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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~

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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~
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【西暦2024年 8月中旬】 〜竜人の嫁取り〜


「――とまぁ、そんなカンジでね。シャンバラ国軍から四州連邦軍に、軍事顧問団を派遣する事になったわ。軍務官の育成と兵の教練を担当する人材が欲しいんだって」

 膳に並べられた料理に箸をつけながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が言った。
 今のルカは、シャンバラ国軍の駐在武官という立場である。
 四州がネフェルティティ女王を戴き、シャンバラの一自治領となる事が決まった時、金 鋭峰(じん・るいふぉん)は、仮想敵の無い
四州に軍を置く必要は無いと判断し、代わりに武官を駐在させる事にした。
 その駐在武官に選ばれたのが、ルカである。

「あら、これ美味しい♪」
「ああ、それ旨いだろ?出入りの魚屋のおやじに勧められたんだ」
「出入りの……って、そんなのあるの、淵?」
「ほら、ウチ城下から離れてるだろ?イチイチ買い物に行くのも面倒なもんだから、城下の良さそうな店を見繕って、定期的に廻ってもらうようにしたんだよ」
「ほう。中々気が利くじゃないか。このままいけば、いい執事になれるぞ」
「ならないっつの」

 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の軽口を、酒をあおりながら否定する夏侯 淵(かこう・えん)
 ダリルと淵の前にも、小鉢の並んだ膳が置かれている。
 今3人がいるのは、広城城下、繁華街から離れた所にある、ルカの私邸である。
 連邦政府が成立し、ルカがシャンバラ国軍の駐在武官として赴任する事が決まった時、私費で買い求めた物である。
 ルカと同時に、ダリルも連邦軍の士官学校に教官として迎えられる事になったため、「どうせならみんなで住めるところを」と、淵がほうぼうのツテを使って探し求めた、自慢の物件だ。

「そうそう。あと、新設する士官学校の教官も何人か探してるって言ってたから、取り敢えずダリルの名前を出しといたわよ。やるでしょ、ダリル?」
「もちろんだ」

 ダリルは即答した。

「しかし、遅いなカルキノスは」
「カルキが言ったんだよねぇ?『大事な話があるから、集まってくれ』って。ホントに今日であってるの?」
「ああ、間違いないぜ。いい加減、そろそろ来ると思うんだけどなぁ……」

 ここ2週間ほど屋敷に帰ってこなかったカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)から、不意に連絡があったのは、昨日の事である。

「ドコで何をしているのか」と問いただす淵に、カルキノスは、

「詳しい事は明日話す。大事な話だからルカとダリルにも同席するように伝えてくれ」

 といい、更に、

「出来れば、酒と肴の用意をしておいてくれると助かる」

 とだけ告げて、電話を切った。
 それでルカもダリルも、今日は残業せずに帰って来たのだが――。

 遠くの方から、廊下をドスドスと歩く音が響いてきて、3人は一斉に顔を上げた。

「おっ!噂をすればなんとやら。やっこさん、帰ってきたぜ!」
「ん……?」
「どうしたの、ダリル?」
「気のせいか……?足音が、二つあるような――」

 ダリルがそう言い終わらないウチに、部屋の襖がガラリ、と開いた。 

「ワリィ、待たせた」
「遅いぜ、カルキ!」

 淵が、真っ先に文句を言う。

「ああ、済まない――ちょっと、迎えに時間がかかってな」
「迎え?」
「ん、ああ――ホラ、そんなトコいないで、こっち来いよ」

 廊下の向こうに向かって、手招きするカルキノス。
 静々という足音がして、竜頭人身の人物が、姿を現した。
 華やかな着物の上からも分かる、緩やかに曲線を描く身体の線。
 伏し目がちな、切れ長の目。
 雪のように白く、きめの細かい肌。
 ――いや正確には、皮膚と呼ぶべきなのだが、鱗の一つ一つが小さく、遠目では境がはっきりしないほどなので、人肌のように見えてしまうのだ。
  
 ひと目で、女性のドラコニュート、しかもかなりの美形だと分かる。

「カルキ、その人……?」
「あー……、その、なんだ、俺のヨメだ」
「「「ヨメ!?」」」

 カルキの口をついて出た言葉に、驚愕する3人。
 女性のドラコニュートは、突然床に三指をつくと、3人に向かって深々と頭を下げた。

「お初にお目にかかります。わたくし、マホロバの竜人の里より参りました、白菊(しらぎく)と申します。この度ご縁がありまして、カルキノス様と夫婦の契(ちぎり)を交わす事となりました。皆様は、我が夫とは実の兄弟にも等しい間柄と伺っております。不束者ではございますが、よろしくお引き回しの程、お願い申し上げます」

 余りに慇懃な挨拶に、呆気にとられる3人。

「え、えっと……よろしく……」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
「これはこれはご丁寧なご挨拶、痛み入ります」

 一瞬の沈黙の後、我に返った3人は、三者三様の返事を返す。

「と、言う訳だから、まぁ……、よろしくな」
「「「よろしくな、じゃないっ!」」」

 兎にも角にも白菊を座に招き入れ、慌ただしく膳を勧め終わった所で――。
 カルキノスは質問攻めにあった。

 カルキノスと白菊の話によると、二人の馴れ初めはおおよそ次のようなモノだったらしい。
 白菊は、本名を菊といい、マホロバの竜人の里の里長の一人娘だという。
 肌の色が雪のように白い事から、いつしか里の者から白菊と呼ばれるようになり、更に里長の娘である事から、白菊姫と呼ばれる事もあった。
 人口の少ないドラコニュートにとって、適齢期の異性を探すのは大変難しいのだが、それはマホロバでも同じだったらしく、白菊ももう何百年も、良い相手と巡り会えずにいた。
 そんな中、「これまで何百年も鎖国を続けていた四州という島が、開国した」という話を伝え聞いた里の長老が、「これまでずっと国を閉ざしてきた島ならば、同じ様に良縁に恵まれなかった竜人の男がいるかも知れぬ」と考え、知り合いに頼み込んで、マホロバ幕府の使節団に白菊を加えてもらった。
 そうして四州に来たものの、四州島には竜人の里は無いと知り、ひどく落胆した白菊だったが、大統領の広城 雄信(こうじょう・たけのぶ)から、「知り合いに一人、ドラコニュートがいる」と言われ会いに行った所、カルキノスに一目惚れしたのだそうだ。
 もっとも、一目惚れしたのはカルキノスも同じで、二人はその日の内に結婚の意志を固めると、その足でマホロバの白菊の故郷まで行って、結婚の報告をして来たのだそうだ。

「通りで、しばらく帰って来ない訳だ」
「まさか、マホロバまで往復してきたとはね〜」

 カルキノスの白菊の猛進っぷりに、ダリルとルカは、韓進半分、呆れ半分といった様子だ。

「本当はもう少し早く帰ってこようと思ったんだが、里で散々引き止められちまってな。結局、一週間ぶっ通しで宴会してたぜ」
「父様や母様を始め、里の者達は皆とても喜んでくれて……」

 そういう白菊の全身からも、幸せオーラが滲み出ている。

「ようし、分かった!」
「ど、どうした淵!?」
「何はともあれ、酒だ!!」

 淵はすっくと立ち上がると、台所へ駆け込んでいく。

「ちょっと待ってろ、今とっておきのヤツ出すからな!えっと……どこやったっけ……?」
「おいおい淵」

 苦笑いしながら、淵の後をダリルが追う。

「竜人の里で一週間宴会したなら、ウチは二週間宴会だ!」
「え〜!アタシとダリル、仕事どうするのよ!?」
「休め!」
「ムリ言わないでよ!!」

 淵のムチャ振りに文句を言いながら、ルカもダリルの後に続いた。

「わりぃな、騒がしい兄弟で」
「いいえ。とっても良い方達じゃありませんか。それに、いかにもカルキノスさんの親友って感じがして、わたくし、好きですわ」

 白菊が、花の咲いたような笑みを浮かべる。

「コラ、カルキ!いちゃついてないで、オマエも手伝え!!」
「ナニ!?オレ主賓だぞ!!」
「あ、あの!私手伝います!」
「ああ、白菊さんは座ってて良いから!」

『二週間はともかく、今夜は眠れそうに無いわね……』
『だな』

 ダリルとひそひそ声で話しながら、ルカは、明日の仕事のコトを考え、小さなため息を吐く。
 しかしルカは、自然と笑みがこぼれるて来るのを、止める事が出来なかった。