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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第1回/全4回)

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進撃――阻む者達




「フハハハ! 残念ながら、ここは通すわけにはいかん!」


 同じ頃、ついに遺跡の中枢まで辿り着き、秘宝まであと一歩、と言うところまで辿り着いたセルウス達は、思わぬ足止めを食らっていた。
「この先で、我が悪の秘密結社オリュンポスの部下……ではない方のナッシングが、大事な儀式をおこなっているのでな!」
 高笑いと共に、先を急くセルウス達の前に立ち塞がったのは、ハデス達オリュンポスの面々だ。彼らの傍らにも何故かナッシングがいるが、儀式、と言うからにはここからでは良く判らないが、天井まで届こうかと言う台座の上で、黒い光を纏わりつかせている方のナッシングのことだろう。
「おやおや……」
 そうやって立ち塞がった面々の中に、良く知った顔を見つけた天音が、小さく苦笑を浮かべた。
「今回はそちら側につく、というわけかい?」
「だってー。呼雪が空っぽのナッちゃんの奥の奥の奥の方にある、本当の中身を見たいってご所望なんだもの」
 批判するわけでもない、どこか面白がっている節のある天音の台詞に、ヘルもまた道化よろしく茶化した物言いでくすくすと笑った。
 だが当然、そんな反応ではすまない者達もいる。
「な……なんで!?」
 戸惑った様子で声を上げたのはセルウスだ。アンデットではなく、エリュシオン帝国の人間でもない相手が立ち塞がってくる、というのは予想外だったのだ。そんなセルウスに、呼雪は静かに口を開いた。
「聞いての通りだ。ここを通りたいなら、力ずくで通るしかないな」
 そんな呼雪たちの後ろには、先ほどのゾンビ達にはない威圧感を持ったアンデットが並び、勿論、その奥ではナッシングが控えている。圧倒的な敵意と不利に、セルウスが眉を寄せ、じわりと額に汗を浮かべた。その様子を見ながら、呼雪は「この程度の事も乗り越えられないようなら、エリュシオンを統べる事なんて到底出来やしない」と冷たく言い放って目を細めた。一時は直接対峙し、アスコルド大帝がどれ程自らを含め犠牲を払って帝国を守ってきたかを、その片鱗を知る者として、ここで終わるような相手にその後を継ぐ資格は無い、と。
「どれだけの手が差し伸べられようと、結局はお前自身が掴み取れなければ、その意味を失う」
 やってみろ、と真っ直ぐにその目を見据えた視線に宿る思いを感じ取ったのか、セルウスはぐっと唇を噛み締めると、挑むように呼雪を見やってこく、と頷いて見せた。
 そんなセルウスに「やれるかな!?」と、ハデスがバッとその手を正面へ翳す。
「行け!我が部下、暗黒騎士アルテミス、邪神の巫女神奈よ!我らの邪魔をするものを排除するのだ!」
 その言葉に、アルテミスと神奈が、ハデスの前へと躍り出た。
「此処から先、敵は一人たりとも通さぬぞ。ハ、ハデス殿のためではないのじゃからなっ! 勘違いするでないぞっ!」
 刀を抜いた巫女服姿の神奈がその切っ先を向ければ「ここは、オリュンポスの騎士アルテミスが通しません!」とアルテミスが大剣を翳して、きっとセルウス達と向かい合う。
「ナッシングさんに近付こうという方々には、お引取り願います!」

 その口上を合図にするように、ナッシングに従うアンデットの群れも、一斉に動き始めた。



 雑魚敵よろしく、ぞろぞろと向かってきたアンデット達を、往路と同じようにして前に出た敬一や裁が押し留め、その間隙でフィアナやアキュート、優達が奮闘していたが、通路の時とは違い、アンデット達も守備、攻撃力共に上位に当たる者へと種が変わっている。何より、威嚇するように周囲に吹き荒れる黒い光が問題だった。
「行きなさい、フェニックス!」
 真人が召喚獣を放ったが、幾らかのアンデットを屠りつつ直進したそれはしかし、前へ踏み出したアルテミスの盾が阻んだ。
「言ったはずです、ここは通しませんよ!」
 その隙に、ハデスの指示を受けた戦闘員やアンデットが一斉に呪文を終えたばかりのところへ群がってきた。
「っと、危ない!」
 そこへ、なぶらとフィアナが共に割り込んで接近を阻んだが、そんな中を更に、吹き荒れる黒い光が飛来して来る。アンデットと切り結んでいたフィアナは一瞬、その対応に遅れた。
「……っ」
「フィアナ!」
 咄嗟にぶつかるのを避けたフィアナだったが、舐めるように腕に触れて抜けていった黒い光に、フィアナは声を殺してばっと後方へと引いた。すぐになぶらが回復魔法をかけたが、フィアナの表情は優れない。
「痛みは無いですが、触れるのは危険です……凄まじいマイナスの力を感じました」
 そういうフィアナの手は、まだかすかに震えが残っている。
「ち……これでは迂闊に踏み込めんのう……」
 翔一朗が苦い顔でハデス達を見やった。これほど黒い光が吹き荒れている中でも、彼らの周囲には影響を与えていないようだ。恐らく、彼らの傍に居るナッシングのおかげだろう。
「あれを何とかするのが、先決でありますね」
 言って、丈二が取り出したのはアルケリウスの欠片だ。
「上手くいくかどうかは判りませんが、試す価値はあるはず」
「そうですね」
 頷いた白竜が、自身も超獣の欠片を取り出すのを見て、羅儀が二人の前へ出た。
「やるなら早く頼むな。オリュンポスの奴等も、結構厄介だ」
 言って、羅儀がブリザードショットガンで眼前のアンデットを凍りつかせ、レゾナントアームズで体を砕いている間に、丈二は欠片の力を使い、銃剣銃を媒介に、黒い光を弾丸として具現化してぶつけることで相殺を図った。その狙い通り、媒介によってイメージのぶれることの無い弾丸は、黒い光に着弾すると、互いを打ち消しあって消滅した。だが、問題は、黒い光が銃剣銃に触れなければ具現化されないこと、そして触れないで具現化させようとすると一端銃剣銃への「憑依」を必要とすることだ。つまり。
「……思っていた、より……キツい、で、ありますね……っ」
 黒い光の持つマイナスのエネルギーは、生命力と真逆の性質があるようで、デスプルーフリングが幾ばくかの負担を軽減させているために連射が効いているが、憑依を通すと、自身への負担が大きいようだ。
「代わって、丈二!」
 見かねて、ヒルダが手を伸ばして欠片を受け取ると、今度は黒い光をそのまま盾の表面に具現化して丈二達を庇った。一度具現化したものを維持するほうが、イメージする集中力こそ必要なものの、回数を繰り返すよりも負担は低いらしい。そうして生み出された黒い光の盾に庇われながら、ドミトリエが不意に口を開いた。
「……それは?」
 その問いに、なぶらからの回復を受けながらその欠片の能力を説明する。興味深そうにそれを聞くドミトリエの隣で、続いて白竜が超獣の欠片を握り締めた。
「黒い光を吸収できるかも気になるところですが……流石にそれは危険が過ぎますね」
 呟き、22式レーザーブレードを自身の腕と同化させると、ヒルダの盾の前へ出、手近にいた一体へと斬りかかった。
 自身の手の一部と化しているため、「扱う」というプロセスが減って意思が武器へ伝わりやすい分、攻撃の速度と精度は上がっているのがわかるが、やはりこちらも自身の力を使う分、ブレードを出し続けていると、それなりに消耗を余儀なくされるようだ。それを確認し、白竜は意図的にヒルダの持つ欠片に意識を寄せる。と。
「……!」
 僅かではあるが、互いの欠片が反応を示した。だがそれもすぐ失われたのに、白竜は眉を寄せる。
「一瞬、防御と言う意識に反応をしたように思いましたが」
「ヒルダが守る……って思ってたからかしら」
 白竜の呟きに、ヒルダが応える。つい二人が考え込みそうになった中「兎も角」と割って入る声があった。
「黒い光を抑える手段がある、と考えて良いかね」
 言ったのはアルツールだ。
「消耗が激しいので、長くは難しいですが」
「すまないが、そこはなんとか堪えてもらえまいか。その代わり」
 言いながら、目配せを受けたエヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が頷くのに、アルツール不敵に目を細めた。

「その間に、奴等を一掃すると約束しよう」

 その一声を合図に、エヴァとアルツールの盾となるようにして、前へ出たのはシグルスだ。後方についたエヴァのバニッシュによる援護を受けながら、持ちうる全ての能力をフルに使って、押し寄せてくるアンデットの牙がアルツールへ届かないようにと、壁役になって踏み止まる。
「生憎、ここから先は通行止めだ」
 そうしてシグルスが堪えている所へ、鵜飼 衛(うかい・まもる)メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)を伴って「わしらも力を貸そう」と横へ並んだ。
「だいたいが、数で押しきろうなどというのは、策も弄せぬ無能がすることじゃわい」
 衛は馬鹿にしたように言って、意味ありげな目線をナッシングとハデスへと送った。
「大方、数の力を自分の力と勘違いしておるのじゃろうて」
 ことさら挑発的な物言いに「フハハハ!」とハデスは笑い声を上げた。
「数も立派な力! 否定したいなら、全て倒してからにしてもらおうか!」
 言いながら「行け、アンデットども!」と指差す手がちょっぴり震えていた辺り、その挑発を全く気にしていないわけでもなかったらしい。だが、衛めがけて詰め寄ったアンデットの前には、メイスンが立ちはだかった。
「やらせんけぇの」
 一声、同時。ぶんっと振り回された帯剣アロンダイトによって、鎧を纏ったスケルトンたちが薙ぎ払われて吹き飛ばされた。倒されはしないが近寄れない、というアンデットの状況に、ハデスが腕を振るうと、今度はアルテミスがアンデットに変わって前へ出た。ガギンッと大剣同士がぶつかって火花を散らす。
「言いましたよ、ここは通しませんっ!」
 同時にアンデット勢もその背から加勢しに群がってくるのに、ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)の後方からの援護を受けながら、シグルスが間に入ってそれを阻んだ。そして。
「下がって、シグルス」
 エヴァの一声と共に放たれたバニッシュの強烈な光に、周囲の視界が一瞬白く染まる。それで、十分。彼らが時間を稼いでいる間に、アルツールの召喚術式は完成していた。
「出でよ、不滅兵団!」
 呼び声に応えて現れた鋼の軍団は、そのままアンデットたちの群れの中へと突撃していく。不死と不滅の、数と数がぶつかりあう激しい混戦の中「フハハハ!」とハデスが唐突に笑い声を上げた。
「よくぞしのいだ、と言いたいところだが、残念だったな! これで終わりだ!」
 その指差す先を見れば、アンデットやアルテミスの猛攻を捌いているうちに、いつの間にか黒い光が密集しようとしているポイントに誘い込まれていたのだ。だが、その状況に反して、アルツールは口元を笑みの形にかすかに上げた。
「そう、残念だ」
 それをハデスが訝しむ間も無く。
「今ですわ、衛様」
 と、妖蛆の声が響いた。
 メイスンの援護のふりをしてアンデットの間を飛びまわっている間、その傍らでルーン魔術符を配置して回っていたのだ。つまりアンデットたちは、追い立てられる不利をしていたアルツール達に、ポイントへ誘い込まれていたのである。
「行くぞ……!」
 気合一声。仲間達の周りにルーンの結界が張られると同時、遺跡のそこかしこに配置された魔術符のルーンが一斉に発動し、無数の魔法弾がアンデットの軍団に向けて、まるで雨のように浴びせかけ、その殆どを壊滅させたのだった。
「ぐ……、く、おのれ、よくも……!」
 その光景に、ハデスより尚怒りに肩を震わせたのは神奈だ。
「これ以上はやらせんぞ、わらわの業炎の術をうけるがよい!」
「あ、ちょ……っ」
 何故かアルテミスが止めようとしていたが、遅かった。残念な程に術のコントロールが不得手な神奈の放ったファイアストームは、敵ではなく味方に向けて暴発したのである。
「ぬおおおおっ!?」
 突然に自分の身に降りかかった火の粉に慌てふためいて、ハデス達が右往左往する中、後方で回復を担っていたため直撃を避けたヘルが、思わず「あちゃあ」と苦笑した。
「やれやれ、撤退し時ですかね」
 十六凪が呟いた、その時だ。
 先程まで、傍にいながらも特に何か動く様子の無かった、ハデスの称するところの死霊騎士団長が、唐突にふわりとハデス達オリュンポス一味の前へと立ち塞がると、ぶわっとゴーストの群れを周囲へ溢れさせたのだ。
「な……っ!?」
 飛び込もうとしていたメイスンが咄嗟に下がった、そのほんの僅かな間。ゴーストがすうっと消えていった後には、彼らの姿は既に何処にも見えなくなってしまっていた。




「兎も角、これで邪魔はいなくなったわよ……!」
 気を取り直すように、祥子が不敵に言ったが、残されたナッシングは不思議そうに首を傾げた。それもそのはずで、ナッシングの前にはまだ倒しきれていないアンデットも数体残っており、黒い光も今だ顕在なのだ。
 そんな、変わらず悠然と台座の上に佇むナッシングに向って口を開いたのは、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だ。
「あなたは、目、それとも耳?」
 今までであった他のナッシングへも向けた問いを、同じく問いかけると、台座の上に立つナッシングは「否」と首を振った。
「我は、手……下し、動かす……資格、へ至る道……を閉ざす……役目、だ。続けねば……なら、ない……」
 竜造へ答えた言葉と、全く同じ言葉を繰り返しながら、淡々と続けるナッシングに、刹那は探るように目を細めた。
「何のために?」
「阻む……ため、に」
 今こうしているように、と表すかのように手を翳した、が。
「この程度では、阻んでいるとは言えないな!」
 一声と共に、その懐へと急襲したのは、ララの駆るペガサス、ヴァンドールだ。その機動力でアンデットを飛び越え、デスプルーフリングによって黒い光の影響を緩和されていることも手伝って、台座まで強引に飛び込むと、その突進力でそのままナッシングを蹴倒そうとした、が。
 パキンッ、と、唐突に薄い壁のようなものが砕けるような音がしたかと思うと、ララはばっとヴァンドールを飛びのかせた。
「何だ、あれは……バリアか?」
「光……集める、盾……か、なるほど」
 呟くララに構わず、ナッシングは一人ごちると、あいている片手を伸ばすと、その指先をすっと台座の遥か下の契約者たちを眺め降ろした。
「なら……散る、は弾」
 次の瞬間、先程まで輪郭のぼやけていた黒い光がすうっと細くなったかと思うと、まるで流星のように契約者たちに向けて降り注いだ。
「危ない……っ」
 幸いと呼ぶべきか、前寄りにしかそれはふってこなかったため、警戒していた面々はそれぞれ無事に避けたが、その表情は一様に優れない。

「まさか、学習して……るの?」






 そうやって攻防が行われている中、その隙間を縫うようにして、遺跡の中枢へと接近を試みたのは、トマス達フィアーカー・バルだ。
「ナッシングが正面からの攻撃に集中してる今がチャンスだ」
 吹き荒れる黒い光の中でも、パワードスーツを着込んでいる分、ある程度自由に動ける強みを生かし、仲間達の攻撃を目晦ましにしながら、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の光術でアンデットを押しのけると、台座の裏側、ナッシングの死角になる位置に滑り込んで、トマスは秘宝を見上げた。
 ナッシングが触れた場所から、黒い光が溢れ出しているが、秘法そのものは穢れた風は無い。見覚えの無い紋様が浮かんでは消える輪が、幾重にも重なり、絡み合って球体となっているらしいそれは、子供の頭程度の大きさで、台座の巨大さに比べれば随分と小さいように思えた。
「何とかナッシングと引き剥がせないかな」
「試してみる価値はあると思うが……無茶はするなよ」
 頷き、テノーリオに背中を守られつつ、ミカエラの援護と共にそっと距離を詰めると、ナッシングの背後から、トマスはそっと秘宝に手を伸ばした。生身とは違い、パワードスーツの防御力があれば、直接接触の危険は少ないだろうと踏んでのことだったが、その指先がひた、と秘宝に触れた途端、キィイイインッ、と体の中に響いた見えない波紋のようなものに、トマスの体は僅かに弾かれたようにバランスを崩した。
「……っ」
 声を上げるのを何とか堪えたトマスを、すんでのところでテノーリオが支え、二人は一端秘宝から離れると、再び台座の影へと戻って息をついた。
「参ったな……拒まれてる感じじゃなかったけど、取り外すのは不味い感じだ」
「へえ……それは、興味深いね」
 唐突に聞こえた声に、ぎょっとして二人が振り返ると、いつの間にそこにいたのか、天音がブルーズを伴ってにこっと笑った。どうやらトマス達とは別に戦線の合間を縫って、天音とブルーズがその傍まで辿り着いていたようだ。小さく息を吐いたトマスは、確認するように続ける。
「秘宝そのものは、装置……みたいなものだよ。勿論一番重要な代物だけど、同時に部品のひとつ、というか」
『なるほど、心臓……か』
 HCを介したトマスの言葉に、グラキエスが口を開いた。正しく台座の表す通りの代物、というわけだ。その言葉を聞きながら、秘宝の収まる巨大な台座の壁面をなぞって、天音は目を細める。
「……これは、地図かな。それに重なる龍、その脈――は、龍脈、かな。ということは、この遺跡は古い龍脈そのものを表してる、のかな?」
 その知識を総動員させて推測する天音に、サイコメトリを行っていたトマスも「恐らく」と頷いた。
「情報が古すぎて読み取り辛いけど……遺跡と龍脈を繋げて、その力のコントロール……とまでは行かないけど、弱った龍脈に力を与えたりしてたのが、この秘宝だったみたいだ」
 その秘宝にナッシングの力が流れ込んだために、その影響が力を受け取った龍脈に及んでしまい、地脈が狂い、アンデットが発生したようだ。
「ということは、秘宝の役目は力の活性化……ってところかな。力の覚醒、っていうのは、その応用、ってところなのかもしれないね」
 それらの推測に、それをHCで中継してもらっていたディミトリアスが、ふと思い出したように「聞いたことのある話だ」と口を開いた。
「遥か昔に、巨人族の青年が使ったと言われる秘宝の話に似ている……。偉大なる力の目覚めを求められ、秘宝を用いるという話だ。もしかすると、それを参考にして作られたのかもしれないな」
「古代人の君が昔だというなら、相当昔の話なんだろうね」
 天音が興味深げに言ったが、詳しく聞いている余裕はなさそうだ、と眉根を寄せた。
「兎も角、あれがこの遺跡の心臓であるなら、取り外すのは危険だと思う」
 トマスが言えば、しかし、と反論も上がった。
「原因究明が成せた以上、残る最優先事項は、被害が出る前に「この遺跡の暴走を止めること」……です」
 最悪の場合、それを破壊することで遺跡を止める必要がある、と告げる白竜の言葉に、何人かが息を呑んだ。それはすなわち、最悪の場合は遺跡が崩壊するのも、それに巻き込まれるのも覚悟の上で、秘宝を破壊する必要があるかもしれない、ということだ。

「そうはさせない……と、言いたいところだけどね」


 彼らはまだ知らないことだが、タイムリミットは、刻一刻と迫り寄りつつあった。