リアクション
茨ドーム 「うーむ、やはり、入り口のような物は見つからないであるな」 茨ドームの外縁部を調べながら、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が言った。 以前、イルミンスールの森が霧に覆われたときに、この茨のむこうに行こうとしたら、見知らぬ娘に警告されたことがある。 「つまり、このむこうには、とてつもないお宝が眠っているに違いないのである。それさえあれば、我が探偵事務所の経営も安泰なのだ。ゆえに、心して対話するのだぞ」 そう言って、リリ・スノーウォーカーが期待に満ちたまなざしを花妖精のユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)に注いだ。 「うーん、なんだか、ここの茨さんたち、言っていることがうわごとみたいで、よく分からないんだもん」 ちょっと混乱したように、ユノ・フェティダが言った。なんとか茨と心を通じさせようとしているのだが、どうもこの茨たちはただの茨ではないようで、植物としての意識が共有できない。 「まどろっこしいのだよ。今こそ、白薔薇が紅に染まるとき。受けよ、我が洗礼」 ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)が、ここへ来るまで乗ってきたアルマインタイプのラルクデラローズのクレイモアを使って茨ドームに斬りつけた。一時的に切り開かれたところへ、閉じてしまう前にすかさず開いた巨大同人誌を突き入れて、三角のトンネルを無理矢理に作りだす。 「ああ、茨さんたちが泣いてるんだよ」 一瞬茨たちと同調できたユノ・フェティダが、両手で頬を押さえておののいた。 「泣かせておくのだ。とにかく入り口ができたのだから、今のうちに中へ入るのだよ」 イコンから降りるようにララ・サーズデイに言うと、リリ・スノーウォーカーたちは同人誌のトンネルの中へと入っていった。 「なんだかちょっと恥ずかしいんだもん」 頭上に広がるムフフな漫画をチラチラと見ながら、ユノ・フェティダが顔を赤らめた。 「薔薇にふさわしいトンネルであろう」 なんだか、リリ・スノーウォーカーが変なことを言う。 だが、じきに茨たちが活性化して入口をふさいでしまった。あっという間に閉じ込められた形になる。しかも、増殖し始めた茨が迫ってくる。 「おや、こんなところにメカ小ババ様が……」 トンネルの先に集まってきた茨の中に、絡まっているメカ小ババ様を見て、ララ・サーズデイが駆け寄って捕まえようとした。だが、密度を増す茨に押し潰されて、メカ小ババ様が爆発する。その爆発で、少し茨が吹き飛んだ。 「あれ、今、茨たちの雰囲気が変わったんだもん。なんだか、怯えてるみたい……」 ユノ・フェティダが小首をかしげた。なぜだか、茨の動きが止まったようにも思える。 「今のうちなのだ、もっと前に進むのだよ」 ララ・サーズデイたちは、なんとか前面の茨を排除しながら進んで行った。 ★ ★ ★ 『連絡来たわよ。作戦開始ですって』 リカイン・フェルマータが、デウス・エクス・マーキナーからの連絡を受けて、茨ドーム攻撃担当の各イコンに告げた。 「それじゃ、後は任せました」 志方綾乃が、空飛ぶ魔法↑↑を使って、ヘルハウンドの子犬たちと一緒にツェルベルスのコックピットから飛び出した。イコンのオーバーキルな火力を極力使わないで、ヘルハウンドの攻撃で茨を焼いてしまおうという考えだ。 「任せとけって、じゃあ、後でな」 志方綾乃たちが安全圏まで離れるのを待つと、ラグナ・レギンレイヴが茨ドームにツェルベルスをむけた。 「効率的に行くぜ」 ツェルベルスが三つある首を上に上げる。その下に設置されていたインシネレイターから強力な火炎が吹き出した。あっという間に、再生能力を停止させている茨が燃えあがった。 「さてと、危ないからみんな近寄るなよ、火傷するぜ」 火炎を振りまきつつ茨ドームの外周に沿ってツェルベルスを走らせながら、ラグナ・レギンレイヴが言った。まさに、地獄の番犬のごとく、ツェルベルスの走り去った後には逆巻く業火が燃え広がっていった。 ★ ★ ★ 「さて、必要最低限の攻撃で茨ドームを破壊するのであれば、中央を攻撃するに限りますね」 次々と周辺部で火の手が上がる茨ドームを見据えて、御凪真人が言った。 「周囲に動く者なし。ドーム中央部のポイントデータを送るんだもん」 「受け取りました」 セルファ・オルドリンからデータを受け取ると、御凪真人がそれをミサイルに転送した。 パラスアテナのミサイルポッドのカバーを解放すると、茨ドームの天頂部に照準を合わせてミサイルを発射する。指定されたポイント目指して、四基のミサイルが緩い弧を描いて飛んでいく。 「着弾するよ」 分厚い茨に接触したミサイルが爆炎をあげ、茨のかなりの部分を吹き飛ばした。だが、それでもまだ穴が開くというほどではない。 「分厚いですね。これなら、それほど遠慮しなくてもすみそうです」 茨ドームの上空に位置どると、御凪真人はショルダーキャノンでドームの上を焼き払い始めた。 ★ ★ ★ 「なんだ、何か騒がしいですが」 イコンから降りて茨を調べていた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、異変を感じて周囲に警戒を広げた。 強奪された玉霞を追い、霧でできた偽物だったとはいえ以前戦ったこの場所に手がかりはないかと再度調査に来ていたのだ。 『唯斗、イコンなのだ。接近中、いや、すぐに来るのだ』 巨大な機晶馬である黒帝に乗った荒人の中から、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が注意をうながした。 以前玉霞に大敗してから、荒人もノーマルの雷火からかなりカスタマイズしていた。追加装甲部はよりフレームに密着した形となり、機動性をかなりあげている。武装も四本刀に特化させ、状況に応じて使う刀で戦闘スタイルを変えられるようになっていた。その姿も、漆黒の黒帝と同じ黒い装甲に変わり、黒檀の騎馬武者と呼ぶにふさわしい。 「来い、プラチナム。睡蓮、戻れ!」 「イエス、マスター」 呼ばれたプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が、白銀の魔鎧となって一瞬で紫月唯斗をつつみ込んだ。 だが、その直後に、重圧なシルエットのイコンが現れた。 戦闘態勢を取った紫月唯斗が、あわてて駆け戻ってきた紫月 睡蓮(しづき・すいれん)を後ろ手にかばう。 荒人に乗り込む暇がないと見てとったエクス・シュペルティアが、黒帝を後ろ立ちさせて威嚇してから前面に押し立てた。 『ほう、かなり手を入れた雷火だな』 片方のバインダーキャノンを荒人のコックピットにむけたミキストリの中から、隊長の声が聞こえた。 「その声は……」 聞き覚えがあると、紫月睡蓮がつぶやく。 「待て、エクス」 すぐには戦いにならないと感じて、紫月唯斗がエクス・シュペルティアを止めた。 「賢明な判断だ」 ミキストリのコックピットハッチが開き、姿を現した隊長が言った。昇降用のリフトのリングに片足をかけ、するすると降りてくる。彼が出てきたコックピットの奧には、パートナーらしいメイドの姿がわずかに垣間見えた。 「奇遇だが、こんな所で何をしている」 以前、葦原島で会ったことを覚えていて、隊長が紫月唯斗に訊ねた。 「あんたこそ。俺たちは、玉霞を追って、この場所を調べているところですよ」 「ほう」 紫月唯斗の返事を聞いて、隊長が面白そうに相好を崩した。 「それに、ちょっと知った顔が、このあたりで行方不明にもなっているんです。きっと、この茨の中には何かがあると睨んでいるんですが」 「正解だ」 きっぱりと隊長が言った。 「この奧には、遺跡がある。俺たちはさる依頼で、それを調査に来ているというわけだ。巻き込まれたくなかったら、すぐにここを離れろ。じきに茨の焼却作戦が始まる。うろうろしていると火にまかれるぞ」 「ちょっと待て、この茨を全部焼くつもりか!?」 驚いて、紫月唯斗が聞き返した。 「無論だ」 動じることなく隊長が答える。 「そんなことしたら、森が燃えてしまいます」 それは酷いと、紫月睡蓮が言った。 「それは結果論だ。燃え移れば延焼するだろうが。その前に茨ドームを排除できる可能性もある。いずれにしろ、燃えたにしても、イルミンスールの物好きが消しにくるだろう」 なんだか、それさえも計算済みだと言いたげに隊長が答えた。 「なら、手伝わせてくれ。あんたには、睡蓮を助けてもらった借りもある」 紫月唯斗が申し出た。 「いいのか、この私にそんなことを言っても」 隊長が聞き返す。 「ああ」 紫月唯斗がうなずく。無作為に茨を焼いたのでは、大規模な森林火災になるのは火を見るよりも明らかだ。 「いいだろう。では命じよう、この茨ドームを排除しろ。その中にこそ、遺跡がある。お前の答えはそこにある……かもしれん」 隊長はそう言うと、ミキストリのコックピットに戻っていった。 「さっそくこちらも行きますよ」 紫月唯斗も、素早く荒人のメインパイロットシートに移動する。紫月睡蓮は、ガーゴイルに乗って黒帝の横に並んだ。 「茨を、凍らせて破壊します!」 荒人の両手に氷獣双角刀を持たせると、紫月唯斗が外周の茨を切り払いながら疾走していった |
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