校長室
人形師×魂×古代兵器の三重奏~白兎は紅に染まる~
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17 安寧秩序のブレイクタイム。 リンスが買い物に連れて行かれている間、千尋、ピノ、クロエは社に連れられてアイスクリームショップで休憩していた。 「あのね、今日はね、ミクちゃんたちがライブするんだよー」 ストロベリーのピンクが可愛いアイスを食べながら、千尋が言う。そうなの? とクロエが正面に座る社に問いかけた。社が頷く。 「そうそう。ここのデパートの屋上にな、ウチらのステージが用意されとるんよ」 「ふたりにも観に来てほしいなー。リンぷーちゃんも誘って、みーんなで見るの!」 「すてきね! たのしそう!」 「社さん、あたしたちも行っていいの?」 ピノが問いかけると、社はしばし黙った。じっと、ピノを見つめている。 やっぱり駄目なのだろうか。ピノはクロエと顔を見合わせ、首を傾げた。その時社が言葉を継いだ。 「それなんやけど。ピノちゃん、ステージ立ってみる気あらへん?」 「え?」 社の話によると、以前、千尋とクロエはユニットを組んでステージに立ったことがあるらしい。歌って踊って大盛況。とても、盛り上がったのだと。 「今度はピノちゃんも入れて三人組ユニットで歌ってもらえへんかなー、と。きっと盛り上がるでー」 「ちーちゃんはオッケーだよ! ピノちゃんたちは?」 「いいけどあたし、なんにも用意してないよ」 「わたしもよ。だいじょうぶ?」 「そこは心配あらへん。ここ、どこや?」 「デパートよ」 「せや。『買えないものはない』。三人を可愛くするための衣装も小道具も、ぜーんぶ揃うんや。 どや? 三人次第やで」 そんな風に言われたら、躊躇うことはない。 やるかやらないかなら、答えは――。 「ライブに出る?」 「そう! ちーちゃんと、ピノおねぇちゃんといっしょに! さんにんぐみよ」 衿栖と鳳明に半ば強制連行されて買い物を終えてきたリンスは、戻るや否やクロエに言われた言葉に数秒間黙り込んだ。 「楽しんでおいで」 「うん! それでね、このあとみんなでおかいものにいくことにしたの。おそろいにするのよ」 ああ、とリンスは頷く。三人組として出るのなら、衣装を合わせた方が見栄えがいい。三人の系統は若干離れているが、それがまたいい味を出すかもしれない。 「行っておいで。俺は、適当に待ってるから」 「つかれちゃった?」 「ちょっとね。ライブには行くから」 クロエが差し出したライブチケットを受け取って、リンスはクロエの頭を撫でる。 「行ってらっしゃい」 「いってきまーすっ」 ぶんぶんと手を振って、社たちと共にエレベーターへ向かうクロエを見送った。 「……で、行かなくていいの?」 それから振り返り、ひとり残った衿栖に問う。 「衿栖もライブ、出るんでしょ」 「出るわよ。だから時間ないの。ちょっと付き合って」 頷く間もなく手を取られ、店に連れて行かれる。行き先は服屋だった。一瞬、また? と思ったが、今度は明らかに女性物の服屋である。衿栖が自分の服を買いに来たらしい。 それならどうして自分を連れてきたのか、と考えていると、「あのさっ!」と呼びかけられ、思考は中断された。衿栖が、二着の服を持ってリンスの前に立っている。 「この服かこの服、どっちにしようかなって……迷ってるんだけど。リンスはどっちがいいと思う?」 衿栖が手にしていたのは、ゴシック調の赤いワンピースと、ガーリーな白レースのワンピースだった。服と衿栖とを見比べる。 「どっちも似合うと思うよ」 「そうじゃないわよ! どっちがいいのか、って聞いてるの!」 「何怒ってるの」 「怒ってないっ! で、で、どっち!?」 「似合うと思うのは赤い方。好みなのは白だけど」 「……、…………。……あっそう」 答えると、衿栖はたっぷり間を置いてから拗ねたような声を出した。どうしてこんな反応になるのかわからない。本日何度目かの疑問符を浮かべていると、衿栖は赤いワンピースを棚に戻し、白いワンピースを持ってレジに向かった。 幸いレジは混雑しておらず、さほど待たずに衿栖は会計を終えて戻ってきた。頬が少し赤い気がする。 「大丈夫?」 「えっ、なっ、何がっ」 「顔赤いから。暖房よく効いてるもんね」 「あ、ああ……うん、そうね。うん」 「?」 「なんでもないっ。……付き合ってくれてありがとね。じゃ、私、みんなのところに戻るから」 「うん。また後で」 「後でね」 エレベーターに向かう衿栖に手を振ってから、リンスは近くにあった休憩用の椅子に腰を下ろした。