First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last
リアクション
★ ★ ★
「えいえいデース。早く我が輩を中に入れるのデース。きっと、中には幻のカレールーがあるに違いありまセーン」
ノーマルのセンチネルタイプのカレーゴーレムに乗ったアーサー・レイス(あーさー・れいす)が、闇雲に茨ドームにスピアを突き立てていた。
「頑張りなさいよ。きっとこの中にはとびきりのお宝があるんだから。リンちゃんも、中でカレーが食べたいカレーが食べたいって泣いてるわよ……多分」
そう言って、日堂 真宵(にちどう・まよい)がアーサー・レイスをしきりに焚きつけた。
「なんですって、マサラさんがこの中にいるんだもん。ちゃんと説明しなさいよね。マサラさんのあんなとことか、あんなとことか、あんなとこのことを!」
突然現れた朝野 未沙(あさの・みさ)が、日堂真宵のささやかな胸倉をつかんでブンブンとゆさぶった。
「いきなり現れて何を言うのよ。マサラさんのコトなんて一つも口にしてないわよ。だいたいあんなとこってどんなとこのことよ」
「まあ、それを口に出させていわせようだなんて。あなた、ド変態ね」
「むきー!」
ぽかぽかぽかと、日堂真宵と朝野未沙が殴り合う。
「いいかげんにせんか」
背景に、『ゴゴゴゴゴゴ……』という木の板に焦げ跡で書いた書き割りを背負いながら現れた土方 歳三(ひじかた・としぞう)が、がきっと左右の手で日堂真宵と朝野未沙の頭をつかんだ。そのまま、ぐいと二人を持ちあげる。
「痛い痛い痛い。何するのよ」
日堂真宵と朝野未沙が暴れる。
「静かにしないと、茨に投げ込むぞ」
「ひー、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
顔をとげとげの茨に近づけられて、日堂真宵と朝野未沙があわてて謝った。
「どきどきどき……、久しぶりに怖い土方さんを見てしまった。どきどきどき……」
日堂真宵が、ない胸をなんとか押さえて動悸を静めた。
「だいたい、どこから現れたのよ」
「これだけイコンで派手に暴れていれば、嫌でも人目を引くわよ。そこで、ゴチメイさんたちの話が出てきたからすっ飛んできたんだもん。さあ、早くキリキリと白状するんだもん」
朝野未沙に言いわれて、日堂真宵はあらためて近くでドスドスと暴れているカレーゴーレムを見あげた。これは、さすがに否定しにくい。だが、こんな人気の少ない森の中で目立つだなんて、いったい誰が思うだろうか。
「だから、わたくしはマサラさんのことなんかこれっぽっちも言ってないわよ。どういう耳をしているの。わたくしが言っていたのはリンちゃんのことで……」
「うゅ、リンちゃんなのなの〜!!」
「うきゃあ!」
後ろからドーンと体当たりされて、あっけなく日堂真宵が地面に突っ伏した。
「うにゅ、うにゅ、リンちゃんどこなの〜」
「こ、こら。そのぷにゅぷにゅしたたっゆんをこすりつけるな」
「あら、うらやまし……」
エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)のたっゆんの下敷きになった日堂真宵を見て、朝野未沙がちょっとうらやましそうに言った。
「ふにゅ、ずっと見つからないの〜」
「だからたっゆんを……。ええい、殺す、たっゆんはみんな殺す!! うがあぁぁぁ!!」
「きゃっ」
思いっきりスリスリされてキレた日堂真宵が、渾身の力を込めて立ちあがった。
「で、何をするだと」
「しくしくしく……、ごめんなさい、ごめんなさい」
眼前で仁王立ちになっている土方歳三をみて、再び日堂真宵が涙目で謝った。相変わらず、なぜか書き割りが背後に浮かんでいる。当然、フラワシの天国への扉がやっていることなのだが、ここでは土方歳三以外には見えてはいない。
「哀れな、日堂真宵……」
以前のようなイコンによる不意打ちを受けないように周囲を警戒していたベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が、哀れむような目で日堂真宵を見つめた。
「すいません、うちのエリーが御迷惑をかけてしまって……」
少し遅れてやってきたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、ぺこぺこと一同に謝ってエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァをだきあげた。その後ろからは、竜騎士の面を被ったエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が、ゆっくりとやってくる。
「とにかく、わたくしが見たのはゴチメイのホワイトが、ちっちゃなテルテルボウズについていって、この茨のむこうに行っちゃったっていうことだけよ。ゴチメイのみんなもそれは知ってるはずだから、多分、揃ってこの中に入ったんじゃないかなと思ってるわけ」
やっとのことで、日堂真宵が自分の知っていることを話した。
「つまり、このむこうでゴチメイたちは世界樹のときのように迷子になっていると?」
「きっとお宝を見つけて出てこれなくなっているのよ」
ローザマリア・クライツァールに、日堂真宵が断言した。
「うーん、いっそ、茨に聞くのが早いような」
そう言うと、ローザマリア・クライツァールは、エシク・ジョーザ・ボルチェを連れて茨の近くに行った。そして、そっとエシク・ジョーザ・ボルチェに仮面を外してもらう。その素顔は、アルディミアク・ミトゥナによく似ていると自他共に認めている。
「ねえ、この子に似た顔の子を見なかった?」
ローザマリア・クライツァールが訊ねると、曖昧に草の心が伝わってきた。
「黒い髪の子は……見た。銀の髪の子は……えっ、見たの見ないの?」
「どうしたのですか?」
困惑した表情のローザマリア・クライツァールに、エシク・ジョーザ・ボルチェが訊ねた。
「見たと言う子と見ていないと言う子と、男を見ただの、女を見ただの、女の子を見ただの、なんだか話がバラバラなのよ」
なんだかよく分からなくなって、ローザマリア・クライツァールが頭をかかえた。
日堂真宵はアルディミアク・ミトゥナが中に入って行ったのを見たと言っているのだから、茨たちが銀髪のアルディミアク・ミトゥナは知っていて、黒髪のココ・カンパーニュはよく分からないというのであれば筋道は通る。だが、これではまったく逆ではないか。
それどころか、まるでアルディミアク・ミトゥナが複数いるような口ぶりだ。
まさか、双子座の十二星華だから、本当に二人いるというわけではないだろう。それとも本当に二人いるのか?
今までは、ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナで双子座だと思っていたが、よく考えれば5000年前からアルディミアク・ミトゥナは双子座の十二星華だ。それに、今の顔はココ・カンパーニュにそっくりということは、5000年前に彼女がいるはずがないから、昔は確実に別の顔だったということになる。
では、正確には、エシク・ジョーザ・ボルチェは、ココ・カンパーニュに似ているということなのだろうか。
エシク・ジョーザ・ボルチェと出会ったときに、ローザマリア・クライツァールは特別ココ・カンパーニュを大切な人と思ったわけではないはずなのだが……。
だんだんよくわからなくなって、ローザマリア・クライツァールは頭をかかえてしまった。
「とにかく、茨たちは混乱しているみたいだから、まずは落ち着いてもらわなくちゃ……」
「その通りでござるな。なにやら、ここの植物たちは様子がおかしいでござる」
そう言って現れたのは、花妖精のまたたび 明日風(またたび・あすか)だ。頭に、三度笠のようなマタタビのへたをつけた、いかにも旅ガラスというスタイルである。
「拙者、またたび明日風と申す者、以後お見知りおきを。で、先ほどから、茨がざわついて……!」
「えっ!?」
ふいに、またたび明日風とローザマリア・クライツァールが、何かに打たれたかのように揃って茨の方を振りむいた。その顔が二人共引きつっている。
「どうかしたのですか?」
「茨が乱れた……」
エシク・ジョーザ・ボルチェの問いに、ローザマリア・クライツァールが答えた。
『オー、茨に穴が開いたデース』
それに呼応するかのように、カレーゴーレムからアーサー・レイスの声が響いた。
「ようし、お宝よー、探検よー」
カレーゴーレムに道となるトンネルを茨の壁に作らせながら、一同はいよいよ中へと進んでいった。切り開かれた茨が地面に積みあがり、ちょっと進みにくいトンネルだが、まったく進めないというわけではない。もっとも、切り裂かれる茨を見て、ローザマリア・クライツァールとまたたび明日風は密かに心を痛めてはいたが。
「それにしても、なんで急に入れるようになったのかなあ」
「もちろん、テスタメントのおかげなので……てふてふいたたたたた……こふゃあ、にふどーはよいひゃめー」
不思議そうにつぶやいた日堂真宵は、根拠もなく自慢を始めたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの頬を思いっきり左右に引っぱって黙らせた。
そのときだ、突然何かが爆発する音が響き渡った。
「大変だぁ、茨が燃えているぅ」
またたび明日風が叫んだ。
「何かの攻撃を受けたみたいだよね。多分、今の爆発音はイコンのミサイルだもん」
冷静に状況を分析しながら、朝野未沙が言った。
「急いで、避難しませんと、ここでは丸焼きです」
周囲から漂ってきた煙に、エシク・ジョーザ・ボルチェがみなを急かした。周囲の温度がどんどん上がってきている。茨が燃えているのは明らかだ。それどころか、後ろの方には赤い火までが見え始めている。これでは戻ることもままならない。
『はっはっはっ、イコンに乗っている限り、我輩は無敵デース』
「あんたが平気でも、わたくしたちが死んじゃうでしょうが。急いでトンネルを掘りなさいよ! さもないと、あんたの秘蔵の出汁に石田散薬入れるわよ」
げしっという音と共に日堂真宵の頭にコブが一つできた。同時に、カレーゴーレムが死に物狂いに茨を排除して進んで行く。よほど、出汁シリーズは大切らしい。
『抜けマース』
まさにぼこっという感じで、カレーゴーレムが茨の壁を突き抜けた。その後から、一同が命からがら飛び出してくる。
だが、すでに茨ドームの中は、天井から燃えた茨の塊が落下してきていて、ほとんどこの世の終わりのような光景だった。
「これが、メテオスウォーム……」
「絶対違うと思うんだもん」
何か勘違いするベリート・エロヒム・ザ・テスタメントに、朝野未沙が突っ込んだ。
「それよりも、この建物は何? 遺跡……にしては、メカっぽい気もするけれど……」
まるでそそり立つ壁のように茨ドームの中央にある一回り小さなドーム型の遺跡を見て、朝野未沙が興味を示した。
「遺跡に決まってるわよ。お宝よ。早く中へ……」
「入り口がないですよ、どうするのですか、日堂真宵」
さあ入ろうと急く日堂真宵に、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがよく見ろと言った。
「アーサー、入り口作りなさい、早く!」
日堂真宵が叫んだ。
『はっはっは、やはり生き残れるのは我輩ただ一人……』
日堂真宵を無視してアーサー・レイスが勝ち誇っていたとき、流れ弾のミサイルが、ヒュルヒュルとカレーゴーレムに命中した。あけっなくひっくりかえったカレーゴーレムが、以前アイシクルランスを受けた破損箇所と普段のメンテナンス不足が相まってあっけなく動かなくなった。
「シーット!」
あわてて、アーサー・レイスが脱出してくる。
「バカか、お前は! 役立たず!!」
すかさず、日堂真宵がフライングキックでアーサー・レイスを吹っ飛ばす。
「これぐらいなら、あたしが修理……してる暇なんてないんだもん!」
降り注ぐ炎から逃げ回りながら、朝野未沙が叫んだ。
ローザマリア・クライツァールたちがパイロキネシスやサイコキネシスでなんとか直撃を弾き飛ばすが、それだって限界がある。それ以前にこのままでは蒸し焼きだ。
「あそこを見るのだぁ、入り口が開いているぅ」
またたび明日風が、めざとく開いている扉らしき物を見つけて叫んだ。少し前に、リリ・スノーウォーカーたちが見つけた入り口だ。だが、その前には燃えさかる茨がうずたかく積みあがっている。
「Knockin’ on Heaven’s Door!」
土方歳三が叫んだ。ガラガラと背景の書き文字が地面に落ちる。次の瞬間、燃える茨の山に『おいでませ』と眩しい文字が高熱を放って浮かびあがった。一呼吸おいて、扉を塞いでいた燃える茨が綺麗さっぱり吹き飛んだ。
「さあ、早く!」
エシク・ジョーザ・ボルチェがうながした。
「あーん、あちちちちち……」
「せ、聖書が燃えてしまいます、いやあ!」
「花がしおれて……」
悲鳴をあげながら、真っ先にエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント、またたび明日風と、火に弱そうな者たちが逃げ込んだ。それを確認するようにして他の者たちも遺跡の中に避難していった。
First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last