百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第1回/全5回)

リアクション公開中!

イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第1回/全5回)

リアクション

 聖少女──ちびを中心とした一行は、時間をおいて、その赤黒い通路を辿っていた。
 彼女は向かうべきところが分かっているのだろう、ゆっくりと、だがしっかりとした足取りで正門をくぐると、研究棟の入り口を通り、扉の立ち並ぶ通路を歩いていた。
 エルミティに書いて貰った簡単な内部見取り図と周囲を見比べながら、ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)はぴったりとちびの横に寄り添っている。
 エルミティによると、研究棟は地上五階。一階までは見せかけの研究を──動物の治療などを──行っている。廊下で繋がった別棟は立ち入り禁止だが、どうもそこにキメラが飼われているらしいとの噂があったという。彼女が立ち入れるのは研究棟の一階までで、それ以上はディルの付き添いでも上がったことはないという。
 ちびが向かっているのは、どうやら最上階らしい。彼女はメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)教えてもらった歌を一緒に口ずさみながら進んでいく。血と焼け跡の通路を白銀の髪の幼女が歌いながら歩く様は異様な光景だった。そのちびだが、歌を教えたとき、少し身長が伸びたようだ。
 ちびは、やがて一つの扉の前で立ち止まった。開けようとした扉のノブはがちゃがちゃいうだけで回らない。ヴェルチェはピッキングで解錠する。ディルがこの先に仕事に行っていたという話は聞いている、ここから先が本番になるだろう。
 ヴェルチェはにっこりとちびに笑いかけ、
「おちびちゃん、これ以上は危ないからあたしと一緒に帰りましょう♪」
 言うやいなや彼女の身体を抱きかかようとした。彼女の目的は、護衛でも何でもない。聖少女を誘拐して身代金をがっぽりいただくことである。地図は逃走経路の確保。
 が、見透かされていたのだろうか、ヴェルチェの反対側でちびにぴったりくっついていたメイベルが、きっ、とにらんでちびの左腕を掴む。
「やっぱり、誰かが誘拐すると思ってたんですぅ」
「その手を放して!」
 セシリアが光条兵器のモーニング・スターを構える。鎖付き鉄球にとげとげの付いた物騒な武器だ。
「ここから先は危ないじゃない、一緒に帰るだけよ?」
「ひどいじゃないですかぁ、そんな詐欺師みたいな真似するなんてー」
 元々詐欺師な彼女は罵られても痛くもかゆくもない。ちびの右腕を引っ張る。
「何と言われようとこの腕は離さないわよ」
 両腕を引っ張られたちびは痛そうに顔を歪めて、泣き出した。セシリアがモーニング・スターをぶん回す。ヴェルチェが思わず手を離したところを、ちびをメイベルが抱きかかえた。
「ほら、泣いちゃったじゃないですかぁ! ひどい! 胸まで嘘つきのくせに!」
「何ですって!」
 胸の大きい二人だが、メイベルは天然物、ヴェルチェはシリコンの偽装胸である。天然物には偽装が見て分かるらしい。指摘されて怒った彼女は、傍らでセシリアを止めに入ったパートナーのドラゴニュート・ティータ・アルグレッサ(てぃーた・あるぐれっさ)を捕まえ、ティータから得たドラゴンアーツの怪力で持ち上げる。
「うわぁぁ! ゴムタイヤー!」
 それを言うならご無体なだろ、というツッコミを入れる前に、ティータの身体が宙を舞った。見た目よりは軽いが、ドッジボールの如く投げつけられてはたまらない。
「危ないっ!」
 ちびの前に咄嗟に八神 甲(やがみ・こう)が飛び出し、両手でティータを受け止める。その間に、ヴェルチェはさっさと逃げ出していった。慌ててティータが甲の腕から抜け出し、その背中を追ってしまう。
「大丈夫? 痛くない?」
 スフィーリア・フローライト(すふぃーりあ・ふろーらいと)が腰を折ってちびに目線を合わせ、こくんとちびが頷くと微笑んだ。若干10歳でパラミタに来た彼女は、ずっと年上に囲まれてきたから、ちびの姉になったみたいで少し嬉しかった。パートナーのフタバ・グリーンフィールド(ふたば・ぐりーんふぃーるど)は見た目は同い年だが、もっと長く、それこそ大抵の建築物以上に長生きしているし。
 甲がしびれる腕をぶらぶらさせながら、と言いながらヴェルチェの去っていった方を眺めつつ、
「地図、なくなっちゃいましたねぇ」
「あ、私……持ってきました」
 スフィーリアが背負った特大バッグのポケットから、折りたたんだ紙を取り出した。彼女も事前にエルミティから聞き出しておいたのだ。
「ちびちゃんは何を考えてるの? どうしたい?」
 ユイ・シェンノート(ゆい・しぇんのーと)がちびに話しかける。
「もう一人のわたしが、ここにいるの……」
「もう一人の、ちびちゃんが?」
「それって双子とかか?」
 フタバが尋ねると、ふるふると首を振った。
「違うの、わたしがもう一人いるの。会わないといけないの」
 遠巻きにちびとちびに付き添っている彼女らの様子を見ていたリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が腕組みをして、
「彼女が発見された遺跡の調査もしてみたいところであるな。ここからは遠いのだろうか」
「遺跡の場所って分かる?」
 もう一度、ユイが尋ねてみるが、ちびはまた首を振った。
「分かるけど、駄目。急がないと……」
「遺跡の方は、研究施設の方に聞けば分かるかもしれませんよ」
 ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)がリリに答えた。
「ディルのように、非道に反対したい人もいると思うんです。研究員の内部協力者を探して、教えてもらえばいいじゃないですか」
「そう上手くいくものか」
 楽観的なパートナーに、リリは顔をしかめる。
「現にまだその研究員も見付かってないではないか」