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【2024初夏】声を聞かせて

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【2024初夏】声を聞かせて
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リアクション


2.成長

 リネン・エルフトがリネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)になる少し前のこと。

「あたっ。……いたっ!」
 頭上のパイプに気付かず頭を擦ってしまい、手で頭を押さえようとした途端、今度は手が壁の消火栓に当たってしまった。
「何やってんの、リネン」
 振り向いてくすっと笑みを漏らしたのは、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)
 リネンの恋人だ。
「……この辺、なんだか狭くなってない?」
「配管も物も増えてないわよ」
「うーん、そうかなぁ」
 リネンは不思議そうに眉を寄せた。
「なあに、私の家が狭いって言いたいの?」
「違う違う、そういう意味じゃなくて! この辺りを歩くのは久しぶりだから……」
 リネンは、フリューネの家であるルミナスヴァルキリーに訪れていた。
「よく知ったつもりだったけど、こうやって艦内を歩き回るのって懐かしい感じよね……っと」
「子供みたいにきょろきょろしないの。危ないわよ」
 またもや頭をぶつけかけたリネンに、フリューネは軽く笑い声を上げながら注意を促す。
「子供みたいって……! 確かに私は……」
 小さいけれど、と言いかけたリネンだけれど。
 目の前のフリューネと目を合せて、ぱちぱちと瞬きをした。
(目の高さが同じ。見上げてない)
「ここが狭くなったんじゃなくて、リネンが大きくなったのよ」
「大きくなった? 私が?」
 言われて、リネンは気付いていく。
 確かに、ここは変わっていない。だけれど、何かが違う。
 以前、フリューネとここを歩いた時には、確か……。
「そういえば、前は見上げてたわ。フリューネのこと。いつのまにか同じ目線になってる」
「うん、リネン小さかったものね。でも今は、私と同じくらい」
 リネンがフリューネと出会った当時。
 リネンの身長は130cm代だった。
 でも今は、フリューネと身長も体重もほぼ同じだった。
「以前はリネンに前を歩いてもらっても、後ろから先が見えたけれど、今は前を歩かれたら私にはあなたの頭しか見えないわ」
「不満?」
「ううん、普段は並んで歩いてるか、並んで空を駆けてるものね。問題ないわ」
「うん……以前より、つり合いがとれてるかな?」
「そうね。身体のバランス、以前より良いわよ」
 フリューネがリネンの頭からつま先を眺める。
 リネンは何故か少し恥ずかしくなり、頬を軽く赤く染めた。
「体のバランスじゃなくて……っ、フリューネと釣り合いとれてるかな?」
「ふふ。ええ、良いカップルだと思うわ、私達」
「そっか……ふふ」
 軽く笑みを浮かべて、リネンはまた周囲を見回す。
 同時に、フリューネと出会った頃のことを思い浮かべていく。
 ここで起こった事、戦いのこと……。
(あの頃見えていた景色と、やっぱり少し違う)
 見ている自分の気持ちの変化も大きかった。
(フリューネに対しても……)
 ドアをくぐった先の通路は、並んで歩ける広さがあった。
 リネンが横を歩くフリューネに目を向けると。
「なあに?」
 すぐにフリューネが視線を返してきた。
「あの頃の自分が、今の私達の姿を見たら……どう思うかな」
「リネン、成長したなーって思うんじゃないかしら、お互いに」
「……そうね。うん」
 壁にかかっていた鏡には、いつもの自分の顔が映っていた。
「……この鏡、高くて顔、映らなかったのよね、そういえば」
 数年前の自分の姿を思い浮かべても、鏡に映りはしない。
「今は一緒に映ってるけれどね」
 フリューネがまたくすりと微笑んだ。
 多分、数年前の自分の姿は、リネン自身より、フリューネの方が覚えているんだろうなと、リネンは思う。
 ここで起こった懐かしい思い出が、自分の頭の中に、残っているように。