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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【2】 ROUNDABOUT【2】


 笠置 生駒(かさぎ・いこま)は普通科の校舎を歩いていた。
 整備科の彼女はあまり来ることもない新校舎は、まだ出来て1年あまり、壁や床も真新しい。
「一体、大文字先生に会って何をするつもりじゃ?」
 ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は尋ねた。その顔には不安が張り付いていた。
「前回、ワタシのイコンが大破しただろ。ただ修理するのも芸がないし、新機能を乗っけて修復しようと思ってさ。大文字先生にその辺を相談しようかなぁと」
「大文字先生って、ジェファルコンを大破させた張本人ではないか。と言うか、なんだその新機能と言うのは。絶対ろくなもんじゃないじゃろ」
「失礼な奴だなぁ。失敗を重ねてワタシも成長してるんだよ?」
「成長したならわかるな。余計なものを積むのはやめい。散々怒られたじゃろ」
 魔改造の結果、彼女のジェファルコン特務仕様は爆発した。
 爆発したのみに終わらず、格納庫にも多大な被害を与えてしまい、整備科の教官たちに、一滴も水が出ないほどこっぴどく絞られたのだ。
 けれども、彼女に反省の色は見えなかった。
「知ってるんじゃぞ。お前がまた格納庫にガラクタを運びこんどるのを!」
「はっはっは。嫌だな、ガラクタじゃないよ、ゴミ捨て場から拾ってきた部品だよ」
「それをガラクタっつーんじゃ!」
 その時、目の前を謎の物体が横切った。
「ん?」
 なんだろうと思っていると、大文字がやってきた。
「こんにちは、先生」
「おお、君か。イコンの改造は順調に進んでいるかね?」
「その件で、ちょっとご相談したい事があるんだけど、いいかな?」
「ん、ああ……」遠ざかるモジャモジャを眺め「まぁいいか……。よし、相談に乗ろう」
 生駒は書き途中の設計図を見せ、イコンの修復プランを説明した。
「いきなり合体変形は難易度が高いので……まずもにょもにょ……ブロックシステムから入ろうと思うんですがどうでしょうか?」
「ほう、大人の事情で”名前を言ってはいけないあの人”的なブロックシステムか。どちらかと言えばライトじゃないシステムだな」
「そうですそうです。ライトじゃなくて……な感じの」
 ジョージは頭の上でもじゃもじゃしたもの(漫画的表現)を作っていた。
「何システムじゃか知らんけど、実現可能な技術なのか、それ?」
「十分可能だ……今世紀中には!」
「そういうのは可能って言わん!」
「……まぁほらあれだ。実現可能になってから、図面を引いてるようでは三流だ。今のうちから構想は練っておかねばならん」
「……そう言うもんかのぅ?」
「流石、先生良い事言うね」
 生駒はぱちぱちと拍手した。
「さて、話を戻すが、名前を言ってはいけないブロックシステムは面白いアイデアだな。しかしどうせ改造するなら、他の部分にも手を入れよう。ちんまい改造はロボを愛するものとして許せん。君だって、ロボアニメに新型機が出てきたと思ったら、それが現行機に毛の生えたようなマシーンだったらガッカリするだろ?」
「確かに」
「と言うわけで、まず両肩に二門の長距離砲を搭載しよう」
「おおー」
「それからもう手は外してしまおう。あらゆる武器を扱える汎用型はもう十分。男なら特化型だ」
「ええ、まぁ(男じゃないんだけど……まぁいいか)」
「手首から先を外して、代わりにポップミサイルの発射装置を付けよう。うむ、良い感じだ。脚部はキャタピラにしてみるか。今時、キャタピラ式は珍しいからな。きっと戦場で目立つこと間違いなし。一躍人気イコンだ」
 大文字の添削した図面に、生駒は少年のように目を輝かせた。
「おおー、遠距離戦闘特化型ジェファルコンかぁ。これもいいなぁ」
「そうだろう。ジェファルコンタンク。略して”コンタンク”と名付けよう」
「……なんかすごく三番手臭がするんじゃけど、わしだけ?」

 ピーンポーンパーンポーン

『お呼出を申し上げます。大文字勇作先生、スーパーロボット理論研究会の件で、生徒会からご相談があります。至急、相談室までお越し下さい』
 校内放送が流れると、大文字はポリポリと頭を掻いた。
「……すまんな、これで失礼する。コンタンク、完成を楽しみにしているぞ」
「はい、今世紀中には」

 ・
 ・
 ・

「隣室も含め盗聴器の有無を確認した。この部屋は安全だ」
 レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)は言った。相談室の両隣にある教室もこの時間は使用されていない。と言うか、使用しないよう根回しをしてある。
「随分、徹底して場所を作ったようだが、人には言えない話でもする気か?」
 ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)は、生徒会副会長の茅野 茉莉(ちの・まつり)に目を向けた。
「普通の話をするだけよ、普通の話を。会長の指示で、大文字先生の研究室を調査しようとしてるようだけど、上手くいく保証はないし、こっちはこっちで手を回しておかないとさ。悪いヤツじゃないんだけど、爪が甘い感じがすんだよね、会長は」
「それであの愚民から直接話を聞こうってわけか」
「そういうこと。そうなると、あたしはともかく、先生はひとに聞かれたくないだろうから、呼び出した身としちゃ配慮しとかないとね」
「ふん、そう素直に話してくれればいいがな……」そう言うと、ダミアンは眉を寄せ「と言うか、我までここにいる必要はないではないか。愚民から情報を引き出すのはお前らの勝手だが、我は愚民の話になど興味はない。よもや我につまらん愚民の話を一緒に聞けと言うわけではあるまいな?」
「興味はないって……ダミアン殿も一応、同好会の会員だろう?」
「ん、そうだったか?」
「幽霊部員になると張り切っていたではないか」
「そう言えばそうだったな。しかし、幽霊部員ともなるとやる事がなくてな。どうにも連中の仲間と言う気がしないのだ」
「……そりゃ幽霊部員だからであろう」
 レオナルドはなんか、頭が痛くなってきた。
「……じゃあ、部屋の前で誰も来ないよう見張りでもしといてよ」
 茉莉は言った。
「む……”じゃあ”とはなんだ、”じゃあ”とは。その”じゃあ”には特に仕事もないから、見張りでもしていろ的な適当さが透けて見えるぞ」
「まぁ……(実際その通りだしなぁ」)」
「ふん、まぁよかろう。どうせここにいても退屈なだけだろうしな」

 しばらくして大文字が部屋に来た。
 茉莉は同好会の活動方針と予算を持ち出し、しばらく事務的な話題に務めた。とは言え勿論、同好会の話は大文字を呼び出すための口実に過ぎない。
「スーパーロボット理論研究会ねぇ。興味の惹かれる名前ではあるけど、正直、その辺は疎いのよね。なんでも荒唐無稽な研究してるって噂だけど、どうなの?」
「荒唐無稽か、ワッハッハッハ、そう思う連中も多いな。しかし、自分の理解出来ないものをその言葉で片付けるのはよくない。私はただ、人よりすこし未来に生きているに過ぎんぞ」
「……先生が極秘に行ってる研究も、そのひとつ?」
「……む?」
「この部屋には盗聴器とかないから、別に機密を話しても漏れる心配はないわよ」
「極秘の研究……? な、何を言っているのか、まったくわからんなぁ……」
 そう言いながらも目が泳いでるのを、茉莉は見逃さなかった。
(……やはり何か隠してる。てか、この先生隠し事が露骨に苦手なタイプ!)
「この間も誰かに話したが、私の研究テーマはスーパーロボットの実現だ。これまでの戦略性、量産性を重視したイコンとは一線を画す、超火力超巨大超かっこいいイコンだ。まぁもっとも、まだ技術的な問題がクリア出来ていないのだが……」
「ほう。例えば、どのような?」
 発明家でもあるレオナルドは、大文字の研究に関心があった。
「第一に、エネルギーの問題。第二に巨体を支える骨格素材、装甲素材の問題。現在の金属や強化プラスチックでは自重を支えきれんし、超火力は同時に機体にかかる負荷も増大するわけだから、半端な装甲では攻撃の反動で自壊してしまう」
「装甲素材か……。ふむ、現行のイコン同様、機晶エネルギーによる機体装甲のコーティングを応用出来ないだろうか。エネルギー問題が解決した暁には、莫大なエネルギーを生む動力が備わる。コーティングは動力炉のエネルギー生成量に比例するのだから、それだけで強固な鎧となるはずだ」
「それは概ね正しいが、研究中の超火力武器はその程度で軽減するのは難しい」
「一体、どのような武器を?」
 大文字は手帳を取り出し、書かれていた武器の草案を見せながら説明を始めた。
「……興味深い。ボクもイコン強化を研究しているのでね、参考になる話ばかりだ」
「ワッハッハッハ。そりゃ結構だ。まぁ、まだ実現にはほど遠い内容だがね」
「なに、斬新な着想は刺激になる。このページはメモにとらせてくれ、ボクなりに研究したい」
 研究論議に花が咲く。だが、蚊帳の外の茉莉はつまらなそうに眺めていた。
(……てか、めっちゃ話長いじゃん)
「はいはい、技術的な問題はわかったけど、スポンサーの問題はどうなの?」
「む?」
「予算よ、予算。そんなもの作るには莫大な予算が必要でしょ?」
「予算については心配はしとらん。何せ……」
 大文字は慌てて口をつぐんだ。
「ま、まぁそうだな、予算確保は大変だなー……」
 あからさまに怪しさ大爆発だが、それでも彼はすっとぼけた。
「……あのさ先生、とぼけるのはそれぐらいでいいんじゃない?」
「な、何の話だ?」
「どー見てもおかしいでしょ、その態度。何か隠してんのは明白なんだけど」
「何も隠しとらん!」
「隠してるね、絶対。ここで聞いた事は外部に漏らさない。だから、教えて」
「断る! ……じゃなかった知らん!」

 ピーンポーンパーンポーン

『お呼出を申し上げます。大文字勇作先生、お客様がお見えになっています。至急、事務局までお越し下さい』
 天の声ならぬ校内放送の声に、胸を撫で下ろした。
「おお、そう言えば約束があった! すまんな、失礼する!」
「あ、逃げた!」
 引き止める茉莉の声を振り切り、大文字はスタコラと廊下の先に消えていった。