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リアクション
★ ★ ★
「ふう、やっと行ったわね。ああ堅苦しいと、いろいろと邪推したくもなりますよねえ」
そう言って、志方 綾乃(しかた・あやの)がヘルハウンドたちの頭をなでなでした。くうぅーんっと、ヘルハウンドが甘えた声をあげる。
未知の新型イコンなど、いったい誰が欲しがっているのだろうか。最近内部でごたごたしているイルミンスールであれば、それぞれの陣営が欲しがっても不思議ではない。もっとも、それ以外でも、充分に興味をそそられる存在であろう。それゆえに、へたな陣営の手に渡っては、不用意にパワーバランスを崩してしまうかもしれない。だいたい、そもそもどこから未知のイコンなどという情報が出てきたのだろうか。
「それはそうだが、この状況はどうにかならないのか!?」
頭の上によじ登ってくるヘルハウンドに軽く蹴飛ばされて、ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)がちょっと悲鳴をあげた。
ちなみに、二人が今いるのはヴァラヌス鹵獲型を改造したイコン、ツェルベルスの中である。四つ足三首の大型イコンは、地獄の番犬ケルベロスのようなシルエットを持っている。だが、大型イコンとはいえ、コックピットは多少大きいという程度である。そこの中へ、十数匹のヘルハウンドを入れたものであるから、コックピットが犬鍋状態である。これが、すべて成犬であったら、身動きもとれないところであろう。
「こら、そこ、喧嘩しないの。ああ、レバー噛んじゃだめだから、レーザーバルカン出ちゃうから。あ、こら、舐めちゃだめ、くすぐったい……」
ころころもふもふした子犬のヘルハウンドたちが、フリーダムにコックピット内で遊びだしたため、はっきり言ってとんでもないことになっている。
「いてててて、こいつ囓った……。ああ、お前、どこで漏らしてる! 綾乃! ぞうきん、ぞうきん!! ええい、早く茨ドームに行ってこいつらみんな叩き出すぞ!」
ラグナ・レギンレイヴの叫びとともに、ツェルベルスがぎくしゃくとした足取りで歩き出した。
★ ★ ★
「さて、遅れないように、こちらも出発するとしますか」
御凪真人が、ゆっくりとパラスアテナを離陸させた。
コームラントをベースとした重イコンだが、イクスシュラウドを上回るシルエットボリュームのほとんどは武装によるものだ。装甲強化したコバルトとシルバーの機体は、機動力を犠牲にした分、圧倒的な耐久防御力と火力を誇る。
「ねえ、真人、ホントにいいのかなあ……」
それまでサブパイロット席で静かにしていたセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が、ポソリと口に出して言った。
「今はまだ……ですね」
聞きたいことを察して、御凪真人が答えた。
「この作戦、周囲への被害も考えず、大量のイコンによる強襲。明らかにオーバーキルの戦力に思えますから、依頼主は相当に焦っているんじゃないでしょうか」
「賞味期限があるとか?」
野菜やお肉なんて、少しぐらい腐りかけの方が美味しいのにと、セルファ・オルドリンがちょっと怖い考えを浮かべる。
「さあ。もしかすると、これだけのイコンの一斉攻撃にも耐える遺跡だったりするのかもしれませんが、はたして、このパラスアテナの火力にも耐えられる遺跡なんて物があるのでしょうか」
自身のイコンの性能を鑑みて、御凪真人が言った。あながち、過信ではないだけの火力がある。
「いずれにしろ、今はおとなしく命令に従いましょう。そのうち、あの隊長の方から何かを漏らしてくれるかもしれませんから」
★ ★ ★
「このへんは、まだクリフォトの浸蝕も見られないようだな」
イルミンスールの森の様子を鈍色のアルマイン・マギウスのメインモニタで確認しながら、緋桜 ケイ(ひおう・けい)がつぶやいた。その後ろからは、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)の操縦するノーマルのアルマイン・マギウスが続く。彼らは、傭兵部隊とは無関係にオベリスクへとむかっていた。
「よかった。これなら、メイちゃんたちに、ココさんたちの行方を聞くことができそうです」
ソア・ウェンボリスが、ちょっびり安堵の息をつく。
アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)がイルミンスールの森にたちこめた霧の事件から行方不明になってしまったのを追って、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)を始めとするゴチメイ隊がずっと捜索を続けていたのだが、ある日を境にぱったりとその姿が見受けられなくなったのだ。
ゴチメイ隊は、以前にもタシガンの古城で今回と同じ霧に翻弄されて囚われたことがある。可能性としては、アルディミアク・ミトゥナと共にどこかに囚われているか、トラップか何かでどこかに閉じ込められているに違いない。
そこでソア・ウェンボリスが思い出したのが、以前偶然再会したメイちゃんたちが言っていた、森の中をうろつく人たちを警戒してパトロールしているという言葉である。もちろん、そんな目立つ者たちはゴチメイ隊の者たちに違いない。
そこで、ソア・ウェンボリスたちと緋桜ケイたちは、ゴチメイ隊の者たちの安否を確認しに、メイちゃんたちのいるオベリスクへ話を聞きに行こうと考えたのであった。本来であればもっと早くに訪れていたはずであったのだが、おり悪くザナドゥからの侵攻があり、とてもそれどころではなかったのである。
それが一段落ついている今しかないと、念のためにイコンを使ってやってきたというわけなのだが……。
「それにしても、狭いな……」
膝の上に『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)を乗せている悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が窮屈そうに言った。
アルマインのコックピットは他のイコンよりやや広いためにパイロット以外の者を乗せることも可能なのだが、だからといって充分に広いというわけではない。中にはパイロットシートを四つに増設して居住性を高めているイコンもあるようだが、今のところ緋桜ケイたちのアルマインはシートは二つずつである。そのため、ソア・ウェンボリスの方も、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)のもふもふの腹に沈み込むようにして『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が無理矢理座っていた。だが、ある意味こちらの方が『地底迷宮』ミファよりも快適であったかもしれない。
「見えてきたぜ、オベリスクだ」
邪魔っ気な『空中庭園』ソラの頭越しに外部モニタを確認して雪国ベアが言った。通信チャンネルはオープンにしているので、緋桜ケイたちの方にもその言葉は伝わる。
「よし、着地して近づくぞ」
ふわりと、二機のアルマインがオベリスク周辺の石畳の上に着地する。一見すると地上歩行には適さないような華奢なアルマインの足ではあるが、その形状は巨木が林立するイルミンスールの森だからこそでもある。爪状の足は、世界樹の枝の上でも、しっかりとした安定を得られる構造となっている。
しかし、さすがに石畳の上ではこの形状ではややすべりがちだ。ちょっとおぼつかない足取りで、非常にゆっくりとオベリスクに近づいていく。
そのとき、突然オベリスクが光り輝いた。
「おおい、なんだ、こりゃ!?」
驚いた雪国ベアがあわててソア・ウェンボリスに止まるように言う間に、広がる円盤状の光はオベリスクを斜めに巡る三つの魔法陣を形成していった。クルクルと複雑な立体オブジェのように回転する魔法陣の外周に、ルーンを宿した光の帯が現れて別の回転を始める。
「下がれ、あれは攻勢防御用の立体魔法陣だぞ」
悠久ノカナタが叫んだ。以前、巨大スライムが世界樹を襲おうとしたときに、世界樹に張られた巨大結界と同質の見た目をしている。
「なんで、そんな物が……。前に来たときは、こんなことにはならなかっただろ!?」
アルマインを後退させながら、緋桜ケイが言った。何度か徒歩でオベリスクには赴いているが、こんなことは初めてである。以前、ここでストゥ伯爵やオプシディアンたちと遭遇したときにも、こんなことはなかった。
「もしかして、イコンがいけなかったんじゃないでしょうか?」
『地底迷宮』ミファが言った。
「よし、降りてみよう」
「慎重にな」
即決する緋桜ケイに、悠久ノカナタが言った。
「うっ、あいつら降りるつもりか。何を考えて……」
「敵意がないんだから、いいんじゃない? 大砲を片手に持ったままで、こんにちはって言ってもだめでしょうが」
正気かと疑う雪国ベアに、『空中庭園』ソラが言った。
「私たちも降りてみましょう」
ソア・ウェンボリスにうながされて、こちらもイコンから外に出ていくこととなった。
他校ならハンディクライマーや、コックピットハッチに設置されているワイヤーリフトを使うところだが、イルミンスール魔法学校の生徒はオーソドックスに箒を使って降りる。こちらの方が素早く昇降ができるというわけだ。
「おーい、メイちゃん、コンちゃん、ランちゃん、俺たちだ」
緋桜ケイが、オベリスクにむかって叫んだ。
「ちょっと挨拶に来ただけであるぞ、ほれこのようにな」
悠久ノカナタが、手に持った箒の柄で軽く『地底迷宮』ミファの頭を叩くまねをする。メイちゃん式の御挨拶方法である。
きゃっと『地底迷宮』ミファが頭をかかえたとき、オベリスクにふいにドアが開いた。中から、メイちゃんが現れる。
「なんでイコンなんか持ってきたんです? 防衛システムが自動で動いちゃったじゃないですかあ」
言いながら、人間の姿のメイちゃんが駆け寄ってきた。
「はっ!」
とっさに、一同が後ろに下がった。
「ちょ、ちょっと、どうした……はうあっ!」
「こんにちはー!!」
逃げ遅れた……というよりは、雪国ベアに背中を押されて前面に出された『空中庭園』ソラが、メイちゃんの渾身の頭突きを受けて後ろへとのけぞった。
「よし、挨拶終わり!」
しっかりと、雪国ベアがガッツポーズをとってから、倒れてきた『空中庭園』ソラをだきとめる。
「ごめんなさい。最近この森も物騒だから、用心のためにイコンで来ちゃったの。決して脅かすつもりじゃなかったんですよ」
ぺこりと頭を下げて、ソア・ウェンボリスがメイちゃんに謝った。
「実は、人を捜してるんだが……、それにしても、ここにこんな機能があったなんてなあ」
目映い光を放つオベリスクを見あげて、緋桜ケイが言った。
「ここは守りの地なんだからあ。だいたい、こんなにたくさんのイコンで来るから、びっくりしちゃったんだもん」
「たくさんだと?」
メイちゃんの言葉に、悠久ノカナタが怪訝そうな顔になった。イコン二機は、はたしてメイちゃんたちにとってたくさんの部類に入る数なのであろうか。
「うん、まだ、たくさんやってくるじゃない」
「誰だ、それは?」
緋桜ケイとソア・ウェンボリスたちは、互いに顔を見合わせた。
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