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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「さすがに、この程度で『脱落者』は出ませんか」
 スーツ姿の女性が淡々と声に出した。
 眼鏡を外し、一振りの剣が虚空から現れた。非物質化させていたものを、物質化させたのだろう。
「みんな、行きな。ここは私達に任せてくれ」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は、この場にいる契約者達に目配せした。
「……そう簡単に行かせるとでも?」
 一歩踏み込むアスタローシェに向かって、魔弾の射手による四連撃を放つ。同時に撃ち出された。
「アイアス・フィールド――フルオープン」
 不可視の障壁により、彼女の放った魔弾が阻まれる。
 次いで、ローゼンクロイツがE.D.E.N.へ至る道に向かって大量のカードを飛ばした。
「それらは今までの『影』とは少々違います。全ての核を同時に破壊するか、私を倒すかしなければ、放ったカードの数だけ維持され続けます」
「どっちにしろ、アンタ達を倒せばいいだけだろ?」
 改めて、目配せする。
 影を切り抜けE.D.E.N.に到達するまでに、ローゼンクロイツを倒せばいいだけの話だ。
 それは決して簡単なことではない。だが、やるしかない。
 悠希、未憂達もついている。
「悪いけど、今回は負けないぜ?」

* * *


「行きなさい、ジール。わたしは、ここで『彼』の真意を確かめる必要があるわ。貴女も、あの小童に会うためにここに来たのでしょう?」
 罪の調律者は、ここでローゼンクロイツ達の戦いの行く末を見届けるつもりのようだ。
「あまり時間がないわ。貴女だけに限らないけど、『今、自分に出来ること』を優先しなさい」
 ホワイトスノー博士が頷き、影が蔓延る通路に向き直った。
「博士、行くのですか?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が博士の顔を見遣る。
「……ああ。E.D.E.N.の先――真の最深部に、ノヴァはいる。イコン部隊が別ルートでそこに到達する前に、辿り着きたい」
 博士が断言した。なぜそう言い切れるのか尋ねようとしたものの、影が博士に迫ろうとしたため、ルカルカが彼女の前に躍り出た。
 彼女が両腕を動かし何かをしようとしたが、それを行う前に影の群れの半分以上が消し飛ぶ。エンドゲームによる、認識不可の攻撃だ。
「少し残っちゃったか……。だけど、すぐに再生するわけじゃないみたい。今のうちに突破するわよ!」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)と共にホワイトスノー博士を護衛しながら奥に向かって進んでいく。
 相手をしていたらキリがない。
 あくまで優先するのは、この先にあるE.D.E.N.に到達することだ。
 それをどうにかした後ならば、この程度の敵などいくらでも対処で出来るだろう。だが、誰かしらが影に注意を向けておかなければならないのも事実だ。
「復活する影は、あたし達に任せて!」
 秋月 葵とフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』は殿を務め、迫り来る影と相対した。
「久々に本気を出すときのようじゃな……」
 『無銘祭祀書』から、おぞましい気配が滲み出ている。アボミネーションだ。人の形を成す影自体が闇術による闇黒のようなものであり、さらにアボミネーションを発動した状態でもある。こちらも同じようにそれを発し、相殺しておくに越したことはないだろう。
「防御フィールド、展開!」
 葵は護国の聖域で、影に対する抵抗力を高め、歴戦の立ち回りによってさらに防御に徹することが出来るように状況を作り上げた。
 シューティングスターで内部のカードごと影をかき消す。直後、別の影が分裂した。
 どうやら術式の刻まれたカードが本当に、ローゼンクロイツの言うように特別な仕様になっているらしい。
「雷帝招来!!」
 電撃が通路に迸る。
 『無銘祭祀書』によるサンダーブラストにより、中のカードが発火した。しかし、焼失するかというまさにその瞬間に元の状態に戻り、影が形成される。
「こやつら……これでは、倒してもキリがないな」
 『無銘祭祀書』が苦い顔をした。
 カードが再生している間は、こちらの攻撃が一切通用しない。そのため、復活しきるまでは再破壊が出来ないのだ。
「我が魔眼の力、解放する」
 紅の魔眼によって彼女が魔力を高め、再度サンダーブラストを影に浴びせた。
 復活するまでのサイクルを見極め、出来る限りまとめて倒せるように努める。同時に倒せれば問題ないが、広範囲魔法で正確に全ての核を破壊するのは至難の業だ。
 それでも、葵達によって影達が抑え込まれ、他の者達がE.D.E.N.へ行くまでの時間を稼いだ。

(さて、何とか先には進めたが……E.D.E.N.が無防備な姿を晒してるとは思えなねーよな)
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、この先にまだ何かがあるのではないかと疑った。
 ミューレリア達を信用して任せてきたが、ローゼンクロイツとそのパートナーは明らかに尋常ではない。
 しかし、影を放ったとはいえ、こうやって突っ切るのを許していることを考えると、何か策があるのだろう。
(あるいはノヴァご本人がお出ましになるのか……)
 頭の中に響いてきた、男とも女とも取れない中性的な声を思い出す。どこか子供っぽい口調は、悠司に一人の少年の姿を想起させた。
(まあ、どっかのクソガキだって反則染みた力を持ってたって、何とか止められたんだ。こっちも止めなきゃ不公平だよな)
 ノヴァの野望を撃ち砕くため、悠司は隠れ身で姿を隠したまま、E.D.E.N.へと急いだ。

(早くE.D.E.N.まで行かねぇと!)
 月夜見 望(つきよみ・のぞむ)は自分の服に迷彩塗装を施し、出来る限り敵に気付かれないように先を急いでいた。
 本当ならば、博士やローゼンクロイツ達のところに残った調律者を身体を張って護ってやりたい。だが、自分は戦闘が不得手だ。そんなことをしたって、かえって足手まといになってしまうことくらい自覚している。
 だから、博士達や、一緒にここまで来た仲間を信じ、『今、自分に出来ること』をする。
 それが、E.D.E.N.の破壊だ。
 彼のパートナーである天原 神無(あまはら・かんな)須佐之 櫛名田姫(すさの・くしなだひめ)もまた、ザクロの着物で気配を隠して望と共に走っている。
 葵が影を食い止めてくれているおかげで、敵が追いついてくることはない。

 そして、E.D.E.N.を目指していた一行は、その場所へと足を踏み入れた。