リアクション
◇ ◇ ◇ 山葉 加夜(やまは・かや)は、呆然と立ち竦んでいた。 「此処、何処……?」 確か自分は、イスラフィールに会いたいと思う、ヴァルナの想いに引きずられてしまった。 トオルを助けたいと思う自分の想いと同調したところで、意識が途絶えてしまったのだったか。 「カヤ!」 呼び声にはっとして振り返ると、トオルが走って来る。 「トオルくん、よかった……」 「よくないっ。何でカヤまで此処にいるんだ」 「え?」 無事を喜ぼうとした加夜は、トオルに言われて驚く。 自分の状況を聞いて、更に驚いた。 「私……死んでしまったんですか?」 パートナーのことが気がかりだった。そして。 「涼司くん……」 思わず、最愛の人の名を呟きながら、青くなる加夜の背中を、トオルはぽんと叩く。 「とにかく、まずはあのイデアって男を何とかしなきゃ、って話になってる」 「そう、ですね……。 ここでおろおろしていても始まりません」 加夜は頷いた。 「あいつの手を取って引っ張りあげたと思ったら、自分がナラカに落ちたとか……。 つーかナラカなのか此処は? 死後の世界……っていうか……」 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は混乱したが、同じように覚醒した仲間が大勢いたので、状況の理解は早かった。 「現世にもこっちにもイデアが半分ずつ居る、ってことは、両方の世界を繋いでたりしないかな? 紐の両端みたいに」 「こっちに居る彼は、覚醒した現世の彼、ということじゃないの?」 五百蔵東雲が首を傾げた。 「違うと思う。 イデアは、モクシャが滅びた時からずっと現代まで生きていた、って言ってたからな。 多分、滅亡に巻き込まれた時に、何かあって半分に分かれたんだろう」 エースは世界樹を見上げる。 枯れた状態とはまた違う、生気を失ったような大樹。 世界樹だけではなく、世界全体がこのような感じではあるが。 滅亡の時、イデアは世界樹の下にいたと言うから、それが関係しているのかもしれない。 「前世と今、じゃなくて、一人の人間が二つに分かれてる、ってことかあ……」 だから、片方に攻撃しても、ダメージが半分だったのだ。 「でも、こんな世界、結局は贋作なのに」 東雲も世界樹を見上げた。 そっくり同じものは作れるかもしれない。けれどそれは、かつてのあの世界ではない。 イデアには、それが解らないのだろうか。 「それで、イデアは何処におるのじゃ?」 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の問いに、ジュデッカは 「地下へ行ったわよ」 と答えた。 「何処かその辺の樹の根元に、洞があるみたいね。 そこから入って、何処かへ行ったわ。 中がどうなっているのかは、入ったことがないから知らないわ」 刹那は、アニスの下につき、『書』を奪ったことがある。 それについて、ジュデッカは憶えていないのか気にしていないのか、何の反応も示さなかったので、刹那も殊更に蒸し返したりはしなかった。 ◇ ◇ ◇ 「話が違っておりませんこと?」 ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)は首を傾げた。 「あんたの話なんて、私には関係ないわ」 ジュデッカが言う。 ナイスバディーになれると言われたのに、覚醒したら、自分が死んでしまって、ここは死後の世界で、ついでに自分はぺたん娘のままというのは一体どういう了見なのか。 「折角前世のナイスバディーな姿に戻れると思いましたのに、わたくしが死んでは意味が無いのでは? このままだと、アマデウスが宵一のパートナーになるオチ? どうしてこうなったの? そして此処は何処なの?」 「ま、好きなだけ悩んでたら」 ジュデッカは、相手にするのも面倒だと言わんばかりにそう言った。 すく、とヨルディアは立ち上がる。 「イデアが居ると言われましたわね。話し合って参りますわ! 話し合い(物理)に応じてくださらなかったら、実力行使で!」 そのふたつってどう違うのかしら、とジュデッカは思ったが、面倒なので放っておいた。 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は、孤狐丸の記憶に引きずられ、気がついたら狭間の世界にいた。 「此処は……? 確かクコと二人でイデアさんを止めに向かっていたはず……」 歩き回っている内に、世界樹を見つけた。 向かっていると、同じように現世で覚醒し、この世界に来た者と会い、現在の状況を確認しあう。 世界樹の根元、椅子にするのに都合のよい高さの根にジュデッカが腰掛けていた。 「あら、また来たわ」 「また、とは?」 「入口ならあそこ」 ジュデッカは、根元にある洞を指差す。 「まだ誰も出て来ないから、イデアを見つけてないか、戦ってるところか、全員やられちゃってるかのどれかじゃない?」 霜月ははっとしてその洞を見る。 「此処にもイデアさんが?」 「まあ頑張って」 ジュデッカは投げやりに手を振る。 とにかく、イデアを放っておいたら世界が壊れる。 それだけは確かだ。霜月は洞の中へ入って行った。 ◇ ◇ ◇ 一方孤狐丸は、現世で混乱していた。 「何ですか、此処は……」 確か私は瑞鶴さんに力を借りて、力の制御に失敗した……? 今迄あったことを思い出す。 「そう、そして、死んだ、はず……」 それなのに、何故生きているのだろう。 そして目の前にいるククラの女性は誰だろうか。 孤狐丸は、霜月の妻、獣人のクコ・赤嶺(くこ・あかみね)を見て首を傾げた。 とにかく何処かへ行ってみようと歩き出す。 「ちょっと、待ってよ」 慌ててクコがついて来た。 「何故付いて来るんです?」 「今説明するからちょっと待ちなさい!」 そう言って留め、クコは状況を説明したが、孤狐丸には、殆ど意味が解らなかった。 「よく解りません」 がくっとクコは脱力する。 「ですが……そのイデアという人が黒幕なら、やることはひとつです」 平和を乱す、そう判断した者を殺し続けてきた。 何処にいても、自分がやることは変わらない、そう思った。 高峰 雫澄(たかみね・なすみ)の姿が変貌していくのを目にして、パピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)の全身が震えた。 『フェスティード様!!』 「ちょっ……アンタ、何する気よ、取り乱さないでよ、出て来ないでっ……!」 「パピリィ!?」 駆けつけようとする叫びが、パートナーのアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)のものだと認識したのが、最後だった。 アルテッツァは、その光景を呆然と見た。 パピリオが、知らない少女に変貌した。 「貴女は……何者なんです?」 一方で、雫澄が覚醒したフェスティードが、額に垂れる髪をかきあげながら起き上がり、此処は何処だ、と呟く。 「!? タテハ! 何故だ、これは……どういう……?」 傍らにいた男が、「やはり、こうなったか」と呟いた。 「君は?」 「ホロウ」 「……ホロウ」 その名に覚えがある。魔王と化した自分が名乗った名だ。 雫澄のパートナー、ホロウ・イデアル(ほろう・いである)は、フェスティードに持っていた武具を渡す。 「使え。 雫澄の武器。お前の武器だ」 「フェスティード様……」 タテハが、感慨深くフェスティードを見つめた。 「またお会いできで、わだす、嬉しいだ……」 しかし、此処は一体何処なのか。どうやらモクシャではないようだが。 ホロウの説明を受けて、成程とアルテッツァはため息を吐き、フェスティードはホロウに渡された武器、カラドリウスを見た。 「……フェスティード様、護れなかっだモクシャの代わりに、この世界を護りませんが?」 タテハの言葉に、フェスティードは頷く。 「かつての過ちが許されるとは思わない……だが、せめてこの世界を護ろう」 「了解しました」 アルテッツァも頷く。 「持てる力を活用して、目の前の困難を乗り越えましょう」 |
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