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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

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序章 〜赤と黄〜


 彼女には2018年より前の記憶がない。
 だから、どういった経緯でこの学院にやって来たのかは分からない。自分の名前すらも思い出せなかったのだから。
 それは、彼女以外の五人も同じだった。「先日起こった『ある事故』によって、記憶を消さなければならなくなった」とあの男は説明した。
 彼女達に共通しているのは、2018年当時は完成して間もない技術であった「パラミタ化」が施されていることだ。それの副作用で彼女達は異能の力を手に入れた。さらに、投薬実験によってその力は格段に増した。
 しかし、彼女は他の五人と違い、力を上手く扱うことが出来なかった。まともに使えるのは炎のみ。それさえまだ他の者より秀でているわけではない。それでも、彼らに追いつこうと必死だった。
 脳裏にあるのは、時折夢の中に出てくる泣いている幼い黒髪の少女の姿。それが自分の過去かは分からない。ただ、ここで力を手に入れたということは、「強くなりたい」と願う自分がいたからだろう。だから、弱いままの自分が許せない。
「今日もやってるネ」
 そんなある日、自主訓練中に五人の中の一人が声を掛けてきた。
「いつも一人でいるけど、ずっとこんなことをやってたのかな?」
「……ああ」
 少女がゆっくりと歩み寄って来る。
「ただ闇雲に力を制御しようとしても、上手くいかないヨ」
「……うるさい。この力を自在に扱えなければ、弱いままだ」
 やれやれ、といった調子でチャイナドレス風の服装をした少女が息を吐いた。
「何をもって『強い』とするか、何をもって『弱い』とするか。他の人と比べた強さに、意味なんてないヨ」
「それはお前が強いから、言えるんだろ?」
「リンだってそこまで強くないヨ。『契約者』との間には越えられない壁があるネ。だけど、弱いなら弱いなりの足掻き方ってのがあるものヨ」
 励ますように、微笑みを浮かべた。
「『弱者は弱者であるが故に強さを知れる。強くあろうとすれど、強くなることなかれ。弱者の誇り、失うべからず』。誰に言われたのかは覚えてないけど、この言葉が頭に焼き付いてるネ」
 次の瞬間、彼女は腹部に衝撃を感じた。
「お前……!」
「立ちなヨ。リンのこと、ぶちのめしたいでしょ?」
 言葉を聞き終える前に、彼女は目の前の少女に向かって飛び込んでいった。

* * *


「あはは、引き分けだネ」
 結果だけ見れば、互いに動く力が残っていなかったから、その通りだ。
「どう、リンが言いたいこと、分かってくれた?」
「ああ、何となく……な」
「背伸びをする必要はない、自分が上手く使える範囲内で最大限に力を活かす。それが出来るようになれば、自然と次に進めるようになるヨ。何を伸ばせばいいかも分かったからネ」
 彼女は戦いの中で、自分なりの力の使い方を見出した。
「あとは、ベルちゃん自身が狙われても大丈夫なように、護身術を身につけた方がいいネ」
「護身術?」
「能力の隙を埋めるためヨ。リンの身体には、どういうわけかいろんな武術が染み付いてるから、教えたげる」
 断ったとしても、教えようとしてきそうだ。ただ、悪い気はしない。
「……よろしく頼む」
 改めて、彼女は少女と握手を交わした。初めての友達にして、後に親友となる者と――。