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まほろば大奥譚 第二回/全四回

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第七章 幽閉1

 桜の世界樹『扶桑』
 マホロバの象徴であり、マホロバ人にとっての魂であり、また帰る場所でもある。
 そんな桜の樹を見るために、波羅密多実業高等学校ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、パートナーたちを伴ってレッサーワイバーンの背に乗り、一路、扶桑の都へと飛んでいた。
「待ちな、今この門は物資・運搬・商人以外通れないんだ。悪いな」
 都の街外で降りたところで、ウィングは三人の男に止められる。
 ウィングには一目で彼らが瑞穂藩士であることが分かった。
「そんなこと誰が決めたんです。通行の制限なんて、お上が許さないでしょう」
「ふん、今の幕府は腰抜けよ。実力行使に出れば、止める術はない」
「そうか、じゃあ。代わりに私が。私はただ、花見がしたいだけなんですよ。ちょっと、通りますね」
 ウィングは魔鎧ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)を纏い、身構える。
「ウィング、おぬし。わかっておろうな」と、ルータリア。
「ええ、私のドラゴンアーツの一撃から逃れられた人はいないんですけどね」
 ウィングは小手に注力し、向かってくる瑞穂藩士に向けて放った。
 三人の男達は衝撃で吹き飛ばされる。
 ワイバーンの影に隠れていた剣の花嫁ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)が胸を揺らしながら走ってきた。
「もう、お二人ともいけませんわ。わたくし達の目的は都の様子を探ることとお花見ですわ。せっかくの手作りお弁当が美味しくなくなっちゃいますわ」
「分かっています、殺してはいませんよ。あれ……」
 ウィング達の目前を、緑の髪の少女達が駆け抜けた。
「ありがとう〜。ボク達中に入れなくて困ってたんだ。助かったよ」
 葦原明倫館ジョシュア・グリーン(じょしゅあ・ぐりーん)がマホロバ人桜小路 幸太郎(さくらこうじ・こうたろう)と共に走っていく。
「幸太郎、はやく瑞穂藩士のいそうなところ探さなくっちゃね。まずはお酒の入りそうなところかな」
「瑞穂藩士……?」
 ウィング達は顔を見合わせ、彼らの後を付いていく。



 扶桑の都
 桜の世界樹扶桑を取り囲むように作られた都である。
 マホロバの文化、情緒、風情あふれる伝統的な建物は、どこを向いても歴史的価値のあるものばかりであり、整った町並みは碁盤の目のようである一方で、狭い路地裏はさながら迷路のようでもあった。
 その都の中でも最も華やかな茶屋街。
 伊勢屋という店で、今日も多くの人々が賑わっていた。
「あら、お兄さん良い飲みっぷりね! ステキだわ〜。もう一杯どう?」
 店の端っこで妖艶な男性が科(しな)を作りながら男達に次々とお酌をしている。
「ねえ、あたし。扶桑の花見に行きたいんだけど、どこかにイイ男いないかしらねえ」
 幸太郎はワザと酔っ払った振りをする。
 すでに酒が回っていた瑞穂藩士と名乗る男は、花見ならもうすぐ満開なのが見られうぞ、といった。
「ええー、それほんと? あたし見たい、見たいわ!」
「そうだな、普通の開花ほいならん。とびっきいって奴だ。連れてやってやっても良かが、まだ早かな。そいどん、流石に見物だろうな……なんせ二千五百年ぶいの『噴花』だ。天子様がご降臨されうんじゃっで……」
「え……天子様?」
「あ、いや。何でん。さっきのは忘れてくれ」
 瑞穂藩士は慌てて話を打ち切ると、がばがばと酒をあおった。
 幸太郎は厠(かわや)に行くといって席を立つ。
 厠には先ほどのジョシュアが待っていた。
「……それって、天子様が目覚められるのかな。扶桑の噴花だから、その化身の天子様と無関係なはずないよね」
「そうね、その情報を握ってる瑞穂藩がそれを利用しない手はないと思うの。何か企んでるんじゃないかしら。気になるわ」
 その時、厠の向こうで小枝が折れる音が聞こえた。
 幸太郎が「誰!?」と鋭い声を上げると、ウィングが両手を挙げて現れた。
「すみません、立ち聞きするきはなかったんだけど、気になってね」
「……アナタ、あたしたちの敵じゃないわよね」
「もちろん」
 幸太郎はなめるような視線をウィングに送っていた。
「ま、綺麗なお兄さんだから信じてあげるわ。ここで出会ったのも何かの縁。協力しまししょうよ。この情報、葦原明倫館に届けて欲しいんだけど、できるかしら」
「それなら可能ですよ。私のレッサーワイバーンがある。陸より空の方が早……」
 ウィングが言い終わらないうちに、幸太郎は彼を厠に連れ込もうとしている。
 ジョシュアが「逃げて〜! 逃げて〜!」と叫んでいた。