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リアクション
☆5・招かれざる客☆
このころ、応援席もヒートアップしていた。
チアガールとして招かれたミツエは、すでにその職務を放棄して、いつのまにか、控え選手のいるベンチにいる。
「やっぱり、勝負に勝つには参謀が必要なのよ」
続く戦いに、ミツエの血が騒ぐようだ。
反対側のベンチでは、金団長が微動だもせず、前を向いている。先ほどゴールキーパーとして出たものの目立った活躍はしていない。
「勝負は必ず西シャンバラが勝つ!」
先ほどのゴールで東が一点リードとなったときも、金団長は眉一つ動かさなかった。
「最初の勝負所で俺達の為に金鋭峰団長が応援に来てくれた、無様な試合はできない皆必ず勝つぞ!」
途中から出場する樹月 刀真は、暑さでだれがちなチームに活を入れる。
涼しげなプールとは対照的に、気温はどんどんあがり、観客席の温度計はその目盛りを延ばしている。
暑さ対策に、長袖で帽子で完全武装するものもいれば、タンクトップにショートパンツで肌を焼くものもいる。
蒼空学園のリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、観客席で、殺気看破を使ってみた。
「やっぱり駄目ね、そこらじゅう殺気だらけだわ」
ろくりんピックはスポーツの祭典と銘打っていても、東西の分裂を引きずっている。この勝負に尋常ならざる気合を入れている観客も多いのだ。
「師匠、どこ見てるんっスか。勝負、いいとこッスよ。応援応援!」
隣に座るアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)は、プール内に釘付けだ!
「張り切って応援いくっス!フレー、フレー、山葉!!…あれ、山葉、消えてるッスね」
アレックスは、急に気がついたようだ。
自分の隣に、ふたつの空席がある。
「戻り、おそうッスね」
アレックスが気に掛けているのは、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)と
空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)のことだ。
「鏖殺寺院とは異なる、新たな敵が生れることを心配しているのでございましょう」
「わかる、そういう気配がある」
狐樹廊とシルフィスティは、リカインと共に、会場周辺の警護を自主的に行っている。
「今のところ、大きな組織は来ていないようです」
地祇である狐樹廊は、穏やかな口調とは裏腹な強い金色の瞳を周囲に配っている。
「いるとしても、置き引きぐらいみたいね」
シルフィスティは何か見つけたようだ。
「飲み物買ったはいいけど席が分からなくなっちゃった」振りでもして会場ふらついてみようかな」
二人は別の方向に進む。
「何するんだ」
頭からジュースを被った男が怒り出す。
「申し訳ございません、揺れんばかりの歓声に足がもつれてしまいました」
誤っているのは狐樹廊だ。
「こんなに濡れてしまって」
狐樹廊が男の身体に触ると、その懐から、数個の財布が転がりでる。
「物持ちですなぁ」
男が突然走り出した。
走った先には、リカインが立っている。
「腕の骨一本でも折ってご退場願いたいところだけれど・・・」
リカインは男の腕を掴むと、運営委員会まで連れて行った。
「小物すぎるのよ」
リカインたち、三人は、ディテクトエビルを使用しながら、会場内を歩いている。
時折、席に戻り、一身に応援するアレックスの隣に座る。
「みんな交代でどこに行ってるんですッか!今、いいトコッす。西チャーンス!!
フレーフレー、レティシア!」
6・寒さと戦え! ☆
西チームのレティシア・ブルーウォーターとミスティ・シューティスは、自陣のゴール前にトラップを設置していた。
ワイヤートラップを、水底・水中・水面共に配置して、もしボールが来ても取りこぼす様に仕掛けてある。その後、レティシアはその姿を隠している。
ゴール前にいるのは、キーパー聡とミスティだけのように見えるはずだ。
先ほど、悠希が弾いたボールは、ルイ・フリード(るい・ふりーど) の手に渡った。そのまま水流に乗りゴール前まで来たルイは、自分の到着が、ミスティによって予知されていたことに気がつく。
しかし、ゴール前、守備はミスティのみだ。
ルイは、流れにのって、ボールをゴールに投げ込む。
しかし、ボールは、キーパーの手に届くまえに跳ね返された。ワイヤートラップに引っかかったのだ。
またも宙を飛ぶボールに、追いかけてきたクロセル・ラインツァートが飛びつく。
その瞬間、ボールは、網に掛かった。
「必殺!レティちゃんバズーカ!」
レティシアは、水中銃を改造して投網を射出出来るようにしたものを作っていた。
「作戦通り!」
レティシアとミスティは、手を合わせてハイタッチする。
しかし、そのとき、隙が生れた。
「えッ?」
投網が、激しい水流で、レティシアの水着に引っかかってしまったのだ。
ボールは、水流に乗り、レティシアを、というか水着をひっぱる。ミスティは、ヒールやリカバリなどの回復スキルをレティシアに施した。レティシアはスキルを駆使して、なんとか投網を外したが、水着が破けている。
「ポロリはプールのご愛嬌とはいえ、これでは戦えないですねぇ」
「まあ、いいでしょう。いつのまにかメンバーも入れ替わっていることですし」
ミスティは、聡を見た。
「どうします?」
ボールは既に流れている。
「ほかにキーパーするやつがいれば・・・」
なんだか、聡の視線が泳ぎっぱなしだ。
さて、ボールは。
激しい争奪戦が起こっていた。
雪だるま王国メンバーは先ほどのゴールで、コース内の水流や渦、ゴール前の感覚などを理解した。チーム選での戦いは、これからだ。
片や、相手も、金団長の手前、負けるわけにはいかない。
今、ボールは実況の翡翠の手にある。
「網が巻きつき使用不可能となりましたので、新しいボールとチェンジします。ボールを流してから、20数える間は、触らないでください」
20秒ルール。
翡翠を守るために、突如加わったルールだっが、それが思わぬ事態を引き起こす。
たった、20秒でもボールはプール内を駆け巡る。プール内には基本キーパーを除いて、6かける2チームで12人の選手が泳いでいるはずだが、その選手の半数以上が、流れてくるボール周辺に集まってしまった。
水面下で動いていたのは、雪だるま王国メンバー、クロセル・ラインツァート。クロセルは、ボールの周りの温度を少しづつ下げていた。相手に気付かれないよう、少しづつ。
鬼崎 朔も同様の工作を行っている。朔はボールを追ってくる相手を食い止めるため、ボールより少し後方を泳いでいる。
童話 スノーマンは、ボールの少し上流で待機、周囲の水を凍らせて、氷の塊を作っていた。分厚く固められた氷を、ボールを追って流れてきたクロセルの足元に滑らせると、水中深く潜って先に、雪だるま王国女王・赤羽 美央がキーパーを務めるゴール付近へと向かう。
ルイはボール横に待機している。寒さに巻き込まれぬよう、先ほどとは替わって、移動方法泳ぐ事よりも軽身功を利用した水上移動を行っている。
小柄なマナ・ウィンスレットは浮き輪をつけた状態で、クロセルの肩に乗っている。
ボールの前方にスノーマン、後方に朔、ボール横にルイ、そしてクロセルとマナで取り囲んでいる。
対して、西チームは、樹月 刀真と漆髪 月夜、橘 恭司ボールを取り囲むように、いる。
眼に見えるのはこの三人だ。
目に見えない場所、水の底には、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がいる。
桐島 麗子(きりしま・れいこ)は、ゴール前に待機している。
「あまり、やりすぎないように」
麗子に釘を刺されているのは、新しいゴールキーパー、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)だ。
控え選手としてベンチにいたケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)が、金団長に呼ばれた。
「ゴールキーパーが問題となるかもしれない。そのときは替われ」
ケーニッヒは、西チーム7番目の選手としてプールに突入する。
問題のゴールキーパー、ジャジラッドは3メートルの巨体である。彼がゴール前に立つとゴールはその身体にすっぽりと入った。
ジャジラッドには腹案がある。しかし、その必殺技は、しばし、封印である。
ホイッスルが鳴る、ボールに触れてよい時間まで、あと3秒、2秒、1秒――――――――――――。
試合再会の笛が鳴り響く。
ボールにまず触れたのは、観客の予想に反して、宇都宮 祥子だった。祥子はあと、1秒となった瞬間に、水底を蹴った。身体は浮かぶボールに向かっている。両手を思いっきり伸ばす祥子、ボールが宙に舞う。
瞬間、樹月 刀真が身をかがめ、漆髪 月夜が刀真を踏み台にしてジャンプする。月夜は、軽身功で水面に立ちバーストダッシュで走っている橘 恭司にめがけてシュートした。
見事な連携プレーに、観客席からも大きな拍手が沸く。
しかし。
ボールは恭司の手元に届く手前でカットされた。
スノーマンが作り出した氷上に立ち、背中にマナを乗せたクロセルが、マナを空に放り投げたからだ。
見事、マナはボールをキャッチ、再びクロセルの背中に戻る。
ボールを持ったマナを載せたまま、クロセルはスライダー入り口を目指す。突然、足元がぐらついた。
「冷やしても無理よ、氷は私も得意なの」
水中から、またしても祥子が顔をだす。ぐらついた理由は、足元の氷をどかされたからではない。
「なんだ、この氷は?」
「精霊の知識と氷術の組み合わせで水よりも比重の軽い魔法の氷を作ったのよ」
たしかに、クロセルの回りには、腰から下にかけて浮き袋のように氷がへばりついている。
「自分でも冷やしているから、気がつかなかったのね。悪いけど、少し休んでいて」
祥子は、満足に動けなくなったなったクロセルにボディブローを与えようとして、異変に気がつく。
身体がうまく動かないのだ。
「しびれ粉ですよ」
クロセルは、背中に乗せたマナを放り投げた。マナはボールと共に、ルイのもとに届く。
「東シャンバラ応援団長として激励に専念するつもりでしたが、参戦したんです、こんなことで倒れるわけには行きません」
クロセルは、スノーマンが流してくる氷の塊にしがみつくと、そのまま流れに身を任せた。
「大丈夫?」
近づいてきたのは、月夜だ。月夜は、勝利のおまじないとして刀真、橘恭司、宇都宮祥子の頬にキスをしていた。
「すぐに直るわ」
ヒールをかける月夜。
祥子の痺れは納まった。が、戦えるほどの回復はしていない。祥子は残った力で、氷の盾を作って月夜に渡す。
「彼らは、雪だるま王国のメンバーだそうよ。きっと氷を使うわ。これを持っていて」
月夜に盾を渡す。
ボールは、スライダーのなかにある。ルイは身体をかがめて、膝の上にマナを抱き、水の上を走っていた。
「スライダーの出口には敵ゴールがあるはずだ」
オフェンス要員として戦うつもりだったルイだが、マナと共に再びゴールを目指す。
出口を出て、二人が見たものは巨大なジャジラッドだった。両手を広げるとゴールポストが見えない。
そのとき、上空で黒い影が光った。ウオータースライダーを通らず、上空より降りてきたもの、それはキャプテン・ワトソン(きゃぷてん・わとそん)、ジャジラッドのパートナーだ。巨大な鯨の姿をしている。キャプテン・ワトソンの大きさには謎が多い。ただ、深さ4メートル、幅2メートルのプールを泳げる大きさなのだろう。
ジャジラッドは、ワトソンを呼び寄せる。
「ルールの反則にはゴールポストを飲み込んではいけないとの記載がなかったぞ。いいか、ワトソン、ゴールポスト丸ごと飲み込むんだ!」
ゴールポストを飲み込めば、ゴールをするためには鯨の腹の中に入らなくてはならなくなる。
「どうだ!これで鉄壁の守りが完成するぜ!東チームの完敗だろう」
ジャジラッドは、ゴールポストをワトソンの口に押し込もうとする。
しかし。
水流に流されないよう、ゴールポストはプール底と一体となって作られている。
「ダメよ、ジャジラッド。ゴールポストを飲み込むとプール床もはがれるわ」
麗子は、皆がワトソンの登場で、ボールに関心が薄れていることを危惧している。
突然、水中がゆれ、ルイが顔を出した。
ゴール前にケーニッヒ・ファウストが回りこむ。ルイはシュートを打たなかった。ボールはいつのまにかゴール内にもぐりこんでいる。小柄なマナが、ワトソンの影に隠れて押し込んだのだ。
「このプールはあなたには狭すぎるわ」
麗子がワトソンを諭す。
頭上にいる審判が、ゴールに気がついたのは、ワトソンが消えてからだった。
実況の翡翠が叫ぶ。
「驚きの3点目です、東チーム2点リード」
3対1
ケーニッヒが、うなだれるジャジラッドの代わりにゴールキーパーとなった。
「その身体だけで、十分にキーパーとしての能力があっただろうに」
ケーニッヒは、水中で軽く身体をほぐす。
「自分の活躍のためでなく、チームの勝利のために、オレはここにいる」
自陣に入ったボールをジャジラッドに投げるケーニッヒ。
「お前もチームのために生きろ」
「一回だけな」
斜に生きるジャジラッドは、大きくボールを投げた。そのボールをワトソンが鼻面で打つ。
ボールはそのまま相手のゴールポスト前に落ちた。
バリッ。
落ちたボールはその場所に留まっている。
東チームのゴール、そこは地上の暑さとは無縁の、北極の様相となっていた。プールの水は絶えず流れている。
なので、全てを凍らせることは出来ない。しかし、ゴール前にある水のよどみには、氷山のようなものが浮いている。
今、ボールを持っているのは、橘 恭司だ。
「唇を紫色にして、すごすごと選手交代するが良いのでござる!」
さけんでいるのは、雪だるま王国王子・スノーマンだ。もちろん冷気は味方にも影響しかねないので、東チーム選手は、アイスプロテクトを待って水中に入っている。スノーマンは氷の上に乗って、ゴールを守っている。
「寒いのは嫌いじゃないんだ、悪かったな」
恭司は一気にゴールを狙う。
そのとき。
水中に足を入れた恭司の顔が痛みで歪む。
鬼崎 朔が冷たい水中から飛び出してきた。
先は氷の粒子が敵チームを秘かに傷つけるように細工して流しておいたのだ。そのままボールを奪おうとする朔。
しかし、その前を氷の盾が阻む。
月夜だ。
「祥子さん、特製の盾よ」
月夜は、盾を水中に入れる。恭司を悩ませていた氷の粒が盾に阻まれた。
顔を見合わせる月夜と恭司。月夜が恭司の肩に飛び乗る。
そのシュートコースに合わせて、朔が、そしてゴールを守る赤羽 美央が身構える。
美央は、ファランクスで守りの体制をとり、オートガードで自身の耐久を上げ、自らにパワーブレスをかけて筋力も増加させている。しかし、一瞬の隙が出来た。
月夜がゴールではなく、スノーマンを攻撃したのだ。水の中に落ちるスノーマン、
「あっ」
美央が息を呑んだ瞬間、スライダーから刀真が飛び出してきた。そのままバーストダッシュで恭司に近寄る。
再び月夜が飛ぶ。月夜は刀真の肩に?まると、そのまま自らの身体を丸くしボールを抱えてゴールに飛び込んだ!
審判が見ている。
翡翠のアナウンスが鳴り響く。
「これで、3対2。西シャンバラチーム一点差まで追い詰めました!」
すでにボールは消えている。朔が氷の板に飛び乗り、相手ゴールを目指して疾走しているのだ。
「スノーマンは任せて」
美央はボールを朔に渡すと、スノーマンを引き上げる。
他の、雪だるま王国の面々も集まっている。
月夜は、寒さに震えながらも、刀真と恭司の祝福を受けていた。
「ゴールは祥子さんのアシストがあったからよ」
月夜は、ベンチにいる祥子に手を振っている。
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