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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)
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「お花とっても綺麗だね。はい、どうぞ」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、水筒から紅茶を注いで、早河・綾(はやかわ・あや)に渡した。
「ありがとう、ございます」
 小さな声で礼を言い、綾は紅茶を受け取った。
「車椅子から降りますかぁ? 手伝いますよぉ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がそう言って手を伸ばすと、綾は首を左右に振った。
「そうですねぇ……」
 もしもの際、車椅子に乗っていた方が移動させやすいかもしれないから。
 そう思って、メイベルは綾を地面に敷いたシートの上に下ろしはしなかった。
 神楽崎分校でのバレンタインパーティの時――。
 綾を助けるために、行動を共にしたこともある橘 柚子(たちばな・ゆず)が、彼女に光条兵器を振り下ろした。
 その真意が解らない。柚子に直接聞いても、話してはくれないだろうし、彼女は姿を消してしまっていて学院で見かけることもなくなっていた。
 きっと組織に関して彼女なりに思うことがあって、あのような行動に出たのだろう。
 もしかしたら、今度会うときは組織の一員としての立場の彼女と出会うことになる、のだろうかと、メイベルは少し不安な気持ちだった。
 無論、綾はその後から精神的に非常に不安定な状態になり、今日もメイベル達の誘いを受けたとはいえ、ずっと俯いて誰とも目を合わせようとしなかった。
 メイベルはこんな状態だからこそ、病室の中に篭っているのはよくはないと、この美しい場所に彼女を連れてきたのだった。
 綾は乗り気ではないようだが、断固拒否はしない。罪の意識から拒否は出来ないようだ。
「サンドウィッチもどうぞ」
 セシリアがバスケットに入れて持ってきたサンドウィッチを紙皿の上に取り出して、綾に差し出した。
 綾は震える手で、ツナサンドを取った。
「フルーツも並べておくね。食べたくなったら言ってね。言わなくても、綾ちゃんの分、ちゃんととっておくけどね!」
 セシリアの明るい声に、綾はこくりと頷いた。
 花畑の中で、少女達は、美味しいお弁当と温かな紅茶を飲み。
 遊ぶ皆の姿に、笑みを溢れさせていく。
 綾が一つ、自分の手でサンドウィッチを食べ終えた時。
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が彼女に近づいて、語りかける。
「分校で、何故皆が自分に優しいのかと問われていましたね」
 綾は顔を上げずに、しばらくして小さく頷いた。
「私からのその問いに対しての回答をします。但し、その答えを聞くには今後決して逃げては行けないことを誓うことです」
 フィリッパのその言葉に、綾は首を左右に振る。
「心の病に『逃げて』はいけません。これからしっかりと立ち向かうことをどうか誓って下さい」
 フィリッパの言葉に、綾は首を縦に振ることができなかった。
 小さな小さな声で。
「誓え、ません」
 と言って、目をぎゅっと閉じたのだった。
「逃げるつもりですか」
 厳しい声を発したのは、護衛についている氷川 陽子(ひかわ・ようこ)だった。
「いつまで、逃げているつもりですか」
 パートナーのベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)も、陽子と一緒に綾に問いかける。
 陽子は綾の顔に手を伸ばして、上を向かせる。
 目を開いた彼女に、真剣な目を向けて質問していく。
「組織のエールという男とは、どのように知り合ったのですか?」
「街で、声……をかけられて……」
 瞳を震わせ、怯えた表情で綾は言葉を発する。
「あなたはなぜ、組織の本性に気付いた時点で、白百合団なりヴァイシャリー軍にでも通報しなかったのですか? そうすれば、早いうちに家族を保護できたはずです」
 ベアトリスが陽子の言葉に続けて質問をする。
「ごめ、んなさい、ごめんなさい……」
 それはその通りなのだけれど、彼女にはどうしてもそれが出来なかったのだ。
「そうしなかったことを、責めているのではありません」
 陽子は少し声の調子を緩める。真実を知りたいと陽子は思っているが、彼女を追い詰めたいわけではない。
「あなたがそうできなかった理由を聞いているのです」
「……エール様は、優しくして下さったから。嘘じゃないかもしれないって思っていた、から。それに、白百合団やヴァイシャリー軍だけで対処できる組織じゃないって、わかっていたし……家族にあわせる顔もないし、家族の自由も奪いたくない巻き込んでしまう。どうしても、身動きができなかった、の。残っていれば、組織の命令に従っていれば、組織が家族や百合園に酷いことをしないよう、ほんの少しでも抑えることができる、から……」
 陽子は綾の返答に息をついた。彼女なりに百合園や家族を守りたかったのだということも解った。だけれど、優しい言葉はかけられない。彼女がしたことは決して許されることではないから。
 もっと、聞きたいこと、聞くべきことがあったが、綾の精神状態は変わらず悪いようなので、陽子とベアトリスは顔を合わせて頷きあい、ここまでにした。
 美しい花畑の中で、綾はまた泣き始めた。
 メイベル、セシリア、フィリッパは彼女が苦しそうに泣く姿に、一緒になって涙ぐんでいた。
「立ち向かう決心、一緒に」
 フィリッパが綾の右手を。
 メイベルが綾の左手をぎゅっと掴む。
 彼女が決心をした時に、伝えたいことがある――。

○    ○    ○    ○


「う〜遊びたいけど……我慢我慢……」
 遊ぶ百合園生達に混ざりたくて仕方がなかったけれど、白百合団の秋月 葵(あきづき・あおい)はぐっと我慢して皆の護衛として武装して警備についていた。
「そろそろ順番だね、行っておいで〜」
 一緒に訪れたパートナーのニーナ・ノイマン(にーな・のいまん)にそう声をかける。
「はい、行って参ります。何かの際には1人で無理なさらないでくださいね?」
「うん、何かあったら報告にいくね」
 葵の言葉に頷いて、ニーナはログハウスの中に入っていった。
 葵は1人で、ログハウスの中にいる人達の護衛としてドアの前に立っていた。
 警備に回っている人も沢山いるので、1人だけ危険ということはないはずだ。
「……ん?」
 殺気看破、超感覚で注意を払っていた葵は、森の方から感じる気配に気付く。
「こんにちは〜」
 その直後、葵と近い年頃に見えるメイド服姿の少女が顔を現した。
 道路の方ではなく、森の中から現れたその少女に葵は微笑みながら「こんにちは」と答えるも、ちょっと不思議そうな目を向ける。
 殺気が感じられるわけじゃないけど、いい感覚は受けない。
「あたしね、ローズっていうの。森の外れにこの間引っ越してきたんだ。ここに有名な占い師のおねーちゃんがいるって聞いてきたんだよ」
 言って、少女はきょろきょろと周りを見回す。
「いっぱいお客さんがいるね。おねーちゃん達は何しにきたの?」
「勉強に来たの。今日は魔女のお姉さんは、あたし達とお話することが沢山があるから、また今度来てね」
「じゃ、あいさつだけしていく。それから池であそぼうね!」
 家に入ろうとする少女を葵は眉を寄せながら止める。
 受ける感覚から単なる無邪気な少女じゃないことが分かるから。
「忙しいからまたね」
 今日は絶対。この間のような悪戯のような事件も起きないようにしなきゃダメだから。憧れの桜谷鈴子団長にほめてもらうためにも。
「どうした?」
 近くでメールの送受信を行っていた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が、携帯電話を手に近づいてくる。
「近くに越してきたから、リーアさんに挨拶したいっていうんだけど」
 葵が困った顔で呼雪に説明をする。
 呼雪は「あそぼ、あそぼ〜」と笑っている少女に、目を向けると首を左右に振った。
「すまない、ただ遊びに来ているだけじゃないんだ。魔女との面会は順番待ちで、俺も待っているところだ。夕方には帰るから、その時改めてきてくれ」
 丁寧だけれど、有無を言わさぬ口調だった。
「ちぇっ、つまんないの〜」
 少女――ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)は膨れながら森の中へと帰っていく。
 不審ではあったけれど、捕縛までは葵も呼雪も考えなかった。