リアクション
炎の中の遺跡 「茨が燃えてるよ。大変! こんなときこそ変身だよね」 茨ドームまで辿り着いた秋月 葵(あきづき・あおい)は、そこでありえない光景に出会って驚愕した。ゴチメイ隊が消えたという茨ドームを調べに来たというのに、肝心のその茨ドームが燃えている。 とにかく火を消さなければと、秋月葵は魔法少女に変身することにした。 「変身!」 秋月葵が、大きくジャンプした。空中に集まってくる光の中で伸身の後転をする。周囲の炎に照らされる中、胸と腰の所で光が弾けた。白とブルーのミニスカートと、マイクロベストが秋月葵の素肌をつつむ。流れるように左右に広がった髪を、青いリボンがしゅるんと結んでいった。 「みんなの森を守るため、愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい! 颯爽登場だよ! いくよー! 全力全開! ブリザード!!」 ★ ★ ★ 「なんか、焦げ臭くはないか?」 クンクンと鼻を鳴らして、リリ・スノーウォーカーが言った。 「大変だよ。火事だって!」 茨たちの話を聞いたユノ・フェティダが叫んだ。 「だが、これでは……」 行く手を塞ぐ茨を見つめてララ・サーズデイが呻いた。このままでは蒸し焼きだ。 「お願いなんだもん、茨さん、あたしたちを通して。きっと、あなたたちの力になれると思うの」 ユノ・フェティダが祈った。 すると、ゆっくりとではあるが、彼女たちの行く手の茨が開いていった。 「よくやった。きっと、茨が勇者であるリリたちを認めてくれたのであろう」 自信たっぷりにリリ・スノーウォーカーが言ったが、そのわりには茨たちの動きは、ちょっとおずおずとしたためらいを含んだもののようだったが……。 「ありがとう、みんな」 ユノ・フェティダを先頭に、三人はゆっくりとした足取りで茨のトンネルの中を進んで行った。 その間にも、どこかで爆発音が連続して起こり、だんだんと気温が上昇していった。やがて、煙までもが見え始める。 「出口はまだなのか?」 煙で視界がきかなくなり始め、咳き込みながらリリ・スノーウォーカーが言った。その直後、突然視界が開けた。茨の壁を抜けたのだ。 「ここは!」 眼前に広がる光景に、リリ・スノーウォーカーは息を呑んだ。そこには、巨大な漆黒の壁がどこまでも広がっていた。いや、天井とも言える茨ドームの頂上付近が燃え、その赤い光に照らされて赤黒く壁が輝いて見える。見あげてみれば、この壁は緩やかなカーブを描いていて、巨大なドーム状の建物であった。 「お宝の匂いがするね」 遺跡の壁に触りながら、ララ・サーズデイが言った。その表面は土がこびりついて汚れてはいたが、全体に細かい象眼が施されていた。ルーンのようでもあるが、少し違うような気もする。 「どこかに入り口はないのか?」 リリ・スノーウォーカーの指示で、一同は遺跡の表面を調べ始めた。その間にも、茨がどんどん炎につつまれて赤く輝き出す。やがて、崩壊が始まった。 焼け落ちた天井部分の茨が、次々と炎の塊となって地上へと降り注ぎ始めた。 「このままでは、焼け死んでしまうぞ」 さすがに焦って、ララ・サーズデイが壁のあちこちをどんどんと叩く。とはいえ、遺跡の大きさはあまりに巨大だ。直径は数百メートルはあるのではないのだろうか。 バンと、ララ・サーズデイたちの頭上で炎が飛び散った。ドームの上に落ちてきた炎の塊が、曲面を滑り落ちてララ・サーズデイたちにむかってきたのだ。 「危ない!」 呆然と立ちすくんでしまったユノ・フェティダをだきかかえて、ララ・サーズデイが加速ブースターで燃える茨を避ける。直後に、二人のいた場所が炎につつまれた。 「大丈夫であるか、二人共」 あわててリリ・スノーウォーカーが駆け寄るが、今の塊の他にも、どんどん炎が頭上から降り注いでくる。 「助かったんだもん。でも、もう逃げ道が……」 腰が抜けたかのように、ユノ・フェティダがお尻を壁につけた。その部分がカタンとへこむ。一瞬後に、壁に人が通れるだけの扉が現れた。 「でかした、ユノ。さあ、早く中へ!」 リリ・スノーウォーカーが、二人をうながした。 彼女たちが遺跡の中に飛び込むと同時に、落ちてきた炎が扉を埋めた。 「ここはどこなのであろうな」 通路を進みながら、リリ・スノーウォーカーがつぶやいた。建物の中は弱いながらも明かりがついている。行動には支障がない。だが、明かりがあるということは、この遺跡は生きているということだった。 「お帰りなさい」 ふいに声をかけられて、リリ・スノーウォーカーたちはびくっとして声の方を振り返った。 「君は……」 ララ・サーズデイが、見覚えのある娘の姿に訊ねた。 「ここを甦らせてはいけません。お帰りなさい」 ララ・サーズデイの言葉には応えず、娘は霧となって消えてしまった。 |
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