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リアクション
「薔薇学のお坊ちゃん達もなかなかやられますのね。まさか搭乗前に見つかるとは思いませんでしたわ」
「それはこちらも同じだ」
フィルラントの禁猟区に引っかかったのは、波羅実の藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)と覆面で顔を隠したソフィア・シュンクレティ(そふぃあ・しゅんくれてぃ)だった。
「いたで!」
駆け寄ってきたフィルラント達を、殴り倒そうと野球バッドを構えたソフィアを優梨子は止めた。それから友好的な微笑みを浮かべた優梨子は優雅に一礼してみせる。
「はじめまして。私は波羅実の藤原 優梨子と申します。私も外務大臣様の護衛をお手伝いさせていただきたく、はせ参じました」
悪びれた所など欠片もない。波羅実生というよりも百合園生と言った方が良さそうな気品に満ちた物腰は、好感が持てた。覆面で顔を隠したソフィアとともにいる時点で怪しいことこの上なかったが。女性慣れしていない男子生徒ならば、ついうっかり「ぜひに!」と答えてしまいそうな麗しい笑顔だ。
しかし、黎は惑わされなかった。
「外務大臣の接待役ならば間に合っている。お帰り願おう」
「どうしてもダメですの?」
優梨子は甘えるように小首を傾げて見せるが、黎は容赦がなかった。
「ダメだ」
一刀両断に斬り捨てると、腰に差していた剣を抜き放つ。
「女性に剣を向けるのは好まぬが、今は有事。抵抗するならば、力ずくでも取り押さえさせていただくが」
「あら、怖い騎士様ですこと」
抜刀した4人の薔薇学生に囲まれた優梨子は、脅えたように身体を縮こまらせたが、それは擬態だった。素早く懐に手を滑り込ませると、隠し持っていたヒ首を掴み目の前にいた黎に向かって必殺の一撃を突き出した。と、同時にソフィアもまた構えたバッドを大振りに振り回す。
黎は足を一歩後退させると同時に、半身をよじり優梨子の攻撃を受け流す。すかさずフィルラント達が2人を取り押さえようと詰め寄るが、優梨子の黎への攻撃自体がフェイクだった。
勢いを殺さず黎の横をすり抜けると、そのまま積み込み口から地面へと飛び降りる。黎達が一瞬呆然とした隙に、ソフィアもまた優梨子の後に続いた。
現在、跳ね橋は外してあるため、地面までの距離は10mほどある。このまま地面に落ちればケガは免れないと、黎が思ったとき2人の身体を受け止めるように、一台の小型飛空艇が滑り込んできた。
小型飛空艇の尾翼には永楽銭の旗印が付いた横断幕が付いている。先ほど空港の向かいの道で抗議行動を行っていた黒岩 和泉(くろいわ・いずみ)とアーニャ・クローチェ(あーにゃ・くろーちぇ)だった。
「なかなかやるね、お姉様達」
「どこのどちら様かは知りませんが、助かりましたわ」
優梨子は小型飛空艇を操縦していた和泉に礼を言う。
「待てっ!」
追いかけようとする黎に向かって、小型飛空艇に乗った優梨子は優雅に手を振った。
「ご機嫌よう、怖い騎士様。またご縁がありましたらお会いしましょう!」
「う〜ん、この機会にお偉いさんと知り合いになりたかったんだけどねぇ」
空港内にある建物の屋上で滑走路を眺めながら、イルミンスールのエル・ウィンド(える・うぃんど)は呟いた。パートナーであるホワイト・カラー(ほわいと・からー)とギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)を外務大臣の接待役として送り込むつもりだったのだが、予想外に応募者が多く選考に漏れてしまったのだ。
「ごめんなさい。エル様」
しょんぼりと肩を落としたホワイト・カラーが、不手際を詫びる。
その隣では、ギルガメシュが怒りを露わに金網を蹴り飛ばしている。
「私を採用しないなんて、なんて見る目のない担当者だっ」
「落ちつきなよ、ギルガメシュ。外交慣れした百合園生が優先されるのはしょうがないことさ」
ギルガメシュを宥めつつ、エルは次なる手を考えていた。外務大臣はまだ空京を出発していない。なんとか護衛の任につけないだろうか、と。
と、そのとき。
外務大臣が乗る予定の飛空艇に、一台の小型飛空艇が猛スピードで近づいていくのが見えた。小型飛空艇の尾翼には永楽銭の旗印とともに「我ら第六天魔衆は、地球人のパラミタ入植を断固として拒否する」と墨文字で書かれている。
「なんだ、あれ?」
そうこうするうちに貨物の積み込み口で数人の薔薇学生達と揉み合っていた少女が、小型飛空艇に向かって飛び降りた。
「暗殺者だ!」
咄嗟にそう結論づけたエルは、素早く空飛ぶ箒を取り出した。
「ホワイト、ギルガメシュ、あの小型飛空艇を捕まえるんだ!」
同行する二人に叫ぶと、箒にまたがり空へと舞い上がる。
これはまさしくチャンスだった。ここであの賊を捕まえることができれば、少なくとも警備担当者であるイエニチェリとの繋がりくらいは持つことができるだろう。
功績を求め賊の捕縛に乗り出したのは、エル・ウインドだけではなかった。
「遅れるなよ、アメリア!」
彼と同じくイルミンスール生の高月 芳樹(たかつき・よしき)とアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)も、滑走路で賊が逃げているのを知るなり、すかさず空飛ぶ箒にまたがっていた。
その他にも、蒼空学園生所有の小型飛空艇が空港のあちこちで急発進しはじめていた。
「上空に回り込め!」
蒼空学園の永夷 零(ながい・ぜろ)は操縦者であるルナ・テュリン(るな・てゅりん)にそう指示を出した。上空からスプレーショットを打ち込み賊の足を止めるつもりだった。真里谷 円紫郎(まりや・えんしろう)の小型飛空艇が追従する。
それと同時に、賊の乗った小型飛空艇の前方に、酒杜 陽一(さかもり・よういち)、フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)、ソラ・ウィンディリア(そら・うぃんでぃりあ)、雨慈乃 橋姫(うじの・はしひめ)の小型飛空艇が回り込む。こちらは足止めをしようと考えたのだろう。
賊は急旋回で脱出を試みるが、すでにウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)とフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)の船が逃げ道を塞いでいる。
「そこまでだ!」
ウェイルは長剣状に変化した光条兵器を賊に向かって突きつけた。すでに包囲網は完成している。和泉達には降参の意を示す以外の選択肢は残されていなかった。
「アンタ達、やるわね〜」
捕縛した和美達を引き連れ、要人用の控え室にやってきた者達を雪之丞は賞賛の声とともに出迎えた。
「お役に立てたなら何よりです」
一同を代表して、蒼空学園体育教師酒杜 陽一(さかもり・よういち)が雪之丞に挨拶をする。
「日頃から小型飛空艇を乗り回しているだけあって、扱いも慣れたものね。うちの学校でもカリキュラムに入れた方が良さそうだわ」
手放しで褒め称える雪之丞に向かって、酒杜は一礼で答えると、ゆっくりと口を開いた。
「不躾ながら私達も警備の任に就かせてはいただけないだろうか?」
正式に依頼されたわけではないのに、他校がしゃしゃり出ては拙いことくらい酒杜も良く分かっている。しかし、テロによって家族を失った過去を持つ酒杜は、外務大臣来訪に伴い予想されるテロ行為を、止められるものなら止めたかったのだ。
真剣な表情で頭を下げる酒杜に、雪之丞はしばし考え込んだ。彼らの身元はすでに調査済である。過去の行動からテロリストとの繋がりは見受けられなかった。もちろん調査結果を鵜呑みにするのも危険だが。
雪之丞は側に控えるルドルフに一瞬視線を向けた後、酒杜達に向かって頷いた。
「そうね…教導団に協力を要請したものの、小型飛空艇部隊が手薄なのは事実だわ。この際だし力を貸してもらおうかしら。腕が確かなのは、さっき見せてもらったしね」
「やった!」
雪之丞の言葉に捕縛に参加した生徒達の間で歓声があがる。
興奮した様子でおしゃべり始める生徒達を、雪之丞は腰に手を当て睨み付けた。
「ただし、責任者であるルドルフの指示には必ず従ってもらうわよ。いいわね?」
もちろん異論は上がらなかった。功名心にはやる生徒達にとっては、またとないチャンスなのだから。
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