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【2024初夏】声を聞かせて

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【2024初夏】声を聞かせて
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リアクション

 森林公園内にある、ポニー牧場にも沢山の子供達が訪れていた。
「かいくん、しろいポニーにあうでち」
 杜守柚が高円寺 柚(こうえんじ・ゆず)になる少し前のこと。
 幼児と化した柚は、恋人で同じく子供化した高円寺 海(こうえんじ・かい)の姿をドキドキ見守っていた。
「かいくん、かっこいいでち……はうっ」
 胸の前で手を組んだら、自分の胸がぺったんこだということに気付いて、柚はちょっと落ち込む。
「おとなになるくすりでおっきくなって、むねもおっきくなって、しろいうまにのったかいくんに、むかえにきてもらいたいでち……」
「ゆず〜」
「は、はいっ」
 声をかけられて、顔を上げると、白馬にのった海が近づいてきていた。
 柚の胸がドキドキ高鳴っていく。
 本当に白馬に乗った王子様が迎えに来てくれたような気がしたのだ。
「いっしょにのりたいでち!」
 柚が柵の外から手を広げると、海はスタッフに頼んでくれて。
「ちゃんとつかまってろよ〜」
「うん!」
 自分の後ろに柚を乗せてもらった。
 そして、ゆっくりポニーを走らせる。
「おうまさん、ぱっかぱっか。たかいでちね」
 柚はお姫様になった気分になり、海を後ろからぎゅっと抱きしめた。
「ゆず、こわいか?」
「こわくないでち。おうじ……かいくんと、いっしょでちから」
「そっか、それじゃもういっしゅうだー。あはははは」
「あは、あはははははっ」
 もう1周、楽しく乗馬を楽しんだ後。
「あっ!」
 スタッフに先に降ろしてもらった柚は、降りた途端、石に躓いて転んでしまった。
「ゆず……!」
 驚いて、海はポニーから飛び降りて、柚を起こしてくれた。
「おちたのか?」
「う……う……っ」
 柚は泣き出しそうになるが、唇を噛んで必死に我慢する。
「ふ、ふく……よごれてちゃいまちた」
「じゃ、きがえにいこう、な」
「はい」
 海に手を引かれて、柚はコテージへと行って。
 恥ずかしがることもなく、海に手伝ってもらって着替えていく。
「かいくん、ほんもののおうじさまみたいでちた。いつかかいくんのおよめたんになりたいでち」
「えっ?」
 突然の柚の言葉に、海はびっくりした顔になる。
「ゆずはかいくんといっしょならしあわせなの!」
 小さな顔を赤く染めながらも、満面の笑みで柚は言った。
「えっと……」
 海はちょっと照れてから。
「へへ……」
 柚と同じような笑みを浮かべて、首を縦に振った。
「かいくん」
 柚は下着のまま海にぎゅっと抱き着いて。
 背伸びをしてチュッと子供の海の唇にキスをした。
「こどもはこういうこと……しちゃいけないんだぞ」
 などと言いながらも、海も柚が大切な恋人であることを理解しているから。
「ゆーず」
 そっと軽く、キスを返してきた。

○     ○     ○


「しずかせんせーのパンツは、シロだったよ!」
 自分の元に戻ってきた恋人――4歳児と化した綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の言葉に、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は青くなった。
 ちょっと目を離したすきに、悪戯っ子たちに交じって、悪戯をしていたようだ。
「さ、さゆみ、あなた一体何を……」
「あっ、ポニーがいるよ、アディ、いっしょにのりたーい!!」
「ちょ、ちょっとさゆみ、それはいいけれど……!」
 幼児のさゆみは、大人の姿のままのアデリーヌを引っ張ってポニー牧場へと走った。
「すみません、一緒に乗ることはできますか?」
 もう放すわけにはいかないと、アデリーヌはさゆみの肩を掴みつつ、スタッフに尋ねた。
「ええ、ただ少し大きな馬になりますが、大丈夫ですか?」
「はい、わたくしがついてますので」
 さゆみをしっかり抱きしめて、アデリーヌはスタッフの指示通り、馬に乗った。
「わーわーわー、おうまさん、おうまさん、おうまさん、はしれはしれはしれ〜」
「はし、はし、はしらせたらダメですわ! 暴れないで、さゆみー」
 馬の上でもはしゃぎ、跳ねだすさゆみを、アデリーヌは必死に押さえる。
「はしったほうがたのしいよー。わたしがこのおうまさんをきょーそーばにしてあげるの〜」
「このお馬さんは競走馬にはなれませんわ。こうして皆を楽しませてくれるお馬さんですから。ああ、お願いだからさゆみ、大人しくして」
「あはははは、ふふふふふ、たかい、たかーい。たのしいね、アディ〜」
「はい、そうですわね……」
 楽しそうな笑い声をあげて、はしゃぐさゆみの側で、アデリーヌは終始ハラハラし通しだった。

「んしょっと。つぎは……あっちいってみよー!」
「あ、まってさゆみ!」
 乗馬後、スタッフにお礼を言っていたアデリーヌは走り出したさゆみを慌てて追いかける。
 彼女は『絶対的方向音痴』の異名を持つほどの方向音痴なのだ。
 見失ってしまったら、そのまま遭難して自分のもとに戻ってこないかもしれない。
「はやくはやく、アディー! いっしょにあそぼ!」
 だけれど、さゆみは遊具に突進することなく、アデリーヌを待っていた。
「アディといっしょにあそぶー。つぎはあすれちっくであそぼー!」
 そしてまた腕を引っ張って、凄く楽しそうな輝く笑みを浮かべて、アデリーヌを振り回していくのだった。
 幼い心でありながらもさゆみは解っていた。
 数時間後には元の姿に戻るということを。
 もう一度本当に、この姿の年齢からやり直して――少しでも、大好きなアデリーヌの側にいたい。いてあげたい。そんな思いを秘めながら、はしゃいでいた。