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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

 その頃、日下部 社(くさかべ・やしろ)は妹分であるアリスの日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)と共にカフェでチョコパフェをつついていた。
「やー兄、これ、おいしいよぉ!」
 チョコパフェにご満悦の千尋を見て、社が笑顔を見せる。
 千尋は今日は超ご機嫌だった。
 バレンタインにお出かけに誘われて「これはきっとデートだよねー!」とはしゃいでいるのだ。
「はい、やー兄、あーん」
「あーん」
 千尋のスプーンでアイスを食べさせてもらった社は、千尋の頬に生クリームがついているのに気づき、指で拭ってあげた。
「ちー。ほっぺにチョコついとるで?」
「ありがとうー、やー兄」
 ニコニコする千尋を見て、可愛いなあと思いつつ、社は外を見て、小さく溜息をついた。
「はぁ……あゆむん、今日は誰と約束なんやろなぁ……」
 すると、街を歩くカップルの真ん中を通るように走る山葉が見えた。
 なぜかわざわざ手を繋ぐカップルの間を通って手を離させ、無意識にぷちカップル崩しをしている。
「ったく、あのメガネ……何しとんねん!」
 社は千尋を待たせ、外に出た。
 そして、走り行く山葉に足を引っ掛け、転がった山葉に説教した。
「この、あほんだらがぁ。なーにしてんねん、まったく」
「……そっちは眼鏡だ」
 山葉が落ちた眼鏡を拾い上げると、社は少し落ち着いて話を聞いた。
 そして、山葉にこう語りかけた。
「花音とすれ違ったのは、メイド喫茶のせいじゃないのか?」
 ぴなふぉあメンバーズカードABCを所持する社が言うのだから間違いない。
「やー兄、何してるのぉ?」
 心配した千尋が後から付いてきて、社に声をかけた。
 すると、社は眼鏡を指差し、千尋にお願いした。
「ちー、ちょっと悪いんやけど、この眼鏡、見ててくれるか?」
「? ん、いいけど?」
 やー兄がそういうならというように、千尋は正面からジッと山葉を見張る。
 その間に、社はプレゼントを買ってきて、山葉に差し出した。
「男の俺から貰っても嬉しくないかもしれんけど、これが俺の気持ちや。受け取ってくれんかな?」
 プレゼントの中身は眼鏡拭きだった。
「これで心の曇りも綺麗にせいや」
 山葉がきゅっきゅっと眼鏡を拭いてかけなおした。
 すると、目の前に赤い髪に青い瞳の可愛い子が現れた。
「えっ?」
「お、いきなり効果ありやないか!」
 驚く山葉の背を社がバーンと叩く。
「似非関西弁のお兄さん、この眼鏡のお兄さん、どうかしたの?」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は不思議そうに首を傾げた。
 蒼空学園の氷雨は山葉に見覚えがある気がしたのだが、思い出せなかったのだ。
(……どこかで見たことあるけど……誰だっけ?)
 思い出せない氷雨のために、社が山葉を紹介してあげた。
 なぜかイルミンスールの社の方が、蒼学の氷雨より山葉に詳しいのはご愛嬌だ。
 きっと社が最近、メガネ(山葉)のポジションが美味しいんじゃないかと思い始めてきたという末期症状なせいに違いない。
 社は氷雨に、聞くも涙、語るも涙の名調子で、山葉の悲哀を語った。
 すると、氷雨はニコニコとチョコを差し出した。
「じゃあ、ボクがお兄さんにチョコあげる」
 バレンタインをチョコのお祭りだと思い、チョコ買いまくりのために街に出た氷雨だが、途中で間違ってお酒入りのチョコを買ってしまったのだ。
 このチョコどうしようかな……と思っていたので、氷雨にとってもちょうど良かった。
「おお、良かったやないか、メガネ! 可愛い子からのチョコやで!」
 社が我がことのように共感してくれる。
 このお兄さんチョコレート買えないのかな? と首を傾げつつ、氷雨は手を振った。
「それじゃあ、そろそろボク行くね。お兄さんも誰かのデートとか邪魔しちゃダメだよ」
 赤いラインがアクセントの、モノトーンカラーの可愛いゴスロリ系のワンピースを翻し、氷雨が去っていった。

 氷雨が去ると、そこに一組の男女が現れた。
 氷雨のパートナーであるレイン・ルナティック(れいん・るなてぃっく)霜月 帝人(しもつき・みかど)だ。
 2人は氷雨と別れて出かけていたのだ。
 レインはバレンタインデー前に一応バレンタインの準備はしたのだが、死人が出ては困るので、いろいろとあきらめていた。
(まぁ、チョコを渡したトコで、鈍感な帝人は自分の気持ちに気づくわけないし……)
 そう溜息をつきながら、レインはバレンタインデーを迎え、チョコ買いまくりに出かけてしまった氷雨に置いていかれ、帝人と2人で街をぶらぶらしていたのだ。
 溜息をつきつつ、疲れた様子で公園のベンチに座るレインを見て、大好きなレインと二人なのを喜んでいた帝人はちょっと不安になった。
(自分と二人でいるなのが嫌なのかな……)
 機嫌を直してもらおうと、帝人は持参のアイスボックスからチョコアイスを取り出して渡した。
「……コレは…?」
「今日はバレンタインですよね。だから、チョコです」
 普通は逆だろうにと思いつつ、笑顔の帝人を見て、レインは溜息をつきつつ、そのチョコアイスに口をつけた。
 アイスは気に入らなかったかなと、心配そうに帝人はレインを見たが、レインはチョコの代わりにとあるものを差し出した。
 それは小さなストックの花束だった。
「意味は……自分で考えるんだな……」
 花言葉にはたくさんの意味がある。
 レインは『永遠の愛』の意味で贈ったが、帝人は無難なトコだと『平和』かなあとか思っていた。
 意味を聞こうかとも思ったが、「甘いのはあまり好きじゃないんだがな……」と言いつつ、アイスを食べてくれるレインにうれしくなり、つい、聞きそびれた。
 そのストックの花束を帝人が持って、レインと共に帰ろうとしたとき。
 山葉にチョコをあげる氷雨に遭遇したのだ。

 様子を見ていた2人は氷雨が去ると、山葉たちに声をかけた。
「なにやらうちの氷雨が声をかけていたようだが……」
「ああ、さっきあの子がチョコをくれたんや」
 社が言うと、帝人は納得した。
「なるほど、バレンタインですからね。男の子からのチョコでも喜んで頂けたなら良かったです」
「男の……子?」
 チョコを食べていた山葉の動きがピタッと止まる。
 山葉は、逃げ出した。
「え?」
「あ、あれっ!?」
 突然のことにレインも帝人もポカンとする。
 そんな2人に社はボソッと言った。
「世の中、知らんほうが幸せなこともあるってことや……」