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静香サーキュレーション(第1回/全3回)

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静香サーキュレーション(第1回/全3回)
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【×4―3・対峙】

 図書室を四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)は探検していた。
「ラズィーヤさんが死んだとか妙な噂が流れてるけど……あの人がそう簡単に死ぬかしら?」
「うーん。ボクにはよくわかんないけど、どこかで見かけたって言う人はいたよね」
「じゃあ生き霊というやつかしら? そもそも、あの時の幽霊逆光で良く見えなかったけど。誰かに似てたような気がしたのよ」
 資料の棚を動かし、隠れていた扉を調べてみる唯乃だったが。
「もしかして、その幽霊がラズィーヤ殿だってこと?」
「確証はないけどね。仮にアレがラズィーヤさんであったとして、幽霊退治もループの一部だとすれば……この幽霊にループの基点があるかもって睨んでるの」
「なるほど」
 その扉は単なる物置でしかなかった。
「まぁそうでないにしても、他に有力な情報もないしね。とにかくまずはラズィーヤさんと会えればいいんだけど」
「全然見つからないよね。この学院、けっこう広いもん」
 シンベルミネは、しっかり銃型HCで学院内をマッピングしながら移動して、しかも通った時間なども記録していはいるものの。未だラズィーヤとは会えていなかった。
 ちなみにここもからぶりのようだった。
「仕方ないわ。こうなったら幽霊騒ぎがあった、校長室に行ってみましょ」
 いい加減しびれをきらせた唯乃は、そう言うなり図書室を後にしていった。
 そんな彼女達の話を、偶然近くにいた赤羽 美央(あかばね・みお)は魔鎧状態のパートナー魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)と共に聞いてしまっていた。
「むふむ、校長室の幽霊騒ぎ、ですか……決めました。私、二度と百合園の校長室には近づきません」
「二度とって。そこまで頑なにならなくても」
 サイレントスノーはそう言いつつ、周囲の様子に違和感を抱き、
(……ふむ。どういう事でしょう? この光景、前にも見たことがあるような気がします)
 徐々にループを認識し始めていた。加えてあちこちから漏れてくる、ラズィーヤが殺される、もしくは殺されたという話。
(おそらく、このループのトリガーとなっているのは、ラズィーヤ女史の殺害。そしてこの繰り返しの中で、校長室で確認できた殺害の原因、いや、戦闘と言えば……校長室の幽霊退治……?)
 そうして頭の中で推理を繰り広げ、
「……まさか。なるほど、そういう事でしたか」
「ん、サイレントスノー、どうかしましたか?」
「美央ッ! 今は時間がないから理由は後だ、校長室の幽霊退治をすぐに止めにいきなさい! 幽霊の正体はラズィーヤ女史、または夢魔や幻術の類かもしれない」
「……校長室の幽霊騒ぎを止めに行く? むー、いやです。お化け怖いですし! 第一、私お化けが出ると全く役に立たないって知ってるでしょう!」
「それでも行くんです!」
「やだやだやだ、サイレントスノーはあれか、私の怖がる姿を見て楽しむタイプの人なのか! やーだーやーだー、この変態め!」
 と、いったものの。ふとさっきのセリフを考えてみて、はたと気づく美央。
「……え? 幽霊騒ぎの犯人の正体が、ラズィーヤさんですか? 放っておいたら殺されてしまうかもしれない……?」
 さらによくよく考えていくと、美央としても今の状況に違和感をおぼえなくもなく。
「やっとわかっていただけましたか」
「むー、でも……わかりました。校長室に行きましょう。ただし、皆の動きを止めるのは貴方の力を借りますからね、サイレントスノー」
 きちんと保険的なことを了承させて、美央は校長室へと急いでいった。

 その校長室では。
「本当に出てきましたわね、学院の幽霊……それとも悪魔のたぐいでしょうか」
 エレン達がとうとう姿を見せた幽霊に対峙していた。
 夕暮れと宵闇の狭間から染み出てくるようにして現れたその影は、そのままゆらゆらと人の姿をかたどっていく。表情こそ判別できなかったが、身体のラインから女性のそれであるように、エレンは分析する。
 エレンと同様にパートナーーの三人もさほど臆することはなく、むしろ積極的に情報を集めようと幽霊らしき人型から目を離さずにいた。
 攻撃してくるのか、それともなにかべつの反応を示すのか、緊張が走る校長室。
 その窓が、いきなり外から勢いよく破られた。
「え、なに!?」
 ガラスを巻き散らしながら飛び込んできたのは、雪白、ギュスターブ、由二黒。そこへさらに行動早く雪白がサングレを召還し、合計四名がいきなり室内へと登場する形となった。
「ついに姿を見せたねっ、幽霊! 正体を暴かせてもらうよ!」
 戦闘態勢の雪白に、その幽霊は影のような霧のような腕らしき部分を伸ばしてくる。
 危害を加える気かと判断したギュスターブは、ブラインドナイブズで先手をとろうとし、サングレもガードラインで雪白を守るように動いた。
「ちょっと待って!」「攻撃しちゃダメだよ」
 しかし唯乃とシンベルミネの叫びが、ギュスターブの手を幽霊に届く直前で静止させる。
「雪だるま王国女王の名において、今すぐその幽霊退治を中止して下さい!」
 さらにふたりの後ろから、美央が警告を用いてダメ押しをした。
 しかたなくギュスターブは渋々腕をおろす。ただ、いざ攻勢に転じてみても相手から特に殺気を感じなかったというのもあったが。
「あ、あの。あなたの正体はラズィーヤさんなんでしょう?」
 美央の言葉に、周りからざわめきが漏れる。
 しかも幽霊にもわずかに動揺が走ったように、身体が揺らぎ、そして。
『そうとも、言えますわ。けれど、違うとも、言えるんですの』
 禅問答のような発言をしたかと思うと、ぼやけて雲散霧消してしまった。
「え、そ、それってどういうこと!? ねえ!」
 返答は、こなかった。
 そのあとも全員がかりで校長室の中をくまなく調べたものの。
 幽霊どころか手がかりらしいものが出てくるようなこともなかった。

 そうして皆が諦めて、校長室を後にした五分ほど後。
「あら? どうして窓ガラスが割れていますの?」
 正真正銘幽霊ではない生身のラズィーヤが、戻ってきていた。