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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)
砂上楼閣 第一部(第1回/全4回) 砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)

リアクション

 空港内で爆発が起きる少し前、自称パラミタパンダのゆる族マルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)は、観光客向けの土産物屋を物色して回っていた。
「タシガンで高く売れそうな空京土産はないアルか〜?」
 脳天気な表情で土産物屋を覗き込むマルクスとは対照的に、パートナーの北条 御影(ほうじょう・みかげ)は真剣そのものだ。
 その鋭い視線の先には、街路樹に括り付けられた横断幕と、抗議のビラを配る少女達の姿あった。どうやら先に気がついた同じ薔薇学生の麻野 樹(まの・いつき)が注意に行ったようだが、自分も行くべきか否か。御影は悩んでいた。多くの人間が詰めかけても相手を煽るだけのような気もするから。
 地球の中で考えてみても、多くの国々が「世界平和」を掲げているにもかかわらず、今尚紛争が絶えないのだ。パラミタの人々が、突然やってきた地球人を良く思わないのは当然だろう。現に地球の要人の来訪が報道されただけで、このような抗議活動が起きるくらいなのだから。特に御影が住むタシガンは地球人排斥の気質が強い。今のところ、タシガンで大規模の抗議活動は起こっていないが、通りすがりに嫌みを言ってくる者や喧嘩を吹っ掛けてくる者に出逢うこともある。
 このような状況を、本日来訪することになっているイスラエルの外務大臣は知っているのだろうか。朝のニュースでは、外務大臣の来訪目的はパレスチナ人の受け入れ嘆願だと伝えていたが、それは本当なのだろうか。
 思考の海に潜っていこうとする御影を引き留めたのは、マルクスの叫び声だった。
「うぎゃぁ〜!!」
 普段ならばマルクスが多少騒いでいても、他人様に迷惑をかけていない限りは放っておく。しかし、今回に限っては何だか嫌な予感がした。
「どうしたマルクス!」
「何かが我にぶつかったアル!」
 マルクスは飛びつくようにして御影の胸にしがみつく。
 御影は慌てて辺りを見渡してみるが、先ほど巡回したときと比べて変わったところは見受けられない。禁猟区のスキルがあれば危険物の存在を察知することができるだろうが、あいにく御影もマルクスも禁猟区を持ってはいなかった。
 どうしたものかと考えあぐねていると、清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)が声をかけてきた。二人は別のエリアを巡回していたはずだが、禁猟区に反応があったため、こちらに回ってきたようだ。
「大丈夫、御影くん? ちょっと気になったから来てみたんだけど」
「すぐに調べてくれ。何か嫌な予感がするんだ」
 無言で頷くと北都とクナイは禁猟区を最大出力で発動させた。
 ブゥゥウウンという虫の羽音のような音をたてて、薄い光をまとった結界が辺りを覆い尽くす。
「そこです!」
 クナイは廊下に並べられていた椅子の下を指さした。
 そこはただの空間があるだけだったが、恐らく光学迷彩で隠れているのだろう。
 御影は迷うことなくクナイの示した場所にリターニングダガーを投げつけた。
「ぎゃっ!」
 小さな叫びとともに姿を現したのは、全身緑色の体毛に覆われたゆる族宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)だった。大きな赤い目に小さな身体。それはかつて地球人が想い描いた宇宙人そのものだった。
「ちっ、忌々しい守護天使だぜ」
 蕪之進は小さく舌打ちをすると、再び光学迷彩を使おうとした。しかし、御影はそれを許さない。手元に戻ってきたダガーを再び構えると蕪之進の足を狙って放つ。
「ぐぎゃぁっ!」
 ダガーは足の甲を突き抜け、床へと届いていた。こうなってはもう逃げられない。
「大人しく従っていただければ、これ以上の危害は加えません」
 北都にデリンジャーまで突きつけられた蕪之進は、渋々ながらも両手を挙げ降参の意を示した。
 空港内で爆発が起きたのはちょうどそのときだった。
 その隙をついて蕪之進は逃げようとしたが、彼の足下には見えない何かがあった。大きくよろけた蕪之進は、北都達によって再び拘束されてしまう。
「何だよっ、いったい!」
 忌々しげに毒づく蕪之進の足下で「見えない何か」が姿を現す。
「あらら、我、大活躍アルな〜」
 いつの間にか光学迷彩で姿を消していたマルクスである。一つ言っておくが、これは故意にではない。あくまでも偶然だ。危険を避けようと隠れていただけなのだが。
「大手柄だぞ、マルクス!」
「我に感謝するアルよ〜!」
 マルクスは意気揚々と蕪之進を雪之丞の元へと連行していく。
 その場にいた一般客の多くが、大手柄を上げた薔薇学生達に惜しみない賞賛の拍手を送る中、彼らに冷ややかな視線を向ける者がいた。
「あらあら、折角助けてあげようとしたのに、逃げられないなんて。ホントお馬鹿さんねぇ」
 蕪之進のパートナー藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だった。