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リアクション
●敵の狙いはここかもしれない。油断するな!
日が変わろうかという時間になっても、イルミンスールに人の姿が途絶えることはなかった。それは、もしかしたらイルミンスールが襲撃されるかもしれないということを危惧した生徒たちが、不審な者がいないか警戒を続けていることも一因であった。
「うう〜やっと着いた。ザンスカールは迷うよ……」
そんな中、イルミンスール内部入り口付近で、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が少々疲れた顔をして、そして辺りを見渡す。
「『精霊祭』もう終わっちゃったかなぁ……って、あれ? 何か変な雰囲気ね?」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったアリアは、まず事態の把握に努める。箒で空を飛んでいたイルミンスール生徒に話を聞けば、精霊が襲われたということを知る。
「その『黄昏の瞳』っていう人たちが、また精霊を襲うかもしれないんだね!? 分かった、私も護衛に加わるわ」
峰谷 恵と名乗った生徒が巡回のため飛び去るのを見送って、アリアが手持ちの武器を見遣って呟く。
「武器はこれしかないけど……まあ物騒なもの携えていても、精霊さんを不安にさせるだけだしね」
武器を仕舞ったアリアが見回りを始め、そしてしばらく行った道が分かれているところで精霊と思しき人影が視界に入る。
「あの、どうしましたか?」
「困ったわ〜、どっちに行けばいいのかしら〜」
『ウインドリィの雷電の精霊』ファリアと名乗った彼女は、襲われたサラを心配して見舞いに行こうとしていたのだが、校舎の場所が分からずに右往左往していたという。
「私も慣れてないから行けるか分からないけど、ひとりでいるのは危ないわ。私が付いててあげる。大丈夫、クイーン・ヴァンガードの名に賭けてお護りします」
「まあ〜、ありがとうございます〜」
アリアの申し出に、ファリアが満面の笑みを浮かべる。
それからふたりは、アリアが言ったクイーン・ヴァンガードのこと、ファリアが雷電の精霊ということで、雷の効率的な使い方についてなどを話しながら、校舎への道を歩いていった。
「キィル、オレから離れるなよ。何かあったらオレが守ってやるからな」
「おう! おまえなら頼もしいぜ、パパーっとやっつけてくれよな!」
森崎 駿真(もりさき・しゅんま)が、行動を共にしていた『ヴォルテールの炎熱の精霊』キィルに禁猟区を使って、襲ってくる者がいないか警戒をする。
「おや、駿真、見てごらん。あれはサラさんとミーミルさんじゃないかな」
セイニー・フォーガレット(せいにー・ふぉーがれっと)が示す先には、今しがた見回りを再開したミーミルとサラの姿があった。
「駿真さん、セイニさん、お疲れさまです」
「同胞を護衛してくれていたのか。感謝する」
「おー、サラ様ー! もう大丈夫なのか? まだどっか痛いとことかあるか?」
「いや、問題ない。あなた方には本当に世話になりっぱなしだな」
「いえ、これも自分たちのやるべき事だと思いますから。とにかく、回復して何よりです」
サラとキィル、セイニーが言葉を交わし合う中、駿真がミーミルに尋ねる。
「なあミーミル、この会場全体を禁猟区の結界で覆うことってできるか?」
「えっと、ここ全部を覆うとなると、危険を察知するくらいならできるかもしれないですけど、何かあった時に守れるだけの強い結界は、多分お母さんと一緒でも難しいと思います。だから、はぐれてしまった精霊さんがいないように見回って、皆さんが精霊さんを守ってあげた方が、私はいいと思うんです。その方が、お互いを知ることにも繋がると思いますしね」
つまりは、禁猟区の結界が広範囲になればなるほど、その効果は薄まってしまうということである。もし脅威が一点突破を図った場合は、結界が危機を知らせる頃には、無防備に晒された対象が攻撃を受ける可能性が出てしまう。今回の場合、最悪イルミンスールの建物は壊されても仕方ないとして、何より精霊自身を守る必要がある。
「ということは、オレたちがキィルや他の精霊たちを守れ、ってことだよな。分かった、そうするよ」
「ごめんなさい、せっかく言ってくれたのに応えられなくて」
「いや、いいんだ。キィルのことはオレとセイ兄が必ず守る。ミーミルも頑張れよな」
済まなそうな表情のミーミルに、駿真が首を振って答える。
「ミーミルがホストを務める、大事なイベントにケチをつけてくれおって……不届き者め、無事に帰れると思うな」
「お、お父さん、頼もしいけど顔が怖いですっ」
険しい表情を浮かべるアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)に、ミーミルが少々驚いた様子を見せる。
「……あなたは、ここが襲撃される可能性があると考えるか?」
アルツールの様子から大体の考えを悟ったサラが、アルツールに尋ねる。
「……敵の行動には不審な点が見受けられる。ただ誘拐して終わりというわけではないだろう。何らかの形で、敵の襲撃がこちらにもあると考える方が妥当だ」
「……なるほど。だからあなたは、迎撃のための準備を整えている、というわけか」
サラが納得の表情で呟く。既にアルツールは、エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)が使役する使い魔に森を警戒させ、シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)には近付く殺気を感知させることで、今この時襲撃が起きたとしても対応が取れるように準備を整えていた。
「ただ、相手は君を含む三名の精霊をねじ伏せた存在。例え先手を取ったとしても、その攻撃で相手を仕留められるかどうかは疑問が残る。アーデルハイト様が皆を纏めて迎撃してくれるのなら確実だろうが――」
「お父さん、私の思い違いかもしれないですけど……多分、アーデルハイトさんはそうしないと思います。今回のことは、私とリンネさん、それに皆さんだけで何とかさせようと私は思います」
「ふむ……だとしても、それでは失敗した時のリスクが大き過ぎるのではないか?」
アルツールの呟きに、今度はサラが答える。
「私はそのアーデルハイトとやらに会ったことはないが……想像するに、見極めようとしているのではないだろうか。人間……ことにイルミンスールに関わる者と、私達精霊とが本当に手を取り合い、これから起こりうるかもしれぬ危機を脱することが出来るかをな。……まあ、もしそうだとして、偶発的に起きた事件をそのように利用するなど、確かにあなたの言うようにリスクが大きいな」
「あるいは、お母さんのことですから、「あなたは私の子なんですからぁ、これくらい一人で出来て当たり前ですぅ〜」とか思ってそうです。お母さん、結構厳しいですから♪」
エリザベートとアーデルハイトの真意はともかくとして、ミーミルの真似たエリザベートの言葉は、確かにそう思わせるような説得力を含んでいるように思えた。
未だ人間と精霊の喧騒が絶えないパーティー会場、そこから周囲に茂る木々の間を跳びながら、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)と蘭華・ラートレア(らんか・らーとれあ)、アリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)が偵察を行っていた。他に巡回を行っている者たちと時に連絡を取り合いながら、三人の監視の目が光る。
「蘭華、アリシア、何か見つかりましたか?」
「特に異常は見当たりません、マスター」
「ワタシの方も反応はないよ、翡翠君」
蘭華に内蔵された観測機器、そしてアリシアの超感覚による観測が周囲に対してなされる。今は不審な点は見当たらないようだ。もちろん、敵が人間と同じ体温の仕組みであるかどうかも、もしかしたらそういった手段に対する抵抗を持っている可能性もあるため、見落とす可能性もないわけではないが、視認による確認よりは確実であることに違いはない。
(もし向こうが囮で、手薄になったこっちを狙われでもしたら、精霊さん達との関係がもっと悪化するかもしれませんからね……それでいて派手に動いては怯えさせることにもなりますから、気を使いますね)
それでも、人間と精霊との関係構築のためには、ここで偵察を怠るわけにはいかない。翡翠は二人に頷いて、より人気のないところへ迅速に、しかし静かに向かっていく。
「……熱源を感知。左方向、15メートル先」
ある程度進んだところで、先に蘭華が反応の出現を告げる。数メートル付近まで近づいたところでアリシアも、自らの感覚に反応のあることを告げる。
「ひくっ、えぐっ……おねえちゃん、どこぉ……」
地面に降り立った翡翠は、木の陰で泣きじゃくる幼子のような精霊にそっと近づいて、声をかける。
「大丈夫ですか? どうしましたか?」
「うぅ……おねえちゃんとはぐれちゃったのぉ……」
聞けば、精霊祭を楽しんでいたところ、事件が起きたことによる騒動に巻き込まれ、一緒に来ていた他の精霊とはぐれてしまったのだということだった。
「大丈夫だよ。一緒にいてあげるから、泣かないで、ね?」
「うぅ……ありがとぉ、おねえちゃんっ」
『クリスタリアの水の精霊』スワンが、アリシアにひし、と抱きついて安心した表情を浮かべる。
「他にもはぐれた精霊がいないか、敵のことと合わせて偵察してみましょう。蘭華、二人背負って問題ないですか?」
「……まだ問題ありません。ですが、この状態で戦闘となると、流石に」
「そ、その時はワタシ、降りるよ。この子も守らなくちゃだし」
アリシアの胸の中で、スワンがすぅ、と寝息を立てていた。
「はぐれていた精霊を確保したという報告が入りました。大分混乱は収まってきたように見えますけど、まだ何かあると見ていいでしょう。油断せず、警戒を続けましょう」
他に警戒を行っている者からの連絡を受けた安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が、隣を行くクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)に告げる。
「何かあった時に、ここをがら空きにしておくわけにはいきませんものね」
内心では無茶をしがちな和輝のことを複雑に思いつつも、クレアも意識を周囲に集中させる。
(向こうがキメラなどの派手な手段を取ってくるなら、まだ続きがあるでしょう。もしかしたらここが本命かもしれません。そうなればミーミルさんも狙われることに――)
思案していた和輝の視界に、今まさに心配の種であるミーミル、そしてサラが映る。
「和輝さん、クレアさん、お疲れさまです」
「同胞が世話になっているようだ、感謝する」
二人を労うミーミルに、和輝が声をかける。
「もしここが襲撃されることがあれば、ミーミルさんも危ないです。私とクレアでどれだけ食い止められるか分かりませんが、危なくなったら逃げてください」
「…………あ、そ、そうですよね。心配してくださってありがとうございます」
不自然な間の後に口を開いたミーミルに、もしかしてとばかりにクレアが答える。
「あの、もしかして、自分が狙われるかもとか、考えてなかったのですか?」
「えと、その……精霊さんのことばかり考えていました」
苦笑するミーミルは、和輝に言われるまで、精霊を守ることばかりを考えていて、自分が対象となる可能性があることを万一にも考えていなかったのである。
「豪胆というか、何と言うか、だな」
「ごめんなさい……」
「いえそんな、謝ることではありませんよ。……しばらく、ミーミルさんに付いていた方がいいでしょうか」
「そうした方がいいかもしれませんね」
そして、和輝とクレアを加えて、ミーミルとサラは他に警戒を行っている者への労いと共に、危険がないか、はぐれた精霊はいないかを見て回っていた。
(うーん、心配していたことが起こっちゃったみたい。これで精霊さんとの関係が悪化したら大変だし、他の精霊が連れ去られる可能性も否定できない。同じようなことは二度と起こさせない!)
決意を固めた表情の神和 綺人(かんなぎ・あやと)が、意を決してパートナーたちに呼びかける。
「クリス、ユーリ、僕達も行くよ!」
「うぅ、見回りをしていたのに、このような事態を招いてしまうとは……せっかく、精霊祭を楽しもうかと思っていましたのに……」
「……クリス?」
「ハッ!? い、いえ、何でもありません。アインストの方々が出払っているこの間、私達が精霊さんをお守りしましょう!」
計画が狂ってしまったのを残念に思っていたクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が、綺人に呼ばれて慌てて返事を返す。
「……起こってしまったことは仕方ない。大事なのは、二度と起こさないようにしないことだ」
ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)の言葉に綺人、そしてクリスが頷いて、一行は周辺の警備を開始する。出店が並んでいた通りを抜け、生活雑貨を取り揃える店先を駆け抜けた先、集光灯のもたらす光が途切れた区画で、先頭を行く綺人は腰まで伸ばした髪を揺らした女性が、直ぐ傍の建物の影に入っていくのを目撃する。
「クリス、今の見た!?」
「このような場所に一人でいるなんて、危険ですね。私が声をかけてきましょう」
三人の中で最も防御力が高いクリスが、不意の事態に備えをして女性の後を追う。クリスが建物の影に消えるのと、声が聞こえてくるのはほぼ同時のことだった。
「あなた、一体何を――くっ、は、離しなさい!」
「綺人!」
「ユーリはサポートをお願い!」
言って、綺人も武器を抜き放ち、クリスが入っていった場所へ身体を滑り込ませる。そこで展開されていたのは、腕を掴まれもがく女性と、女性の腕を掴む、黒のローブに身を包んだ男性と思しき者、そして武器を構え、突入の機会を伺うクリスだった。
「ちっ、増援がいたか」
男が舌打ちして、女性を突き飛ばす。そして、入り組んだ路地の方へと駆けていった。
「アヤ、私はあの者を追います! アヤはその方の介抱を!」
言い放ったクリスに綺人が頷いて、壁にうずくまる女性、精霊に近付く。
「大丈夫ですか!? ユーリ、彼女に癒しを」
「ああ」
ユーリが癒しの力を施している間、綺人が『ウインドリィの雷電の精霊』ユーニスに話を聞く。
「不審な動きをした方がいらっしゃったので、いけないと思いつつも後をつけてましたの。そうしたらその方が、地面にあのような物を置いて何かしていたので――」
ユーニスが指した先には、拳大のカプセルのようなものと、それから伸びるコード、そして四角い箱が地面に置かれていた。
「まさか……時限爆弾!?」
声をあげる綺人に、ユーニスが首を振って答える。
「いえ、私はあの男が、ここから生物を攫っていったのではないかと思ったのです。あの球体のようなものには、生物の感覚が伝わってきます」
「生物……? とにかく、確認してみよう」
綺人が近づいたところで、男の後を追っていたクリスが戻ってくる。
「ゴメンアヤ、見失ったわ」
「そっか、残念だけど、気にしないで。それより、僕に付き合ってくれないか」
言って綺人が、クリスを控えさせた上で目の前の四角い箱に微弱な雷術を撃ち込めば、プツン、と音がして活動を停止する。爆発などの危険がないのを確認して、綺人がカプセルを慎重に掴み上げる。
「これは一体何でしょうか?」
「そこまでは私にも……ただ、良くない利用をされそうになっていたのは、間違いないと思うわ」
「そうですか。……校舎に行けば、知っている人がいるかもしれない。そこに戻ろう。えと、ユーニスさんも、ここにいては危険ですから、僕たちと一緒に行きましょう」
「ええ、ごめんなさいね、お願いいたしますわ」
綺人がユーニスを加えて、カプセルを仕舞って校舎へと向かっていく。
不審なカプセルを見つけたという知らせは、警備をしている他の生徒達に迅速に伝えられていく。ペアを組んで巡回を行っていた天城 一輝(あまぎ・いっき)とローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)のところにも、同様の連絡が伝わっていた。
「それを見つければ、事前に戦いを阻止できるかもしれないんだな? よし、分かった。……ローザ、怪しげな丸い形をした物を探すんだ。傍にある四角い箱の装置を切れば、回収できるそうだ」
「分かりましたわ。では、私達はどの辺りを探しましょう?」
他の生徒との連絡が交わされ、まだ巡回の頻度が薄い地域を特定した一輝が、ローザを連れて該当する地域へ向かう。そこは、イルミンスールでも特に変わり者が集う、『知識の倉庫』と呼ばれている――そこに住む者が勝手に命名しているだけである――地域だった。
「ここだ。おそらく建物の影が怪しい、まずはそこを重点的に探すんだ」
二人で手分けして、建物と建物の隙間、影になっている箇所をくまなく探していく。途中研究者と思しき人物と目が合うが、特に興味がないのか何も言うことなく研究に没頭していた。
「……ん?」
その矢先、一輝の視界に、ふらふらと建物の影に隠れる少女の姿が映り込む。
(何故、こんなところに少女が……? はぐれた精霊か?)
不審に思いながらも後を追った一輝は、なおもふらふらと歩く精霊と思しき少女、そして少女の前に連絡に受けた、球体と四角い箱を発見する。
「あうぅ、また迷いましたぁ……お腹空いたですよぉ……おや、何かありますねぇ……」
無警戒に近づいていく精霊は、しかし目の前で人影に遮られる。
「待て、それ以上近付くな」
「……あわぁ!!」
突然のことに驚いて、精霊が飛び退き、そしてつまづきごろごろ、と地面を転がる。
「一輝!? 声が――」
姿を表したローザの前で、びたん、と仰向けに倒れ込んだ精霊が目を回す。
「……目的の物を発見した。あと、そいつに何か食事を与えてやってくれ。確かコレットにもらったクッキーがあったろう」
一輝が、今はお茶会の準備に忙しいであろうコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)の名を出す。解除に向かった一輝の背後で、ローザが倒れ込んだ『クリスタリアの氷の精霊』ティスタの介抱を行っていた。
「確かに、精霊にも手伝ってほしいとは思いましたけど……まさかこれほど集まるとは思っていませんでした」
「オゥ! 賑やかなのはいいことネー」
赤羽 美央(あかばね・みお)とジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が、目の前に集まった精霊たちに驚きの声をあげる。
「これで全員か? タニアちゃん、ありがとな!」
「いいえ、周さんの『助けたいのは精霊も同じ』という思いは、共感できますから。……所構わず女性に声をかけるのは、どうかと思いますけど!」
鈴木 周(すずき・しゅう)にお礼を言われた『ウインドリィの風の精霊』タニアが、しかし周自身にはあまり好意を示さない様子で、一緒に来ていた『ウインドリィの風の精霊』シウスのところへ戻っていく。
事の発端は、美央が一緒に手伝ってくれる精霊を探していたところに、「なんなら俺が集めてやる! 精霊も美人のおねーさんを助けたいって思ってるはずだ!」と周が考える前に行動を起こしてしまったことから始まる。美央としては『パトロールのための』つもりだったのだが、精霊も連れ去られたセイランとケイオースのことを気にしており、できるなら救出の手伝いをしたいと思っていたようで、この騒ぎになっているのであった。
「さーて、集まってもらったのは他でもねぇ。勝手な事だと思うんだが、俺たちと一緒に誘拐された美人のおねーさんを救いに行かねえか!?」
(これだけ集めておいて、今になって勝手なことだったと言いますか……それに、美人と決まったわけでもないでしょうに)
美央が心の中で皮肉を呟く。ジョセフは賑やかなのは歓迎なので、上機嫌であった。
「案内してくれた方の助けになるのでしたら……それに、カヤノさんとレライアさんも頑張っているのに、わたしだけ留守番というのも心苦しいわ」
「わたくしたちの手で、ぜひセイラン様を!」「助け出して!」「キャンプファイヤーを、知り合った方に見せて差し上げますわ!」
「やさしいおじさん……たすけるの……」
「興味の尽きぬ話を聞かせてくれた彼とは、これからも付き合いをしてみたくてな」
「あいつ、オレのケツを散々引っ叩いておいて、自分だけ行っちまうなんてずるいぜ! オレも連れてけってんだよな!」
『クリスタリアの水の精霊』ユリネと『サイフィードの光輝の精霊』エレン、ネーファス、メリル、ハルカ、『ナイフィードの闇黒の精霊』ウレイヌスとカカが、自分と交流のある生徒のことを思いながら、自らの決意を語る。
「よっしゃ、その気は十分みたいだな! タニアちゃんとシウスはどうすんだ?」
「私は……ここに残ってようかな。ほら、流石に全員向こうに行っちゃうのもどうかなって思うし。それに私、彼女と一緒に行動してみたいなって思ったんだ」
「そうですか。私は皆と向かいます。私の力がお役に立てるのでしたら、ぜひ」
頷いたタニアが、この中で流石に幼いハルカに一緒に留まるように説得した後、シウスの横を離れて美央の隣につく。
「わ、私!?」
「迷惑だった?」
「いえ、そうではないですけど……」
「ハハハ、ミーはジョセフネ、ヨロシクネー」
突然そんなことを告げられ、美央が戸惑いつつ行動を共にすることを了承する。
「よし、それじゃ行くか! 先に行った奴ら、援軍が来るとか思ってねーだろうから、きっと驚くぜ!」
周を先頭にして、意思を固めた精霊がその後に続く。今ならまだ、転送魔法陣は稼働しているだろう。
「……みんな、無事に帰ってくるといいね」
「……うん」
「……はい」
残されたタニアとハルカ、そして美央、ジョセフは、今頃救出に向かっているであろう者たちの安否を気遣いながら、自らのやるべきことに足を向けていった。
「ほう、これは……」
生徒から届けられた、拳大のカプセルをまじまじと眺めて、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が呟く。エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)はすやすやと眠りについている。
「これをディルに見せれば、研究も進むやも知れぬな。……ディルはいい思いはしないじゃろうが、いずれ必要になるじゃろう。……キメラのこと然り、ミーミルのことも――」
アーデルハイトがカプセル、キメラを収めていると反応の出た代物に封印を施す。
(さて、どうなるか。これで終わり、というわけにはゆかぬじゃろうな。……厳しい戦いになるじゃろうが、期待しておるぞ、リンネ……)
今頃はキメラと対峙しているであろう生徒のことを思い、アーデルハイトが水晶に掌をかざす――。
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