校長室
話をしましょう
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席について、来賓達と会話を楽しむラズィーヤの元に、ぎこちない足取りで近づいてくる少女の姿があった。 「えーとえーと、ラズィーヤ様、ごぶさたしておりますー」 「……はい? どなたでしたっけ?」 「なっ……ラズィーヤ様ひどひ! あうっ」 ペンッと背を叩かれて、少女――春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)は背筋を伸ばす。 「あのー、新入生……? のひととせまなかですー。……よろしくおねがいしますぅ……」 ぺこんと頭を下げると、後ろに立っていた青年が彼女の頭に手を乗せて、更に深く下げさせる。 「ふふ……冗談ですわ。お久しぶりですわね、真菜華さん。百合園に入学されたのですね。でもどうして? パラ実生として活き活きと活動していましたのに」 「それがですね……」 顔を上げて、はあとため息をついた後、真菜華は話し始める。 「おとめのクッキングでなんでそうなったかわかんないんですが、おだいどころが爆発炎上してしまって、えみりーに怒られ倒されました……」 エミリーとは、真菜華のパートナーエミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)。後ろにいる男性のことだ。 「ある日いきなり首根っこつかまれて引きずられていって、いつの間にか百合園に転校しちゃってたんですよ!? マナカもちょー驚いた!」 くすくす、ラズィーヤは笑みを浮かべている。 「ラズィーヤ様、ご無沙汰致しております、如何お過ごしでしょうか?」 真菜華の言動にため息をつきつつ、エミールが前に出て、ラズィーヤに挨拶をする。 「ご無沙汰いたしております。お元気そうでなによりですわ」 「本日はこれ、このピンクの保護者替わりにご挨拶に参りました。入学許可、寛大なお心遣い大変有難う御座います」 「歓迎いたしますわ。真菜華さんには期待しておりますのよ。貴方のサポートがついていますしね」 「有難うございます」 もう一度礼を言い、エミールは頭を下げた。 「一応これでも地球百合園で一貫で育ったはずなのですけれどねぇ……」 そして笑みを真菜華に向けた。 「ううっ、その笑顔コワイ……」 真菜華は足を一歩後ろに引いた。 でもまだ逃げるわけにはいかない。聞きたいことがあるから。 「ラズィーヤ様……あの、少し前に行われた離宮再探索のことですけど」 真菜華はラズィーヤに、小さな声で離宮のある場所について尋ねていく。 彼女の手の中には、花束がある。 その花はこの会への土産ではなくて……。 「というわけで、マナカはもう行きます。きゅーけい、きゅーけい!」 答えを聞いた途端、ばっと真菜華は走り出し、校庭の方へと向かって行った。 「こら……ま、仕方ありませんね」 エミールは、軽く息をつく。 彼女がこの場から脱走をしたわけではないことは、分かっていたから。 「パラミタ行きの許可もでる程度の成績でもあった筈ですが……地球百合園での躾がすっかり吹き飛んでしまったようなので、その辺りは、こちらの百合園で厳しくたたき直して頂ければと思います」 「ええ、せっかく入学していただいたのですから、きちんと卒業まで通っていただきたいですわ」 「はい、責任を持って、毎日通わせますので。どうぞよろしくお願いいたします」 「ラズィーヤ・ヴァイシャリー殿。卒業予定者の中で、我が学園へ編入を希望される方はいますかな?」 「それより、うちの息子との見合い話を――」 話しが切れた途端に、ラズィーヤには来賓から沢山の声がかかっていく。 「よろしければこちらに」 執事に椅子を用意させて、自分の隣にエミールを促した後。 ラズィーヤは来賓対応に追われていく。 (出来れば2人で話をしたいところですが、今日は難しそうですね……) 以前、一緒に仕事をした時のことを思いだしながら、エミールはそっとラズィーヤを見守る。 今日はラズィーヤとの面談を望む者も非常に多かったようだ。 パーティでも引っ張りだこな状態。 お茶を淹れようと、ラズィーヤに近づいて。 エミールは彼女の耳にささやきかける。 「皆が貴女を慕って頼りにするのもわかります。でも、肩書きを外せば貴女はまだうら若き女性。聡い相手より気軽に利用したければ真菜華を、声を掛けて頂ければ私も利用されて差し上げましょう」 茶を淹れ終えると、隣の席へと戻り、エミールはラズィーヤにゆったりとした笑顔を向けた。 「今後とも、よろしくお願い致しますね?」 ラズィーヤはエミールが淹れた茶を一口飲んだ後。 首を軽く傾げて微笑んで、エミールに言う。 「ええ、是非、よろしくお願いいたしますわ」 ――真菜華は、パーティ会場から飛び出した後。 校庭に出ていた。 手の中には小さな黄色い花が沢山ついた花の花束。 「忘れないで……」 小さく呟いて、真菜華は花を手向けた。