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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~

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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~
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「アルマインを買うために転校してきたんだよ。ブレイバーはカスタムまで済ませたんだよ。
 マギウスはこれからカスタムしようかなって思って、始める前に機体のことを熟知しておこうと思って」
『……あれはおまえのじゃったか。どうしてこれは人の姿をしておるのかとしばし首をかしげたぞ。
 ま、こちらもアルマインについてはまだまだ調整中じゃ。仕様が変わることもあるが、気にせんといてくれ』
 アーデルハイトと通信をしながら、未沙が大火力兵装――マジックカノン・マジックロケット・マジックシャワーの三点セット――で出撃する。出現するターゲットに合わせて、それぞれの兵装を一通り使用してみて、その都度特性を記録していく。
 
「……うーん。いくら積載量無視だからって、やっぱり三つ装備は無理があるんじゃない?」
『いや、それを言ったら、ブレイバーはマジックソードをどこに収納しとるのかという話になるじゃろ』
「あれ? でもマギウスだってソード持ってるよ? ほら」
『なんじゃと!? ええい、マギウスには必要なかろうて……。
 仕方ないのう。マジックソードは刀身を短くした上で、マジックショットと共に各兵装の共通装備としようかの。
 三つ装備が厳しいのなら、カノンに複数の役割を担わせるのも手かのう。通常弾と、ある一定距離で炸裂するタイプとか』
「ねえ、これらの武器って追加される予定あるの?」
『検討中じゃよ。量産体制が整えばな。
 ……ほれ、カノンの調整終わったぞ。ちょいと試してみてくれ』
「早っ!? ……あ、ホントだ。Cモードが今までので、Sモードってのがばら撒く感じ?」
『ああ、カノンとショットガンってとこじゃな。カノンは仰角を高く取ることも出来る、上手くやればマジックシャワーと同じ使い方も出来よう。
 一通り試し終わったら、データを寄越せよ? おまえだけで独り占め、は許さんぞ』
「抜け目ないですねぇ、アーデルハイト様」
『伊達に長く生きとらんよ。それに、エリザベートではこういう真似は出来まい。
 ……話が過ぎたか。ともかく、頼んだぞ』
 
 長々とした通信を終え、未沙が再びデータの収集に取り掛かる。
 ……そのデータは、今後のアルマインの兵装プランに活用されることとなるのであった――。
 
 
 芳樹が前、アメリアがその後ろ、玉兎が左手でマリルが右手にそれぞれつき、床から伸びる一対の柱、その上に載っている水晶に触れる。それを合図にアルマインのシステムが起動し、芳樹の前方にマギウスが感知する周囲の光景が映し出される。
「私は、今回の模擬戦においての戦闘記録の保存と解析を行います。
 自分たちに何が足りないのか、またどの部分が長所として伸ばせるか……これらを把握することは大事ですからね」
「わらわもそうじゃな、マリルの助けになろう。無論、通信や相互の位置把握も怠らぬぞえ」
 マリルも、そして玉兎も、ただ漫然と芳樹とアメリアの補助をするのではなく、目的意識を持って自らの為すべきことを決定していた。既に一度戦闘を経験している彼らは、そういうことが考えられ、また実行に移すことが出来た。
「……しかし、模擬戦を提案したまではよかったけど、どうも各機練度に差があるようね。
 このままではチーム戦としての訓練など、覚束ないのでは……」
 アメリアの言う通り、白組六組のうち実に四組が初搭乗であり、各自がまずは一通りの基本動作に習熟することに執心しており、模擬戦らしさは今のところ見られなかった。
『経験者は、ボクとキミだけだね〜。
 ……そうだ! こんな時のために、技量のある人がルーキーさんをフォロー出来る仕組みを作るのはどうかな?』
『ほう、なにやら興味深いな。よかろう、話してみよ』
 通信を寄越してきた花音の提案に、興味を惹かれたのかアーデルハイトが割り込んでくる。
『えっとね〜、技量のある人の乗る機体に、何か目印つけるの! 後は、乗る人にもバッジとか、特別な何かを支給するとか!』
 後は、称号を順に発行して技術レベルを表示できるようにする、なんてのもあったが、これはまあPL向けである。PC向けに言うと上記のようになるだろう。つまりは角をつけるとか、フ◯イスとかそういうことである。
『ふむ……検討の余地はある、か。手間がかかるんじゃがのう……。
 まぁよい、おまえの意見は聞き入れたぞ。……ところでおまえ』
『ふぇ? なにかな?』
 ポカンとした様子の花音に、アーデルハイトがため息をつきつつ言う。
『マジックカノンとマジックヒールを同時装備は、勘弁してくれんかのう。
 私はマジックヒールは、『支援兵装』として用意したつもりなんじゃが』
 つまりアーデルハイトの言い分としては、マジックヒールはそれを実行するための杖のようなものを持って行うものとしていたのに、カノンと装備されて困っているとのことであった。……未だアルマインの武装が調整段階であることを鑑みれば、仕方のないことであるが。
『他の生徒からも意見を貰っての、マジックソードとマジックショットは各兵装に共通のものとする予定じゃ。それで最低限自衛は可能じゃろう。その上で各兵装を装備し、状況に適応させようと踏んでおるのじゃ』
 アーデルハイトの方針は、一機で何でも出来る、よりはある程度性能を特化させ、それぞれの特性を生かしながら連携によって適応力を上げようというものであった。つまりはデス◯ィニーじゃなくてジャス◯ィス・フ◯ーダムとしたいらしい。
『なるほどー。あっ、もう一つ提案があったんだ! 射撃の時の戦術についてだけど……』
 花音が次に、『機体編成は四機を基本とし、それぞれ射撃・照準・リロード・予備と役割を順番に回すことで、攻撃の切れ目を無くす』という案を口にする。
「……アメリア、マジックカノンのスペック、分かるか?」
「待って……確か、数秒に一発、といったものね」
『えっ、そんなに早いの?』
 アメリアの提示するマジックカノンのスペックに、花音が驚いた表情を浮かべる。芳樹たちは前回もマギウスに乗っていたから、アメリアの発言は経験に基づいたものである。
「二組程度が妥当ではないだろうか。これに近接兵装のブレイバー二機を加えるのがベストと思われるが……」
『う、うむ……兵装の関係上、近接戦用機体が少なくなってしまうのは仕方ないと思っとくれ。
 もし組むなら、近接一:遠距離二〜三になってしまうの。イルミンスールにおいてあえて近接兵装を選ぶんじゃ、相応の手練であることじゃろうよ』
 色々と意見を口にして、アーデルハイトが通信から外れる。
『う〜ん、固い話ばっかりしちゃったな〜。リュート兄さん、この訓練が終わったら――』
『ええ、ちゃんと皆さんの分も用意してありますよ。ですが花音、まずは訓練に勤しみましょう。
 何度も繰り返し、身体に覚え込ませることが大切ですよ』
『わ、分かってるよ〜』
 リュートとそんなやり取りを交わしながら、花音も通信から外れる。
「……芳樹、私たちはどうするの?」
「……しばらく、様子を見よう。先達者として、教えられそうなことがあれば教える感じで」
 この自由さが、イルミンスールらしくもあるなと思いながら、芳樹が事態の推移を見守る――。
 
 
「ふむ……これが、死炎兵装か」
「四条さん、死炎じゃないです支援です」
「くそう……コアがあれば迷わずコア凸するのだが……なぜだ」
「四条さん、知らない人にはネタ分からないです」
『そうは言うがの、あれは破壊されても復活できるシステムだからこそ成り立つ戦術じゃろうが。
 実際では例えばコアは浮遊要塞と置き換えられよう、それに一機で突撃するのは無謀以外の何者でも……コホン、話がズレたな』
「……突然乱入してきて何を話すかと思えば、うむ……現実ではそうなるのか」
「え? もしかして会話が成立している? どういうことですか!?」
 
 輪廻とアーデルハイトの会話に、アリスがポカンとしたところで。
 
「ところで、リペア……ゲフンゲフン、マジックヒールは自分にも効くということでいいんでしょうか?」
『あー、それじゃがな、仕様を変更しようと思う。私ら魔女が使用できる『ギャザリングヘクス』と同等の効果にしようと考えとるんじゃ』
 つまり、消耗した魔力を回復させる&一時的に魔力を強化させることが出来る、ということになる。
「なるほど、システムの都合というところか」
「四条さん、本当に分かってます?」
 ますます不安になるアリスを横目に、アーデルハイトとの通信を終えた輪廻がメガネをキラン、と光らせ前方を見据える。
「さあ、行くぞ。……一瞬でいい、一瞬のみ、領域を完全支配及び制圧する……
 一瞬の支配者(インスタントルーラー)四条輪廻、出撃だ……!」
(ダメだこの人……早くなんとかしないと……)
 完全に自分の世界に入ってしまった(ようにアリスには見えた)輪廻の背中を見つめて、アリスがはぁ、とため息をつく――。
 
 
「大ババ様や、アルマインのデータ収集を行いたいのじゃが、専用の設備とかはあるのか?」
「うむ……訓練設備の充実を先にと考えておったからの。いずれ作ろうとは思うが、ひとまずデータ収集は模擬戦の場から行っとくれ。おまえの機体もそこにあるのじゃろ?」
「んふ、いかにも。分かった、そうしよう。
 ……後で、EMUについての講義内容をまとめたものと交換という話でどうじゃ?」
「ファタ、おまえも抜け目ないヤツじゃのう。
 交換条件とせずとも、例の講義については資料をまとめて閲覧できるようにしておく。あれは、イルミンスールの生徒が知っておかねばならぬ重要なものじゃからな。
 アルマインについても、詳細はまだ不明な部分が多い。今この場に来ていない生徒が咄嗟に操縦することになった時、少しでも操縦の手助けをしてくれるマニュアル作りも、未だ不完全じゃ。
 おまえの働きに期待しておるぞ」
 
「……というわけで、マスターはデータ収集に勤しんでいる次第でございますか。
 ふふふ、我がマスターも勤勉なことです。まあ、魔術師とは一種の研究者でありますから、これも性なのかもしれませんが」
「無駄口を叩いておってよいのかの? ほれ、マインを設置したぞ」
 不敵に微笑みながらローザが呟くのを見とがめるように、ファタが装備した杖のようなものの先端から、魔力の塊を空中に漂わせるように設置する。これが支援兵装の武器の一つ、マジックマインであった。
「この程度距離を取ればよいでしょう」
「んふ、確かにの。では行くぞ」
 十分距離を取ったところで、マジックショットを抜き、マイン目がけて撃つ。ショットの魔弾がマインに当たった直後、空中で大爆発を起こす。
「……魔力消費は、容量のおよそ一割……威力は多大なるものと思われる……」
 現象から得られたデータを、ファタがその場で記録していく。既に『マジックジャマー』については、効果が百数十秒続くこと、同時に展開もできるが、その際は展開した分の倍数減っていくこと、効果範囲は数メートル四方であることが判明していた――。