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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第2話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第2話/全3話)
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●Spiral

「キリがないっ!」
 パティは苛立ちのあまり声を上げていた。アンデッドはしぶとい。いくら吹き飛ばしても次々と現れる。
 そればかりではなかった。ハデスの巧みな用兵は、彼女をどんどん疲労に追い込んでいったのだ。しかもハデスの性格ゆえか、それともパティ……いや、クランジの特長を読んでいるのか、たとえばスケルトンをワザと転ばす、同士討ちを厭わないなどの奇策が多く、そのたびにパティは翻弄されていった。
 徐々にパティは追い込まれていった。決定的なダメージは少ないものの長袖は裂け、服の肩口が破け、ところどころ薄紫色の下着が露出している。
「もういい加減に……!」
 と言いかけたところでパティの体が浮いた。
 意図してのものではない。
 誰かに腕を掴まれ引っ張られたのだ。引き上げられたのは機晶バイクの背だった。
「よっ、久しぶりだな。魍魎島での件以来か」
 パティが振り仰ぐと、彼女の背を抱くようにして桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)の姿があった。
「飛ばすぞ。しっかりつかまってろ」
 言うなり彼はバイクのスロットルを全開にする。
 強いGが体にのしかかり、パティは口を聞くこともできない。
 まるで弾丸。下腹に響くような轟音を上げ、バイクは一気に包囲を突破した。
 何分もそのまま飛ばし、ようやく安全な場所まで滑り込むと、ごうっと土埃立ててバイクは止まった。
 そして煉の大きな手が、パティの金色の髪をくしゃくしゃと撫でたのである。
「話は聞いている……無茶しすぎだ。ローラも、お前も」
「子ども扱いしないで!」
 パティはその手を邪険に払いのけた。
「親愛の情を示したつもりだがな」
「そういうのはせいぜい、小学生までと相場が決まってんのよ!」
 失礼ね、と鼻を鳴らしてパティは腕組みした。野太いバイクに跨ったままで、である。
 その仕草がまさしく小学生みたいなのだが――という気持ちは飲み込んで煉は言った。
「ローラの無茶には感心できないが、チャンスは無駄にできないだろう」
「チャンス? 他人事だと思ってそんなこと……」
「怒らないで」
 忽然と二人のそばに、小柄な美少女が出現した。リーゼロッテ・リュストゥング(りーぜろって・りゅすとぅんぐ)である。彼女の正体は魔鎧だ。寸前まで煉に装備されていたのだ。
「煉の言い方は素っ気ないけど、一面の真実ではあるわ。聞いた話だと貴女も同じこと考えていたようだけど……ほんと仲が良いのね」
 リーゼロッテの深い瞳に心を見透かされているような気がしたのか、パティは彼女から目を逸らせた。
「俺の考えを話そう。ギリギリのところまでこの状態を維持して、まずいと思ったら力ずくで彼女を止めようと思う。それがローラを尊重し、かつ救う最良の方法だと考えている」
「貴女はローラのことを案じているだろうけれど、その意思を無駄にしてしまっていいものかしら?」
「……わかった」
 この事態を歓迎しているわけではない、とパティは言いたげだったが、それをわざわざ口にすることはなかった。
「よし、そうと決まれば」
 バイクに足をかけようとした煉であったが、本能的に危険を察知してその場から跳んだ。
 パティも同様だ。
 結果から書けばその判断は正しかった。
 バイクが真っ二つになっていたのである。胴を両断されるようにして。
「ロー!? ……じゃ、ない」
 パティは着地に失敗していた。バイクの爆風に飛ばされたためだ。肘をすりむいている。
 そのじんじんという痛みが、この瞬間に起こったことが事実であることを示していた。
 痩身の少女が、剣に引きずられるようにして、ゆらりとその身を躍らせた。
 黄麟――第五の剣の持ち主が襲撃をかけてきたのである。
 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さーてさてローラちゃんに追いついて、ばっちり誘拐してもらうとしようか−」
 デメテールは大変嬉しそうにそんなことを言っている。鼻歌でも唄いそうな勢いだ。
「ったく自分が掠われるわけではないからと気楽な……」
 と言いかけた神奈は、まさしくその誘拐犯が現れたのを知った。
 その黒い姿は、空から来た。
「ローラ……というやつではないようじゃな」
 神奈は唾を飲み込んだ。
 しかし、神奈が自分のことを意識したのはこれが最後となった。
 次の瞬間、彼女は石像に変えられていたのだった。
「うわー! でもこれで!」
 デメテールは元来た道を猛烈に逃げ戻る。ハデスに報告するために。
「これで作戦成功なのだー!」