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リアクション
【1】 CHURCH【6】
「ふあああああ〜〜〜あ!!」
礼拝堂の長椅子に半ば寝そべるように身体を預け、姫宮 和希(ひめみや・かずき)は無礼千万なほどの大あくびをして見せた。
”スーパーロボット理論研究会”、通称スパロボ研の一員として、クルセイダーに関連する証拠を見付けに来ているのだが、格好は普段通りのバンカラスタイルで出自を隠すつもりはないようである。
「……それにしてもだよ。なんだあの神官の説教。超つまんねぇじゃねーか。よくこいつら、こんなん有り難がって聞いてるよな」
「ちょっと、ちょっと」
悪目立ちする彼女に見かねて、潜入中のアイリがやってきた。
「おう、アイリじゃねぇか。シスター服も似合ってんな」
「おう、じゃないですよ」
「信者の人たち、和希さんに若干引いてるじゃないですか」
「ああん。情けない奴らだな。やっぱりよくわかんねー神様なんかにすがってる連中はダメだな。気合いが入ってねぇ」
ガンを飛ばすと、信者たちは高速で目を逸らした。
「ふん、根性無しが。こんな奴らしかいねーんじゃ、俺の敵じゃねぇ。安心しろ、アイリ。勝てるぞ、この喧嘩」
「何しに来たんですか、一体……」
”愛と夢のコンパクト”で幼い女の子に変身した騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、礼拝堂の奥にある大きな超国家神の彫像を見上げていた。
慈愛に満ちた眼差しで信者たちを見つめる、神々しい聖母像だが、詩穂は複雑な表情で像を見ていた。
(……パラミタの超国家神? パラミタの国家神はアイシャちゃんだよ。死をも恐れず戦争をする信仰を掲げるような教団はおかしいもん……!)
小さな手をぐっと握りしめた。
(プライベートで詩穂にだけ見せてくれる表情、国家神としてではなく人としてのアイシャちゃん……。アイシャちゃんの未来は詩穂が守る!)
詩穂は辺りを見回した。
「あれ、青白磁ちゃんは?」
「懺悔室に入ったと思ったらすぐに出てきて、帰ってしまいましたわ」
セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が言った。
彼女も愛と夢のコンパクトで、30代前半の妖艶なおねえさんに変身して潜入している。
「え、なんで?」
「わかりませんけど……、なんだか落ち込んでたみたいですわ」
「……ふぅん? ま、いっか。れいの司教様をあしどめするひとはたくさんならんでるみたいだし」
「ですわね。今のうちに礼拝堂の調査をしてしまいましょう」
セルフィーナは像の周りを調べた。
「意外に、こういう礼拝堂のような人の多い場所のほうが、盲点となったりするものですわ」
しかし、押したり叩いたりしてみたが、特に不審な点はなかった。
「……よくよく考えてみれば、こんなに人が多い場所に隠し通路があっても利用しづらいですわね」
そこに、和希とアイリがやってきた。
「よう、何か見つかったか?」
「残念ながら、今のところは何も……」
セルフィーナは肩をすくめた。
「それにしても地下で何をしているんでしょうね……?」
「たぶん、ガーディアンのけんきゅうだとおもう」
断言するように言った詩穂に、アイリは聞き返した。
「どうしてそう思うんです?」
「クルセイダーがさがしてるG計画。よくかんがえてみて。このGって、GURDIANの”G”なんじゃないかな?」
アイリたちの頭に以前見た怪物の姿がよぎった。
「G計画はきっと、人々のためにたたかう巨大ロボット……あついせいぎの守護者をつくる大文字先生の夢なんだとおもう。
でも、その力と人間がゆうごうしたら? 操縦桿をひつようとせず、しこうそのままかつどうできるスーパーロボットって、この前みたガーディアンってそれにすごくちかいとおもわない?」
「言われてみれば、確かに……」
「たぶん、かんぺきなG計画のけいかくしょをクルセイダーはもってないとおもうの。ガーディアンはきっとG計画のいちぶをもとにつくったものなんだよ」
「その証拠が地下にあると?」
「うん、きっと……」
その時、入口のほうで騒ぎが起こった。
「オレ、あんたらの崇める超国家神なんだけど中見せて」
「は?」
テンプルナイツは目を丸くさせ、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)を見た。
美人ではあるけれど、荒っぽさほうな雰囲気とか、服装に無頓着な感じとか。神々しさとはほど遠い。
「うん、オレが超国家神。マグ・メル地方で派手に暴れまわってたアレ。いや、マジで。知ってるだろ、マグ・メル事件ってさ。TVで突っ込まれたこともあるんだぜ?」
「いえ、存知あげませんが……」
「ほんと? ダメだぜー、ちゃんと時事のニュースは追っておかないと。あんた、社会人だろー?」
「は、はぁ……」
「と言うわけだから、中見せて」
ナイツは彼女の前に立ちはだかった。
「申し訳ありません。信者の方のご迷惑になりますので……」
「はぁ? なんでだよ、オレが超国家神だって言ってんだろ! と言うか、まだ何もしてねーし、信者の人に絡んでねーし! 絡んでねーのに拒否られてるし!」
「すみません。厄介そうだったので。すみません、お帰りください」
傍目には完全にシリウスは基地の外に出てしまっていた。
ナイツは”うわ……、神様とか言ってる。やべーの来ちゃったなー”と言いたそうな表情だ。立場上、言えないけど。
「何をやってるんだ、キミはー!!」
サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)はシリウスの胸ぐらを掴んで壁に叩き付けると、ナイツに聞こえないよう小声で言った。
「突撃とかアホかーッ! しかもまたヤバいことをぺらぺらと……ああもう!」
「なんだよ、オレを信じて待ってろって言ったのに、出てくんなよな」
「もういいから、大人しくしてて!」
サビクはナイツに向き直った。
「失礼。ボクはサビク、彼女の……保護者。うん、保護者みたいなものだよ。彼女、ちょっとココが弱くてね、昔から超国家神ちょー国家神って、オレがナントカだみたいに五月蝿くて。迷惑かけてごめんよ」
「はぁ」
「でも、もしよければ……ボクらも入信させてもらえないかな? 彼女の言う超国家神を本当に信じる人がいる……これも何かの縁だと思うんだ。面倒はボクがみるから、ね?」
「……わかりました。神官に取り次ぎましょう」
ナイツは奥に消えた。
しばらくすると、ちょうど懺悔室の仕事を終えたらしいメルキオールが、ナイツと一緒に現れた。
「こちらの方々が入信したいと」
「ほう……?」
「おー、あんたが……ええと、なんだっけ、メルメルだっけ?」
「メルキオール、デス」
「あーそうそう、そんな名前だったな。よろしくな、メルメル」
「このアホーッ!!」
サビクは再び胸ぐらを掴んで壁に叩き付けた。
「いきなり無礼な発言するんじゃないよ! 人間関係は始めが肝心だって言われてるでしょうが!」
「なんだよ、すげーフレンドリーに接したじゃんか?」
「いいから、大人しくしてて!」
サビクはメルキオールに向き直った。
「失礼。彼女はココがアレで……あ、でも、ここに入信すれば、きっと彼女もまともになると思うんだよね。だから、連れてきたんだよ、うん」
「なるほど。そういうことデシタカ。納得デス」
「……うぅ、おまえら……!」
シリウスは唇を噛み締めた。
「いい機会だし、司教様からこのアホに、グランツ教の教義を説いてやってくれないかい?」
「構いませんケド……」
とそこに、和希も加わった。
「それは俺も興味あるな」
「アナタも入信希望者デスカ?」
「俺はただの見学。でも、どんな宗教なのか知らないんじゃ入信も何も決められないしさ。教えてくれよ」
なるほど、とメルキオールは頷いた。
「グランツ教の教義は、超国家神サマの下、パラミタを再生させることデス。我々は日々、不安に迷える皆サマのため無償で活動をしておりマス。近隣のドブさらいから、夫婦のお悩み相談、はたまた平和を乱すモンスターの討伐まで。パラミタに平和をもたらすため活動しているのデス」
信者達から拍手が巻き起こった。
「すっげぇ人気……」
「パラミタの再生か……」
和希は腕組みして彼をじっと見た。
(クルセイダーと繋がってるって噂だから、もっとハメツ的な奴らなのかと思ってたけど、話を聞く限り悪い事は言ってないな……。ほんとにただの噂でクルセイダーとは関係なかったら、逆に俺たちが嵌められたことになっちまう……)
思い切って尋ねてみた。
「あんたさ、クルセイダーって知ってるか?」
メルキオールは一瞬きょとんとしたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「……名前は聞いた事がありマス。身内の恥で恐縮デスガ、バルタザール司教がそのような名前の暗殺集団と繋がっていマシタ」
「ああ、空京の事件だな。あんたは繋がりがないのか?」
「ありマセン。神に祈りを捧げたり、ボランティア活動するのに暗殺者の手を借りる必要はないじゃないデスカ」
「まぁそれはそうなんだけど……」
和希はじっと彼の瞳を覗き込んだ。
シリウスはそれに気付き、2人の顔を交互に見た。
「……何してんだ?」
「コイツの目に濁りねぇか見てんだよ」
「濁り?」
「漢ってのはなぁ、目さえ見りゃ大抵のことがわかんだよ。後ろ暗いことしてるヤツは、目に濁りが出るもんだ」
「へぇ」
シリウスもメルキオールの瞳を見た。
「うお、まぶし!」
宝石のようにきらきら輝く青い瞳には、一点の濁りもなかった。
和希は肩をすくめた。
「……悪党の目じゃねぇな。信じるぜ、あんたのこと」
「なんだかよくわかりマセンガ、お眼鏡にかなったようデスネ」
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