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リアクション
第5章 遙かな私
再度突入した機動打撃部隊は再び降車戦闘を行っている。
「もうちょっと、寄せて!」
林田 樹(はやしだ・いつき)がいうと、AFVは外側に流れた。再び降車戦闘の指示が出ると林田は後ろのドアを開ける。
「ちょっと早いんじゃないの?」
運転している緒方 章(おがた・あきら)が声を掛けた。
「遅れ気味だからね。急いで展開しないと」
結構乗車、降車は大変だ。銃を持って飛び降りる。
「AFVからの攻撃も重要だと思うんだけどね」
「あんころ餅はAFVに乗っていればいいのです」
ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は憎まれ口を叩くと林田に続いて降りた。
「敵も立て直しが早いぜ」
イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)はやはり斬り込みを行っている。さすがに今回は素早い斬り込みがかなり功を奏している。その後、林田に近づく。
「あんまり、遠出すると危ないのではないか?」
ライフル構えて林田も近くに寄ってくる。
「オーク兵を近くに寄せるわけには行かないぜ?」
自爆するオーク兵は近くに寄せると大損害を出す。近寄られる前に叩かねばならない。
「とにかく、オーク兵らしきのを見つけたら全力で叩く」
「解った。こっちは歩兵を蹂躙して回ることとする」
ちなみにこう話している間にも走っている。近寄ってくる歩兵をトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)がアーミーショットガンで牽制する。
「それにしても、チューリップがショットガン?」
珍しい草花系ゆる族のロットがショットガン持って走り回る姿はある意味怖い。
「ええ〜?、近距離なら有効だよ?」
「それはそうだがね」
現状で敵の歩兵は怖いが最重要なのは大蠍とオーク兵だ。火力支援部隊の陣地にオーク兵を近寄らせるわけには行かない。
ばっさばっさと切り伏せていくセルベリアであったが周りをちらちら見ている。
「敵の立ち直りが早いのではないか?」
「車両があることは敵も解っているから、連中も研究しているのであろう」
オーク兵とおぼしき姿を見たら林田は早速集中して弾をたたき込んでいる。
「急がないと取り込まれるぞ」
「それは解っている。緒方は?」
「あんころ餅〜」
フロイラインが振り向く。緒方はヒロイックアサルトで「チャフ」を行っているが混戦に近い状況では効果が薄いようだ。
機動打撃部隊はガリゴリと敵兵を削り倒す様に切り裂いているが何分敵は数が多い。こちらの損害も馬鹿にならない。エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)とフェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)は負傷者をせっせと運んでいる。
「これで、いい。けど」
ステファンスカはヒールで負傷者を手当てしたあと、周りを見渡す。AFVは前進しているのでどうしても遅れ気味になる。
「こりゃ後続のトラックに乗せるしかないねぇ」
「とにかく敵の脚を止めないとまずいかも」
そう言うアシュケナージはなぜかエレキギターを背負っている。そしてそれを正に構えようとした。
「何やってるのかなぁ〜?」
「私が歌で敵を一時的にせよ、押さえつけます」
ミンストレルとして自信満々のアシュケナージ。
「……一つ問題がある……」
「何ですの?」
「ギターの電源はどうするのかなぁ?」
「はうぅぅぅぅぅっっ!楽器の選択を間違えました!」
普通のギターの方が良かったらしい。
「かくなる上は!」
なぜか声をハモらせる二人。どどん!と煙幕ファンデーションを張って負傷者を運びながらすたこらさっさと走っていく。
松平も高周波ブレードで敵を切り裂いていたが次第に車列が長くなっているのを気にしている。今の所側面やや後ろ側にいる。もたついていると後ろから攻撃される。
その様子を見て取ったファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)は背中のブースターユニットを使い飛び立った。十数メートルの高さで高速になると一気に空から歩兵の群れに対して攻撃体制に入った。
「さあ、行くぞ!」
武器として薙刀を構えている。これで一気に切り払うべく高速で突っ込んだ。進路上の敵兵は一斉に伏せる。その上をナイトは高速で通り過ぎる所である。進路上の敵の一人が寸前で山刀を上に突き立てた。
「ぐわっ!」
引っかけられたナイトはそのままの勢いで地面に叩きつけられた。ぐしゃっと音がする。低空で攻撃しようとすると敵も割と簡単に対処できる。空が飛べれば勝てるわけではない。だからこそ、今回、ワイヴァーンを使用するのにわざわざ敵を森に引き込んでいるのである。その辺りの意図が理解できていないようだ。
それを見て慌ててグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)とレイラ・リンジー(れいら・りんじー)が銃を構えながらやってくる。交互に三点バーストをしながらの前進だ。二人は一番後ろのAFV周辺で敵兵と撃ち合いをやっていたがナイトが落っこちたのを見てこっちに来た。二人はそのまま射撃をオートに変えて弾をばらまくがすぐに弾薬が切れてしまう。敵も状況は同じであるが、数が多いのでこちらは不利だ。
「悪いけど、そっち持って」
クレインが言うと。リンジーは頷いた。リンジーはあまりしゃべらず。首を動かして返答する。割と力があるのか脚を小脇に抱えるとリンジーは片腕でフルオートで射撃しながらじりじり後退する。言うまでもなく、クレインはそれなりに狙っている。
「敵兵は後から追いかけるつもりです」
「それは解っているけど」
運んだまま後ろのトラックまで来る。そこを狙われたらたまらない。
「おしっ、こっちによこせ!」
ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)がナイトをトラックの荷台に乗せる。
「早くしろ、これが殿だ」
クレインも荷台の後方に取りすがる。それをバウアーが引っ張り上げる。と、そのとき、げしっと蹴飛ばされてバウアーは落っこちた。
「あはははははは。あら、脚が滑っちゃったわ」
水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は荷台に仁王立ちで高笑いしている。
「てめえぇぇぇ!」
置いて行かれたバウアーはぐんぐんと離れていく。
一方、火力支援部隊も鋭意戦闘中だが、当初の予想とは若干異なる展開になっている。もっとも敵の圧力が強いだろうと思われていたのは機動歩兵大隊の所だろうと予測されたが、現状で何とか持ちこたえている。一方、崩れそうなのがその斜め後ろに展開している第3歩兵連隊だ。早々に予備兵力の強襲偵察大隊を投入する羽目になっている。
「なんか、第3歩兵連隊の方が危なそうですね」
第4歩兵連隊の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)少尉は何やら煙が上がっている右手を見て言った。第4歩兵連隊は第3歩兵連隊のさらに左斜め後方にある。
「突入されているでありますか?」
比島 真紀(ひしま・まき)少尉が聞き返した。その直後ズドーン!と土煙が第3歩兵連隊の方から上がった。
「ありゃあ、オーク兵の突入を許した様だよ」
サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)はドラゴニュートで目がいいためか、そう見て取った。
「いかんなあ」
さすがに戦部は唸った。現状で機動歩兵大隊と第4歩兵大隊は敵を防いでいる。特に第4は一番練度が低いにも関わらずである。機動歩兵連隊では月島が、第4歩兵連隊では戦部がアサルトライフルの弾幕を活用して敵を食い止めている。実際、敵の頭を押さえ、突入を防ぐには弾幕を張るのが効果的である。そう言う意味ではアサルトライフルをうまく使っている方が防衛戦力は高い。戦部は火力を過信せずにアサルトライフルを持った歩兵を基準に防衛を考えており、そしてそれは成功している。逆に単体の武器威力にこだわった連中はそれほど効果を上げていない。
「兵の基幹は歩兵だぞ」
古来より現代に至るまで陸戦の勝利条件を端的に言うと『目的地を歩兵が占領すること』である。歩兵が21世紀現在、存在する理由もまたしかりである。
「どうするでありますか?」
比島もとにかく、敵を一定距離以上で追い散らすことを最優先と考えている。敵を食い止めて時間を稼ぐのが重要だ。口でそう言いつつ実際には敵の撃破に目がいっている者が多いが比島は追い払えればいいと考えている。戦部は首を軽く動かした。
「ちょっと出てこようと思う」
「ここで離れるのはまずいのでは?」
金住 健勝(かなずみ・けんしょう)としては陣地でこのままがっちりと防衛していたい。実際、現状でうまくいっている。すでに何匹かの大蠍を屠っている。敵歩兵やオーク兵は比島や戦部がモモンガ兵と一緒にアサルトライフルの弾幕で食い止めている
「ああ、我としてもこのまま保持していたいが第3を抜かれれば分断される。ちょいとちょっかいを出してこっちに引きつけよう。それだけだ。我としてもこのまま籠もって防衛することに異存はない。ちょっと来てもらいたい」
そう言って戦部は金住を連れ出す。
戦部と金住ら少数が姿勢を低くしたまま陣地を出る。陣地では比島が弾幕で敵を牽制している。
そのまま第2匍匐で少し前にでたところで戦部は手で制した。
「ここから狙えるか?」
「出来るであります」
「細かくは命中させなくていい」
「了解であります」
金住はAMRを構えるとやや側面から第3歩兵連隊を狙っている敵兵の集団に向けて素早く射撃する。もとより命中を狙っているのではない。実弾で挑発だ。途中からズドンズドンと派手に煙が上がる。
「よし、逃げるぞ」
敵兵は乱れているようだ。その間に強襲偵察大隊が穴ふさぎに入る。
そのとき、一弾が戦部を襲った。ひっくり返る戦部。
慌ててリース・バーロット(りーす・ばーろっと)が助け起こす。
「き、傷は」
「かすり傷だ。……ヒールは後だ。先に陣地に行く」
腕に弾がかすった様だ。しかし、金住はAMRを抱えているので、これ以上手を貸せない。
陣地手前では出城の様になっているところがあり、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)がいた。ヴェーゼルはオークの自爆兵から陣地を護るため前方に保塁を築いている。決死隊を募って損害を引き受けるつもりであったが応募してくるものがおらずほとんど一人で出張っている形になっている。
「こっち、こっちだ」
保塁は幸い深めに掘られているので待避場所としては悪くない。
「出過ぎではないのか?」
「いや、出来るだけ横からでないと効果がない。これ、便利だな」
保塁を見渡して戦部が言うとヴェーゼルはやや憮然としている。
「人があつまらんのだ」
「第4だからだろう。この間加わったばかりの連中に決死隊参加を求めるのは酷だ。機動歩兵大隊の前なら参加する奴もいただろう」
陣地からレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)がずりずり這ってくる。
「金住さん……。これ!」
そう言ってアラトリウスは金住に弾倉を押しつけるとバーロットと同様戦部に肩を貸す。
弾倉を装着した金住は追ってくる敵兵に一発ぶっぱなす。それを見た比島が合図すると一斉に弾幕で敵を食い止める。これにより、若干第4が敵兵を引きつける形になり、第3も何とか持ち直した。
一番圧力の厳しい機動歩兵大隊でも敵が突入を試みては追い返されている。特に大蠍やオーク兵もなかなか近寄れない。実はそれには訳がある。
「大分、圧力は減ったみたい。機動打撃部隊は上手くやっているようね」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はちらりと陣地の外を見ている。
「ああ、それにしても、敵はほんと、数が多いよなあ」
ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)少尉は煙草に火をつけた。
「メルヴィン、本日5本目でござるぞ?」
音羽 逢(おとわ・あい)がジト目で言った。
「おおっと、副流煙があったか、でも郊外だし」
「敵第六波来ます!」
ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)の声にそれまでのちょっとした戦闘の合間、わずかな静けさはあっという間に吹っ飛んだ。
「それにしても、ほんとにしぶといな」
キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)も敵が大軍で攻めてくるのでそろそろ疲れが出てくる。何度も波状攻撃を喰らっていると次第に神経が参ってくる。また、気がつかないうちに機械的な反応をする様になり、敵の動きに反応が鈍くなったりする。これを利用していきなり、攻め口を変えたりする場合があるので決して安心はできない。数が多い方が有利というのは損害を吸収できる度合いが大きいことやこういった心理的圧力も含む。少数の教導団側は全力で相手しなければならないので息切れしやすい。
再び準備射撃を煙幕代わりに敵兵が接近してくる。もちろんメインディッシュの大蠍にオーク兵のデザート付きのフルコースだ。双方が一斉に射撃を開始した。特にここを抜けばかなり第3師団側の態勢を崩せるので敵も結構集中的に狙ってくる。
そのとき、AMRが火を噴いた。轟音と共に大蠍は吹っ飛ばされる。かなりの遠距離で的確に大蠍を屠る。これは重要だ。敵も大蠍の影に隠れて接近を図るので遠距離で倒した方が有利である。
撃ち尽くすと素早く音羽が弾倉を差し出す。一方でフェルマータがパワーブレスで支援する。そのため、メルヴィンの負担は最小限になっている。索敵はマキャフリー、射撃はメルヴィン、装填は音羽、支援がフェルマータである。ある意味、対戦車砲チームが完成していると言っていい。そのため、機動歩兵大隊に近寄る大蠍はことごとく返り討ちになっている。そうなると、敵はいわゆる突破戦力がなくなるため弾幕で容易に近づけない。影に隠れてオーク兵が近寄ることも難しいからだ。
「いやあ、女の子に囲まれているって言うのはいいねえ〜」
「ルースさん……いつもどうりですね」
マキャフリーは双眼鏡を外して横目で見ている。ちゃんちゃんちゃーん♪サスペンス劇場いつでも準備完了と言う感じだ。
「うう、あんまり出番がないぜ」
アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)は万一に備えて白兵戦の準備をしているが今の所必要性は見受けられない。
「腐るでない。腐るでない。切り込まれていないのはこの場合僥倖でござろう」
音羽が手を振っている。音羽も有り体に言って白兵向きなので現状は弾倉運びに徹している。実際、陣地で白兵をやるようならこの場合負けである。
「一応、あれって上手くいってるんだよねえ」
フェルマータが念を押すように再び言った。大分向こうでも土煙が上がっている。おそらくは機動打撃部隊が突撃を繰り返しているのであろう。
「多分、なのでこちらの圧力は大分減っていますが」
マキャフリーはぐりんっと周りを見渡して言った。そこに塹壕を通って曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)がやってくる。
「済まない〜ちょっと確認してほしんだけどお〜」
「どうしたの?」
フェルマータが怪訝な顔をする。
「向こうの辺りに敵兵が固まっているところがあるだろう。あの辺を確認できないか?」
そう言われると、左前方大分遠くに敵兵が円陣よろしく固まっているところがある。マキャフリーが双眼鏡で確認すると、何やら少し身なりの違う連中がいる。
「やはり、司令部か指揮官だな」
曖浜はそれほど遠くないところにいると考えている。物資集積所は大分後ろだが司令部はそうではない。
「ちょっと一発ぶち込んでみるか?」
「できるのかなあ〜」
「距離ぎりぎり」
「だろうねぇ〜」
メルヴィンと曖浜のややとんちんかんに聞こえる会話の後、メルヴィンはそちらに一発ぶち込んだ。損害は出なかったようだが、慌てたようでそのまま後方にじりじり下がっていく。曖浜はその中にヴァルキリーがの姿を見たように思った。
「そのうち、そのうち必ず……」
そう呟いた。
長駆、第1騎兵大隊は進んでいる。まず、手早く150高地の裏側に入り込み戦場から確認できにくくする。そこで大隊は細かく分散し、森林地帯周辺の捜索に入る。
「急がないとならないぞ」
「解っている」
クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)に言われ、大岡 永谷(おおおか・とと)はやや押し黙るような感じで返答した。総戦力では敵の方が圧倒的に多い。練度が高いので簡単にはやられないだろうが、時間がかかるとじわじわと戦力をそぎ取られてしまう。早く物資集積所を叩かないと味方は消耗してしまう。
概ね小隊単位に分かれ、一斉に捜索を開始する。
そこから大分離れた、というか火力支援部隊陣地よりさらに後方では発進準備が進められている。
「騎兵部隊は捜索に入った模様であります。早急に発進して空中待機であります」
マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)少尉は連絡を受けて直ちに作業を進めさせる。捜索部隊の連絡が入ったら直ちに爆撃できるよう爆弾を抱えてワイヴァーンを待機させておく予定だ。
「いやああああっ!何ですうぅぅ〜これはあぁぁぁっ!」
朝野 未那(あさの・みな)は悲鳴を上げた。出撃準備中のワイヴァーンがおかしな色にペイントされているからだ。上は緑色、下側はくすんだ灰色である。
「ええ?ほらほら、迷彩迷彩」
カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)はペンキをぺたぺた塗っている。
「迷彩って……そんなことしちゃ可哀相ですぅ〜」
「うむ、低空飛行をするとなれば対空砲火が心配である。そこで迷彩をすることで少しでも視認性を低くするのである」
ランカスターはもっともらしく説明する。
「朝野准尉がまかり間違えても撃墜されるような事があってはならないのであります」
ずずずいっと前に出て力説する。そう言われると朝野 未那としては弱い。
「まあ、とりあえず……実験実験!」
妙にポーズを合わせて踊るランカスターとスポルコフ。
「それにい〜。ほらほら冬だから脚元カバーも作ったんだよ?」
スポルコフがいかにも私は無邪気でございますといわんばかりの表情で言う。確かに足元に防寒用のカバー?らしきものが取り付けられている。
そこにやってきた朝野 未沙(あさの・みさ)准尉もさすがにその姿を見て愕然とする。
「何か……とっても恥ずかしいんだけど私」
「何をまた。これなら下から見たときに空の色に近い」
ランカスターは再度説明する。確かにいわゆる『零戦南方塗装』である。下から見たときの迷彩効果は考えられるが果たして通用するか?
「とにかく、現状は捜索中ですよねっ!すぐに上がります」
「落としている暇ないよねえぇ」
未那もがっくりしている。
「多分、交代で攻撃することになるから第二次攻撃の準備しておいてね」
「了解、第二次攻撃は爆弾じゃなくて油入れた樽にするね」
朝野 未羅(あさの・みら)もいろいろ準備している。
早速ワイヴァーンに跨った朝野はそのまま発進する。続いて次々とワイヴァーンが続いていく。
さて、こういうときいらんことする筆頭はなんと言っても国頭 武尊(くにがみ・たける)である。国頭はいきなりあちこちに放火を始めた。
「それにしても、集積所は一体どっちだ?」
実際、一人で歩いて森の中を探している。実際、茂みは濃く視界はよく見えない。
「まあいい、騎兵部隊が囮になってくれれば、こっちとしては仕事がしやすい」
国頭としては騎兵部隊の方に敵を仕向けて自分が集積所を襲っちゃおうという大胆な考えだ。しかし、なかなか方向がはっきりしない。第一、全く離れているかもしれないのだ。
「えーい。よくわからん」
とか言っていると自分のつけた火がだんだん広がっていく。気がつくと周り中にちろちろ炎が見える。
「ちょっと待て、こりゃやばいんじゃねえのか?」
視界の効かない森林でむやみに火をつけると想像以上に火が早く回ることがある。山火事で結構多いのが煙草の火によるものでしかも煙草を捨てた本人が巻き込まれるケースはよくあるよくある。国頭は右往左往し始めた。
その頃、じりじりと進んでいく大岡である。
「さて、この辺じゃないかなあ」
そう思って探していると前方に人影がごそごそ動いた。しかもものすごい勢いでこちらに向かっている。
「くっ!敵か!」
大岡はアサルトカービンを構えると一斉射加える。すると向こうからも斉射が返ってくる。
「くそ、このままでは危ない」
近寄られると不利である。回り込むように三点バーストを繰り返しながら大岡は右側の森へ走った。相手側も撃ち返してくる。そのまま敵から一端離れるようにして移動を試みる。この際だ、こいつを利用しようと大岡は叫び声を上げた。
「敵襲!敵襲だああああっ!……あれ?」
いきなりちょっと開けた所に出た。そこにワイフェン族とおぼしき狼ゆる族の姿が見える。物資の袋を積み上げているところだ。こちらに気づいたのか大声を上げて動き始めた。
大岡はさっきまで撃ち合い殺し合いをしていた後ろの方を見た。すると、アサルトライフル構えた国頭である。
「何やってんだお前はぁぁぁぁ!」
「それはこっちの台詞だあぁぁ!」
そこにものすごい勢いで斉射が加えられる。二人は地べたに伏せると急いで逃げ出す。その際、大岡はしっかり信号団拳銃を取りだして空に向ける。
気の抜けた音が天高く上がると、どどんぱ!と破裂した。続いて近くにもう一発上がる。
上空でそれを見ていた朝野は色を確認する。
「緑と……青……あそこね」
信号弾の色で場所の方角を示している。二カ所で発射して方角から位置がわかる。
「全機!突入開始!」
風を切ってワイヴァーンは一気に降下する。真下は森林であり、果たしてそこが集積所かどうかは解らない。しかし他に目印はない。
「投下!」
樽が投下され、森林の中に吸いこまれていく。一瞬の間を置いて爆発が起こった。木々がなぎ倒される。すると、吹き飛んだ兵士や物資の箱が見える。
「ビンゴ!続いて攻撃して!」
次々とワイヴァーンが爆弾を投下していく。たちまち辺りに喧噪と騒ぎが起こる。敵兵は予想外の空中からの攻撃に驚いて周章狼狽だ。
派手な爆発を見たシュミットは直ちに待機していた騎兵部隊と突入する。
「敵兵はいちいち相手にするな!手向かいする奴だけ倒せ、後は無視しろ!物資を残らず焼き払え!」
逃げ惑い混乱する敵兵の中にそのまま躍り込んでいく。
「とりあえず、全部使えないようにすればいいんですね」
ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)は次々と火をつけて回る。
「さあ、そっちも手伝ってください」
「全部燃やせばいいんだよね?」
熊猫 福(くまねこ・はっぴー)は嬉しそうにこれを手伝っている。
「使えなく出来ればそれでもいいです。そっちも急いで手伝って」
「わかっとるわかっとる。朕は残りの物資を見えやすくする」
ミカエル・パレオロゴス(みかえる・ぱれおろごす)は近くの木に手榴弾を放り投げたりしている。
「航空部隊は第二派も来る。空中から見えやすくしておけば、綺麗に焼き払うじゃろ」
肝心な事は残らず使えなくすることだ。小麦粉の袋などは地面にぶちまけたりするのでも良い。
何人かの敵がそれでも撃ってくるのをシュミットが手慣れた様子でカービンで仕留める。
「出来るだけ派手に火をつけろ。煙を出す様にするのだ!」
「さすがだね。味方には大きな怪我人はいないよ」
ファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)は状況を確認していった。
「それにしても……何やってるのかな?」
目を細めて大岡の方を見る。座り込んだ大岡はカービンを立てていった。
「まあ、いろいろあんだよ、予定外ってのが」
本体の方はそろそろ息切れが始まっていた。機動打撃部隊は数回の突入を繰り返し任務を果たしているがそろそろ負傷者が増え、トラックにいっぱいになりつつある。
「ここらが限界ですよ」
「ん〜。そろそろだと思うんだけどね」
セルベリアが心配して言うとさすがに志賀は不審な顔をする。もっともその表情は思ったより味噌汁が塩辛いなと言う感じの顔である。
「んあ、あれ、あれ!」
ロットが声を上げるとずっと向こうに黒煙がたなびいている。しかもだんだん濃くなっている。そしてまもなくワイヴァーンがこっちに飛んでくる。先頭は朝野機だ。朝野はぽーんと花火のような信号を上げた。それは敵味方皆からよく見えた。
陣地の本陣にいる和泉はそれを見てほっとしたような声を上げた。
「……攻撃成功……やったわね」
そしてまもなく戦況に動きがあった。機動打撃部隊近くの敵部隊が妙にふらふらした動きを見せ始め、敵の攻撃が急に下火になった。まもなく、目に見えて敵兵がうろたえるような動きへと変化した。
「何か迷っているようですね?」
セルベリアの言葉に志賀はにんまり笑った。
「味方の集積所がやられているのが解ったのでそちらに救援するべきかどうか迷っているんでしょう。ただ、ここでそれをやるとどうなるか……」
通常、戦線を突破され、敵兵の侵入を許すとそこから次々と連鎖反応で戦線が崩壊していく場合が多い。これを潰走(チェインアウト)という。戦国時代の日本ではこの状態を称して『友崩れ』と言ったが、この潰走で友崩れ以上に大変になる場合が存在する。前線でまだ戦っているのに後方の部隊がもう駄目だと思って敗走を始める場合である。これを『裏崩れ』といい、もっとも混乱がひどくなるパターンである。史実では織田信長死後、織田家の主導権を巡って羽柴秀吉と柴田勝家が戦った賤ヶ岳の戦いがある。戦闘中に柴田側にいた前田利家の軍勢がいきなり撤退を開始したため、柴田側は皆が負けたと勘違いして一気に敗走に陥った。
後ろでうろうろして集積所救援に動こうとしていた連中の動きが敗走に見えてしまうのだ。それに引きずられるようにワイフェン軍の動きは一気に乱れた。そこに第3師団は必死の反撃を始めたため、じりじりと敵は後退を始め、しだいに敗走へと変わっていく。何しろ集積所がやられれば食べるものがない。軍を維持出来ないことは誰でも解る。まもなく一斉に敵は我先に逃げ始める。
「迂闊に追うなよ、他の部隊と連携してからだ」
声を上げて皆を制止するのはヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)だ。こういうとき我がちに動くと却って危ない。戦場は混乱し、機動打撃部隊は速やかに離脱を図る。
「負傷者はいないね?」
水原が確認してトラックを出そうとしたとき、その脚をがっしりと掴む腕がある。
「み〜ず〜は〜ら〜」
ぼろぼろになったバウアーがぬうぅっと現れたのだ。
「ひいいいいいいっ!」
敵兵はそのまま逃げ散った。各部隊は両翼から敵をやり過ごし集結を完了した。敵はそのまま遠くへと退却。タバル坂の戦いはワイフェン族の潰走で幕を閉じたのである。