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三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター

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三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター

リアクション

つつがなく学園祭がすすむ中、冴えない表情の者もいた。
(……気持ち悪い……)
 ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)に誘われて、再びタシガンを訪れた御空 天泣(みそら・てんきゅう)は、すでに後悔をし始めていた。
 当然だが、校内には男しかいない。どんなに、可愛らしく美しい外見をしていても、だ。
 それが、忘れようと努めている天泣のトラウマを、否応なく刺激してくる。ただでさえ、やつれきった身体は、実際軽さに比べてひどく重たく感じられた。
「どぉかしたの?」
 八重歯をちらりとのぞかせ、可愛らしい笑みを浮かべて、ラヴィーナが天泣の顔を覗き込むようにして見上げた。
「あ……いえ、なんでもありません。大丈夫です」
 天泣はそう答えると、無理に微笑みを作った。自分は一人はない。ラヴィーナがいるのだから、しっかりしなくては……と、なんとか気力を振り絞る。
 あたりを伺うと、他校の生徒たちの姿も多いが、タシガンの民であろう人もちらほらと見かけた。排斥運動が激しいと聞いていたが、最近はそうでもないのだろうか。ただ、それにしては、時折薔薇の学舎の生徒たちが、厳しい表情を浮かべているのも事実だ。
「あ……」
(しまった)
 薔薇学の生徒と、まともに視線がかち合う。儚げなたたずまいの少年と、銀色の髪の美しい守護天使の二人連れだ。どうやら、この後の芝居のチラシを配布して歩いているらしい。
 咄嗟に天泣は視線をそらしたが、ラヴィーナはその様子に気づくと、自分から無邪気に少年へと近寄っていった。
「なに配ってるの?」
「舞台をやるんだ。よかったら」
 上月 凛(こうづき・りん)が、チラシを差し出しつつ、静かに答えた。
「へー、ロミオとジュリエット? もっと死人の出るマクベスがいいー」
 可愛らしい外見のわりに、恐ろしいことをペろっと口にするラヴィーナだ。凜はとくに表情を変えないが、傍らにいたハールイン・ジュナ(はーるいん・じゅな)はやや苦笑を浮かべた。
「ラヴィ……」
 あまり薔薇学の生徒とは関わりたくないのもあり、天泣はそう言うと、ラヴィーナを引き戻そうとする。そんな天泣の肩に、ハールインが軽く触れた。
「顔色が悪いですよ。少し休まれてはいかがですか?」
「……!」
 あくまでハールインの言葉は優しく丁重であったが、天泣はやにわに顔色をさらに青白くすると、その場から逃げるように立ち去ってしまった。
「あーあ」
 ラヴィーナはそう言うと、後を追いかける。……しかし、その口元は楽しげに歪んでいた。
 彼が忌まわしい記憶を思い出し、天泣がさらに自らを追い詰めたことはラヴィーナにはわかる。しかし、それはラヴィにとっては、なによりの娯楽なのだった。
「……どうかされたんでしょうか」
 一方、ハールインは小首を傾げ、凜に尋ねた。
「さぁ。それより……」
 凜はカモフラージュのためのチラシの束を抱えなおし、広場を一瞥した。
「一刻も早く、見つけ出さないと」
 凜の言葉に、ハールインは頷いた。
 二人は、【シリウスの心】を探している。校長室から、犯人の逃走経路に沿うようにして、隠し場所がないかをしらみつぶしに見ていたのだったが、校内でワゴン販売をしながら、生徒間の連絡役を務めていた神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)から、【シリウスの心】がとある人物によって奪われたことを知らされた。
「なんだか、ややこしいことになったな」
 元から凜は、犯人が鏖殺寺院関係であれば厄介だとは思っていたが、事態はそれ以上に混乱しつつある。今日が学園祭でなければ、もっと派手に捜索もできそうなものだが、そうもいかない。
「……とりあえず、このあたりには危険はないようですが」
 ハールインは、密かに発動させた禁猟区の能力で、そう口にする。
 しかし、犯人はこちらに危害を加えようとは思っているかはわからない以上、頭から信じるわけにもいかない。
「とにかく、歩き回るしかないか……」
 凜は呟くと、再び案内チラシを手に、ハールインと共に校内を巡回しはじめようとした、矢先。
「なぁ、サインくれへん?」
「……?」
 唐突に声をかけられ、凜は振り返った。
 そこには、蒼学の制服姿の大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が、にっこりと笑って、白いノートを差し出していた。
「サイン……ですか?」
 咄嗟にハールインが答えると、泰輔は今度は彼に笑いかけ、「兄ちゃんでもええで。いやーまたえらいべっぴんさんやなぁ」と言う。
 凜とハールインは、ちらりと目配せしあった。……これが、【シリウスの心】の犯人の関係者か。いや、どうみても、否。
「かまわないけど」
「やー、ありがとな! 大事にするわぁ」
 半ば押し切られ、凜は白紙に名前を書く。するとすぐに、泰輔は「ほな、おおきに!」と立ち去ってしまう。
「色んな方がいるものですね」
 ハールインが呟いた。