校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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母と息子と2人の恋人 「ただいまぁ」 久しぶりの我が家に帰ってきた七枷 陣(ななかせ・じん)を迎えたのは、再会の感涙に咽ぶ母の声……なんかであるはずはなく。 「あ、陣おかえり〜。パラミタから追い出されてきたん?」 いつも通りの母七枷 七海の声だった。変わりないことに安堵しつつも、ちょっとイラッとしてしまう。夏休み、お盆といえば、時期的にも普通里帰りだと思うだろうに。 けれどリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)はイラつくどころか嬉しくてたまらない様子で、七海に満面の笑みを向けている。 「七海ママ久しぶり〜っ♪ 陣くんの家、1年ぶりだぁ〜」 「おかえり。相変わらず元気そうやな」 リーズに向けた視線を七海は小尾田 真奈(おびた・まな)に移す。真奈と七海が会うのはこれがはじめてだ。陣は軽く咳払いをすると、母に改めて2人を紹介する。 「リーズはもう知っとるやろ。で、こっちが真奈。2人とも今は俺の恋人だ」 「はじめましてお義母様。小尾田真奈と申します。どうぞよろしくお願いいたします」 「ボクもよろしく〜」 挨拶をする真奈とリーズを見比べた後、七海は陣ににやりと笑いかける。 「陣もロリコンやったんやなぁ」 「……よし、かーさんは久々に帰ってきた息子相手に喧嘩うっとる、把握した」 「何言うとんの。ちっちゃくてぺたんこで、立派なロリやない。流石パパさんの血筋やね♪」 そう言う七海は、ここにいる誰よりも年齢が低く見える。実際の年齢を口にするととんでもないことが起きるから言えないが、19歳の息子を持つこの母の見た目は、10歳程度の幼女なのだ。 「オレはロリコンちゃうわ。好きになった奴が偶々ロリっぽかっただけや!」 力説する陣に、リーズがぷうっと頬を膨らませる。 「んにぃ……陣くんデリカシーないよぉ……」 「確かに……貧相なのは自覚してますけど……」 しゅんとする真奈の様子にも気づき、陣は謝った。 「いや、あの……スイマセンデシタ」 「パパさんも同じこと言ってたで。偶々でもロリを好きになるところがロリコンなんよ〜。ささ、上がって……と言いたいとこやけど、陣はこれ」 七海はさらさらとメモにペンを走らせると、財布と一緒に陣に渡した。 「買い忘れがようけあってなぁ。買い物、頼むわ」 「このクソ暑い中買い物かよ!」 「いってらっしゃい〜。気ぃつけてな」 リーズと真奈をつれてさっさと上がっていってしまった七海を呆然と見送ると、 「クソっ……」 陣は仕方なく財布をつかんで外に出た。 陣を買い物に出すと、七海はリーズと真奈を誘って料理を作りだした。 「陣が好きなんは、肉じゃがなんよ。甘さは控えめにするのがミソやで」 ひとしきり、息子の好みを伝授したり、パラミタでの様子を聞いたりすると、七海は真面目な顔で2人と向き合った。 「あの陣に2人も恋人さんが出来たんは驚いたなぁ」 報告を受けたときには動じた様子を見せなかった七海だが、実際はやはりびっくりしていたようだ。 リーズは真奈と顔を見合わせ、あのね、と話し出す。 「ボクたち、人から見ればおかしな関係なんだと思う。でもね、これがボクたちにとっても幸せなんだ。だから……七海ママだけでも見守ってくれてたら嬉しいな」 「私は子供を産む機能が備わっていない機晶姫です。でも……ご主人様は受け入れてくれました。いびつな関係としてお義母様に相対したことは心苦しく思います。でも……叶うなら私たちのこの関係を見守っていただけると嬉しいです」 七海はそんな2人に優しい目を向けた。 「陣は、あぁ見えても打たれ弱かったりするんねんな? せやから、あの子が挫けそうになったらうちの代わりに2人が支えてあげてーな」 そして母として、2人に頭を下げる。 「ホンマ、陣には勿体ないくらいえぇ子たちやね。不束者やけど、あの子のことよろしくお願いします」 「お義母様……ありがとうございます」 「七海ママ。ボクたち絶対、陣くんのこと支えるから! 約束するよ」 そんな心温まる母と息子の恋人たちとのひとときは……、 「ただいま〜」 と買い物袋を手に帰ってきた陣によって崩れた。 七海は顔中笑顔にして、陣を肘でつつく。 「お帰り陣。アンタもう2人とすることしたん?」 「すること?」 「何しらばっくれてんの。ABCのことに決まってるやろ?」 にしし、と笑う母に、陣は固まった。 「もうCまでやったん? ヤッちゃったん? 教えてーな♪ うち、はよ孫欲しいしぃ〜気になるんやもん♪」 ぶちん。 陣の頭の中で何かが切れる音がした。 「……よろしい、ならば戦争だ」 問答無用で火術をぶっぱなそうとする陣を、リーズと真奈が両側から抑える。 「はーなーせー! リーズ、真奈! この腐れロリ母親は、一度ガチで燃え散らさんとあかんのや!」 「じ、陣くんダメだって〜! 七海ママが燃えちゃうよぉ! って言うか、むしろ家が燃え散っちゃうってば!」 「ご、ご主人様! 落ち着きましょう、ねっ? えっと……素数を数えてみましょうか。そうすれば落ち着きすまよきっと」 切れる陣となだめる2人。 それを眺めつつ、七海はこっそりと呟く。 (ホント陣、えぇ子を見つけたもんやな) 3本の矢は強い。きっとこの子たちならば陣を支えてやっていってくれる、そう確信しながら。