトリーチェに、タケシは屈託のない笑みで答えた。
「分かんねー。
 でもさ、たぶんそんなことないと思う。途中から少しずつ、おれにも見せてくれてたんだよね。なんか、ならし運転みたいなの? ここまでできた? じゃあ次はここまで、みたいな。つってもぼんやりしてたし、ほんのちょっぴりだったから、断片的で全然意味分かんねーんだけど。あーいうことするってことは、何か考えてんじゃないかって思う」
「……そっか。そう」
 これで終わりじゃないんだと、ほっとすると同時に、美羽のなかでムクムクととある件がよみがえる。
「って、あいつ、私の言ったこと守ってないじゃん!」
「美羽!?」
「みんなにお礼言ってないっ!!」ずいっとタケシに顔を近づけ、赤く光る目を見つめる。「ちょっとルドラ!! 出てきなさいよ!! 約束したでしょ!! 隠れてるんじゃないっ」
「おれに言われても〜っ」
「逃げるな!」
 美羽を怖がって後退しかけたタケシの胸倉をひっ掴み、引っ張り寄せる。
「美羽、落ち着いて。近いよ、顔近づけすぎ!」
 わたわたしながらもコハクが間に割り入ろうとする。
 もちろんルドラは出てこない。まったくの無反応で、ただただタケシが気圧されているだけだ。
「もーっ、いい性格してるじゃない。
 いいこと? 絶対このこと忘れないんだからね!!」


 そうして迫る夕闇のなか、彼らはこの地をあとにしたのだった。






『胸に響くはきみの歌声(第2回/全2回) 了』

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 リアクション公開が大変遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。
 1月後半でちょっと体調を崩したこともあったのですが、超難産でした……。

 『Perfect DIVA』の番外編のつもりで始めたシナリオでしたが、終わってみれば続編のような展開に。
 あのとき伝えきれなかったことが少しでも伝えられているといいな、と思います。



 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回作はすでに決まっております。そちらでもまたお会いできましたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。



 02/10 一部文言の修正を行いました。