リアクション
第6章 扉の前
ワイフェン族との戦いが終わった数日後、第3師団は再び態勢を整えていた。今回は地味に負傷している者が多く、包帯を巻いた兵が所々に見られる。そんな中、志賀は渋い顔をしている。
「まだ敵が残っているというの?」
和泉も嫌そうな顔である。
「はい。敵は物資を失い一度四散しましたが、中核の部隊がモン族とワイフェン族の国境線上に陣取って必死に戦力の回収を行っているようです」
様子を見に出た偵察部隊からの報告である。
「数は7000ほど、おそらく一万弱くらいには回復するでしょう」
「補給はどうしているのかしら?」
「国境線上です。自領内から必死でかき集めていると思われます」
「敵の意図は?」
「敵もよく解っています。国境線上ぎりぎりで持ちこたえていれば今だモン族領内にワイフェン族がいることになります。連中も一端侵攻はあきらめた様ですが、かといってラク族をこちらに与させるつもりはないと言うことです。私ならそうします」
現状ではラク族が味方にならないと言うことだ。
「敵は一万弱、私達と同じくらいの数ね?」
今まで三倍の敵に対して平然としていた志賀がここに来て表情が暗いからだ。
「今までは敵が攻撃側で我々は防御側でした。それで、敵をこちらの有利な地形に引きずり込んで戦ってきました。しかし……」
「今度のばあい、敵は陣地に籠もって動かないと言うことね」
実の所、防御側ではあったものの志賀は基本的に主導権を握ってきた。しかし今回は敵が防御側になるわけだが、それ故に有利な地形へ引きずり出すのが困難と考えられる。いわゆる優勢な敵を引きずり回し、態勢を崩してからこちらの戦力を集中してたたくといういわゆる『真田戦法』が通じない。ある意味、志賀は得意技を封じられた格好になる。
「それに連中は侵攻前に戦力を集結させている間あらかじめ陣地の構築を進めていたらしく、塹壕など掘って迎え撃つ準備をしています」
がっちり陣地に籠もって防御するのが敵側だ。今までとは攻守が逆転していると言うことだ。それゆえ、数が少ないと侮ることが出来ない。
「選択肢はあるのかしら?」
「一つはあえて攻撃する方法、ただし、敵の陣地によって簡単には抜けません。一つは部隊を展開して牽制に止める。ただし、ラク族は味方になりません。それゆえ、ワイフェン領への進撃も出来ません。一つ考慮すべきは、春になれば敵の戦力増強は止まります。しかし、陣地はより堅固になり攻略は至難の業になります」
どちらをとっても一長一短である。
「一つ聞くけど、敵も後がないわね?ここで敵を追い払えば敵側の戦力回復や兵力はどうなるのかしら?」
「春になればそれほど兵を動員できなくなります。当面、向こうからの進撃はないでしょう」
「……解ったわ。敵陣地を攻撃して確実に敵を国境線から追い出す。しかる後にラク族と同盟してしばらく態勢をととのえる。ワイフェン族領に進撃はそれからね」
「了解しました」
かくして第1次攻勢限界点としてモン族領内の完全回復を掲げた戦いが行われることとなった。
まもなく、士官の何人かが司令部に呼ばれた。まずは戦部、比島、大岡、金住である。
「来てもらったのは他でもありません、あなた方に特命があります」
その言葉に一同はちょっと驚いた。和泉が先を促すと志賀が続ける。
「あなた方に歩兵二個小隊、騎兵一個小隊を預けます。これを持って臨時編成の攻撃支隊とし、一度大きく敵陣地を迂回して敵後方から敵司令部を攻撃してもらいたい」
「司令部ですか?要するに正面から本隊が攻める間に強襲を掛ける、と?」
戦部は聞き返す。
「ええ、そう思っていいです。但し、解っているとは思いますが、敵の後ろ側もがら空きではありません」
「それなりに警戒しているということですね?」
比島が言った。以前タバル砦の戦いで後ろから来る敵を警戒したのは比島である。それと攻守逆の状況と言うことだ。
「おそらくは同数程度以上の警戒部隊があると思われます。ばれずに迂回できる戦力規模がこちらは約一個中隊と言うことです」
「もし、敵がこっちに気を取られるようなら……」
「そのときは本隊がそのまま全力で手薄になったところを攻撃します」
「正攻法と奇策の組み合わせですか?」
戦部は考え込んだ。志賀は笑って言う。
「まあ、よく勘違いして不利な状況で奇策を用いようとする者が多いですが、正と奇は表裏一体です。相手が正攻法で来る、と思っているところに奇策を用いるから引っかかるのであって、奇策しか手はない状況で素直に奇策を使えばバレバレです。正と思えば奇、奇と思えば正です」
「指揮官は戦部少尉、副指揮官は比島少尉とし、本作戦中は戦部支隊の名称を公式に認めます」
和泉が言い添える。
「それと、迂回してからの作戦は一任します」
「一任……と言いますと」
つまり敵の後方を警戒しているだろう部隊に対し、出来るだけこっそり近づいてすり抜けるようにして司令部に接近するか、どこか一点から集中突破して一気になだれ込むか、その辺りの采配を任せると言うことだ。
「一応、車両は必要な分使用は可能。但し戦車と航空部隊は本隊にて戦闘参加させる。他に同行させたい士官がいれば人選も任せる」
「しかしそれでは本隊との攻撃のタイミングが合わないのでは」
「本隊は支隊自体をないものとして作戦行動します。つまり、支隊の行動は偶然参加した予定外の増援、と言うことです」
「……よく意味がわからないのですが?」
比島が怪訝そうに言った。
「つまり、あなたたちに一定の部隊の運用一式をやってもらおうと言うことです。有り体に言って、そろそろ個人レベルではなく部隊運用も学んでもらいたい。いずれは中隊長、大隊長へとなってもらわねばならないだろうしね。我々は『教導団』、軍事学校でもあるんですよ」
戦部は状況判断がピカ一であり、比島は堅実な戦い方に定評がある。大岡は一連の作戦で物資集積所を殲滅するのに多大な貢献をしている。金住は一番素人だが、一つ一つ戦い方を身につけつつあるところが上層部に評価されている。要するに将来の幹部候補として、試しにちょっち部隊運用やってみそ、と言うことだ。上層部はそれを見てどのくらいなのかを見極めたいと言うことである。
次に呼ばれたのは月島と曖浜である。
「あなた方にやってもらいたい事があります」
顔を見合わせる二人に志賀は旗を渡した。
「……これは教導団の旗ですね」
曖浜は首をかしげながら言った。
「実際にはもっと大きな旗になりますが、あなたたちにやってもらいたいのは、敵陣地攻撃に際して、タイミングを見て敵司令部に突入し、この旗を振り回してもらいたいと言うことです」
「敵司令部ですか」
月島は絶句した。
「要するに出来るだけ早急に敵司令部を占領した=こちらの勝ちということをアピールして敵を撤退に追い込みたいわけです」
確かに敵も必死だが負けが込んでいるせいか司令部がやられたとなれば総崩れになる可能性は高い。そしてここで崩れればもはやモン族領内からは駆逐される」
「しかし、タイミングはかなり難しい」
「ええ、絶対条件として負けるわけには行かないですから」
つまり、突入のタイミングは早すぎても駄目、遅すぎても駄目と言うことだ。早すぎてやられるようなことがあれば逆にこちらの負けを宣伝するようなものだ。一方、安全を考えて遅すぎれば敵を早急に撤退に追い込むと言う目的は果たせない。これは曖昧な判断が出来ない。その辺りを月島、曖浜がどうするかがポイントだ。これも素質を見極める一環である。さらにここで問題なのは戦部班と月島班のどちらが先に司令部に突入するか、が評価に関わると言うことだ。幸い、月島・曖浜側は司令部を占領する必要はない。
いよいよ、敵ワイフェン族をモン族領内から完全駆逐するための戦いが開始される。これに成功すれば、ラク族との同盟が確実なものとなり、安定した勢力圏が構築できる。また、どのような結果になるかは同盟内容に関わってくるので単なる勝ち負けだけが問題ではない。
正面から攻撃する本隊の編成は中央に戦車と機動歩兵大隊、右に第3歩兵大隊、左に第4歩兵大隊、予備に強襲偵察大隊。その後方に砲兵部隊。また航空部隊は隙を見て急降下爆撃を掛けることになるが対空砲火には注意である。また、AFV、トラックが若干補充される予定である。
いよいよ同盟による疑似国家建設への決戦である。
ゆるくて地獄で食道楽なシナリオ「着ぐるみ大戦争」放火魔の回です。
また遅れてしまいました。申し訳ありません。
今回の総評
何となく二極化してきましたね。着々と自分の立ち位置を確保しつつある人と焦って失敗する人に分かれてきたような感じ?
タバル坂の戦いは堅実に戦っている人有利。武器の威力、スキル頼みの人は今ひとつですな。このシナリオは軍事、政治、経済が絡み合っているのでただ戦っているだけではうまくいきません。うまくいっている人のアクション参考にしたりしてね。あと、割と皆さんアサルトライフル舐めてる人が多いようですが、敵の接近を阻止するのに弾幕は基本だぞ。いくら強い武器でも、赤い少佐が言っているように「当たらなければどうと言うことはない!」ですから。
政治経済系は需要と供給、原料はとれるのかどうか、調べてからの方がいいですよ。特に過去のシナリオを読んでないとデータ出してるのに見てない人いるので。
航空訓練部隊は……あれま?と言う感じ。前回志賀が言ってますけど「一人で出来ないことは二人でやればいい」ってそう言うことです。
安定翼つけたのは面白いですが、直線に飛ぶから飛距離伸びたように見えるけどそれほどでもない。一応ざっと計算したけど。どうせ改造するならいっそもろにミサイル型にした方が届いたかもしれません。この試験、実際に昔こういう作戦があったんです。
二人でやると言うことについて今回の本隊の作戦を見てもらえば解ると思いますが、集積所への攻撃は航空部隊だけでも駄目、騎兵部隊だけでも駄目、両方が協力して始めて成功する、という作戦です。このシナリオはそう言うことも考えていかないといけないんです。二ターンに渡る作戦でしたが特に朝野さんはよく考えてました。志賀の作戦の意図を考え、理解し、確実に実行した点は非常に評価が高いです。志賀があえてぼかした言い方をしているのは皆さんが考えなければならない部分なのです。今回も言っていますが、そろそろ個人戦闘から少しずつ部隊戦闘指揮も視野に入れていきます。というか皆さんが入れていけるかどうか、それを見ながら任せていくことになります。航空部隊は続編(あるのか?)の始めに再び違うテーマで試験することを考えています。それまでは空戦の試験などでいろいろ考えてください。
ではまた次回。