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リアクション
第3章 魔塔【5】
監獄区画。
虜囚の身となったメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は脱出の機会を窺っていた。
武器は奪われたが、防具はそのまま、しかも武器は牢の前に置かれている。
警備の兵さえ倒せば脱出できる……そう思っていた、この男が来るまでは。
巨漢の極悪人ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)。
彼の進言により、メイベルはパートナーとはなされ、それぞれ個別に牢に入れられてしまったのだ。
となりの牢に入れられたのはわかるが、彼らに見張られていては会話をすることなど不可能である。
「皆と上手く協力ができません……、サイコキネシスで牢を破ってもひとりだとすぐ捕まってしまいますしぃ……」
「妙な真似はするなよ、おまえ達の処刑許可は出ていないが……どうとでもできるんだからな」
ジャジラッドは凄みを利かせて言う。
その傍ではサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)がPCに向かって提案をしていた。
画面にはパルメーラ。本当はカーリーも交えたかったのだが彼女は今毛布一枚なので通信手段がない。
『地球に向けて放送する……?』
「ええ、説明は不要でしょうが、昨今タシガンでナラカの負のエネルギーを正に変える装置が発見されました。この新エネルギーに地球の各国は既に目を付けているでしょう。特にシャンバラの利権に食い込めなかったアフリカ緒国、EMU、アリクトが失脚した核保有国であるインド、そして都市伝説レベルの十人評議会など……。中には大穴が空いたほうが利益と考える国家もあるはずですわ。そういう国に協力を呼びかけるのです。我々の野望のために……」
『おもしろいけど……、今更遅いんじゃない?』
あと10数時間で勝利の塔は発動する。
そうなれば奈落の軍勢で現世を侵略可能、わざわざ滅ぼすべき連中に手を借りる必要もない。
「……わかりました。また別の計画をご提案させて頂きますわ」
通信を終える。
「駄目だったか。まぁいい……、例の計画は通っているんだ。御神楽環菜の完全復活は阻止できるはずだ」
「ええ、それだけでもウゲンへの借りを返すには十分だと思いますわ」
「ところで……、なにか知らんが妙な臭いがしないか。なんと言うか『石油』のような……」
違和感に首を傾げる彼の目の前に突如、無数の稲妻と氷礫が叩き込まれた。
そして、制圧部隊がなだれ込む。
「なるほど。このメモの情報は正確ですね。余計な戦闘も避けられましたし、上手く背後を突くことができました」
軍師諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)は術式を発動させながら言った。
「敵の後方に捕虜がいます。解放はよろしくお願いしますよ、優斗殿、総司殿」
「了解です。皆さんは先に、勝利の塔の再発動を阻止してください。大丈夫、僕たちも必ずあとで合流しますから」
「さぁ、優斗さん。一気に片を付けてしまいましょう」
蒼空学園新生徒会副会長風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)と旧新撰組一番隊隊長沖田 総司(おきた・そうじ)が飛び出す。
それに対するは異貌の竜人ゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)。
それぞれチェスの駒にちなんだ名を与えたゴーストナイトに迎撃を命じた。ちなみにキングはジャジラッドだ。
「奴らを牢に近付けるな。ポーン、ナイト、ルークは前に。ビショップとクィーンは……」
言いかけたところで、ゲシュタールはメイベルの放ったサイコキネシスに吹き飛ばされた。
彼女は折れ曲がった鉄柵から出てパートナーに呼びかける。
「この混乱がきっと脱出のチャンスです〜。皆も早く逃げてください〜」
すると、足下にゲシュタールの落とした鍵を拾う小人の影が見えた。
小人はとなりの牢の鍵を開けて、中の鈍器少女セシリア・ライト(せしりあ・らいと)を解放する。
このドサクサに、となりのとなりのステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)は自分のピッキングスキルで脱出。
そのまたとなりの牢のフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)を解放し、彼女達は全員脱出を果たした。
「お、おのれ……! 逃がさんぞ……!」
よろよろと立ち上がるゲシュタールに、セシリアのジェットハンマーが炸裂。
一撃の下に彼は倒れた。
「武器が戻ったからには遠慮なんてしないよ! 閉じ込められた恨みはここではらすんだから!」
「ええ、図らずも敵の背後を突ける形……つまり挟み撃ちの形となりましたしね」
「この機を逃す手はありません」
フィリッパとステラも武器を手にとり、ジャジラッド達に迫る。
「ば、馬鹿な……! べ……ベルゼネア! 何をしてる、早くそいつらを潰せ!」
「ベルゼネア様……とおっしゃるのですか、あの方は。彼女ならわたくしの牢獄で眠ってらっしゃいますよ」
フィリッパはニッコリ微笑んだ。
ベルゼネアとは奈落人ベルゼネア・トト(べるぜねあ・とと)のことである。
フィリッパに憑依させ、不測の事態の時に対処させようと考えていたのだが、如何せん実力に差がありすぎた。
素手とは言え、類いまれな実力者のフィリッパをどうこうするだけの力はベルゼネアにはなかったのだ。
「これまでのようですね」
頭を失った兵士などもろいものである。
優斗はまたたく間に騎士達を斬り捨て、今度はジャジラッドに切っ先を向けた。
「反撃を予想していましたが、戦闘準備がおろそかになっていたようですね。敵襲に備えていたとは思えません」
その指摘は正しかった。彼らは主に作戦の立案で動いていたため、戦闘はほとんど想定していなかったのだ。
サルガタナスも総司の刀の前に倒れると、ジャジラッドはいよいよ追いつめられた。
「こ、こんなところで終わるものか……!」
飛竜の槍を振りかぶる……だがその時、総司の放った奈落の鉄鎖よって彼は大きく態勢を崩した。
すかさず優斗の剣が一閃。二つに割れたマスクが落ち、血にまみれジャジラッドは倒れた。
と、優斗は彼の手から何かが落ちたのに気付いた。
「……どうしました、優斗さん? 何か見つけたのですか?」
「いえその……、ナラカには不似合いなものを見つけたものですから。どうしてこんなものを彼が……?」
床の謎のUSBメモリーを拾う……その時、階層全体に異変が起こった。
突風の駆け抜けるような音、それとともに炎が床を伝ってこちらに向かってくる。
「し、しまった! トラップです!」
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