リアクション
* * * 「お待たせ」 菜織が科長から許可を貰ったことを受け、緋山 政敏(ひやま・まさとし)はパートナー達と共に、管理室を訪れた。 「協力感謝するよ、緋山君」 「なに、こっちも少し気になることがあったからな」 菜織の協力者ということだけでなく、蒼空学園の校長から技術者として派遣されたという体であるため、政敏は入室が許されている。シミュレーターの開発者が山葉涼司だというのも大きいだろう。 「緋山さん、こちらが青いイコンの前回の戦闘データと、私達が気になっている敵機体のシミュレーションデータです」 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)がモニターにデータを提示する。 「モーションの突合せからだな。時間は有限だ」 まずはエヴァン機と青いイコンの動作を重ね合わせ、解析を始めた。 「画像をもう少し単純化出来る?」 リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)が尋ねる。 詳細なデータ比較を行うのはさすがに厳しい。まして、比較する機体は異なるものだ。そのまま見比べたところで、共通点を探し出すのは難しい。 そこで、機体の構造を単純化し、骨組みだけの姿にする。そこから、フレーム単位でコマ送りにしながら比較していく。 「美幸ちゃん、どう?」 「反応速度が青いイコンの方が上なのは、超能力によって先読みを行っているからでしょうが……根本的な操縦の癖というのは、なかなか抜けないものです」 つまり、まったく違う動きをしていても、動作の中で必ず一致する点があるという。 「癖か。ちょっと確かめてみよう」 青いイコンはただ衝撃波を生み出すだけでなく、剣で斬り裂くように真空波を放っていた。 エヴァン・ロッテンマイヤーが得意としていたのは剣の扱い。 「剣を振るうときの関節部の動きに注目すれば……」 多くの面で、青いイコンとエヴァンの機体の動きは異なっている。だが、斬撃を繰り出す瞬間のモーションを重ねると、見事に一致していた。 (偶然じゃないよな) 同じように他の場面も比較する。やはり同じだ。 「共通点は出てきたわね。美幸ちゃん、他に青いイコンに関するデータはある?」 「以前、ベトナムに現れたときのものでしたら」 パイロット科の生徒なら閲覧可能なデータだ。 そのときの青いイコンのデータとも照らし合わせる。 「これが初めて出てきたときのか」 それも比較対象に加える。 すると、シールドの展開や衝撃波といった、「剣を使わない攻撃」のパターンが酷似していることが明らかになった。 「ビンゴだな。こいつをベースに機動パターンは補正して貰えばいい。元々あるデータだ。パラメータいじれば出来る筈だぜ。その辺は科長さんに連絡入れてみ。それと今日は此処で寝る許可欲しいんだけど」 「それについては心配いらない。作業が長引くようなら泊まってもいいとは言われている」 青いイコンのデータを整理するに当たり、エヴァン以外にもベトナムでのデータも考慮しなければならないことが判明したため、時間はかかりそうだ。 「では、寝袋を取ってまいります」 カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が部屋を出る。ここからはモード変更だ。 「あと、一つ提案があるわ」 リーンが告げる。 「シミュレーター参加者の機動や癖を、美幸ちゃんのパイロットとして必要な情報や行動予測のための情報としてデータベース化しない?」 「ええ、お願いします」 この場の者はまだ知らないことだが、第二世代機開発プロジェクトにおいて、イコンのシステム周りの改善という意見も出ている。 覚醒に慣れ出した人のデータを用いることで、使い慣れていない人をフォローするプログラムを作れるかもしれない、ということだろう。 「では菜織様、シミュレーターのデータの確認を」 政敏の指示に従い、二人がシミュレーションを行うためにシミュレーターの中に入る。それを彼らがモニターでチェックするという形だ。 「持ってきましたよ。それと、ぶっ続けではかえって効率が悪くなります」 寝袋を置いた後、カチュアがお茶を差し出してくる。それと一緒にブドウ糖入りチョコレートも添えてある。 「さて、ウォーミングアップもあるだろうし、一息ついたら始めるとするか」 * * * 「調子はどうだ?」 菜織達のチェックが終わった頃、科長が様子を見にやって来た。 「順調です。まだ可能性の段階ですが、あの青いイコンのパイロットはやはり――」 過去のデータと照らし合わせたところ、元々のパイロットとエヴァンの二人が搭乗していると推測出来る。 「考えられるのは、超能力関係の能力制御を元のパイロットが、機動全般、特に武器攻撃はエヴァンが行っているということだろう。あの男が単に破壊のために動くとは思えんが……」 「科長」 現時点での補完データを提示しつつ、菜織は科長に言い放つ。 「貴女達の選択肢を増やしたい。もっと頼っては貰えませんか」 間違いなく、科長は敵を知っている。だが、生徒のことをそこから遠ざけようとしているようだ。 「私は『かつての』F.R.A.G.を知っている。彼らは強い絆で結ばれた家族であり、戦士達であった。ヴェロニカがたまに物思いにふけっているのは知っているか?」 「たまにぼんやりと空を見つめているところを見かけます」 「その理由がお前の解析したデータで分かった気がする。かつてのF.R.A.G.は表向き七組十四名の契約者とされていたが、一般人の女の子が一人メンバーにいた。それがヴェロニカだ」 グエナ・ダールトンをリーダーとする伝説の傭兵組織、それが元々のF.R.A.G.である。 「他にヴェロニカがF.R.A.G.にいたということを知っているのは、五月田達だけだ。そしてF.R.A.G.のメンバーには、ヴェロニカが『兄さん』と呼び慕っていた者がいた。その男こそ――」 何となくそんな気がしていたが、菜織はこの時点で確信した。 同時に、これは口外出来たものではないということも。 |
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