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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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第3章 魔塔【7】


 塔中枢。
 円状の空洞を制御装置が囲む。
 中央には宙に固定されたトリシューラ、鳴動し刻一刻と迫る発射の時に備え、破壊の力をその身に収束させている。
 空間にはホログラムビジョンが浮遊、画面に未知の言語の呪文が凄まじい速度で詠まれているのが見えた。
 守りに付くゴーストナイトは思ったより少ない。
 どうやら諒の流した誤情報により、別の階層にいると思われる『制圧部隊』の鎮圧に向かったようである。
 この機を逃す理由はなかった。
 先制攻撃を担ったのはルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)、天のいかづちで敵中央を突破。
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が間断なくクロスファイアを繰り出し道を開く。
 奇襲はゴーストナイトの迎撃態勢を崩壊させるに十分過ぎる効果を発揮した。
「敵兵の撤退を確認、装置までの道を確保しました。ここは私とルシェンで維持します」
「おそらく一旦退いて態勢を立て直すのでしょう、まだ油断は出来ません。朝斗は今のうちにトリシューラを……」
「わかった、しばらく持たせてくれ……」
 二人の契約者榊 朝斗(さかき・あさと)は駆け出す、しかし突然の異変が彼に襲いかかった。
 装置にもたれるようにして倒れ込む。
「朝斗の心拍数が上昇しています。このままでは最悪のケースも考えられます……!」
「顔色が悪いとは思っていたけど……、あなたまさか……!」
 ただでさえ長期仮契約の歪みに蝕まれる彼にとって、ナラカの穢れは蓄積された闇を誘う甘美な毒だった。
 闇に飲み込まれれば自我を奪われ……所謂、暴走状態に陥ってしまうのだ。
「だ、大丈夫だよ……、僕はこんなところで負けたりはしない……!」
「子どもかと思ったけど……ガッツがあるじゃない」
 不意にゴーストナイトが朝斗に肩を貸した。
 ポカンとする彼に気付き、ごめんごめんと兜を外すと、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)のはにかんだ顔が出てきた。
「ル、ルカルカさん……? どうしてここに……いや、何故そんな格好を……?」
「こっそり侵入したくて剥ぎ取ったの。先に塔を潰しておこうかと思ったのに、意外とここまで来るの早かったのね」
「うんまぁ、事前に調査してくれた人がいて、安全なルートで来られたんだ」
 それから朝斗は自我を強く保ち、トリシューラに関係するデータを洗い出すべく装置に集中する。
 空間に浮遊するホログラムビジョンに塔の断面図が表示、トリシューラの力を増幅させる構造があらわになった。
「塔全体を貫く空洞に何かの術式がある……、たぶん破壊の力を収束させる術式だ。なるほど、それを装置に組まれてる転移術式で撃ち出すってわけか。でもこの転移術式、情報量が膨大だな……必要な呪文数は10の100乗……!?」
「しかも一字一句間違えず、定められた時間内に、決まった配列で空間に並べなければならないみたいね……」
 この演算のために御神楽環菜の才能がどうしても必要だったのである。
「けど、これで何もかも終わりだ……!」
 数時間前から読み込まれていた転移術式の自動詠唱を停止させる。
 ついでに……と、ルカルカは真空波サンダークラップ乱射で壁面の収束術式を破壊する。
 すると、塔を揺らしていたトリシューラの鳴動が消えた。
「よし、じゃあ今度はオデコちゃんの才能を取り返さなくっちゃね。ダリル、データは見つかった?」
「ああ、このネットワーク状態から見るに……すべてに直結したこれがおそらく……!」
 相棒のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は無数のホログラムビジョンの向こうにある深部を目指す。
 ふと、キーを叩く指先が止まった。
才能データが暗号化されている。未知の暗号方式か……、パスコードを入力しなければ……
「コードの解析は出来ない?」
「必要な文字数が膨大な上に未知の言語が使われている。通常の手段じゃ100年かかっても解析できるか……」
 とその時、ワッハッハッハと高笑いが中枢に響いた。
 ホログラムビジョンの一枚に負傷したジャジラッド・ボゴルが映った。
『残念だったな、こんなこともあろうかとデータに細工をさせてもらった。パスコードがなければ元には戻せん。しかもコードは分割して奈落の軍勢内で管理してある、塔は残念だったが、せめて御神楽環菜の才能は奪わせてもらう……』
「……それってもしかしてこれのこと?」
 ルカルカは奈落の軍勢から回収したUSBメモリーを並べた。
 メニエス、諒、藤乃、そしてジャジラッドの所持分だ。
『む……、しかし東園寺の分は回収できなかったようだな。それにメモリーはまだあとひとつ残っている……!』