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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

リアクション


第十一曲 〜Limit〜


(・対クルキアータ戦2)


「岩造様も苦戦しているでござるな」
 シミュレーター内での戦闘を見ながら、武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)が息を漏らした。
 彼と武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)は管理室にいる者達にお茶とお菓子を振る舞っていくが、皆真剣そのもので口にしようとはしない。
「ふむ、これほどの強さとはのう」
「だが、これはあくまでウクライナで生徒達が持っていたデータを元に再現したに過ぎないものです」
 職員の一人が口を開いた。
「AI自体はイコンシミュレーター用の汎用型です。機体の性能に見合った戦術を取りますが……パターンが決まってしまうのがネックですね。そのため、生身の融通が利く人間よりも、どうしても隙が生まれてしまいます」
 その隙をなかなか皆、見つけられていないようではあるが。
「ふむ、興味深いのう」
 鉄の龍神がしげしげと眺めながら、職員と話し始める。
「天学の生徒はイコンの操縦とかしてるそうで、教官達はいつもイコンに乗って教えておるとのことじゃが、年寄りのワシにはこれを見てもまだ、イコンというもの自体がまったく分からないのじゃ。時代は発展していて、その過程で生み出された車、飛行機、船みたいなものが人に使われ、大事にされておるみたいじゃな。ならば、イコンもそういう類なのかのう」
 とりあえず、イコンはこの時代では重要であり、大切にされているということをこの老人は伝えたいのだろう。
「若者こそが未来を切り開く。そういった先には何が待っているのかのう」
 そんな中、やはりレイヴン周りはかなりの注意が向けられていた。
「今回はシンクロ率が30%まで出せるようですが、本当に大丈夫なのですか?」
 四瑞 霊亀(しずい・れいき)は改めて確認した。
「それはあくまで、テストパイロットの方だけですよ。一部のリスクを承知の人は風間課長に、もっと出せるようにお願いしたそうですが。あと、大体の人は起動要件の10%止まりですよ」
 そう口では言っているが、さっきからモニターから離れていないところからすると、レイヴンを危惧してはいるのだろう。
「今のところは異常はなし、ですね」
 また暴走が起こらないか、それが不安の種だ。
「まー、そんな難しい顔しないでさ! ココナッツでも食べる?」
 にかっと笑いながら、ココナ・ココナッツ(ここな・ここなっつ)が頭の実をもいで職員に差し出す。花妖精ならではの行為だ。
「あんまりシワ寄せてると、余計に老けるよ!」
「こら、ココナ!」
 霊亀が彼女を嗜める。
「まだこれでも二十代ですよ」
 職員の人が苦笑する。なんだかんだで、学院関係者には若い人の方が多い。
 重々しい空気も、こういうときばかりは軽くなる。

* * *


「ふふ、こうでなくっちゃ」
 鳴神 裁のパートナー、アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が呟く。
 この前の鏖殺寺院とはまるで次元の違う相手を前に、【ワイルドウィンド】は防戦一方だった。
 ヒットアンドアウェイという基本戦術が通用しない。
 むしろ、イーグリットと同等の速度を持つ相手に機動を活かした戦法を取るのは非常に困難だ。
「忍! 私が照準の補正と回避プログラムのデータを送る! お前は戦いに集中するのじゃ」
「了解、頼む」
 織田 信長が情報処理を行う中、桜葉 忍がビーム式の長距離スナイパーライフルで敵機を狙う。
 だが、さすがに速い。おまけに、こちらの弾道を読んでいる。
 射撃態勢に入るたび、アサルトライフルの弾丸がちょうど飛んでくるほどだ。シリウス・バイナリスタ達が展開してくれているエネルギーシールドがあるとはいえ、集中攻撃をされればたまったものではない。
(ヤバイな……普通に戦うだけじゃ勝てそうにない。ならば――)
 高速機動を行いクルキアータから距離を取る。
『こいつを撃つと隙が出来るから、一発で決めないとこちらがやられる。少しの間でいい、発射準備が整うまでクルキアータを引き付けて欲しい!』
 ブリトラ砲。
 現行のイコンが扱える装備の中でもずば抜けた威力を持つ。その一撃は、食らった機体を消滅せしめるほどだ。
 それゆえ、融通が利かない武器でもある。
 覚醒状態に移り、エネルギーを溜めていく。
『ドラッヘン3、了解だ』
 ブルースロートによるエネルギーシールドが、チャージ中の【ブレイブハート・エクセリオン】の周囲に展開される。
 クルキアータを誘導するため、【龍皇一式】と【ワイルドウィンド】が二機がかりで接近戦を挑む。
 【龍皇一式】がハンドガンからソードとイコン用サーベルの二刀流に切り替える。だが、松平 岩造達の機体では追いつくこともままならない。
(隊長、今のうちに!)
 裁がテレパシーを送り、その直後に蛇腹剣をクルキアータに伸ばす。
 敵からの銃撃をそれで阻むのがやっとだが、岩造が肉薄するだけの隙を作ることにはなった。
「そこだ!」
 剣を振り下ろす。だが、それは敵のシールドによって阻まれる。
「――!!」
 敵機の銃口が【龍皇一式】の頭部に向けられる。
(まずい!)
 いくらシリウスがエネルギーシールドを張ってくれていても、この距離では完全に無効化することは出来ない。
 頭部のセンサーが破壊されてしまう。
 その瞬間、【ワイルドウィンド】が覚醒によって【龍皇一式】の前に躍り出て、蛇腹剣を盾に叩きつける。
 狙いは、実体のシールドを引っぺがすことだった。
 蛇腹剣を盾に巻きつけると、当然のように敵はライフルでそれを破壊する。銃弾が刀身にぶつかる瞬間にその手を離し、イコン用まじかるステッキに持ち替えてさらに一撃を加えようとする。
 その名前とは裏腹に、攻撃力は高い。さらに少し離れていても当たるため、それで銃弾を払いながら敵機を攻撃しようとする。
 敵もそれらを防ぐにはシールドを使わねばならず、【龍皇一式】と猛攻を加えることでやっと盾に亀裂が入った。
(なんつー耐久力だよ)
 シリウスは愕然とした。確かに、寺院の機関銃を何発食らおうとあの盾はびくともしなかったが、それにしたって硬すぎだろう。
「ち、来やがったか!」
 敵の銃口がブルースロートに向けられる。
 自機の周囲にエネルギーシールドを展開し、それらを無効化した。
 とはいえ、このままだとじりじりと削られるだけだ。
「そうだ、これならいけるか?」
「何か思いついたのかい?」
 おそらく他のブルースロートが考えないであろう戦法を思いついた。
「サビク、フィールド全開だ! ブルースロートをぶつけろ!!」
「……は? 体当たり!?」
 ここまで戦ってきて、移動しながらでもシールドが展開出来ることは知っている。
「シールドを自機の表面ギリギリで展開すれば、体当たりしたって耐えられんじゃねぇか!?」
 分からないが、このままではらちがあかない。
 体当たりで弾き飛ばすのは、ブリトラ砲の射線内。
「何もしないよりは、試した方がいいだろ!」
 覚醒によって発揮された本来のエネルギーを使用して、展開する。
 そして銃を向けるクルキアータに向かって、文字通り特功した。
(耐えてくれ……!)
 相手は盾でブルースロートの機体ごと受け止めようとするが、反応が遅れたため後方へと飛ばされる。
 AIには、「体当たり」という攻撃手段が予測出来なかったのだ。
 一方のブルースロートは、覚醒状態にあったのも影響して損傷はない。が、今の衝撃で他の機体をカバーしていたシールドが一旦切れてしまう。
 そして、
『発射!』
 【ブレイブハート・エクセリオン】のブリトラ砲に飲み込まれ、クルキアータが消滅した。
「とりあえず、一機か」
 直後、【ブレイブハート・エクセリオン】は死角からの銃撃を受けた。
 倒したと一瞬機気緩めたのが命取りとなる。
 そのタイミングで現れた機体は二機。一機が援護し、指揮官機が接近戦を仕掛けてきたのである。
「くそっ……!」
 ランスで【ブレイブハート・エクセリオン】が薙がれる。シールドの展開は間に合わなかった。
 機体は大破し、パイロットは仮想空間からログアウトした。
「俺は負けない! こんなところでやられるわけにはいかない!」
 現れた指揮官機に【龍皇一式】がハンドガンで銃撃するも、それで盾を破れるわけではない。
「うおおおおお!!」
 ハンドガンから再び二刀流に戻し、敵を迎え撃とうとする。接近戦は避けようとしてだろうが、やむを得ない。【龍皇一式】の機動では退避は出来ないのだ。
「早く態勢を立て直さねぇと!」
 咄嗟にエネルギーシールドを張ろうとする。
 また、【ワイルドウィンド】が指揮官機に背後から回り込もうと覚醒状態のまま接近した。
 背後からまじかるステッキで打撃を加えようとし、敵機がこちらに注意を向けたら、あとは【龍皇一式】が一機に斬りかかる。はずだった。
 【ワイルドウィンド】を振り返った指揮官機はそのまま止まることなく急回転し、振り下ろされる【龍皇一式】の二本の剣を腕ごと吹き飛ばす。
 さらに盾で【ワイルドウィンド】の攻撃を防いだ。
 そして離脱しようとしたその瞬間にはもう、コックピットごと貫かれた状態だった。
 機体が粒子状に消失し、パイロットは仮想空間の外に出された。
 指揮官機のAIは、特別なことをしたわけではない。
 こちらが疲弊したのを見計らい、後方からの援護射撃を受け、ただ隙のある相手から屠っていっただけのことである。
 たとえエネルギーの消耗が激しくとも、常に覚醒状態で挑まなければ、第一世代機ではまともに張り合うのが難しい。
 そう生徒達に思わせるのには十分だった。

* * *


(すばしっこいわね……!)
 葛葉 杏は強く唇を噛み締めた。
 シンクロ率20%の状態では何の問題もなく機体を駆ることが出来ている。
 ミサイルポッドによる牽制を行いながら、射出型ワイヤーで拘束する隙を窺うものの、なかなかチャンスが回ってこない。
(シールド展開します)
 ブルースロートとは違う、超能力の力場形成によるシールドを張り、敵機から機体を守る。
 それでも、防戦一方というのが現実だ。
 敵の機動性と防御力の高さは並みじゃない。
「私達は、こんな所で終わらない!」
 それでも、負けるわけにはいかない。
 この程度でくじけているようでは、生身の人間が乗った本物のF.R.A.G.の連中には及ばない。
「あんたも、コームラントの仲間なら根性見せなさい! 旧世代機でも、第二世代機に勝てるってことを証明するのよ!」
 はっきりと言い切って、覚醒を起動。
 同時に、シンクロ率をリミッターの限界である30%まで一機に引き上げる。
「私達はもっと上へ、もっと先へ行くんだ」
 高速で杏達の【ポーラスター】を翻弄しようと飛ぶクルキアータへと機体へ一機に接近する。
 サイコキネシスでブーストさせることで、コームラント以上の加速を行う。
 だが、目の前にいるのは二機だ。
 連携されたら適わない。
『こちらセレナイト、覚醒するよー』
 ちょうど近くからすないパーライフルで狙撃支援をしていたセレナイトから通信が入る。
 そしてもう一機。
『りみっかー、覚醒するよ!』
 大羽 薫とリディア・カンターのリミットブレイカーである。
 覚醒イーグリット二機と、レイヴンTYPE―C。

(様子を見ながら加減して戦える相手ではない。残り稼働時間、フルに使います……!)
 スナイパーライフルの照準を合わせ、敵のアサルトライフルの射程圏外から【セレナイト】がクルキアータを狙う。
 ビームの威力は調整可能。覚醒状態なこともあり、通常時以上の威力を誇っている。
(向こうの命中精度は高い。こちらの射程を維持したままいかないと)
 イーグリット並みの機動性を相手が持っているとはいえ、イーグリット「以上」ではない。
(一機でも多く。動けるときに、動いとくー!)
 覚醒によって、わずかな空気の震えのようなものも肌に感じられた。シミュレーターで、「覚醒」の感覚もここまで再現出来ようとは。
 そのわずかな変化と、レーダー・目視の情報から相手の次の動作を予測し、ユメミが【セレナイト】を駆る。
「覚醒時間内に一機でも多く落とせれば……」
 だが、この状態でも二機のクルキアータを相手にするのは厳しい。
 ならば今の自分に出来るのは、他の機体が接近戦挑めるように、片方を足止めすることだ。
 スナイパーライフルを不規則な感覚で放つ。
 相手はシールドで防ぐも、こちらへ近付くことは出来ない。
『今のうちだよー!』

 それに合わせる形で、【リミットブレイカー】が接近戦を仕掛けるため、急加速を行う。
 吹き抜ける風が肌に感じられるようだった。
 ハンドガンを構え、牽制を行う。
「ち、さすがにこのくらいじゃダメか」
 敵の銃口から目を逸らさず、放たれる弾丸を回避する。覚醒状態の瞬発性があるからこそ、なんとか致命傷を食らわずに近づけるようなものだ。
「これで……どうだ!」
 ビームサーベルを振り下ろす。それを相手は受け止める。
 その瞬間、もう片方を手でハンドガンを放ち、離脱を試みる。そこからアサルトライフル対ハンドガンの銃撃戦だ。
 クルキアータは盾でそれを防ぐ。何発かは機体に被弾したが、ハンドガン程度の威力では大した問題ではないらしい。
 装甲自体がコームラント並みの硬さなのだ。
 もう一度、今度は実体剣で斬りかかる。
「防御ごとぶち抜く!」
 ガン、と盾と剣がぶつかり合う。
「うらぁあああ!!!」
 押し勝ったのは、【リミットブレイカー】だ。
 実体剣からの衝撃に耐え切れず、機体が後ろへ弾かれる。
 そこへ急接近したのは、レイヴン【ポーラスター】だ。

(杏さんは私が出来るって言ったんだ、私は杏さんを信じてる、だから杏さんが出来るって言った私は……出来るんだ!)
 橘 早苗が機体を特攻させる。
 元々装甲も厚く、今はシールドだって張られている。
「こんなところで壁にぶつかって立ち止ってる暇はないのよ!」
 杏がクルキアータに向かってワイヤーを飛ばす。
 敵はそれを回避するが、
「甘いわよ!」
 サイコキネシスで射出されたワイヤーを誘導し、クルキアータの機体に巻きつける。
 そのまま引っ張りつけ、ほぼゼロ距離になる。
「ここからじゃその銃は撃てないわよ!」
 そして胸部にビームランスを突き立て、そのまま一機に横薙ぎにした。
「どんなものよ!」
 空中で爆発するクルキアータを背に、機体の人差し指を天高く突き上げる。
 覚醒状態で、なおかつちゃんと連携してかかれば、現行の機体でも十分に渡り合うことは可能なのだ。

* * *


「策敵、開始しますわ」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)はブルースロートのレーダーとセンサーを駆使し、索敵を行う。
 シミュレーターで再現されているのは海京近郊だが、その範囲は広い。既に交戦している者達がいるが、その機体だけで全てとは限らない。
(ひとりひとりが『その程度』でしかなくとも、みんなで力を合わせれば、乗り越えることも出来るはずですわ)
 自分に言い聞かせながら、集中する。
 彼女が防御支援を行うのは、レイヴン。特に、今回が初搭乗となる者達の機体だ。
 シンクロ率10%では、レイヴンのシールドは機能しない。せいぜいサイコキネシスを使って攻撃や機体移動の火力、出力補助をする程度だと聞いているからである。
 いくら最低ラインからのスタートとはいえ、パイロットを危険に晒す機体であるために、あまりよくは思えない。
「風が出てきましたわね……」
 機体の揺れをコックピットで感じ取る。本物の風ではない。だが、きわめて現実に近く感じられる。
 擬似翼から散布される粒子が電波障害を起こさせ、同じ学院系統のイコン以外からは察知されにくくなる。これとジャミングを組み合わせることで、完全なステルス効果を生み出せるというわけだ。
 とはいえ、オリガはジャミングは行わない。
『いいですか、こっちが風下です。近付けば敵だと分かりますわ。夜明けを謳う鴬のように、お知らせ致しますわ』
 早速敵機が接近してくる。その数、二機。
「いい声で鳴いて頂戴、ブルースロート。セイレーンのように」
 エカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)が呟く。
 機体を視認しつつ、相手の位置を計算しジャミングを行う。相手が連携を行いにくくするために。
「エネルギーシールド展開開始!」
 他のレイヴンの機体に対して、エネルギーシールドの展開を行う。その動きに注意しつつ、継続してシールドとを使えるように注意する。
 
「これも奴に勝つためだ。行くぞ!」
 TYPE―Eに搭乗しているウォーレン・クルセイドがビームシールドを構えた状態で、飛び込んでいく。
 ブルースロートと合わせて、二重の盾だ。
 シンクロ率が低いため、身体にそこまでの影響はない。
 サイコキネシスをエネルギーの補助として使用し、加速を行う。
「10%じゃこんなものか」
 ビームサーベルを構え、クルキアータの一般機に向かって斬りかかろうとするも、あっけなく避けられてしまう。
 加えて、上昇した敵機がアサルトライフルを連射。
 シールドがなかったらここで墜ちていただろう。
「ウォーレン、強いよ!」
「分かってる。
 いまさら死ぬことなんて怖くねぇ……このまま敗者として生き恥晒すくらいならね!」
 覚醒。
 そこからは持てる全てを発揮して戦おうとする。

(援護しますよ、スバル)
(はい)
 TYPE―Cに搭乗しているアルテッツァ・ゾディアックはウォーレン達【ホワイト・ライトニング】の後方から援護射撃を行う。
 大型ビームキャノンの威力をサイコキネシスで底上げしつつ、狙撃する。
 海面に近い低高度を維持し、上空の機体の死角を突くように移動。だが、敵の回避性能の前に、放たれた光は空を突き抜けていく。
 そこからはより精度の高い実弾式ライフルに切り替える。
(ブルースロートのおかげでしょうか? ここまでは敵に見えていないようですね)
 しかし、やはり思うように敵への攻撃が当たらないことに、焦りを覚え始める。
 ましてレイヴンだ。その状態はパートナーに伝わる。
(マスター、大丈夫ですか?)
(ええ、なんとか)
 生き残るためにも、もっと強くなくてはならない。
 生徒達に遅れを取ってはならない。
 そんな思いが込み上げてくる。
(生き残って『彼女』に会って、今度こそ自分のものにするんです。ですから、目の前の障害は排除しなければいけませんね)
 照準を合わせる。
 機体を移動させるすばるもまた、彼と同じ感情を持っていた。
 もっとも、一致しているのは、「生き残るためにクルキアータを消す」という部分であるが。
(手段を選んでいる暇はなさそうです。10%の力を最大限に活かすためにも……『覚醒』)
 覚醒状態になり、シールドで防御する敵へと弾幕を浴びせる。
『今から「干渉」を行います。その間に』
 ブルースロートが敵機への干渉を試みる。
 敵機はわずかに自由を失ったらしく、盾を構えるのが間に合わなかった。
 とはいえ、装甲が頑丈だ。それだけでは致命傷にはならない。
 その隙を見た【ホワイト・ライトニング】がビームサーベルで切りかかる。だが、それが直撃するか、という寸前のところで相手の機体が制御を取り戻し、盾でサーベルの斬撃を防いだ。
 そしてそのまま劣勢であると悟ったクルキアータのAIは、前線から機体を離脱させようとした。

「シンクロ率30%に固定、能力範囲確認完了。敵兵装及びダメージを確認」
 シフ・リンクスクロウは前線から離れようとしたそのクルキアータの姿を発見する。
 TYPE―E【コキュートス】がシールドを展開。
 さらに、サンダークラップにより表面に電流を流す。電磁シールド化だ。
 クルキアータのアサルトライフルが実弾式であることも相まって、それを無効化する。
(やっぱり、サブパイロットからも送れたね)
 ミネシア・スィンセラフィがサイコキネシスを送り込み、出力の底上げを行う。
 応用すれば、メインパイロットがシールドを張った状態で射出型ワイヤーを放ち、サブパイロットがそれを操作して敵機を拘束するといった芸当も可能となる。
 が、今回【コキュートス】が装備しているのは二挺のビームライフルと、二本のビームサーベルだ。
 電撃がクルキアータに触れた直後、そのままビームライフルを放つ。
 だが敵も甘くない。実体シールドでビームを弾きながら、アサルトライフルを撃ってくる。
 互いに回避予測をしながらの撃ち合いであり、双方守りも堅い。が、シールドの強度でいえば実体を持つ相手の方が上だ。
(さすがに、シンクロ率30%だけでは倒されてはくれませんか)
 ならば、と覚醒を起動する。
 そして二挺拳銃で弾幕を張りながら、クルキアータに突貫。そのままビームサーベルに持ち換える。
 そして、斬撃を繰り出す。
 だが、それさえも敵のシールドによって阻まれる。
(ミネシア、サイコキネシスの出力を行って下さい)
(おっけー、また面白いことを考えたね)
 言葉に出さずとも、何をすべきかは伝わる。
「これが、防げますか」
 一度距離を取り、再びビームサーベルを振り下ろす。だが、敵の反応も早い。
 またも盾で受け止め――。
 その鉄壁の守りとなっていたシールドが真っ二つになった。
 それどころか、そのままクルキアータの装甲にまで亀裂が入る。
「成功、ですね」
 ビームサーベルでの一撃の際、真空波を繰り出したのである。さらに、レイヴンの出力そのものが覚醒で格段に上がっており、そこにミネシアのサイコキネシスが加わったことで、圧倒的な破壊力を生み出したのである。
 が、そのときシフは眩暈を覚えた。
(少々、負担が大きいですね……)
 覚醒しているとはいえ、高い集中力が必要となるため、疲労感が半端ではなかった。
 覚醒を解除し、策敵に移る。
 まだ訓練は終わったわけじゃないのだ。